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歌い手の旅
第55話 王子と王
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誰も居ない廊下を男達が歩く。
前を歩くのは少年から青年へ移り変わる時の瑞々しい力に溢れた男。
後ろから追いかける男は、体格のしっかりした人の良さそうな初老の男だ。
離れて後ろを追いかける兵達は皆武装している。
「ローア王国へ行く。その前に……やる事だけやってからな」
「……本気ですか?」
「ああ、俺にしか出来ない事だろうから」
男は乱暴に玉座の間の扉を開ける。
「……どうした、我が息子よ」
玉座に座る王が訪ねる。
「ローアへ行きます。婚約者を……エメラダを救いに」
王はため息を吐き、愚かな幼子を諭すように言う。
「デュランよ……あの様な娘など放っておけば良いでは無いか。高貴な血を引いてはいても、あの凡愚な男の娘だ。お前が望むならオフェリアの姫とでも縁談が組めよう。今なら停戦してやるから娘を差し出せとでも言えば、あの女王も断れはしまい」
「……愚かな事を」
デュランは剣を抜き、王へ突きつける。
「貴様……頭がおかしくなったのか? 儂は王だぞ! 偉大なる、大国ラミレアの王であるぞ!」
「なぜ衛兵の1人も居ないのか解らないのか。貴方は王などでは無い。ただの身勝手なクズだ」
デュランが手を挙げると、兵達が王を拘束する。
「馬鹿者共が! 何をしている、拘束するべきはそこの愚か者であろう!」
「もう1度言う。貴方は王などでは無い。拘束されたまま、世界から罰せられるのを待つが良い」
喚きながら引き摺られて行く男を見て、初老の男がため息を吐く。
「本当に……なされるとは」
「この国のためを思えば……遅すぎたくらいだ」
デュランは剣を振り上げ、玉座へ突き立てる。
「話した通り、俺はローアへ向かう。今回の件は貴族に根回しをしてはあるが知っての通り信用出来るものなど居はしない」
「はい……」
「……俺が居ない間の全権は貴方に委ねる。王の勅命だ、爵位の事は気にせず振る舞って欲しい」
「しかし……私は……」
「貴方が私を心良く思っていないのは判る。それも当然だと思う。だが、貴方ほど信用に足る貴族はいないんだ。……ロイを育てた貴方なら間違い無いだろう」
「……」
「頼む、アルバッハ男爵」
「……わかりました」
デュランはロイの父へ頭を下げ、玉座の間を出ようとする。
「どうして……息子にあんな仕打ちを?」
その背中に、どうしても尋ねずにはいられなかった。父として。
振り返ったデュランは先程までとは全く違う人物のように微笑む。
そして、頭をひとつ下げて何も言わずに出て行った。
「ロイ……お前の親友は……」
アルバッハ男爵は言葉を止めて、残された者として職務を始めた。
前を歩くのは少年から青年へ移り変わる時の瑞々しい力に溢れた男。
後ろから追いかける男は、体格のしっかりした人の良さそうな初老の男だ。
離れて後ろを追いかける兵達は皆武装している。
「ローア王国へ行く。その前に……やる事だけやってからな」
「……本気ですか?」
「ああ、俺にしか出来ない事だろうから」
男は乱暴に玉座の間の扉を開ける。
「……どうした、我が息子よ」
玉座に座る王が訪ねる。
「ローアへ行きます。婚約者を……エメラダを救いに」
王はため息を吐き、愚かな幼子を諭すように言う。
「デュランよ……あの様な娘など放っておけば良いでは無いか。高貴な血を引いてはいても、あの凡愚な男の娘だ。お前が望むならオフェリアの姫とでも縁談が組めよう。今なら停戦してやるから娘を差し出せとでも言えば、あの女王も断れはしまい」
「……愚かな事を」
デュランは剣を抜き、王へ突きつける。
「貴様……頭がおかしくなったのか? 儂は王だぞ! 偉大なる、大国ラミレアの王であるぞ!」
「なぜ衛兵の1人も居ないのか解らないのか。貴方は王などでは無い。ただの身勝手なクズだ」
デュランが手を挙げると、兵達が王を拘束する。
「馬鹿者共が! 何をしている、拘束するべきはそこの愚か者であろう!」
「もう1度言う。貴方は王などでは無い。拘束されたまま、世界から罰せられるのを待つが良い」
喚きながら引き摺られて行く男を見て、初老の男がため息を吐く。
「本当に……なされるとは」
「この国のためを思えば……遅すぎたくらいだ」
デュランは剣を振り上げ、玉座へ突き立てる。
「話した通り、俺はローアへ向かう。今回の件は貴族に根回しをしてはあるが知っての通り信用出来るものなど居はしない」
「はい……」
「……俺が居ない間の全権は貴方に委ねる。王の勅命だ、爵位の事は気にせず振る舞って欲しい」
「しかし……私は……」
「貴方が私を心良く思っていないのは判る。それも当然だと思う。だが、貴方ほど信用に足る貴族はいないんだ。……ロイを育てた貴方なら間違い無いだろう」
「……」
「頼む、アルバッハ男爵」
「……わかりました」
デュランはロイの父へ頭を下げ、玉座の間を出ようとする。
「どうして……息子にあんな仕打ちを?」
その背中に、どうしても尋ねずにはいられなかった。父として。
振り返ったデュランは先程までとは全く違う人物のように微笑む。
そして、頭をひとつ下げて何も言わずに出て行った。
「ロイ……お前の親友は……」
アルバッハ男爵は言葉を止めて、残された者として職務を始めた。
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