BLはファンタジーだって神が言うから

はちみつ電車

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思いを向けている相手は

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「では、一条くんから自己紹介をお願いします」
「はい」
 おお、一条優の声だ!
 男にしては高めながら、学ランでも違和感のない少年風ボイスだな。
 明翔と同じで顔も中性的なら声も中性的だ。
 ただ明翔はちょっとハスキーなところがいい。

「一条優です。はっきり言って、ボクは男になりたい。なので、ボクのことは男だと思ってください。女だという情報は忘れてもらってオッケーです」
 オッケーです、たって忘れられるもんでもないけどな。

 ……忘れられなかった。一条優にそっくりな明翔が現れるまで、ずーっと俺の心には一条優が居座ってた。

 もしかして、俺が男の明翔を好きだと感じたのは、顔が一条優にそっくりだから、ってだけだったんじゃなかろうか。
 だってやっぱり、俺が男を好きになるなんて考えられない。

「よろしくお願いします」
 と頭を下げて一条優が自己紹介を終えた。

「慣れるまでいとこの近くの方がいいだろうから、高崎の隣に座ってもらう。みんな、仲良くするように!」
 みんな、はーい、と口々に返事をする。

 明翔の隣?!
 近くないか?!

 一条優が俺の前の席の明翔の隣に座った。
 近! やっぱり近い!
「よろしく、明翔」
「隣かよー。そこまで面倒見る気なかったんだけど」

 一条優と明翔が同じような顔同士で話している。異次元空間に入り込んだような違和感がすごい。

 よろしく、よろしく、と周りの席の生徒に気さくにあいさつをする一条優を見ていて、ふと学級委員長の柳龍二が「特別な事情のある転校生」が来ると言っていたのを思い出した。
 自己紹介も堂々としたものだったし、今も明るく周りに声掛けてるし、ワケあり感は特にしない。

 女子だけど学ランを着るって点で特別って意味だったんかね?

「初めまして、一条です。よろしく!」
 ハッと顔を上げると、一条優が笑顔で振り向いている。
 胸がえぐられたように苦しくなる。

 初めまして――一条優は、俺のことを覚えてないんだ。

「あ……呂久村深月です」
 しまった、無表情な上に抑揚のない声で、無関心な印象になってしまったかもしれない。
 ちょっと引いたように、一条優が前を向いてしまう。

 あ――……ミスったあ……!

 休み時間になると、一条優の周りにクラスメートが集まる。
 輪の中心で一条優が笑っている。

 懐かしい……小学校の時も、いつも一条優は友達に囲まれる人気者だった。
 きっと、明るくて優しいいい子なんだろうなって、いつもほほえましく見てた。

 ただ、見てた。
 だから、俺を覚えてなくて当然だ。

 中学の入学式で一条優がいないことに気付いた時より、小学校の間に告白しなかったことが悔やまれる。
 俺のことなんて知らなかったんだから、フラれただろう。でも、玉砕したって記憶にくらいは残ったかもしれない。
 俺が、勇気を出さなかったせいで……。

「深月は、みんなみたいに優に興味ないんだ?」
 明翔が俺の机に特盛チャーハンを置いて食べ始めながら、うれしそうに笑った。
「興味ないってゆーか……」
 近付きにくいってゆーか。けど、明翔のいとこだし、んなウダウダやってられないんだろうけど。

「ごちそうさまでした」
「ほんっと早食いな」
 びっくりだわ。チラッと横目で一条優を見てただけでチャーハンが空になってる!

「だって、うまいんだもんー。深月、食うもんねえ?」
「ねーよ!」
 まったく、明翔はいつでも腹ペコだな。

 いつも通りの通常営業で笑う明翔を見てたら、ケバケバしてた気持ちが落ち着いてきた。

「優は、まー正直、変なヤツだけどそれなりに仲良くしてやってよ。それなりに」
 ん? 明翔にしては、なんだかトゲのある言い方だな。

「深月」
 チャーハン容器を袋に入れてキュキュッと縛り、ペットボトルの緑茶を飲んだ明翔が無表情だったから驚いた。

「絶対、優だけは好きにならないで」
「え……なんで?」
「深月が好きだから」

 あ……そっか、明翔のいとこが一条優なんだ。

 明翔の母親はいとこを優先するから、明翔は自分を軽視していた。
 明翔の人生を自分で終わらせようとさせる要因のひとつが、いとこだった。

 ……いや……俺、すでに大昔に一条優が好きだったんだけど?!
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