68 / 72
歌い手の旅
第68話 親友
しおりを挟む
僕がラミレア王城に到着して玉座の間に向かうまでの間、誰にも止められる事は無かった。
きっと、デュランが周知していたのだろう。
玉座の間にはたった3人だけが待っていた。
デュランとエメラダ。
そして父だった。
父は僕の姿を見ると歩み寄って来て肩を叩いた。
「…………しっかりな」
それだけ言葉にして、玉座の間を出て行く。
すーはー……
「本日は謁見の機会を賜りまして……って、こういうの、要らないよね?」
「ああ……要るもんか」
僕の言葉に応じてデュランが立ち上がる。
「君の傲慢なやり方が気に入らない」
「お前のウジウジした所は昔から嫌いだったよ」
さあ、喧嘩しよう……親友と。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「も……もうやめて!」
エメラダの声が聞こえる。
止める気なら遅いよ。
「お前……仮にも一国の王をよくもこんなに殴ってくれたな……遠慮とか無いのかよ。あれだぞ、普通なら処刑ものだぞ?」
「そっちこそ、加減とかしなかったでしょ。あと王様とか関係無いから。友達が偉い人ばっかりでもうそういうの麻痺しちゃったよ……」
僕達2人は床に転がっている。
鼻血が出たり口の端が切れたり、2人揃って良い様になっている。
「……バイン公爵な、エメラダの前で言うのも気がひけるが……本当に腐った奴だったんだ」
仰向けのままデュランが語り出す。
「お前とエメラダの婚約が決まった後ももっと階級の高い貴族や他国の有力貴族に声をかけていてな。娘をどこに売り付ければ一番高く売れるかなんて事を前王と相談していやがった」
「それは……悪いけど腐ってるね……」
「ああ。馬鹿な事に利用されないよう、俺の婚約者にした。……だけど、それだけじゃ無い。俺はエメラダが好きだ。それは本気だ」
ああ……そこが本気だったなら安心した。
好きでも無いのにあんな真似したなら、事情なんて関係無くもっと殴ってしまいそうだから。
好きでも無いのに彼女を守った『良い奴』だったら殴ったのを少しは後悔してしまうかも知れないし。
「普通さ……僕にも言うでしょ……当事者だよ。バイン公爵の事も、デュランの気持ちもさ。何か言えよ、としか言えない」
「ロイには言わないでって、私が言ったの」
「エメラダ……お前は黙ってろ。ロイとは俺が……」
「黙っていられない。私のせいで2人がこんな……」
涙ぐむ彼女は僕達の間に座る。
「ロイの事は好きだった。いつも笑顔で優しくて……誰とでも仲良くなれるあなたの柔らかい空気が大好きだった。……だから、貴方が出て行った時は、本当に怖かった。私のせいであの優しかったロイが変わってしまったんじゃ無いかって」
「僕だって人間なんだから……怒りもするし悲しくもなるよ」
どう見られていたのかは解らないけど、子供っぽいやり方でも仕返ししたくなる程度には……人間のつもりだ。
「うん……ごめんなさい。私は自分勝手だったの。ロイの事は大好きだったけど、同じようにデュランの事も好きだったの。昔から3人でずっと一緒に居て……同じくらい、好きだった」
「……うん」
「ロイと婚約した時も嬉しかった。でもすぐに父がおかしくなって、ロイと一緒にいれば迷惑になると思った。……ううん。言い訳ね。デュランに相談する内に彼にもっと惹かれたのも本当なの。ロイを巻き込まないで、デュランの気持ちにも応えられる。そんな風に……思ったの」
エメラダは泣き出した。
僕としては納得出来ない部分もある。
それでも彼女が悪意で嘘をつく人間じゃ無い事だけは信じられる。
僕は痛みを堪えて立ち上がる。
「2人共……僕の歌を聞いてくれ」
きっと、デュランが周知していたのだろう。
玉座の間にはたった3人だけが待っていた。
デュランとエメラダ。
そして父だった。
父は僕の姿を見ると歩み寄って来て肩を叩いた。
「…………しっかりな」
それだけ言葉にして、玉座の間を出て行く。
すーはー……
「本日は謁見の機会を賜りまして……って、こういうの、要らないよね?」
「ああ……要るもんか」
僕の言葉に応じてデュランが立ち上がる。
「君の傲慢なやり方が気に入らない」
「お前のウジウジした所は昔から嫌いだったよ」
さあ、喧嘩しよう……親友と。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「も……もうやめて!」
エメラダの声が聞こえる。
止める気なら遅いよ。
「お前……仮にも一国の王をよくもこんなに殴ってくれたな……遠慮とか無いのかよ。あれだぞ、普通なら処刑ものだぞ?」
「そっちこそ、加減とかしなかったでしょ。あと王様とか関係無いから。友達が偉い人ばっかりでもうそういうの麻痺しちゃったよ……」
僕達2人は床に転がっている。
鼻血が出たり口の端が切れたり、2人揃って良い様になっている。
「……バイン公爵な、エメラダの前で言うのも気がひけるが……本当に腐った奴だったんだ」
仰向けのままデュランが語り出す。
「お前とエメラダの婚約が決まった後ももっと階級の高い貴族や他国の有力貴族に声をかけていてな。娘をどこに売り付ければ一番高く売れるかなんて事を前王と相談していやがった」
「それは……悪いけど腐ってるね……」
「ああ。馬鹿な事に利用されないよう、俺の婚約者にした。……だけど、それだけじゃ無い。俺はエメラダが好きだ。それは本気だ」
ああ……そこが本気だったなら安心した。
好きでも無いのにあんな真似したなら、事情なんて関係無くもっと殴ってしまいそうだから。
好きでも無いのに彼女を守った『良い奴』だったら殴ったのを少しは後悔してしまうかも知れないし。
「普通さ……僕にも言うでしょ……当事者だよ。バイン公爵の事も、デュランの気持ちもさ。何か言えよ、としか言えない」
「ロイには言わないでって、私が言ったの」
「エメラダ……お前は黙ってろ。ロイとは俺が……」
「黙っていられない。私のせいで2人がこんな……」
涙ぐむ彼女は僕達の間に座る。
「ロイの事は好きだった。いつも笑顔で優しくて……誰とでも仲良くなれるあなたの柔らかい空気が大好きだった。……だから、貴方が出て行った時は、本当に怖かった。私のせいであの優しかったロイが変わってしまったんじゃ無いかって」
「僕だって人間なんだから……怒りもするし悲しくもなるよ」
どう見られていたのかは解らないけど、子供っぽいやり方でも仕返ししたくなる程度には……人間のつもりだ。
「うん……ごめんなさい。私は自分勝手だったの。ロイの事は大好きだったけど、同じようにデュランの事も好きだったの。昔から3人でずっと一緒に居て……同じくらい、好きだった」
「……うん」
「ロイと婚約した時も嬉しかった。でもすぐに父がおかしくなって、ロイと一緒にいれば迷惑になると思った。……ううん。言い訳ね。デュランに相談する内に彼にもっと惹かれたのも本当なの。ロイを巻き込まないで、デュランの気持ちにも応えられる。そんな風に……思ったの」
エメラダは泣き出した。
僕としては納得出来ない部分もある。
それでも彼女が悪意で嘘をつく人間じゃ無い事だけは信じられる。
僕は痛みを堪えて立ち上がる。
「2人共……僕の歌を聞いてくれ」
21
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる