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歌い手の旅
第64話 ローア王と、対談です
しおりを挟む玉座の間から別の部屋へと移り、ローア王と向かい合って座る。
あまり歓迎されるとは思っていなかったので、まさか一緒にお茶を飲む事になるとは思っていなかった。
出されたお茶を口に含んだ所で話を切り出される。
「バイン公爵とエリス姫だがな、既にここには居らんのだ。ラミレアの兵が来たと聞いた後、我が国の財宝をいくつか盗んで逃げ出そうとしたのだ」
僕はお茶を吹き出してしまった。
盛大に咽せてしまいローア王が眉を顰める。
(逃げようとした……?)
「あの人達は何を……考えているのか……」
僕には全く解らなくなってしまった。
「バイン公爵はラミレアの力を使ってエリス姫をオフェリアの王女にしようとした。取り入ってどうするつもりだったかまでは知らんが」
そこまで思慮の浅い人物だったとは……昔から悪い人では無いと思っていたのに。
「エリス姫はラミレアを後楯にしてオフェリアの立場を強めつつ王女になろうとした」
「はあ……」
国を思って暴走した……最大限好意的に捉えてもこれが限界だ。
「知っているのはこのくらいだ。ラミレアが来たと聞いて2人がしきりに兵を出せと煩いのでな。何かあるかと疑ったのだが……あまりに底の浅い行動でな……こちらも目が覚めたわ」
「それは……眠ってもいられませんね」
「ん? まあ、ラミレアの襲撃があったお陰で眠り損ねたのは事実だが、そうでは無い。口車に乗せられて一時とは言え世界の覇権を考えた自分が馬鹿らしくなったのよ」
細かく聞くと、どうやらローア王に野望を抱かせたのはバイン公爵の言葉だったらしい。
「男として生まれた以上、覇道に憧れるのはお前にも解るだろう? だがな、こんな北の田舎に生まれ……国民と共に作物を植える生活をしてきた王には壮大過ぎたのだ。ここで勝って世界を手にしても作物を植える面積が増えるくらいしか使い道が思いつかんわ」
……それはそれで楽しそうな気がしてしまうのは僕が愚かなのだろうか。
一時的に欲を出してしまったとはいえ、きっと根が良い人なのでは無いかと思える。
(世界を畑に変える王様なら兵隊なんて必要無い世の中にするかも知れないし)
「長々と事情を話したが……つまり、2人は罪人として我が国で裁く。他の国の事情は解ったから命を取ることはせんが、罪を償うまではこの国に留め置かせて貰う。終わり次第で引き渡すのは一向に構わん」
「解りました。お聞かせ頂いた内容であれば恐らく皆納得するかと思います。……エメラダについてですが……」
「ああ、あの娘はすぐ連れ帰ってくれ。自分を帰せと煩くてかなわん。娘自体は何の罪人でも無いから直ぐに引き渡す」
ローア王が卓上のベルを鳴らすと、男性が部屋に入ってきた。
そして、その横には……
「ロイ……なの?」
別れた時と変わらないエメラダがいた。
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