公爵令嬢に婚約破棄されましたが『歌』とチートスキルで無双して見返してやりたいと思います!

花月風流

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アルバスタ王国

第43話 竜が、癒しです

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 僕とフィアナさんは集まった兵士達の前に立つ。
 皆が悲壮な表情で見つめてくる。
 どう見ても戦いが出来そうに見えない僕。
 見たままだ。戦争どころか人を殴った経験さえ1度しか無い。しかも合わない力を使ったせいで大変な目にあった。
 ニコニコと笑顔で隣に立つフィアナさん。
 耐えては居るが実はこれだけで彼女は全力だ。
 人生初の金属鎧を身に纏い、部屋で歩く練習をしてからようやくここに立っている。
 こちら側だけでは無い。兵達も怪我をしている人や明らかに疲労の色が濃い人達が混ざっている。
 悲壮な顔になって当たり前の状況でフィアナさんが語り始める。

「皆、よく逃げずに集まってくれました。まずはそれにお礼を言いたいと思います。本当にありがとう」

 ガチャガチャと音を立てながらも貴族らしいお辞儀をする。

「一昨年、王であった父が病でこの世を去り、昨年は王位を継いだ兄が山賊の待ち伏せにより命を落とし、それでも国を治めた経験も無い私によくついてきてくれました」

 聞いていなかった話だ。たった数年で大変な事になっていたらしい。結束の強い国とは聞いていたけど、この場にこれだけの人が残ってくれただけでも奇跡なのかも知れない。

「逃げたい人は今すぐ逃げてもらって構いません。今なら家族を連れて逃げることも」

「逃げられるもんかね! 女王様っていうだけでこんなちっこい女の子が国を背負ってんのに。背負われてる側が『はいそうですか』なんて逃げ出してちゃ誇りも何もあったもんか! 解ってるねアンタ! アンタがやらないならアタシがやるよ!」

 勇ましい声に兵達が振り向くと、恰幅の良い女性が腰に手を当てて立っている。
 見れば女性たちが続々と集まって来ている。

「男共が無理だってんならアタシらに武器をよこしな。その武器でアンタらの情けない槍を叩き切ってからアタシが戦うよ」

 兵の1人が股間を押さえながら笑う。

「……うちのカカァがあんななんで、逃げる道は元から無いようで」
「……うちのも居るな」
「アイリーン……その手に持っている包丁は何に使うんだい……?」

 同じように竦む兵達が続出し、やがて笑いが起こる。悲壮感が漂っていた場に明るさが広がっていく。

「……ありがとう! とっても頼もしいです!」

 フィアナさんは僕を指し示し言葉を続ける。

「彼はロイさん。聖オフェリア国から親友シャルロット姫が送り出してくれた援軍です。聖オフェリア国も今まさにラミレア王国の攻撃を受ける中、彼女は信頼できる人を送り出してくれたのです。私は彼を信じて、この危機を戦いたいと思っています」

 兵達や集まった女性達の視線が一気に集まる。
 歌を聴くために集まった人達とは違う熱量。
 共通しているのは期待だ。しかしそこに賭けられているのが興味や好奇心では無く、本物の命という歴然とした差がある。
 僕はなるべく多くの人と視線が交わるよう、時間をかけて皆を見回す。

 すー……はー……

「~~♪」

[神業・魔歌を使用します]

 いきなり歌い出した僕に困惑したのだろう、顔を見合わせる兵の姿も見える。それでも構わず僕は歌い続ける。

 [歌劇・竜殺しのシュリ王子と真の姫]の劇中歌を歌うのはもう何度目だろうか。
 熟練度が上がったからか何か別の慣れなのか、最近は短い一節を歌うだけで魔竜を呼び出す事が出来るようになっていた。
 しかし敢えて、長く一つの曲を歌い切る。
 竜に立ち向かったシュリ王子の物語に描かれた勇気と強い意志が伝わるように。

「~~♪」

 歌い終わった後に見えた皆の瞳には、確かに力が宿っているように思える。

「良い歌だった!」
「小さい頃、親に本を読んで貰ったなぁ」
「俺なんて、英雄を目指そうとしたぜ!」
「なあ、竜に比べればラミレアの兵隊なんて怖くも無いよな!」

 口々に言う兵達に向けて僕は言う。

「皆さんの勇気は英雄と比べて何の遜色もありません。それなら……」

 [神技・具現を使用します]

 空から魔竜が降りて来て僕の隣に座る。
 『呼ぶのが遅い』と言いたげな目をする魔竜の額を撫でる。

「英雄と竜が揃ったこの戦いは、負けるはずが無いでしょう」

「「うおぉぉぉぉぉー!」」

 城も街も揺るがすように歓声が上がる。
 沈む僕の心と反対に。
 頭を低くして撫でられるまま見上げてくる魔竜の両目に自分の顔が映る。

 僕が言う。
 アルバスタの人であれラミレアの人であれ、少なくない人命が失われるのだろう。
 戦争なんて下らない事のために。
 辛い思いが嫌ならば逃げ出せば良かったのだろうか?
 関わってしまった僕が今から出来るのは、せめて後悔の少ない道を選ぶ事だけなのでは無いか。

 僕が言う。
 我儘になれば良い。どうせ止められないのなら自分の満足がいく結果を出せば良い。戦争をしかけた国も、見ず知らずの自分に頼る国も、自分の決断は自分で責任を持つしか無いのだから。

 (……ここまで来てまた悩む僕はデュランに言われた通り情けない奴なんだろうな)

「報告です! ラミレア王国の兵が前進を始めました!」

 それでも時間は待ってくれない。
 幕は上がってしまったのだ。
 
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