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呂久村 深月の不慮の事故
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チャイムが鳴る。2時間目が終わった。
高崎明翔がくるっと振り返り、俺の机の上に大盛たらこ明太パスタを置く。満面の笑顔だ。
「いただきまーす!」
と言いながらビニール包装を荒々しくはがす。
かわいい顔して何この荒っぽさ。
「あ!」
ビニールの下、フタの上に乗っていたフォークが飛んだ。
明翔は見失ったのだろう、満面の笑顔が消え失せ、絶望に変わる。
ご安心あれ。俺は見えとる。
宙を舞うフォークをナイスキャッチし、明翔の前に差し出した。
「あいよ」
「サンキュー、深月!」
おう、笑顔がまぶしい。
「あー、足りねえ」
明翔が腹をさする。
もう食ったんかい。お前飲んでるだろ。
「深月って動体視力いいんだな」
「ああ、それ?」
明翔が食い終わってフタをした上に先ほどのフォークを置いた。そのフォークを指差す。
「俺、運動神経は抜群にいいんだけど動体視力が弱点なんだよね。それで中学の時よくエラーしちゃってさ」
「ああ、明翔野球部だったんだっけ。動体視力が原因で野球やめたの?」
「うん。じいちゃんにやれって言われてジュニアチーム入って、なんとなく続けてただけだし」
「へえ、じいちゃんが野球好きなんだ?」
「そうそう。自分の子供は娘だけだったもんだからさ、男の俺が生まれて絶対野球やれって言って」
明翔がフォークでフタをツンツンとつついている。いつも明るい明翔にしては声のトーンが低い。
「やめるって言ったら反対されたんじゃねーの?」
「死んだの。俺が12歳の時に。別に中学でも野球部じゃなくても良かったんだけどね。なんとなく、じいちゃんの弔いになりそうな気がして」
へえ、じいちゃんっ子だったんだな。寂しかっただろうな、じいちゃんが亡くなって……。
明翔の手のフォークをサッと奪う。
「取り返してみろよ、明翔」
「お。その挑戦受けた!」
スポーツテストといいゲーセンといい、全部の挑戦を受けるな、明翔は。
なぜか椅子から立ち上がるのはルール違反な気がする。公式ルールなど確実にないのに。
上半身を反らしたり腕をめいっぱい伸ばしたりして、明翔の攻撃をかわす。
10センチくらい俺の方が背が高い分、リーチは俺が有利である。
「何してんのー?」
テテッと佐藤颯太が笑顔でやって来る。俺が今まさにフォークを持った腕をぶん回そうとしていた位置に。
「危ねえ!」
腕は止まらない。足を使って颯太を避けようとしたらバランスを崩して、隣の席の末行ありさに突っ込んでしまう。
こっちも危ねえ!
フォークを手放し、驚いた顔の末行が椅子から転げてしまいそうになるのを腕を背中に回して抱きとめた。
「悪い、末行……」
頭を上げると、末行が真っ赤だ。え?
「人の彼女に何してんだよ! 呂久村!」
円川の怒号が聞こえる。俺も自分の状況が飲み込めなくて呆然だ。
末行を抱きしめている左手、末行の足に密着して床にひざ立ちの両足、そして右手は末行の胸をつかんでいる。
「うわ! ごめん!」
焦って立ち上がった。そりゃ何してんだよ言われるわ! マジで何してんだ、俺!
「わざとじゃねーから! 見ての通りの事故だから!」
「お前なんか見てなかったから分かんねーよ! 先生に言いつけてやるー! 行こう、ありさ!」
末行を立たせてふたりして教室を出て行く。
……え……言いつけてやるー! って、小学生かよ……。
「呂久村! 白昼堂々教室で痴漢行為を働いたというのは本当か!」
はえーな!
担任の工藤先生が白いタンクトップ姿で教室に入って来る。その後ろから円川が怒り心頭な顔してにらみつけてくる。
「痴漢じゃねーよ! 胸もんだだけで! あ、違う! ただの事故であって」
「我が聖天坂高校で痴漢行為なんて許されない! 職員室まで来なさい!」
有無を言わせず連行される。このムキムキ化学教師、力強ええ!
他の教師もいる中、延々痴漢行為は恥ずべきだと説教を受ける……だから、痴漢じゃないってのに! 聞く耳持ちゃしない!
「失礼しましたあ……」
すっかりへこみきって職員室を出ると、明翔と颯太が爆笑で出迎える。
「元はと言えばお前らのせいだろーが! なんで俺だけこんなに怒られなきゃなんねーんだよ!」
「痴漢したのは深月だけじゃん!」
「俺走ってただけだもん!」
くっそー。
「あー、ムカつく!」
壁をゴン! となぐる俺に、明翔が笑って懐に飛び込んでくる。おう、なんか意図せず壁ドンみたいになっちゃってドキッとする。
「俺の胸ならもんでも怒られねーよ」
この状況でからかうとはコイツ、空気を読むってことを知らねえな。
「血ぃ出るまでもんでやる!」
「いやん、優しくして?」
明翔が胸元に手をやり上目遣いで見上げてくる。
盛大にドキッとして動けなくなった。
「ん? 深月?」
「え、いや、あの」
「こんなかってー胸板もんでも何もおもろくねえわ」
颯太が微動だにしない俺の横で明翔の胸をペタペタ触る。オイ!
