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たのしい誕生日

彼氏、高鷺

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「はぁ~」
「うざい。いちいちお悩みアピールしてくんな」
「カイは告白してきた女の子たちを断る時、いつもこんなにつらい思いをしてたんだね」
「してねえ。くっつくな」

自分のせいで悲しむ人がいる。
強がってても優しい子だから、心苦しいだろう。人数も多いし。

「姉ちゃんが悩んでもしょうがねえじゃん。その河合さんのために二股される方が嫌だろ」
「私は別にそれでもいいかもしれない」
「何それ。本気で好きなの? 彼氏のこと」
「好きだよ。でも河合さんも悪い子じゃないから」
「好きが軽い」
「そう見える?」
「見える。どけ。トイレ」
「大丈夫? おなか痛い?」
「だから、トイレ行くだけで心配すんな」

好きが軽い……。

好きが重いって、どういう感じ?

お付き合いさせていただくのは二人目だけど、中学の頃に高鷺と付き合った時は、好きだから付き合ったというよりも断れる状況じゃなかった。

ほとんどの生徒が小学校からそのまま上がってたから、私は中学校では必死に影を潜めていた。

目立つとろくなことがない。
入学当時すでに167センチ、今と1センチしか変わらない体が大きな私はそれだけで目立つから、背中丸めてた。

みんなが分かる「普通」が私には分からなかった。
何が「普通」なのか、分かるみんなは教えてくれない。

魁十は、

「そんなヤツらのために姉ちゃんが小さくなる必要はない。普通はどうとか気にするのは心の摩耗で無駄だよ」

と言い切ったけど、心がすり減るのを感じながらも私はがんばって小さくなっていた。

2年生の時、遠足のバスの座席を決めるにあたって、2人1組が作られた。
3人組の女子グループがじゃんけんして1人負けた。
ええー最悪やだーって言って、もう1人残っていた私と隣になるのを嫌がった。

そしたら、高鷺が手を上げた。

「先生、男女で隣同士でもいいですか」
「構いませんよ」
「俺、遠山の隣にするから健司、小林の隣な」
「高鷺じゃんけん勝ったのに」
「いい。俺、遠山と遠足行きたい」

チャイムが鳴ったら、高鷺は質問攻めされてた。
私も意味が分からなかった。

席でじっと座ってたら、高鷺が来た。

「小学校の時、何もしてやれなくてごめん。俺が何か言ったら、余計に遠山にきつく当たられるかもとかいろいろ考えちゃって……」

そんなこと、気にしてたんだ。高鷺は悪くないのに。さては良い人だな、君。

「俺、遠山が好きだ。俺のせいで嫌がらせされることがあっても俺が絶対守るから、付き合ってほしい」

……付き合って……?

「すげえ! 男じゃん! 高鷺!」
「俺が惚れるわ」
「女子! もう遠山に嫌がらせとかシカトすんのやめろよ!」
「そうだよ。いつまでも小学生みたいにさあ」

男子たちが女子を責めるのを見ながら、男子も女子も私的には大差ないのになあ、と思ってた。

「分かったよ。高鷺の一途さには負けた。紗夜ちゃん、今までごめんね」

みやびちゃんがおしとやかに謝ったものだから、私は何も言ってないのに高鷺が一緒に帰ろうって言ってきて、気が付いたら付き合ってることになっていた。

なんだかなあ、と釈然としないまま言葉にはできなかった。

でも、学校生活は各段に過ごしやすくなって、友達もできて、高鷺と付き合い始めてからやっと私の中学生活が始まったって感じだった。

だけど、それくらいから魁十が不良になった。
ケンカするようになって、他の学校の不良グループに単身乗り込んだりもして、地元で知らない人はいないような存在になった。

「彼女が魁十の姉だって親にバレて、不良の弟がいるような子とは別れろって言われたけど、俺は別れない。遠山は魁十とは違うって、親に分かってもらえるように二人でがんばっていこう!」

意気揚々と言った高鷺は、悲恋の主人公にでもなった気分だったんだと思う。

でも私には、魁十を否定されたように感じた。

「ごめん、高鷺とは付き合えない。魁十が本当は良い子だって私は知ってる。今は悪いことしてるけど、魁十は私のかわいい弟なの」

両親は学校からの呼び出しなんかには応じつつ、思春期の一過性のものだろうから一通り暴れたら落ち着くだろう、と静観していた。

さすがは親。
予想通り、魁十はすぐに暴れなくなった。

だけど、未だに思春期の塩対応だけは残るとまでは親でも予想できなかった。
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