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歌い手の旅
第52話 新たな、光です
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城へ到着した僕達は、シャルロット姫との再会を果たす。
僕達の訪問を知らされた彼女は、わざわざ城の入り口まで駆けて来てフィアナさんを抱きしめた。
「フィアナ! よく、よく無事で!」
「シャルロット……会いたかった。貴女のお陰で救われたのよ」
涙を流して抱き合う親友同士を見て、僕はようやくこの城を出た時の決意が報われた気がした。
喜ぶ2人に水を差したく無い。
しかし、色々と聞きたいこともあるし、解決しなければいけない事もある……。
(でも……そもそも突き詰めると自分は部外者になるんじゃないかな……と思わなくも無いんだけど)
しかし2人の女性に掴まれて、女王の前まで連行されることになる。
(選択肢は無かった……)
「ロイ、その様子だとアルバスタを救ってくれたようだな。ご苦労だった。両手に華のその様子はまさに英雄のようだな」
「……罪人もこんな感じだと思います」
「ふふ……違いないな」
女王は口元を押さえて少し笑った後、表情を硬くした。
「現状を話しておこう。まずラミレア王国との戦いだが……こちらの勝利だ。被害も小さい。加勢してくれた鍛治の国の新型船があまりに強力でな」
「それは良かったです」
女王が頷く。
やはり上空から見た通りの結果だったらしい。
「もう1点。エリスの姿が見えない。まさか戦闘に独断で参加して捕虜になったり戦死したわけでは無いと思いたいのだが……」
……やはり集落を襲った人物は本物のエリス姫だったようだ。
生きてはいる。でも……友好国の村を襲った等と知ればどうなるのか……。
それでも伝えなくてはならないのだ。
決意して口を開こうとした所をフィアナさんに手で制止される。
思わずフィアナさんを見たが、彼女の目は「自分の仕事だ」と言っていた。
背筋を伸ばした彼女が真っ直ぐに女王を見る。
「聖オフェリア国の女王に、アラバスタ王国の女王として尋ねます」
「……聞こう」
「貴国の王位継承権2位にあたるエリス姫が我が領土へと兵を率いて侵入しました。その上で民の集落を襲い略奪行為を行ったのです。結果多数の負傷者が出ています。この件についてご回答を頂けますか?」
女王は珍しく驚いた表情をして僕を見た。
僕は頷くことでフィアナさんの言葉が真実であると知らせる。
「そうか……そんな愚かな真似を……。聖オフェリア国の女王として謝罪する。本当に申し訳ない。こちらには国としてアラバスタ王国へ含む所は無い。これからも友好国であるため、我々に出来る謝罪や求められる賠償に対して惜しまず誠実に応える事を約束する」
フィアナさんは頷いて言葉を続ける。
「国としての行動では無いというお言葉を信じます。今後も良き隣人として聖オフェリア国と共にありたいと思います」
「……年長者としてひとつ助言を。人を信じる時に言葉だけに重きを置きすぎない事だ。この結果を招いた時点で私の事を全て信じるべきでは無い、と言っておく」
そう言って女王が立ち上がる。
「シャルロット、来なさい」
「は、はい?」
呼ばれたシャルロット姫が女王の側まで行くと、女王は自分の席にシャルロット姫を座らせる。
「私は責任を取るため退位し、お前を次の女王に指名する。信頼できる友と共にこの国の発展に尽くせ。私は臣下として、母としてお前を支える事にするよ」
「そ、そんな! 私には無理です」
慌てて立ち上がったシャルロット姫に女王が微笑む。
「……お前は昔から甘い所も多い。理想ばかり言う。腹黒い部分もあるくせに冷徹になれない部分もある」
「お母様!」
「良いではないか。女王なんてただの肩書きだ。1人の人間シャルロットとして皆と向き合え。……ロイ、君はどう思う?」
いきなり名前を呼ばれて心臓が跳ねる。
女王様を決める話なんて、僕が何か意見するような話では無いと思うのだ……けど。
「シャルロット姫……失礼します」
僕は背負い袋から出した首飾りを彼女にかける。
どさくさの流れで受け取った首飾りだけど、相応しい人に引き継がれて行くべきだろう。
僕の行動の対価なんて、彼女が流した涙ひとつで充分なのだから。
「ロイさん……?」
「僕は王族では無いですし、細かい話までは解りません。それでも言って良いなら、僕が貴族のままで国の為に生きる立場だったなら……友人の身を想い涙を流した貴女のために働きたい。そう思っていたんじゃないかなって……」
自らの首にかけられた物に触れ、シャルロット姫は目を閉じる。
「解りました。私が……この国を背負います。必ず、皆の期待に応えられる女王になります」
彼女はそう言って、僕の目を見る。
決意を込めた言葉を聞き、僕は思う。
この人と約束した歌は、きっと強く優しい詩になるのだろうと。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
及び腰だった我が娘は、彼女にとって英雄である少年の一言で女王になる決意を固めたらしい。
さて、娘の応えたい期待とは?
