43 / 72
アルバスタ王国
第43話 竜が、癒しです
しおりを挟む
僕とフィアナさんは集まった兵士達の前に立つ。
皆が悲壮な表情で見つめてくる。
どう見ても戦いが出来そうに見えない僕。
見たままだ。戦争どころか人を殴った経験さえ1度しか無い。しかも合わない力を使ったせいで大変な目にあった。
ニコニコと笑顔で隣に立つフィアナさん。
耐えては居るが実はこれだけで彼女は全力だ。
人生初の金属鎧を身に纏い、部屋で歩く練習をしてからようやくここに立っている。
こちら側だけでは無い。兵達も怪我をしている人や明らかに疲労の色が濃い人達が混ざっている。
悲壮な顔になって当たり前の状況でフィアナさんが語り始める。
「皆、よく逃げずに集まってくれました。まずはそれにお礼を言いたいと思います。本当にありがとう」
ガチャガチャと音を立てながらも貴族らしいお辞儀をする。
「一昨年、王であった父が病でこの世を去り、昨年は王位を継いだ兄が山賊の待ち伏せにより命を落とし、それでも国を治めた経験も無い私によくついてきてくれました」
聞いていなかった話だ。たった数年で大変な事になっていたらしい。結束の強い国とは聞いていたけど、この場にこれだけの人が残ってくれただけでも奇跡なのかも知れない。
「逃げたい人は今すぐ逃げてもらって構いません。今なら家族を連れて逃げることも」
「逃げられるもんかね! 女王様っていうだけでこんなちっこい女の子が国を背負ってんのに。背負われてる側が『はいそうですか』なんて逃げ出してちゃ誇りも何もあったもんか! 解ってるねアンタ! アンタがやらないならアタシがやるよ!」
勇ましい声に兵達が振り向くと、恰幅の良い女性が腰に手を当てて立っている。
見れば女性たちが続々と集まって来ている。
「男共が無理だってんならアタシらに武器をよこしな。その武器でアンタらの情けない槍を叩き切ってからアタシが戦うよ」
兵の1人が股間を押さえながら笑う。
「……うちのカカァがあんななんで、逃げる道は元から無いようで」
「……うちのも居るな」
「アイリーン……その手に持っている包丁は何に使うんだい……?」
同じように竦む兵達が続出し、やがて笑いが起こる。悲壮感が漂っていた場に明るさが広がっていく。
「……ありがとう! とっても頼もしいです!」
フィアナさんは僕を指し示し言葉を続ける。
「彼はロイさん。聖オフェリア国から親友シャルロット姫が送り出してくれた援軍です。聖オフェリア国も今まさにラミレア王国の攻撃を受ける中、彼女は信頼できる人を送り出してくれたのです。私は彼を信じて、この危機を戦いたいと思っています」
兵達や集まった女性達の視線が一気に集まる。
歌を聴くために集まった人達とは違う熱量。
共通しているのは期待だ。しかしそこに賭けられているのが興味や好奇心では無く、本物の命という歴然とした差がある。
僕はなるべく多くの人と視線が交わるよう、時間をかけて皆を見回す。
すー……はー……
「~~♪」
[神業・魔歌を使用します]
いきなり歌い出した僕に困惑したのだろう、顔を見合わせる兵の姿も見える。それでも構わず僕は歌い続ける。
[歌劇・竜殺しのシュリ王子と真の姫]の劇中歌を歌うのはもう何度目だろうか。
熟練度が上がったからか何か別の慣れなのか、最近は短い一節を歌うだけで魔竜を呼び出す事が出来るようになっていた。
しかし敢えて、長く一つの曲を歌い切る。
竜に立ち向かったシュリ王子の物語に描かれた勇気と強い意志が伝わるように。
「~~♪」
歌い終わった後に見えた皆の瞳には、確かに力が宿っているように思える。
「良い歌だった!」
「小さい頃、親に本を読んで貰ったなぁ」
「俺なんて、英雄を目指そうとしたぜ!」
「なあ、竜に比べればラミレアの兵隊なんて怖くも無いよな!」
口々に言う兵達に向けて僕は言う。
「皆さんの勇気は英雄と比べて何の遜色もありません。それなら……」
[神技・具現を使用します]
空から魔竜が降りて来て僕の隣に座る。
『呼ぶのが遅い』と言いたげな目をする魔竜の額を撫でる。
「英雄と竜が揃ったこの戦いは、負けるはずが無いでしょう」
「「うおぉぉぉぉぉー!」」
城も街も揺るがすように歓声が上がる。
沈む僕の心と反対に。
頭を低くして撫でられるまま見上げてくる魔竜の両目に自分の顔が映る。
僕が言う。
アルバスタの人であれラミレアの人であれ、少なくない人命が失われるのだろう。
戦争なんて下らない事のために。
辛い思いが嫌ならば逃げ出せば良かったのだろうか?
