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歌い手の旅
第60話 今回は、加減無しです
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「……どちらも退いて下さい。続けるなら先に動いた方が僕の敵です」
ローアの兵がザワつく。
「り……竜かあれ? あいつ、竜に乗って来たぞ」
「そんなものいる筈ない! 偽物だ! ラミレアが俺達を動揺させる為に用意したんだ!」
魔竜が低く唸りながら見回すとローアの兵もラミレアの兵も一歩下がる。
僕は魔竜の鼻先を撫でて宥める。
(そうだね。戦場なんて居たく無いよね)
[神技・具現を……解除しま……す……]
微かに抵抗を感じたが、強く気持ちを込めて魔竜を還す。
「おい、竜が消えたぞ! 今なら」
「~~♪」
僕が歌ったのは[歌劇・竜殺しのシュリ王子と真の姫]の劇中歌。
僕が国を捨てたあの日、デュランの前で歌ったあの歌だ……。
魔竜を還したのは……自分自身が倒される話を聴かせたくなかったという理由もある。
いきなり歌い出した僕にデュラン以外の全員が困惑した表情を見せる。
[……神技・具現を使用します]
辺りの空気が変わり、肌を切るように寒くなる。
一帯の地面に霜が現れ、辺りの木が凍り付いて行く。
戦場を白く塗り潰しているのだ。
「な、なんだこれ? お前の仕業なのか?」
「お、おい……俺達は夢でもみてるんじゃないのか……」
僕は答えず歌い続ける。
辺りの木々が軋むような音を立て始める。
「ば……化物だ!」
とうとう靴が凍り始めた所でローアの兵は次々と武器を捨てて逃げ出して行った。
歌い終わった僕のため息は白かった。
こんな歌い方がしたい訳じゃないのに、頭に血が昇ってるのは自覚している。
それが降りていないのも。
「ロイ……だよな。何でこんな所に……」
聴きたくて、聴きたく無かった相手の声が聞こえる。
振り返って顔を見た瞬間、滅茶苦茶な感情が胸をついて、吐き出してしまう。
「……なんでこんな所に? こっちの言葉だよ。……何を考えて戦争なんてしてるんだよ!」
「……バイン公爵がエメラダを連れてローアへ亡命した。公爵は王を利用して自分の欲望を叶えようとして……失敗して逃げた。……うぐ!」
思わず殴っていた。デュランが頬を押さえて膝をつく。
「貴様、殿下に何を!」
「良い、下がれ……」
憤る兵をデュランが退かせる。
僕も全部がデュランに何とか出来たなんて思って無い。
意地と見栄に拘る男だけど、影で努力を惜しまない性格なのも知っている。
そんな彼が止められなかったなら仕方ないのかも知れない。
それでも……いや、だからこそ殴った。
「これは僕の八つ当たりだ。僕から親友と婚約者を奪っておいてこのザマなんだから、文句言わないでね」
背後から物音がする。
「ロイ殿! おい、皆! ロイ殿が見つかったぞ!」
マリアさんの声が聞こえる。
振り返ると、松明の火が集まってくるのが見える。
「ロイ様!」
「ロイさん、1人で行かれるなんて無茶しないで下さい!」
シャルロットさんとフィアナさんの姿も見える。
「あの軍は……オフェリアとアルバスタか……? ロイ、お前は……」
「……色々あったんだ、あれから。……君を殴った1発を対価に、僕は君に手を貸す。ただの旅人で良ければだけどね」
僕が差し出した手を見て、デュランが呆けた顔をする。
「お前、変わったな」
手を取ったデュランを引き起こし、彼の膝についた霜を払う。
「……色々あったんだよ。君のおかげで」
色々な場所へ行き、色んな人に会ってきた。
「お前には話さなきゃいけない事がある」
「僕も君に聞きたい事がある」
「「この騒動を収めてから」」
そう……この騒動が終わったら、向き合おう。
最悪の始まりと、今の自分で。
ローアの兵がザワつく。
「り……竜かあれ? あいつ、竜に乗って来たぞ」
「そんなものいる筈ない! 偽物だ! ラミレアが俺達を動揺させる為に用意したんだ!」
魔竜が低く唸りながら見回すとローアの兵もラミレアの兵も一歩下がる。
僕は魔竜の鼻先を撫でて宥める。
(そうだね。戦場なんて居たく無いよね)
[神技・具現を……解除しま……す……]
微かに抵抗を感じたが、強く気持ちを込めて魔竜を還す。
「おい、竜が消えたぞ! 今なら」
「~~♪」
僕が歌ったのは[歌劇・竜殺しのシュリ王子と真の姫]の劇中歌。
僕が国を捨てたあの日、デュランの前で歌ったあの歌だ……。
魔竜を還したのは……自分自身が倒される話を聴かせたくなかったという理由もある。
いきなり歌い出した僕にデュラン以外の全員が困惑した表情を見せる。
[……神技・具現を使用します]
辺りの空気が変わり、肌を切るように寒くなる。
一帯の地面に霜が現れ、辺りの木が凍り付いて行く。
戦場を白く塗り潰しているのだ。
「な、なんだこれ? お前の仕業なのか?」
「お、おい……俺達は夢でもみてるんじゃないのか……」
僕は答えず歌い続ける。
辺りの木々が軋むような音を立て始める。
「ば……化物だ!」
とうとう靴が凍り始めた所でローアの兵は次々と武器を捨てて逃げ出して行った。
歌い終わった僕のため息は白かった。
こんな歌い方がしたい訳じゃないのに、頭に血が昇ってるのは自覚している。
それが降りていないのも。
「ロイ……だよな。何でこんな所に……」
聴きたくて、聴きたく無かった相手の声が聞こえる。
振り返って顔を見た瞬間、滅茶苦茶な感情が胸をついて、吐き出してしまう。
「……なんでこんな所に? こっちの言葉だよ。……何を考えて戦争なんてしてるんだよ!」
「……バイン公爵がエメラダを連れてローアへ亡命した。公爵は王を利用して自分の欲望を叶えようとして……失敗して逃げた。……うぐ!」
思わず殴っていた。デュランが頬を押さえて膝をつく。
「貴様、殿下に何を!」
「良い、下がれ……」
憤る兵をデュランが退かせる。
僕も全部がデュランに何とか出来たなんて思って無い。
意地と見栄に拘る男だけど、影で努力を惜しまない性格なのも知っている。
そんな彼が止められなかったなら仕方ないのかも知れない。
それでも……いや、だからこそ殴った。
「これは僕の八つ当たりだ。僕から親友と婚約者を奪っておいてこのザマなんだから、文句言わないでね」
背後から物音がする。
「ロイ殿! おい、皆! ロイ殿が見つかったぞ!」
マリアさんの声が聞こえる。
振り返ると、松明の火が集まってくるのが見える。
「ロイ様!」
「ロイさん、1人で行かれるなんて無茶しないで下さい!」
シャルロットさんとフィアナさんの姿も見える。
「あの軍は……オフェリアとアルバスタか……? ロイ、お前は……」
「……色々あったんだ、あれから。……君を殴った1発を対価に、僕は君に手を貸す。ただの旅人で良ければだけどね」
僕が差し出した手を見て、デュランが呆けた顔をする。
「お前、変わったな」
手を取ったデュランを引き起こし、彼の膝についた霜を払う。
「……色々あったんだよ。君のおかげで」
色々な場所へ行き、色んな人に会ってきた。
「お前には話さなきゃいけない事がある」
「僕も君に聞きたい事がある」
「「この騒動を収めてから」」
そう……この騒動が終わったら、向き合おう。
最悪の始まりと、今の自分で。
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