国民からのもの、母からのもの、親友からのもの……それもあるだろうが、1番は違うのだろうね。
見つめ合ってる君達の向こうに頬を膨らませている少女がもうひとり。
まだまだ幼さの残る英雄君、君は罪な男になるよ。
……女王を辞めた母は、うっすら頬を染める娘の顔を見て微笑んだ。
僕達の訪問を知らされた彼女は、わざわざ城の入り口まで駆けて来てフィアナさんを抱きしめた。
「フィアナ! よく、よく無事で!」
「シャルロット……会いたかった。貴女のお陰で救われたのよ」
涙を流して抱き合う親友同士を見て、僕はようやくこの城を出た時の決意が報われた気がした。
喜ぶ2人に水を差したく無い。
しかし、色々と聞きたいこともあるし、解決しなければいけない事もある……。
(でも……そもそも突き詰めると自分は部外者になるんじゃないかな……と思わなくも無いんだけど)
しかし2人の女性に掴まれて、女王の前まで連行されることになる。
(選択肢は無かった……)
「ロイ、その様子だとアルバスタを救ってくれたようだな。ご苦労だった。両手に華のその様子はまさに英雄のようだな」
「……罪人もこんな感じだと思います」
「ふふ……違いないな」
女王は口元を押さえて少し笑った後、表情を硬くした。
「現状を話しておこう。まずラミレア王国との戦いだが……こちらの勝利だ。被害も小さい。加勢してくれた鍛治の国の新型船があまりに強力でな」
「それは良かったです」
女王が頷く。
やはり上空から見た通りの結果だったらしい。
「もう1点。エリスの姿が見えない。まさか戦闘に独断で参加して捕虜になったり戦死したわけでは無いと思いたいのだが……」
……やはり集落を襲った人物は本物のエリス姫だったようだ。
生きてはいる。でも……友好国の村を襲った等と知ればどうなるのか……。
それでも伝えなくてはならないのだ。
決意して口を開こうとした所をフィアナさんに手で制止される。
思わずフィアナさんを見たが、彼女の目は「自分の仕事だ」と言っていた。
背筋を伸ばした彼女が真っ直ぐに女王を見る。
「聖オフェリア国の女王に、アラバスタ王国の女王として尋ねます」
「……聞こう」
「貴国の王位継承権2位にあたるエリス姫が我が領土へと兵を率いて侵入しました。その上で民の集落を襲い略奪行為を行ったのです。結果多数の負傷者が出ています。この件についてご回答を頂けますか?」
女王は珍しく驚いた表情をして僕を見た。
僕は頷くことでフィアナさんの言葉が真実であると知らせる。
「そうか……そんな愚かな真似を……。聖オフェリア国の女王として謝罪する。本当に申し訳ない。こちらには国としてアラバスタ王国へ含む所は無い。これからも友好国であるため、我々に出来る謝罪や求められる賠償に対して惜しまず誠実に応える事を約束する」
フィアナさんは頷いて言葉を続ける。
「国としての行動では無いというお言葉を信じます。今後も良き隣人として聖オフェリア国と共にありたいと思います」
「……年長者としてひとつ助言を。人を信じる時に言葉だけに重きを置きすぎない事だ。この結果を招いた時点で私の事を全て信じるべきでは無い、と言っておく」
そう言って女王が立ち上がる。
「シャルロット、来なさい」
「は、はい?」
呼ばれたシャルロット姫が女王の側まで行くと、女王は自分の席にシャルロット姫を座らせる。
「私は責任を取るため退位し、お前を次の女王に指名する。信頼できる友と共にこの国の発展に尽くせ。私は臣下として、母としてお前を支える事にするよ」
「そ、そんな! 私には無理です」
慌てて立ち上がったシャルロット姫に女王が微笑む。
「……お前は昔から甘い所も多い。理想ばかり言う。腹黒い部分もあるくせに冷徹になれない部分もある」
「お母様!」
「良いではないか。女王なんてただの肩書きだ。1人の人間シャルロットとして皆と向き合え。……ロイ、君はどう思う?」
いきなり名前を呼ばれて心臓が跳ねる。
女王様を決める話なんて、僕が何か意見するような話では無いと思うのだ……けど。
「シャルロット姫……失礼します」
僕は背負い袋から出した首飾りを彼女にかける。
どさくさの流れで受け取った首飾りだけど、相応しい人に引き継がれて行くべきだろう。
僕の行動の対価なんて、彼女が流した涙ひとつで充分なのだから。
「ロイさん……?」
「僕は王族では無いですし、細かい話までは解りません。それでも言って良いなら、僕が貴族のままで国の為に生きる立場だったなら……友人の身を想い涙を流した貴女のために働きたい。そう思っていたんじゃないかなって……」
自らの首にかけられた物に触れ、シャルロット姫は目を閉じる。
「解りました。私が……この国を背負います。必ず、皆の期待に応えられる女王になります」
彼女はそう言って、僕の目を見る。
決意を込めた言葉を聞き、僕は思う。
この人と約束した歌は、きっと強く優しい詩になるのだろうと。
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及び腰だった我が娘は、彼女にとって英雄である少年の一言で女王になる決意を固めたらしい。
さて、娘の応えたい期待とは?
国民からのもの、母からのもの、親友からのもの……それもあるだろうが、1番は違うのだろうね。
見つめ合ってる君達の向こうに頬を膨らませている少女がもうひとり。
まだまだ幼さの残る英雄君、君は罪な男になるよ。
……女王を辞めた母は、うっすら頬を染める娘の顔を見て微笑んだ。
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