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歌い手の旅
第58話 交わる道、交わる時
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翌朝、僕達はローアとの国境へ向けて出発した。
アルバスタの城でローアに動きがあるまで待つという意見もあったが、ラミレア王国がどう動くのか判らないため情報収集を兼ねて国境付近まで進むという事だった。
この辺の行動についてはルキさんやマリアさんをはじめ、詳しい人達の判断に任せるしか無い。
2人の女王も僕も戦いについて解る事なんて殆ど無いのだ。
本当に、雑用を手伝うくらいしか出来る事が無い。
野営で食事を配って回ったり、毛布を配って回ったり、歌ったり。
(軍隊の移動ってこんな風に動くものなんだな……ラミレアの貴族として生きていたら、僕もこういう感じで兵になっていたのかもしれない)
4日目、ようやく国境近くの分岐路近くに辿り着いた。
ここから先を南に向かえばラミレア王国へ、北に向かえばローア王国へと繋がっている。
一旦は街道沿いの街で休み、その間に動向を探るべく数人の兵が国境まで進むそうだ。
僕も街に残る事になったので、明日以降の食料や物資を買い込み荷馬車へ積み込む仕事をマリアさんと共に担当した。
主に魔竜の背に乗って旅をしていた僕は、この数日で地上の旅について学ぶ事が多かった。
そんな、有事の筈なのにぽっかりと空いた平和な時間だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おーい! 大変だ!」
声が聞こえてきたのは、夕食後のひと時に僕が歌っている最中だった。
見れば慌てた兵隊さんが数人駆けてくる。
「3国の国境付近をローア側に進んだ所で戦闘が起こっている! 旗からしてローアとラミレアだ!」
皆が動揺してザワザワしている。
僕も報告の内容に驚いていた。
「ラミレアとローアは協力しているものとばかり……」
フィアナさんとシャルロットさんも呆然としている。
「ラミレア側は数が少ないが、どうやら王子が自ら軍を率いているようだった。……王族が居ながら何であんな無謀な真似をしているのか」
聞いた瞬間、反射的に立ち上がっていた。
デュランが……近くにいる……。
「ーー!」
[神技・具現を使用します]
空から降りてくる魔竜に飛び乗り、背を叩く。
「ロイ様!」「ロイさん!」
2人の女王が駆け寄ってくる。
「……すみません。行かせて下さい!」
僕は返事を待つ事なく、上昇する魔竜の首に縋り付く。
「お願いだ。僕の心配はしなくて良いから……全力で飛んで欲しい」
魔竜は僕を振り返る事なく、身体に響く咆哮を上げた。
アルバスタの城でローアに動きがあるまで待つという意見もあったが、ラミレア王国がどう動くのか判らないため情報収集を兼ねて国境付近まで進むという事だった。
この辺の行動についてはルキさんやマリアさんをはじめ、詳しい人達の判断に任せるしか無い。
2人の女王も僕も戦いについて解る事なんて殆ど無いのだ。
本当に、雑用を手伝うくらいしか出来る事が無い。
野営で食事を配って回ったり、毛布を配って回ったり、歌ったり。
(軍隊の移動ってこんな風に動くものなんだな……ラミレアの貴族として生きていたら、僕もこういう感じで兵になっていたのかもしれない)
4日目、ようやく国境近くの分岐路近くに辿り着いた。
ここから先を南に向かえばラミレア王国へ、北に向かえばローア王国へと繋がっている。
一旦は街道沿いの街で休み、その間に動向を探るべく数人の兵が国境まで進むそうだ。
僕も街に残る事になったので、明日以降の食料や物資を買い込み荷馬車へ積み込む仕事をマリアさんと共に担当した。
主に魔竜の背に乗って旅をしていた僕は、この数日で地上の旅について学ぶ事が多かった。
そんな、有事の筈なのにぽっかりと空いた平和な時間だった。
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「おーい! 大変だ!」
声が聞こえてきたのは、夕食後のひと時に僕が歌っている最中だった。
見れば慌てた兵隊さんが数人駆けてくる。
「3国の国境付近をローア側に進んだ所で戦闘が起こっている! 旗からしてローアとラミレアだ!」
皆が動揺してザワザワしている。
僕も報告の内容に驚いていた。
「ラミレアとローアは協力しているものとばかり……」
フィアナさんとシャルロットさんも呆然としている。
「ラミレア側は数が少ないが、どうやら王子が自ら軍を率いているようだった。……王族が居ながら何であんな無謀な真似をしているのか」
聞いた瞬間、反射的に立ち上がっていた。
デュランが……近くにいる……。
「ーー!」
[神技・具現を使用します]
空から降りてくる魔竜に飛び乗り、背を叩く。
「ロイ様!」「ロイさん!」
2人の女王が駆け寄ってくる。
「……すみません。行かせて下さい!」
僕は返事を待つ事なく、上昇する魔竜の首に縋り付く。
「お願いだ。僕の心配はしなくて良いから……全力で飛んで欲しい」
魔竜は僕を振り返る事なく、身体に響く咆哮を上げた。
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