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歌い手の旅
第68話 親友
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僕がラミレア王城に到着して玉座の間に向かうまでの間、誰にも止められる事は無かった。
きっと、デュランが周知していたのだろう。
玉座の間にはたった3人だけが待っていた。
デュランとエメラダ。
そして父だった。
父は僕の姿を見ると歩み寄って来て肩を叩いた。
「…………しっかりな」
それだけ言葉にして、玉座の間を出て行く。
すーはー……
「本日は謁見の機会を賜りまして……って、こういうの、要らないよね?」
「ああ……要るもんか」
僕の言葉に応じてデュランが立ち上がる。
「君の傲慢なやり方が気に入らない」
「お前のウジウジした所は昔から嫌いだったよ」
さあ、喧嘩しよう……親友と。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「も……もうやめて!」
エメラダの声が聞こえる。
止める気なら遅いよ。
「お前……仮にも一国の王をよくもこんなに殴ってくれたな……遠慮とか無いのかよ。あれだぞ、普通なら処刑ものだぞ?」
「そっちこそ、加減とかしなかったでしょ。あと王様とか関係無いから。友達が偉い人ばっかりでもうそういうの麻痺しちゃったよ……」
僕達2人は床に転がっている。
鼻血が出たり口の端が切れたり、2人揃って良い様になっている。
「……バイン公爵な、エメラダの前で言うのも気がひけるが……本当に腐った奴だったんだ」
仰向けのままデュランが語り出す。
「お前とエメラダの婚約が決まった後ももっと階級の高い貴族や他国の有力貴族に声をかけていてな。娘をどこに売り付ければ一番高く売れるかなんて事を前王と相談していやがった」
「それは……悪いけど腐ってるね……」
「ああ。馬鹿な事に利用されないよう、俺の婚約者にした。……だけど、それだけじゃ無い。俺はエメラダが好きだ。それは本気だ」
ああ……そこが本気だったなら安心した。
好きでも無いのにあんな真似したなら、事情なんて関係無くもっと殴ってしまいそうだから。
好きでも無いのに彼女を守った『良い奴』だったら殴ったのを少しは後悔してしまうかも知れないし。
「普通さ……僕にも言うでしょ……当事者だよ。バイン公爵の事も、デュランの気持ちもさ。何か言えよ、としか言えない」
「ロイには言わないでって、私が言ったの」
「エメラダ……お前は黙ってろ。ロイとは俺が……」
「黙っていられない。私のせいで2人がこんな……」
涙ぐむ彼女は僕達の間に座る。
「ロイの事は好きだった。いつも笑顔で優しくて……誰とでも仲良くなれるあなたの柔らかい空気が大好きだった。……だから、貴方が出て行った時は、本当に怖かった。私のせいであの優しかったロイが変わってしまったんじゃ無いかって」
「僕だって人間なんだから……怒りもするし悲しくもなるよ」
どう見られていたのかは解らないけど、子供っぽいやり方でも仕返ししたくなる程度には……人間のつもりだ。
「うん……ごめんなさい。私は自分勝手だったの。ロイの事は大好きだったけど、同じようにデュランの事も好きだったの。昔から3人でずっと一緒に居て……同じくらい、好きだった」
「……うん」
「ロイと婚約した時も嬉しかった。でもすぐに父がおかしくなって、ロイと一緒にいれば迷惑になると思った。……ううん。言い訳ね。デュランに相談する内に彼にもっと惹かれたのも本当なの。ロイを巻き込まないで、デュランの気持ちにも応えられる。そんな風に……思ったの」
エメラダは泣き出した。
僕としては納得出来ない部分もある。
それでも彼女が悪意で嘘をつく人間じゃ無い事だけは信じられる。
僕は痛みを堪えて立ち上がる。
「2人共……僕の歌を聞いてくれ」
きっと、デュランが周知していたのだろう。
玉座の間にはたった3人だけが待っていた。
デュランとエメラダ。
そして父だった。
父は僕の姿を見ると歩み寄って来て肩を叩いた。
「…………しっかりな」
それだけ言葉にして、玉座の間を出て行く。
すーはー……
「本日は謁見の機会を賜りまして……って、こういうの、要らないよね?」
「ああ……要るもんか」
僕の言葉に応じてデュランが立ち上がる。
「君の傲慢なやり方が気に入らない」
「お前のウジウジした所は昔から嫌いだったよ」
さあ、喧嘩しよう……親友と。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「も……もうやめて!」
エメラダの声が聞こえる。
止める気なら遅いよ。
「お前……仮にも一国の王をよくもこんなに殴ってくれたな……遠慮とか無いのかよ。あれだぞ、普通なら処刑ものだぞ?」
「そっちこそ、加減とかしなかったでしょ。あと王様とか関係無いから。友達が偉い人ばっかりでもうそういうの麻痺しちゃったよ……」
僕達2人は床に転がっている。
鼻血が出たり口の端が切れたり、2人揃って良い様になっている。
「……バイン公爵な、エメラダの前で言うのも気がひけるが……本当に腐った奴だったんだ」
仰向けのままデュランが語り出す。
「お前とエメラダの婚約が決まった後ももっと階級の高い貴族や他国の有力貴族に声をかけていてな。娘をどこに売り付ければ一番高く売れるかなんて事を前王と相談していやがった」
「それは……悪いけど腐ってるね……」
「ああ。馬鹿な事に利用されないよう、俺の婚約者にした。……だけど、それだけじゃ無い。俺はエメラダが好きだ。それは本気だ」
ああ……そこが本気だったなら安心した。
好きでも無いのにあんな真似したなら、事情なんて関係無くもっと殴ってしまいそうだから。
好きでも無いのに彼女を守った『良い奴』だったら殴ったのを少しは後悔してしまうかも知れないし。
「普通さ……僕にも言うでしょ……当事者だよ。バイン公爵の事も、デュランの気持ちもさ。何か言えよ、としか言えない」
「ロイには言わないでって、私が言ったの」
「エメラダ……お前は黙ってろ。ロイとは俺が……」
「黙っていられない。私のせいで2人がこんな……」
涙ぐむ彼女は僕達の間に座る。
「ロイの事は好きだった。いつも笑顔で優しくて……誰とでも仲良くなれるあなたの柔らかい空気が大好きだった。……だから、貴方が出て行った時は、本当に怖かった。私のせいであの優しかったロイが変わってしまったんじゃ無いかって」
「僕だって人間なんだから……怒りもするし悲しくもなるよ」
どう見られていたのかは解らないけど、子供っぽいやり方でも仕返ししたくなる程度には……人間のつもりだ。
「うん……ごめんなさい。私は自分勝手だったの。ロイの事は大好きだったけど、同じようにデュランの事も好きだったの。昔から3人でずっと一緒に居て……同じくらい、好きだった」
「……うん」
「ロイと婚約した時も嬉しかった。でもすぐに父がおかしくなって、ロイと一緒にいれば迷惑になると思った。……ううん。言い訳ね。デュランに相談する内に彼にもっと惹かれたのも本当なの。ロイを巻き込まないで、デュランの気持ちにも応えられる。そんな風に……思ったの」
エメラダは泣き出した。
僕としては納得出来ない部分もある。
それでも彼女が悪意で嘘をつく人間じゃ無い事だけは信じられる。
僕は痛みを堪えて立ち上がる。
「2人共……僕の歌を聞いてくれ」
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