32 / 86
たのしい誕生日
彼氏、高鷺
しおりを挟む
「はぁ~」
「うざい。いちいちお悩みアピールしてくんな」
「カイは告白してきた女の子たちを断る時、いつもこんなにつらい思いをしてたんだね」
「してねえ。くっつくな」
自分のせいで悲しむ人がいる。
強がってても優しい子だから、心苦しいだろう。人数も多いし。
「姉ちゃんが悩んでもしょうがねえじゃん。その河合さんのために二股される方が嫌だろ」
「私は別にそれでもいいかもしれない」
「何それ。本気で好きなの? 彼氏のこと」
「好きだよ。でも河合さんも悪い子じゃないから」
「好きが軽い」
「そう見える?」
「見える。どけ。トイレ」
「大丈夫? おなか痛い?」
「だから、トイレ行くだけで心配すんな」
好きが軽い……。
好きが重いって、どういう感じ?
お付き合いさせていただくのは二人目だけど、中学の頃に高鷺と付き合った時は、好きだから付き合ったというよりも断れる状況じゃなかった。
ほとんどの生徒が小学校からそのまま上がってたから、私は中学校では必死に影を潜めていた。
目立つとろくなことがない。
入学当時すでに167センチ、今と1センチしか変わらない体が大きな私はそれだけで目立つから、背中丸めてた。
みんなが分かる「普通」が私には分からなかった。
何が「普通」なのか、分かるみんなは教えてくれない。
魁十は、
「そんなヤツらのために姉ちゃんが小さくなる必要はない。普通はどうとか気にするのは心の摩耗で無駄だよ」
と言い切ったけど、心がすり減るのを感じながらも私はがんばって小さくなっていた。
2年生の時、遠足のバスの座席を決めるにあたって、2人1組が作られた。
3人組の女子グループがじゃんけんして1人負けた。
ええー最悪やだーって言って、もう1人残っていた私と隣になるのを嫌がった。
そしたら、高鷺が手を上げた。
「先生、男女で隣同士でもいいですか」
「構いませんよ」
「俺、遠山の隣にするから健司、小林の隣な」
「高鷺じゃんけん勝ったのに」
「いい。俺、遠山と遠足行きたい」
チャイムが鳴ったら、高鷺は質問攻めされてた。
私も意味が分からなかった。
席でじっと座ってたら、高鷺が来た。
「小学校の時、何もしてやれなくてごめん。俺が何か言ったら、余計に遠山にきつく当たられるかもとかいろいろ考えちゃって……」
そんなこと、気にしてたんだ。高鷺は悪くないのに。さては良い人だな、君。
「俺、遠山が好きだ。俺のせいで嫌がらせされることがあっても俺が絶対守るから、付き合ってほしい」
……付き合って……?
「すげえ! 男じゃん! 高鷺!」
「俺が惚れるわ」
「女子! もう遠山に嫌がらせとかシカトすんのやめろよ!」
「そうだよ。いつまでも小学生みたいにさあ」
男子たちが女子を責めるのを見ながら、男子も女子も私的には大差ないのになあ、と思ってた。
「分かったよ。高鷺の一途さには負けた。紗夜ちゃん、今までごめんね」
みやびちゃんがおしとやかに謝ったものだから、私は何も言ってないのに高鷺が一緒に帰ろうって言ってきて、気が付いたら付き合ってることになっていた。
なんだかなあ、と釈然としないまま言葉にはできなかった。
でも、学校生活は各段に過ごしやすくなって、友達もできて、高鷺と付き合い始めてからやっと私の中学生活が始まったって感じだった。
だけど、それくらいから魁十が不良になった。
ケンカするようになって、他の学校の不良グループに単身乗り込んだりもして、地元で知らない人はいないような存在になった。
「彼女が魁十の姉だって親にバレて、不良の弟がいるような子とは別れろって言われたけど、俺は別れない。遠山は魁十とは違うって、親に分かってもらえるように二人でがんばっていこう!」
意気揚々と言った高鷺は、悲恋の主人公にでもなった気分だったんだと思う。
でも私には、魁十を否定されたように感じた。
「ごめん、高鷺とは付き合えない。魁十が本当は良い子だって私は知ってる。今は悪いことしてるけど、魁十は私のかわいい弟なの」
両親は学校からの呼び出しなんかには応じつつ、思春期の一過性のものだろうから一通り暴れたら落ち着くだろう、と静観していた。
さすがは親。
予想通り、魁十はすぐに暴れなくなった。
だけど、未だに思春期の塩対応だけは残るとまでは親でも予想できなかった。
「うざい。いちいちお悩みアピールしてくんな」
「カイは告白してきた女の子たちを断る時、いつもこんなにつらい思いをしてたんだね」
「してねえ。くっつくな」
自分のせいで悲しむ人がいる。
強がってても優しい子だから、心苦しいだろう。人数も多いし。
「姉ちゃんが悩んでもしょうがねえじゃん。その河合さんのために二股される方が嫌だろ」
「私は別にそれでもいいかもしれない」
「何それ。本気で好きなの? 彼氏のこと」
「好きだよ。でも河合さんも悪い子じゃないから」
「好きが軽い」
「そう見える?」
「見える。どけ。トイレ」
「大丈夫? おなか痛い?」
「だから、トイレ行くだけで心配すんな」
好きが軽い……。
好きが重いって、どういう感じ?