関わってしまった僕が今から出来るのは、せめて後悔の少ない道を選ぶ事だけなのでは無いか。
僕が言う。
我儘になれば良い。どうせ止められないのなら自分の満足がいく結果を出せば良い。戦争をしかけた国も、見ず知らずの自分に頼る国も、自分の決断は自分で責任を持つしか無いのだから。
(……ここまで来てまた悩む僕はデュランに言われた通り情けない奴なんだろうな)
「報告です! ラミレア王国の兵が前進を始めました!」
それでも時間は待ってくれない。
幕は上がってしまったのだ。
皆が悲壮な表情で見つめてくる。
どう見ても戦いが出来そうに見えない僕。
見たままだ。戦争どころか人を殴った経験さえ1度しか無い。しかも合わない力を使ったせいで大変な目にあった。
ニコニコと笑顔で隣に立つフィアナさん。
耐えては居るが実はこれだけで彼女は全力だ。
人生初の金属鎧を身に纏い、部屋で歩く練習をしてからようやくここに立っている。
こちら側だけでは無い。兵達も怪我をしている人や明らかに疲労の色が濃い人達が混ざっている。
悲壮な顔になって当たり前の状況でフィアナさんが語り始める。
「皆、よく逃げずに集まってくれました。まずはそれにお礼を言いたいと思います。本当にありがとう」
ガチャガチャと音を立てながらも貴族らしいお辞儀をする。
「一昨年、王であった父が病でこの世を去り、昨年は王位を継いだ兄が山賊の待ち伏せにより命を落とし、それでも国を治めた経験も無い私によくついてきてくれました」
聞いていなかった話だ。たった数年で大変な事になっていたらしい。結束の強い国とは聞いていたけど、この場にこれだけの人が残ってくれただけでも奇跡なのかも知れない。
「逃げたい人は今すぐ逃げてもらって構いません。今なら家族を連れて逃げることも」
「逃げられるもんかね! 女王様っていうだけでこんなちっこい女の子が国を背負ってんのに。背負われてる側が『はいそうですか』なんて逃げ出してちゃ誇りも何もあったもんか! 解ってるねアンタ! アンタがやらないならアタシがやるよ!」
勇ましい声に兵達が振り向くと、恰幅の良い女性が腰に手を当てて立っている。
見れば女性たちが続々と集まって来ている。
「男共が無理だってんならアタシらに武器をよこしな。その武器でアンタらの情けない槍を叩き切ってからアタシが戦うよ」
兵の1人が股間を押さえながら笑う。
「……うちのカカァがあんななんで、逃げる道は元から無いようで」
「……うちのも居るな」
「アイリーン……その手に持っている包丁は何に使うんだい……?」
同じように竦む兵達が続出し、やがて笑いが起こる。悲壮感が漂っていた場に明るさが広がっていく。
「……ありがとう! とっても頼もしいです!」
フィアナさんは僕を指し示し言葉を続ける。
「彼はロイさん。聖オフェリア国から親友シャルロット姫が送り出してくれた援軍です。聖オフェリア国も今まさにラミレア王国の攻撃を受ける中、彼女は信頼できる人を送り出してくれたのです。私は彼を信じて、この危機を戦いたいと思っています」
兵達や集まった女性達の視線が一気に集まる。
歌を聴くために集まった人達とは違う熱量。
共通しているのは期待だ。しかしそこに賭けられているのが興味や好奇心では無く、本物の命という歴然とした差がある。
僕はなるべく多くの人と視線が交わるよう、時間をかけて皆を見回す。
すー……はー……
「~~♪」
[神業・魔歌を使用します]
いきなり歌い出した僕に困惑したのだろう、顔を見合わせる兵の姿も見える。それでも構わず僕は歌い続ける。
[歌劇・竜殺しのシュリ王子と真の姫]の劇中歌を歌うのはもう何度目だろうか。
熟練度が上がったからか何か別の慣れなのか、最近は短い一節を歌うだけで魔竜を呼び出す事が出来るようになっていた。
しかし敢えて、長く一つの曲を歌い切る。
竜に立ち向かったシュリ王子の物語に描かれた勇気と強い意志が伝わるように。
「~~♪」
歌い終わった後に見えた皆の瞳には、確かに力が宿っているように思える。
「良い歌だった!」
「小さい頃、親に本を読んで貰ったなぁ」
「俺なんて、英雄を目指そうとしたぜ!」
「なあ、竜に比べればラミレアの兵隊なんて怖くも無いよな!」
口々に言う兵達に向けて僕は言う。
「皆さんの勇気は英雄と比べて何の遜色もありません。それなら……」
[神技・具現を使用します]
空から魔竜が降りて来て僕の隣に座る。
『呼ぶのが遅い』と言いたげな目をする魔竜の額を撫でる。
「英雄と竜が揃ったこの戦いは、負けるはずが無いでしょう」
「「うおぉぉぉぉぉー!」」
城も街も揺るがすように歓声が上がる。
沈む僕の心と反対に。
頭を低くして撫でられるまま見上げてくる魔竜の両目に自分の顔が映る。
僕が言う。
アルバスタの人であれラミレアの人であれ、少なくない人命が失われるのだろう。
戦争なんて下らない事のために。
辛い思いが嫌ならば逃げ出せば良かったのだろうか?
関わってしまった僕が今から出来るのは、せめて後悔の少ない道を選ぶ事だけなのでは無いか。
僕が言う。
我儘になれば良い。どうせ止められないのなら自分の満足がいく結果を出せば良い。戦争をしかけた国も、見ず知らずの自分に頼る国も、自分の決断は自分で責任を持つしか無いのだから。
(……ここまで来てまた悩む僕はデュランに言われた通り情けない奴なんだろうな)
「報告です! ラミレア王国の兵が前進を始めました!」
それでも時間は待ってくれない。
幕は上がってしまったのだ。
22
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です
カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」
数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。
ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。
「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」
「あ、そういうのいいんで」
「えっ!?」
異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ――
――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる