公爵令嬢に婚約破棄されましたが『歌』とチートスキルで無双して見返してやりたいと思います!

花月風流

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アルバスタ王国

第44位 祖国との、戦いです

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 ラミレア王国軍の侵攻が伝えられた場で、僕が皆にお願いした事はただ1点だった。

「竜の咆哮を合図に、それに負けないような大声で叫んで下さい」

 城と街を囲む城壁の上に女性達が隠れ、城壁の外に兵と僕達がラミレア軍を待つ。
 森に囲まれたこの城を攻めるなら、森の切れ間になっているこの道を使うしか無い。
 そこに高台に乗った女王と僕が。台の後方に隊列を組んだ全ての兵が並ぶ。

 (失敗した時は……あっという間だな……)

 背中に伝う汗を感じながら、ラミレア軍が来るのを待つ。
 緊張で冷たく感じる指先に、同じくらい冷たい指が触れる。
 微笑むフィアナさんの顔を見て、その手を握る。

 (僕は情けないかも知れない。嘘つきかも知れない。でも、今は自分を騙そう。今だけは英雄を演じてみせる)

 緑の森の切れ間から、夕陽を受けて鈍い光を放つ兵が迫ってくる。

「合図に合わせて全力を出して下さい! 必ず勝てます!」

 わざと目立つ位置に立つ僕達を見て、ラミレア王国軍の足が止まる。
 まさか女王が城壁の外に居るとは思っていなかっただろう。
 本物の女王だと確認できたのか、ゆっくりと歩みを再開する。

 (……僕の声を聴いてくれ!)

[神業・魔歌を使用します]

「~~!」

 僕が叫ぶと、森の木々が揺れ始める。
 小さかった揺れはどんどん大きくなり、森の木々から鳥が飛び立つ。
 一瞬空を覆うかのような鳥の数に、ラミレア軍は足を止めて空を見上げる。

 (上手くいった! 次だ)

 僕は楽器を手に歌い始める。

「~~♪」
「~~♪」
「ーー!」

[神技・具現を使用します]

 僕が歌うのは[歌劇・戦乙女の軌跡]の劇中歌。
 戦乙女と呼ばれたアシュリーが連合軍を率いて王の軍を次々と撃破して行く場面で歌われる曲だ。
 本来なら3人で掛け合うように歌う曲のため、1人で歌うには息が非常に辛い……。

 (出来るはず……それじゃ駄目だ。やるんだ。しっかり頭と心で描け、戦乙女とその軍を)

 再び森が揺れる。
 僕は魔竜の背を叩く。
 魔竜が咆哮を上げ、背後から、城壁の上から叫びが上がる。
 フィアナさんが剣を抜き、空へ向けて掲げる。

 その瞬間、森から物語の兵が現れる。
 次から次へと、止まる事の無い叫びに応えるように。

「兵が潜んでいるぞ! 罠だ! 退け、退けー!」
「こんなに兵がいるなんて聞いて無いぞ!」

 ラミレア軍の先陣が崩れ、動揺が広がる。
 予想もしない形で包囲されたためか、あっという間に武器を捨てて壊走して行く。

 具現された兵達は数を増やし続けながらラミレア軍を追い立てて行く。

「~~♪」
「ーーーー!」
「~~~~♪」

 (まだだ、もっと遠くまで、手が届かなくなるまで)

 僕は目を閉じて歌い続ける。
 何度も何度も何度も何度も。
 喉が痛んで、声が掠れて、口の中に血の味が広がる。

 (もう……限界だ……)

 そう思った時、背中に重みを感じる。
 目を開けるとすでに辺りは真っ暗で、僕は背中からフィアナさんに抱きしめられていた。

「もう、もう大丈夫です。ロイさん、もう」

 僕は歌うのを止めて、のろのろとフィアナさんの顔を見る。彼女は涙を流していたが、笑顔だった。

「ラミレアの軍は、陣地を捨てて逃げ去りました。私達もラミレアも、誰一人死なないまま。あなたのお陰です」

 (誰も……死なせないで済んだ?)

 城壁を降りて来た女性達と夫や恋人であろう男達が抱き合って喜んでいる。
 思わず力が抜けて、倒れそうになった所を魔竜に支えられる。

 ふしゅー……

 『仕方の無い奴だ』と言いたげな魔竜の首に縋って、僕は泣いた。
 果たせた結果が嬉しかったのか、重圧から解放されたのが嬉しかったのか。
 正しい理由なんて考えられなかった。

 僕は声を出せないまま、泣き続けた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


[歌劇・戦乙女の軌跡]
ある国の貴族に生まれたアシュリーが、横暴の限りを尽くした王家を打倒する物語。
王国へ納める税のため民に圧政を敷く父を嘆き、王へと直訴するアシュリー。
しかし王は彼女を反逆者として投獄する。
民のために行動して投獄された彼女を哀れんだ牢番達は協力してアシュリーを隣国まで亡命させる。
亡命先で出会った貴族の青年や同じように王に逆らい亡命して来た者をまとめ上げて王国に対する反乱軍を結成する。
勝利と敗北を繰り返しながら粘り強く戦う反乱軍へ、やがて諸侯、諸国から援護が集まって行く。
反乱軍は連合軍へと規模を変え、王国への侵攻は連戦連勝の勢いだった。
やがて王を討つ事に成功した連合軍は功績多大なアシュリーを女王に据える事を願うが、彼女は姿を消していた。
名を変え、立場を捨てた戦乙女はただの旅人として世界へ旅立って行ったのだ。
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