「ばっ、颯太!」
「何?」
「何……もない」
「あはは! 何なんだよ! 深月って時々挙動不審な」
「だって、お前……」
あー、でも何も言えねえ。
額に吹き出した大量の汗を手の甲で拭う。そんな俺を首をかしげて明翔がじーっと見ていた。
高崎明翔がくるっと振り返り、俺の机の上に大盛たらこ明太パスタを置く。満面の笑顔だ。
「いただきまーす!」
と言いながらビニール包装を荒々しくはがす。
かわいい顔して何この荒っぽさ。
「あ!」
ビニールの下、フタの上に乗っていたフォークが飛んだ。
明翔は見失ったのだろう、満面の笑顔が消え失せ、絶望に変わる。
ご安心あれ。俺は見えとる。
宙を舞うフォークをナイスキャッチし、明翔の前に差し出した。
「あいよ」
「サンキュー、深月!」
おう、笑顔がまぶしい。
「あー、足りねえ」
明翔が腹をさする。
もう食ったんかい。お前飲んでるだろ。
「深月って動体視力いいんだな」
「ああ、それ?」
明翔が食い終わってフタをした上に先ほどのフォークを置いた。そのフォークを指差す。
「俺、運動神経は抜群にいいんだけど動体視力が弱点なんだよね。それで中学の時よくエラーしちゃってさ」
「ああ、明翔野球部だったんだっけ。動体視力が原因で野球やめたの?」
「うん。じいちゃんにやれって言われてジュニアチーム入って、なんとなく続けてただけだし」
「へえ、じいちゃんが野球好きなんだ?」
「そうそう。自分の子供は娘だけだったもんだからさ、男の俺が生まれて絶対野球やれって言って」
明翔がフォークでフタをツンツンとつついている。いつも明るい明翔にしては声のトーンが低い。
「やめるって言ったら反対されたんじゃねーの?」
「死んだの。俺が12歳の時に。別に中学でも野球部じゃなくても良かったんだけどね。なんとなく、じいちゃんの弔いになりそうな気がして」
へえ、じいちゃんっ子だったんだな。寂しかっただろうな、じいちゃんが亡くなって……。
明翔の手のフォークをサッと奪う。
「取り返してみろよ、明翔」
「お。その挑戦受けた!」
スポーツテストといいゲーセンといい、全部の挑戦を受けるな、明翔は。
なぜか椅子から立ち上がるのはルール違反な気がする。公式ルールなど確実にないのに。
上半身を反らしたり腕をめいっぱい伸ばしたりして、明翔の攻撃をかわす。
10センチくらい俺の方が背が高い分、リーチは俺が有利である。
「何してんのー?」
テテッと佐藤颯太が笑顔でやって来る。俺が今まさにフォークを持った腕をぶん回そうとしていた位置に。
「危ねえ!」
腕は止まらない。足を使って颯太を避けようとしたらバランスを崩して、隣の席の末行ありさに突っ込んでしまう。
こっちも危ねえ!
フォークを手放し、驚いた顔の末行が椅子から転げてしまいそうになるのを腕を背中に回して抱きとめた。
「悪い、末行……」
頭を上げると、末行が真っ赤だ。え?
「人の彼女に何してんだよ! 呂久村!」
円川の怒号が聞こえる。俺も自分の状況が飲み込めなくて呆然だ。
末行を抱きしめている左手、末行の足に密着して床にひざ立ちの両足、そして右手は末行の胸をつかんでいる。
「うわ! ごめん!」
焦って立ち上がった。そりゃ何してんだよ言われるわ! マジで何してんだ、俺!
「わざとじゃねーから! 見ての通りの事故だから!」
「お前なんか見てなかったから分かんねーよ! 先生に言いつけてやるー! 行こう、ありさ!」
末行を立たせてふたりして教室を出て行く。
……え……言いつけてやるー! って、小学生かよ……。
「呂久村! 白昼堂々教室で痴漢行為を働いたというのは本当か!」
はえーな!
担任の工藤先生が白いタンクトップ姿で教室に入って来る。その後ろから円川が怒り心頭な顔してにらみつけてくる。
「痴漢じゃねーよ! 胸もんだだけで! あ、違う! ただの事故であって」
「我が聖天坂高校で痴漢行為なんて許されない! 職員室まで来なさい!」
有無を言わせず連行される。このムキムキ化学教師、力強ええ!
他の教師もいる中、延々痴漢行為は恥ずべきだと説教を受ける……だから、痴漢じゃないってのに! 聞く耳持ちゃしない!
「失礼しましたあ……」
すっかりへこみきって職員室を出ると、明翔と颯太が爆笑で出迎える。
「元はと言えばお前らのせいだろーが! なんで俺だけこんなに怒られなきゃなんねーんだよ!」
「痴漢したのは深月だけじゃん!」
「俺走ってただけだもん!」
くっそー。
「あー、ムカつく!」
壁をゴン! となぐる俺に、明翔が笑って懐に飛び込んでくる。おう、なんか意図せず壁ドンみたいになっちゃってドキッとする。
「俺の胸ならもんでも怒られねーよ」
この状況でからかうとはコイツ、空気を読むってことを知らねえな。
「血ぃ出るまでもんでやる!」
「いやん、優しくして?」
明翔が胸元に手をやり上目遣いで見上げてくる。
盛大にドキッとして動けなくなった。
「ん? 深月?」
「え、いや、あの」
「こんなかってー胸板もんでも何もおもろくねえわ」
颯太が微動だにしない俺の横で明翔の胸をペタペタ触る。オイ!
「ばっ、颯太!」
「何?」
「何……もない」
「あはは! 何なんだよ! 深月って時々挙動不審な」
「だって、お前……」
あー、でも何も言えねえ。
額に吹き出した大量の汗を手の甲で拭う。そんな俺を首をかしげて明翔がじーっと見ていた。
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