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ふたり
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「ただいま! ……え、何コレ」
布団を手に帰って来るなり、テーブルの上の浄水器に清水くんが気が付いた。
「なんか、私達が荷物を運び入れてたから引越して来たと思ったらしくて水道屋さんが来たの。で、水道水の検査をしてくれたんだけど汚れてるんですって、ここの水。この浄水器を付ければキレイな水を飲めるようになるんですって」
「え……買ったの? これ」
「分割で。月3000円くらいなら清水くんへの返済にも響かないだろうから大丈夫。私の意思で買った私から清水くんへのせめてもの感謝の品よ。清水くんがガリガリに痩せてるのもちくわのせいだけじゃないのかもしれないわ。ここの水を飲み続けてたら健康を害するんですって」
清水くんが眉間にシワを寄せて強ばった顔になった。
「契約したの? 分割払いの」
「ううん、書類の手持ちがないから夕方にまた来てくれるって」
「良かった! 名刺置いてってない? あ、あった!」
テーブルの名刺を手に取ると、すぐさまスマホを出して電話をかけだした。
え? 断っちゃうの? 健康に悪い水を飲み続けることになるのに?
電話を切ると、清水くんがハー……と息をついた。
「俺が間違ってたわ。自分の意思で行動する前に俺に相談してくれる? 茉悠さん」
「え……」
「お願いだから、ひとりで決めないで?」
「うん、分かった」
「ほんと、予想を上回ってくるわ……」
なんか、清水くんがガリガリ通り越してゲッソリしてしまった気がする。
「清水くん、大丈夫? 具合悪いの?」
清水くんの顔をのぞき込んだら、目が合った。にっこり笑って、
「大丈夫だよ」
と優しく言った。私もつられて笑ってしまう。ああ、私の好きな空気感だ。ホンワカして、温かい気持ちになる。
「ねえ、茉悠さん。俺、金出すからって茉悠さんとの間に変な上下関係って言うか、俺は茉悠さんに恩を着せたりしたくないんだよ。今日、俺といて違和感なかった?」
「違和感しかなかったよ。この人は本当に清水くんなのかしらってくらいに」
「それが、俺なんだよ」
この人は本当に何を言っているのかしら。
「茉悠さんの抱いた違和感は俺が隠してた姿を見せたからだよ。俺だけが茉悠さんの秘密を知ってしまったんじゃ、やっぱりどうしても脅されてるように感じるかもしれないとは思ってた」
隠してた姿?
私が副業を隠してたように?
「俺はあくまでも公平な関係として茉悠さんにうちに来てほしかったんだ。茉悠さんにあんな仕事は辞めて生活を立て直してほしい。茉悠さんに言ったことにウソはひとつもない。それを証明したいから俺も秘密をさらしたんだよ」
「……秘密?」
「俺、今会社でうまくやれてると思ってる。わがままなライオンな面は隠してるおかげで。俺は会社でも家でも今後は素をさらすつもりはない。今日だけ。だから安心してほしい」
「うちでも?」
清水くんの家なのに、素でいる気がないの? 意味が分からない。
布団を手に帰って来るなり、テーブルの上の浄水器に清水くんが気が付いた。
「なんか、私達が荷物を運び入れてたから引越して来たと思ったらしくて水道屋さんが来たの。で、水道水の検査をしてくれたんだけど汚れてるんですって、ここの水。この浄水器を付ければキレイな水を飲めるようになるんですって」
「え……買ったの? これ」
「分割で。月3000円くらいなら清水くんへの返済にも響かないだろうから大丈夫。私の意思で買った私から清水くんへのせめてもの感謝の品よ。清水くんがガリガリに痩せてるのもちくわのせいだけじゃないのかもしれないわ。ここの水を飲み続けてたら健康を害するんですって」
清水くんが眉間にシワを寄せて強ばった顔になった。
「契約したの? 分割払いの」
「ううん、書類の手持ちがないから夕方にまた来てくれるって」
「良かった! 名刺置いてってない? あ、あった!」
テーブルの名刺を手に取ると、すぐさまスマホを出して電話をかけだした。
え? 断っちゃうの? 健康に悪い水を飲み続けることになるのに?
電話を切ると、清水くんがハー……と息をついた。
「俺が間違ってたわ。自分の意思で行動する前に俺に相談してくれる? 茉悠さん」
「え……」
「お願いだから、ひとりで決めないで?」
「うん、分かった」
「ほんと、予想を上回ってくるわ……」
なんか、清水くんがガリガリ通り越してゲッソリしてしまった気がする。
「清水くん、大丈夫? 具合悪いの?」
清水くんの顔をのぞき込んだら、目が合った。にっこり笑って、
「大丈夫だよ」
と優しく言った。私もつられて笑ってしまう。ああ、私の好きな空気感だ。ホンワカして、温かい気持ちになる。
「ねえ、茉悠さん。俺、金出すからって茉悠さんとの間に変な上下関係って言うか、俺は茉悠さんに恩を着せたりしたくないんだよ。今日、俺といて違和感なかった?」
「違和感しかなかったよ。この人は本当に清水くんなのかしらってくらいに」
「それが、俺なんだよ」
この人は本当に何を言っているのかしら。
「茉悠さんの抱いた違和感は俺が隠してた姿を見せたからだよ。俺だけが茉悠さんの秘密を知ってしまったんじゃ、やっぱりどうしても脅されてるように感じるかもしれないとは思ってた」
隠してた姿?
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「俺はあくまでも公平な関係として茉悠さんにうちに来てほしかったんだ。茉悠さんにあんな仕事は辞めて生活を立て直してほしい。茉悠さんに言ったことにウソはひとつもない。それを証明したいから俺も秘密をさらしたんだよ」
「……秘密?」
「俺、今会社でうまくやれてると思ってる。わがままなライオンな面は隠してるおかげで。俺は会社でも家でも今後は素をさらすつもりはない。今日だけ。だから安心してほしい」
「うちでも?」
清水くんの家なのに、素でいる気がないの? 意味が分からない。
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