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幸せの連鎖

同じ方向

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私たちと新郎さんは初対面なので互いにペコペコとお辞儀をする。

「優しそうな人だね」
「見た目に褒める所がない人への褒め言葉代表」
「うん」
「認めちゃダメ!」
「いいです、いいです。私が彼の見た目を好きになったんじゃないのは本人が一番分かってますから」

なっちゃんが笑いかけると、新郎さんは自信満々に胸を張る。

二人の間の信頼が可視化されたみたい。
こんな空気感の家庭は絶対幸せに決まっている。

「素敵。人間の顔じゃないものね」
「間違えてる! 人間は顔じゃないって言いたかったのよね?!」
「はい、そう言いましたよ」
「言ってない!」

あれ?
私ちゃんと人間の顔じゃないって――あ。ヤバい。

新郎新婦と魁十が爆笑してるから、謝るにも謝りにくい。
下手に謝るより、この空気に乗った方がいいのかも。

「あ……あはは……自分でも思ってもないこと言っちゃうんだから……飽きないなあ」
「あはは! 飽きない!」

帰りのタクシーに乗っても、魁十がまだ笑っている。

「そんなに笑わなくても」
「人の人生の門出にエグいのぶっ込むんだもん」

……笑ってくれたからまあいいかと思ったけど、ほんとだ。私かなり失礼なことを言った!

「どうしよ。ねえ、カイどうしよ?!」
「いんじゃね。シャレ分かりそうな旦那さんだったし、自虐ネタとして使える」
「ううん、シャレでもなかったの」
「シャレってことにしとけ」

呆れたようにジト目で見てから、フッと優しく笑った魁十がかわいすぎる。
何その振り幅。長年一緒に育ってきたのに、まだ私をときめかせると言うの。

「たまには飽きさせてよ。いつかデカい自爆するからマジで気を付けろよ」
「やだ、かわいい」
「話聞いてた?」

聞いてない。

大きな白い紙袋に入っている箱を出して開けてみると、イチゴがたくさん描かれたかわいいお皿。

「カイのも同じかな」
「だと思うよ」
「やったあ。お揃いだね」

ニッコリ笑った魁十が私の左手のリングをなでる。

「俺たちも学生結婚しちゃう?」
「あんな幸せそうな結婚式見たらしたくなっちゃうよね」

私も同じこと思った。

「でも、立て続けに結婚式だと朝倉さんたちお祝儀が大変かなあ」
「あはは! ほんと気にするところおかしいよね」
「結婚式ってどれくらいお金かかるんだろ」
「ゼクシィ買ってく?」
「魁十は紙派だもんね」

親戚丸被りだし結婚式はしない、と二人で言ってたのに、素敵なお式を見ちゃうと気持ちが持ってかれる。

「そこで降ります」

魁十が運転手さんに言って、家の近くのコンビニでタクシーを降り、ゼクシィを手に取った。

ほんとに買うとは思わなかったなあ……。

「なんかレジ行くの照れる」
「分かる。結婚考えてますって言ってるようなものだよね」

コンビニで赤くなっちゃってる魁十がかわいい。
そして、珍しく魁十もテンション上がってるのが嬉しい。私と魁十の思いは、同じ方向を向いている。
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