お付き合いさせていただくのは二人目だけど、中学の頃に高鷺と付き合った時は、好きだから付き合ったというよりも断れる状況じゃなかった。
ほとんどの生徒が小学校からそのまま上がってたから、私は中学校では必死に影を潜めていた。
目立つとろくなことがない。
入学当時すでに167センチ、今と1センチしか変わらない体が大きな私はそれだけで目立つから、背中丸めてた。
みんなが分かる「普通」が私には分からなかった。
何が「普通」なのか、分かるみんなは教えてくれない。
魁十は、
「そんなヤツらのために姉ちゃんが小さくなる必要はない。普通はどうとか気にするのは心の摩耗で無駄だよ」
と言い切ったけど、心がすり減るのを感じながらも私はがんばって小さくなっていた。
2年生の時、遠足のバスの座席を決めるにあたって、2人1組が作られた。
3人組の女子グループがじゃんけんして1人負けた。
ええー最悪やだーって言って、もう1人残っていた私と隣になるのを嫌がった。
そしたら、高鷺が手を上げた。
「先生、男女で隣同士でもいいですか」
「構いませんよ」
「俺、遠山の隣にするから健司、小林の隣な」
「高鷺じゃんけん勝ったのに」
「いい。俺、遠山と遠足行きたい」
チャイムが鳴ったら、高鷺は質問攻めされてた。
私も意味が分からなかった。
席でじっと座ってたら、高鷺が来た。
「小学校の時、何もしてやれなくてごめん。俺が何か言ったら、余計に遠山にきつく当たられるかもとかいろいろ考えちゃって……」
そんなこと、気にしてたんだ。高鷺は悪くないのに。さては良い人だな、君。
「俺、遠山が好きだ。俺のせいで嫌がらせされることがあっても俺が絶対守るから、付き合ってほしい」
……付き合って……?
「すげえ! 男じゃん! 高鷺!」
「俺が惚れるわ」
「女子! もう遠山に嫌がらせとかシカトすんのやめろよ!」
「そうだよ。いつまでも小学生みたいにさあ」
男子たちが女子を責めるのを見ながら、男子も女子も私的には大差ないのになあ、と思ってた。
「分かったよ。高鷺の一途さには負けた。紗夜ちゃん、今までごめんね」
みやびちゃんがおしとやかに謝ったものだから、私は何も言ってないのに高鷺が一緒に帰ろうって言ってきて、気が付いたら付き合ってることになっていた。
なんだかなあ、と釈然としないまま言葉にはできなかった。
でも、学校生活は各段に過ごしやすくなって、友達もできて、高鷺と付き合い始めてからやっと私の中学生活が始まったって感じだった。
だけど、それくらいから魁十が不良になった。
ケンカするようになって、他の学校の不良グループに単身乗り込んだりもして、地元で知らない人はいないような存在になった。
「彼女が魁十の姉だって親にバレて、不良の弟がいるような子とは別れろって言われたけど、俺は別れない。遠山は魁十とは違うって、親に分かってもらえるように二人でがんばっていこう!」
意気揚々と言った高鷺は、悲恋の主人公にでもなった気分だったんだと思う。
でも私には、魁十を否定されたように感じた。
「ごめん、高鷺とは付き合えない。魁十が本当は良い子だって私は知ってる。今は悪いことしてるけど、魁十は私のかわいい弟なの」
両親は学校からの呼び出しなんかには応じつつ、思春期の一過性のものだろうから一通り暴れたら落ち着くだろう、と静観していた。
さすがは親。
予想通り、魁十はすぐに暴れなくなった。
だけど、未だに思春期の塩対応だけは残るとまでは親でも予想できなかった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。


白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる