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うちの弟はめちゃくちゃかわいい
ピュアな方
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パソコンの電源を入れ時間を確認すると、始業1分前。ギリすぎる……。
反省してテキパキと仕事の準備に取り掛かる。
向かい合わせのデスクの向こうから、パソコンをよけてヒョコッと夏菜ちゃんが顔を出した。
「惜しいー。あと5分早く来てたら難波さんいたのにー。今日もイケメンフェイス絶好調でしたよ」
へえ、難波さんが。
「別にどうでもいいよね」
「難波さんに興味ないってほんとに女子? 難波さんだよ?」
「なっちゃん、ダル絡みしないー。遠山さんはいっつもなっちゃんみたいにキャーキャー言わないでしょ」
そう言いながら私の後ろを歩いて行った朝倉さんはそのままコピー機へと向かった。
朝倉さん、ありがとう。
難波さんのこととなると暴走しがちななっちゃんをいい感じに抑えてくれてありがたい。
うちの会社は女性が少ない。
さらに、平均年齢50代じゃなかろうかと思える女性従業員の高年齢化。36歳の総務課長さんなんて、課長だけど若い若いとかわいがられている。
自然、28歳の朝倉さん、21歳の私、20歳のなっちゃんは若い女ってだけで仲間意識バリバリ。
たぶん、朝倉さんがめちゃくちゃできる人だから若い女性の採用に積極的になったんだろうと予想している。
メールを開くと、難波さんと同じ総務部の浜崎さんからなんと
「出社しましたら会議室に来てください」
とメールが来ている。
出社……ごめんなさい! ついさっき来たばかりなんです!
何分待たせたんだろう。
てかチャイム鳴っちゃったし、まだいるのかな。総務に戻ってるかな。
会議室のドアは閉まっている。
札は在室になっている。
中にいるのは浜崎さんなんだろうか……。
まさか朝一から会議もないだろうと、思い切ってドアを細く開けて様子をうかがう。
「遠山さん?」
男性の声。たぶん、浜崎さん。
「遅くなって申し訳ございません! あの、決して待たせようって意図はなく、単純に今日家出るのが遅くって」
あはは、と穏やかな笑い声に安心して下げていた頭を上げた。
浜崎さんは難波さんとは違い、見るからに温厚な性格をしていそうな細いたれ目で特徴的なお声をしてらっしゃる。
「遠山さんはいつも出勤ギリギリだから、想定の範囲内です」
「すみません、早く家を出たい気持ちはめっちゃあるんですけど、つい」
弟がめっちゃくちゃかわいいもので。
「あの、始業時間過ぎてるし手短かに伝えたいんですけど、今日の送別会の後、良かったら二人でどこか行きませんか?」
「はい?」
細い目を目一杯開いた浜崎さんは、私と身長が変わらない。
と言っても、私が168センチとこの会社の女子の中ではダントツに大きい方。
「あの……僕と付き合ってもらえませんか」
「え。付き合う……とは」
「好きです。僕と付き合ってください」
うわあ……どうしよう。知りたくなかったなあ……これから意識しちゃうじゃん。
浜崎さんも困った顔してるけど、うわあ、どうしよう。頭が真っ白になってしまう。
「……ダメですか」
「ダメと言いますか、違うんです!」
何が違うんだ。
どうしよう、まとまる気がしない。かと言って沈黙は重過ぎる。耐えられない。
「ほとんどまともにお付き合いなんてしたことないし、よく分かんないんです。誰かと付き合いたいと思ったこともないし……その……浜崎さんだからダメってのは絶対ないです。けど、お付き合いしたいとも思えないって言うか……」
ダメだ。
断り切れなくて付き合っても、せっかく好きだって言ってくれた貴重な人を無駄に傷付ける。
しっかり断らなきゃって思うと、どんな言葉を選んでも私が知ってる言葉の中に浜崎さんを傷付けない言葉がない……。
「あ、あの、僕こそ困らせてしまってごめんなさい。遠山さんがこんなピュアな方だとは思ってなくて……あ、いや、その」
今あなた、暗に私を穢れたヤツだと思ってたって言いましたね。
「遠山さん。これからも、会社の同僚として普通に接していただけるとありがたいです」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
あっさり引いたな……当てが外れたってことか。
反省してテキパキと仕事の準備に取り掛かる。
向かい合わせのデスクの向こうから、パソコンをよけてヒョコッと夏菜ちゃんが顔を出した。
「惜しいー。あと5分早く来てたら難波さんいたのにー。今日もイケメンフェイス絶好調でしたよ」
へえ、難波さんが。
「別にどうでもいいよね」
「難波さんに興味ないってほんとに女子? 難波さんだよ?」
「なっちゃん、ダル絡みしないー。遠山さんはいっつもなっちゃんみたいにキャーキャー言わないでしょ」
そう言いながら私の後ろを歩いて行った朝倉さんはそのままコピー機へと向かった。
朝倉さん、ありがとう。
難波さんのこととなると暴走しがちななっちゃんをいい感じに抑えてくれてありがたい。
うちの会社は女性が少ない。
さらに、平均年齢50代じゃなかろうかと思える女性従業員の高年齢化。36歳の総務課長さんなんて、課長だけど若い若いとかわいがられている。
自然、28歳の朝倉さん、21歳の私、20歳のなっちゃんは若い女ってだけで仲間意識バリバリ。
たぶん、朝倉さんがめちゃくちゃできる人だから若い女性の採用に積極的になったんだろうと予想している。
メールを開くと、難波さんと同じ総務部の浜崎さんからなんと
「出社しましたら会議室に来てください」
とメールが来ている。
出社……ごめんなさい! ついさっき来たばかりなんです!
何分待たせたんだろう。
てかチャイム鳴っちゃったし、まだいるのかな。総務に戻ってるかな。
会議室のドアは閉まっている。
札は在室になっている。
中にいるのは浜崎さんなんだろうか……。
まさか朝一から会議もないだろうと、思い切ってドアを細く開けて様子をうかがう。
「遠山さん?」
男性の声。たぶん、浜崎さん。
「遅くなって申し訳ございません! あの、決して待たせようって意図はなく、単純に今日家出るのが遅くって」
あはは、と穏やかな笑い声に安心して下げていた頭を上げた。
浜崎さんは難波さんとは違い、見るからに温厚な性格をしていそうな細いたれ目で特徴的なお声をしてらっしゃる。
「遠山さんはいつも出勤ギリギリだから、想定の範囲内です」
「すみません、早く家を出たい気持ちはめっちゃあるんですけど、つい」
弟がめっちゃくちゃかわいいもので。
「あの、始業時間過ぎてるし手短かに伝えたいんですけど、今日の送別会の後、良かったら二人でどこか行きませんか?」
「はい?」
細い目を目一杯開いた浜崎さんは、私と身長が変わらない。
と言っても、私が168センチとこの会社の女子の中ではダントツに大きい方。
「あの……僕と付き合ってもらえませんか」
「え。付き合う……とは」
「好きです。僕と付き合ってください」
うわあ……どうしよう。知りたくなかったなあ……これから意識しちゃうじゃん。
浜崎さんも困った顔してるけど、うわあ、どうしよう。頭が真っ白になってしまう。
「……ダメですか」
「ダメと言いますか、違うんです!」
何が違うんだ。
どうしよう、まとまる気がしない。かと言って沈黙は重過ぎる。耐えられない。
「ほとんどまともにお付き合いなんてしたことないし、よく分かんないんです。誰かと付き合いたいと思ったこともないし……その……浜崎さんだからダメってのは絶対ないです。けど、お付き合いしたいとも思えないって言うか……」
ダメだ。
断り切れなくて付き合っても、せっかく好きだって言ってくれた貴重な人を無駄に傷付ける。
しっかり断らなきゃって思うと、どんな言葉を選んでも私が知ってる言葉の中に浜崎さんを傷付けない言葉がない……。
「あ、あの、僕こそ困らせてしまってごめんなさい。遠山さんがこんなピュアな方だとは思ってなくて……あ、いや、その」
今あなた、暗に私を穢れたヤツだと思ってたって言いましたね。
「遠山さん。これからも、会社の同僚として普通に接していただけるとありがたいです」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
あっさり引いたな……当てが外れたってことか。
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