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歌い手の旅
第65話 約束が、増えたのです
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「ロイ……なの?」
エメラダを見た時、胸が痛かった。
酷い別れ方をした相手だ……痛みは感じる。
その声も姿も、あの時と変わっていない。
「……うん、お久しぶり」
「…………」
ローア王が頭を拭きながらエメラダと僕を見比べる。
「娘、良かったな。迎えが来たから直ぐに国へ帰れるぞ」
「……」
「……」
沈黙が流れる。
「おい、お前等幼馴染みで友人なんだろう? その2人が再会して何故こんな空気になる」
「色々とありまして……すみません」
ローア王が困ったような顔をしているのを見て思わず苦笑してしまう。
「娘、この男は危険を冒してまでお前を連れ帰りに来たのだ。うちの兵も眠らされるわ、脅されるわ、凍らされるわで大変だったのだぞ」
「ロイが……そんな事を?」
「……そう、間違い無いよ。別に君の為じゃ無い。僕は僕の役目の為にやった事だから」
「……私のせいね、きっと」
「おいおい……」
ローア王が溜息をつく。
「口出しすることでは無いが……お前達、国へ帰ったらしっかり話し合ったらどうだ? ……見てられんぞ」
「……はい」
「そうですね」
デュランともエメラダともしっかり話さないといけない。
じゃないとまた後悔する。
「ロイ、と言ったな。こちらからの条件は先程伝えた通りだ。前向きな検討をして貰えると助かる」
「はい、確かに伝えます」
ローア王が頷く。
手を差し出されたので握手を交わした。
「お前の強さと勇気は尊敬さえ出来るものだ。……中身は見た目相応のようだがな。落ち着いたらまたこの国に来い。次は客として迎えよう」
「ありがとうございます。その時は是非……普通の歌を歌わせて下さい」
我儘を押し通す覚悟をして来た。
敵として相対される事も突然だろうと。
結果は会話で通じ合うことが出来て、こうして再会の約束までして帰ることになった。
僕の旅は……幸せだ。
それぞれの想いを抱えながら、優しさを持った人ばかりに出会えて。
何も持たない僕に、温もりをくれた。
再会した時に情けない顔は見せられない。
「行こう、エメラダ。君を連れて帰る」
「……ええ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「~~♪」
ローアの城を出て魔竜を呼ぶ。
グルルルルルル……
魔竜はエメラダを睨み唸り続ける。
「落ち着いて、エメラダは悪い人では無いんだ」
鼻の辺りを撫でて落ち着かせようとするが、一向に鎮まらない。
「……この子はきっと、ロイが好きなのね。ゴメンなさい。私のせいでロイを危ない目に遭わせて」
「一緒に旅をしてきた大切な相棒だからね。もしそうだったら……嬉しいなぁ」
「そう……ね」
エメラダが一瞬何か言いたげな表情をした気もするが……僕は魔竜を宥めるのに必死だった。
魔竜がようやく大人しくなり、僕とエメラダを背に乗せてくれる。
飛び始めた魔竜の背の上で、城の上階から手を振るローア王が見える。
(また必ず来よう。そしてもっと彼と話してみよう)
竜は南へと向かい、ゆっくりと飛ぶ。
エメラダを見た時、胸が痛かった。
酷い別れ方をした相手だ……痛みは感じる。
その声も姿も、あの時と変わっていない。
「……うん、お久しぶり」
「…………」
ローア王が頭を拭きながらエメラダと僕を見比べる。
「娘、良かったな。迎えが来たから直ぐに国へ帰れるぞ」
「……」
「……」
沈黙が流れる。
「おい、お前等幼馴染みで友人なんだろう? その2人が再会して何故こんな空気になる」
「色々とありまして……すみません」
ローア王が困ったような顔をしているのを見て思わず苦笑してしまう。
「娘、この男は危険を冒してまでお前を連れ帰りに来たのだ。うちの兵も眠らされるわ、脅されるわ、凍らされるわで大変だったのだぞ」
「ロイが……そんな事を?」
「……そう、間違い無いよ。別に君の為じゃ無い。僕は僕の役目の為にやった事だから」
「……私のせいね、きっと」
「おいおい……」
ローア王が溜息をつく。
「口出しすることでは無いが……お前達、国へ帰ったらしっかり話し合ったらどうだ? ……見てられんぞ」
「……はい」
「そうですね」
デュランともエメラダともしっかり話さないといけない。
じゃないとまた後悔する。
「ロイ、と言ったな。こちらからの条件は先程伝えた通りだ。前向きな検討をして貰えると助かる」
「はい、確かに伝えます」
ローア王が頷く。
手を差し出されたので握手を交わした。
「お前の強さと勇気は尊敬さえ出来るものだ。……中身は見た目相応のようだがな。落ち着いたらまたこの国に来い。次は客として迎えよう」
「ありがとうございます。その時は是非……普通の歌を歌わせて下さい」
我儘を押し通す覚悟をして来た。
敵として相対される事も突然だろうと。
結果は会話で通じ合うことが出来て、こうして再会の約束までして帰ることになった。
僕の旅は……幸せだ。
それぞれの想いを抱えながら、優しさを持った人ばかりに出会えて。
何も持たない僕に、温もりをくれた。
再会した時に情けない顔は見せられない。
「行こう、エメラダ。君を連れて帰る」
「……ええ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「~~♪」
ローアの城を出て魔竜を呼ぶ。
グルルルルルル……
魔竜はエメラダを睨み唸り続ける。
「落ち着いて、エメラダは悪い人では無いんだ」
鼻の辺りを撫でて落ち着かせようとするが、一向に鎮まらない。
「……この子はきっと、ロイが好きなのね。ゴメンなさい。私のせいでロイを危ない目に遭わせて」
「一緒に旅をしてきた大切な相棒だからね。もしそうだったら……嬉しいなぁ」
「そう……ね」
エメラダが一瞬何か言いたげな表情をした気もするが……僕は魔竜を宥めるのに必死だった。
魔竜がようやく大人しくなり、僕とエメラダを背に乗せてくれる。
飛び始めた魔竜の背の上で、城の上階から手を振るローア王が見える。
(また必ず来よう。そしてもっと彼と話してみよう)
竜は南へと向かい、ゆっくりと飛ぶ。
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