上 下
28 / 81

呂久村 深月の恋とは

しおりを挟む
 教室の一番後ろには個人の家庭用金庫みたいなロッカーが並び、掃除用具入れの縦長のロッカーと何にも入ってなくて何のために置いてあるのか意味不な縦長ロッカーとの間に空間がある。
 その空間に防火バケツを置いて、その中に優勝旗を立てた。

「ちょうど収まったけど、倒れて来ねえ? もっと深いバケツねえのかな」
「バケツをもっと手前にしてさ、後ろの壁に旗をもたれかけさせたら倒れて来ないっしょ」
「おー、さすが明翔、あったまいいな」

 あの場に居たくなくて明翔を呼び教室に来たものの、明翔とふたりきりで変な雰囲気になったらどうしようと内心ビクビクだったが、ただの杞憂だった。
 やっぱ、明翔はよく分からんヤツだな。いや、明翔の顔が一条優にそっくりなせいで俺の方が変に意識してるだけなのかもしれない。

 明翔はまだ恋したことないって言ってた。分かってねえんだ。恋と濃い友情の違いが。

「まったく、びっくりさせやがって。いいか、明翔。お前がさっき言ってたのは、ふかーい友情だよ。恋とは全然違うものなんだよ」
「女と付き合ったことあるからって、恋愛マスター気取りですか」
「ま、俺は数だけは付き合ってるからね?」
 交際期間はいずれも1週間から最長3か月と短いけどね? 3か月付き合った時も、半分夏休みで会ってなかったけどね?

「じゃあ、先生。恋だとどんな感じなんですかー?」
「そりゃあ……」
 うーん。これまでの経験から言えることは、告られた時にはまーいっか、と思って付き合うんだけど、なんやかんや注文つけられるごとにもーええわ、ってイヤになるってことくらいかな。

 ……あれ? 俺、付き合った女に恋してたことがあるんだろうか。
 俺が恋だと堂々と言えるのは、もしかしたら一条優だけなのかもしれない。

「見てるだけで幸せなんだよ。何も話なんてしなくても、最終形態には相手の後ろ姿を見てるだけでドキドキして満足なんだよ」
「俺、今ストーカー講座を受講してんの?」
「誰がストーカーじゃい!」

 明翔がジャージのポケットに両手を突っ込んでロッカーにもたれかかる。
「深月のせいなんだよ」
「へ?」

 おふざけなしの真剣な明翔の目に、ドキッとしてつい真顔になる。
「ほら、今も」
「え……何が?」
「もー。分かってないのは深月の方なんだから」

 もたれかかってた体を起こした明翔が、不意打ちに俺の胸元に入って来て、上目遣いに見上げてくる。
「えっ……な、ど、どした?! 明翔!」
 急接近に焦って何もできずにただ、大量の汗が噴き出る。対照的に、明翔は涼しい顔をしている。

「深月だけだよ。俺のやることにいちいちここまでリアクションするの」
 ……え……。

「深月のせいだよ。俺、深月のことなんて別に何とも思ってなかったのに。それこそ、深い友情だと親友だと思ってたのに」

 ……違う、明翔。
 俺が変なリアクションになってしまうのは、どうしてなんだか一条優にそっくりなその顔のせいなんだ。

 ただ見ているだけだった初恋。
 ずっと見てたんだ。
 思い出すんだよ、明翔の顔を見てたら。一条優の後ろ姿を見るだけでドキドキしてたあの恋を。

 とは、言えない……。
 そもそも、性別が違うのにそっくりな女がいたからなんだよって言ったところで信じてもらえるかどうか。

 黙り込んでしまった俺を静かに明翔が睨む。
「俺の初恋を奪ったんだから、責任取ってよ」
「え?! 責任って、どうやって?」
「俺のことを好きになるだけでいいよ。簡単でしょ」
 照れながら笑う明翔にまたドキッとさせられる。何こいつ……容赦なく動揺させてきやがる。
 
 ――かわいい……。

 ヤバい、こいつヤバい。
 昨日までとは目付きの鋭さと笑顔のクオリティが違う。もしかしたら……信じられないけど、明翔は本気なのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

たとえ性別が変わっても

てと
BL
ある日。親友の性別が変わって──。 ※TS要素を含むBL作品です。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

参加型ゲームの配信でキャリーをされた話

ほしふり
BL
新感覚ゲーム発売後、しばらくの時間がたった。 五感を使うフルダイブは発売当時から業界を賑わせていたが、そこから次々と多種多様のプラットフォームが開発されていった。 ユーザー数の増加に比例して盛り上がり続けて今に至る。 そして…ゲームの賑わいにより、多くの配信者もネット上に存在した。 3Dのバーチャルアバターで冒険をしたり、内輪のコミュニティを楽しんだり、時にはバーチャル空間のサーバーで番組をはじめたり、発達と進歩が目に見えて繁栄していた。 そんな華やかな世界の片隅で、俺も個人のバーチャル配信者としてゲーム実況に勤しんでいた。

処理中です...