うちの弟がかわいすぎてヤバい無理!

はちみつ電車

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ばんそうこう

どっちが好み?ツンデレ弟/甘すぎ先輩

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皿を流しに置こうとして手が滑り、カップの取っ手にぶつけてガチャガチャパリーンと朝から派手な音を立ててしまった。

「うわ、割れちゃった」
「触んな!」
「痛!」

はあ、と背後でため息が聞こえる。

「どーせケガするだけなんだから、割れた皿の処理は俺に任せてろよ」
「ごめん……」

頼りないお姉ちゃんでごめんね。
テキパキと皿洗いまで済ませてくれる魁十の背中を見つめながら、テンションダダ下がり。

「何ボーッとしてんの」
「反省……」
「バカじゃねーの。姉ちゃんが不器用なのは今始まったことじゃねえだろ」

そうだよね。
昔から不器用な私は何でも器用にこなす魁十に迷惑かけてばっかりで……。

「迷惑なんかじゃねえから」

うちの弟、心の中を読む能力でも身に着けたの?

超能力者になりつつある魁十が軟膏薬を持って来る。

「大丈夫だよ。ちょっと血が出たくらいで」
「そうやってめんどくさがって、化膿したことあっただろ」
「よく覚えてるね」

魁十が私の指に薬を伸ばす。
ほんと、大人になったなあ……。

「手ぇ離せ」
「大きくなったね、魁十」

ブンッと握った手を振り払い、魁十が睨みつける。

「ガキ扱いすんな。俺は大人なの」

そうやって大人ぶるところがかわいい。

私の指に絆創膏まで貼ってくれる。
ほんと、魁十は私と違って几帳面。

「ありがとう」
「どういたしまして」
「痛!」

絆創膏の上から魁十がギュッと指先で押さえつけ、舌を出して笑った。

「紗夜、気を付けろよ。朝からこれじゃ、今日は厄日かもしんない」
「嬉しい~。私の心配してくれるんだ」
「だから、いちいちくっつくな!」
「だって嬉しいんだもん~。ありがと、気を付ける」

いってきます、と魁十のほっぺたにチュッと口を付けると、すぐさま引きはがされる。

「さっさと会社行け」
「今日もしてくれないのー。いつになったら思春期が終わるのかしら」
「うっせえ」

厄日か……。
魁十が貼ってくれた絆創膏が目に入る。

ふふっ。
きっとこれが守ってくれる。私のお守り。



真新しいスプレー式クリーナーの吹き出し口をONにして、何度ハンドルを引いても何も出てこない。

あれ?
新品なのに詰まってるのかな。不良品かしら。

ノズルを真正面に見ながらハンドルを引いてみる。
一気にスプレーが噴出して、勢い良く顔にかかった。

「うわ!」

まっず。口にもクリーナーが入ってしまった。

「遠山さん、口ゆすいで」

難波さんが私の背中を押して、給茶機横の流しの水をコップに入れてくれる。

ブクブクうがいを繰り返し、口の中の苦みはすっかり消えた。

「すみません、ありがとうござ――あの、大丈夫です!」

難波さんが紺のチェックの濡れたハンカチで私の顔を拭いてくださる。
さすがに申し訳なさすぎて、半歩下がった。

「ごめんなさい、ハンカチ」
「もう濡らしたから拭かせて」
「え……すみません……」

顔が近い……。
緊張してしまうから、目にはかかってないのに目を閉じて濡れたハンカチが私の口の周りを動くのを感じる。

「冷たいでしょ。大丈夫?」
「全然大丈夫です!」
「ヒリヒリしたりしてません?」
「はい、大丈夫です!」
「もう目を開けていいよ」
「あ、はい」

目を開けると、クスクス笑っている難波さんがごく至近距離にいる。
まだ早かった!

ビックリして大きく一歩下がった。

「あはは! 遠山さんっておもしろい。僕、アニメキャラなんかでも好きになるのはおっちょこちょいなドジっ子ばっかりなんです」

え……それって、こんなおっちょこちょいな私が好みだって言ってる?

「さてと! さっさと済ませちゃおう」
「あ、はい!」

これは、このドキドキは、難波さんが好きだからじゃない。
嬉しいことを言われて、浮かれてるだけ。浮かれてるだけだから。しっかりしろ、私。

なっちゃんはずっと前から難波さんが好き。私なんか出る幕はない。
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