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はちみつ電車

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高崎 明翔、12歳

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 明翔のメシはうまかったし、腹いっぱいになった。
「マジでまた作ってよ」
「うん! 深月うまいうまいめっちゃ言うから気分いいわ」
「めっちゃうまかったー」
「めっちゃうれしいー」
 ふざけながら俺が皿を洗い、明翔が泡を流していく。

 片付けを終え、足元にじゃれつくデレを抱き上げる。
「なあ、明翔の父親は?」
 初めて見る、足に額をこすりつけて甘えるツンをしゃがみ込んでなでていた明翔が顔を上げる。
「あ、俺だけ家庭の事情聞いたもんな」
「別に情報交換をしようってワケでもねえけどな」

「死んだの。俺が12歳の時に」
 ん? そのフレーズ前にも聞いたような?

「え? じいちゃんが? 父ちゃんが?」
「ああ、まず父ちゃんが俺の12歳の誕生日の日に事故って死んだの」
「誕生日に?!」
「ろくでもないプレゼントだろ」
 笑とる場合かい。えげつないな、それ。

「そんで、じいちゃんが、あ、母方のじいちゃんなんだけど。じいちゃんもばあちゃんを早くに亡くしててさ、母ちゃんひとりじゃ大変だろうからって家建ててくれていっしょに住むようになったの」
「すげー金と優しさにあふれたじいちゃんな」
「そのじいちゃんが、中学の入学式の日に朝起きたら死んでてさ」
「え?!」

 デレがまた俺の肩へと上って行く。ツンは目をつぶって気持ち良さそうに明翔になでられている。穏やかに笑いながら明翔はツンを見ている。

「寝てる間に心筋梗塞起こしたんだろうって。俺張り切って早起きしてさー。中学の制服に着替えてじいちゃんに見てもらおうと思って、声かけても起きねえの。そりゃそうだよな」
「明翔……」
「入学早々忌引きで休んでさ。でも初登校の日に校長室でミニ入学式やってくれた」
 明翔が俺を見上げて笑う。

 入学式、出れなかったんだ……それどころじゃねえわな。
 中学の入学式。俺は、一条優がいないことを知って絶望していた。
 俺が自分の勇気のなさをなげいていた時に、明翔は……レベチ過ぎる……。

「俺も父ちゃんとかじいちゃんみたいに突然死ぬのかなあと思ったら怖くてさ。いつ来るか分からないものを待つより、自分で終わらせようかなってたまに思うよ」
「……は? 終わらせるって、何を」
「俺の人生を」
 悲壮感のない顔であっさり言う。

「父ちゃんかじいちゃんの命日と同じ日だったら、母ちゃんも覚えやすくて親孝行だと思わね?」
 悲壮感どころか笑顔すら浮かべる。
 なんで笑ってんだよ。ゾッとした。明翔はなんか、突発的に実行しそうで怖い。絶対ダメだ。絶対だ!

「バカなこと言ってんじゃねーよ! そんなちっせー親孝行の前にお前がいなくなるって絶大な親不孝こいてんじゃねーか!」
「おう、びっくりした。怒鳴ることねえじゃん」
「怒鳴られても仕方ないことを言ったんだよ、明翔が!」

「へーきへーき。俺のかーちゃん、俺よりいとこを優先すんだから」
「運動会のトイレの話か? そういうことが多々積み重なってそう思うんだろうけど、まさかトイレについてかなかったからって明翔がいなくなるなんて思わねえだろ! 次元の違うことを並べて考えるんじゃねーよ!」
「また怒鳴る~」
 む……ちょっとヒートアップしすぎだろーか。

「俺だって……万が一お前がバカなマネしたら、俺も後を追うからな。親友として」
「親友って後追うもんなん?」
「俺は追う」
「言ってること矛盾してんじゃん。そんなことしたら深月が親不孝じゃん」
 む……頭の回るヤツめ。

「かーえろ。またなー、ツン」
「えっ、おい……」
 立ち上がりつつも、名残惜しそうに腰を曲げてツンをなでる。

 ソファに置いていたカバンを手に取って、明翔が玄関へと歩いて行く。
「明翔! 絶対、明日学校来いよ!」
 振り返った明翔はいつものように笑っている。

「ド平日じゃん。行くに決まってるだろ。お邪魔しました!」
 すっかり普段の様子と変わりはない。さっきまでの、何しだすか分からないどこか不気味な明翔は何だったんだ。

 でも……明翔が怖いと思うのも無理はないか。12歳の誕生日に始まり、1年も経たず中学校の入学式。よりにもよって、明翔が楽しみにしていただろう日にばっかり……。

 大丈夫か、明翔。家までついて行った方が良かったか?
 頼むから突発的に変な気起こすなよ、明翔。
 明日普通に学校行くって言ってたから大丈夫か?
 来るよな? 明翔。明翔――……
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