38 / 72
聖オフェリア国
第38話 新しい、歌です
しおりを挟む
シャルロット姫が準備の為に城に戻った後、僕は頭を抱えていた。
ギンさんが言うには女王は『氷の魔女』と呼ばれるほど冷静で冷徹。国のためを第一に考え、自他共に犠牲を厭わない人なのだそうだ。
話を聞く限りの印象では僕の保護なんてとても認めるような人とは思えない。
もしかしてシャルロット姫の独断なのではないかとも思える。
会うのは怖いけど、会わないわけにはいかない。
悩むうちに時間が過ぎ、城へと向かう時間になってしまった。
(あれこれ悩んでも会ったことも無い人の事なんて解る筈が無い。今までに出会った人達と同じように、まずは話してみないと)
半ば自分に言い聞かせるように決意する。
「それじゃ、行ってきます」
「うん。無事に帰って来るんだよ?」
「や……やめて下さいよ、何か怖くなるじゃないですか……」
「だってロイ君、普通にしてても何かしらに巻き込まれそうだから心配で」
「知ってますか? そういうのは言葉にしちゃダメなんですよ、現実になるんですから!」
そうして僕は城へと向かった。
街へ来た時と同じように、洗練された風景に感心している内に、到着する。
城そのものが芸術的な作品の様に美しく、綺麗なものばかり見続けた僕は溜息が漏れる。
「私はロイと申します。シャルロット様とのお約束により参りました」
綺麗な城門を守っている無骨な衛兵さんに訪問した理由を伝えると入城の許可を出された。
城に入ると直ぐに城内の案内役としてシャルロット姫の護衛をしていた女性騎士が待っていてくれた。
戦いなんて出来るわけでもない僕でも解る程度に隙の無い彼女の後ろをついて行く。
自分の中にある男子としての部分が『今ここで不意打ちしたらどうなるのだろう?』等とどうでも良い事を考えた所で騎士が振り返る。
(まさか……悪戯半分で考えた事がバレたとか)
「すまない。道を間違えた……本当は方向感覚が悪くて、案内なんて適任じゃないんだ……」
バレたわけでも隙が無い訳でも無かった。
少し道を戻り進み直した道の先に謁見の間があるようだった。
ドア前を警備する衛兵からの敬礼に頷きを返し、騎士がドアに手をかける。
ドアが開いた先、開けた視界には遠くに座る女王らしき人と、それよりこちら寄りな位置に立つエリス姫とシャルロット姫の姿が見える。
「よくいらっしゃいました。どうぞこちらへ」
シャルロット姫の声に促され歩を進める。
かなり近づいた位置で停止して片膝をつく。
「よい。旅人は家臣では無く、国民でも無い。私は己に従う者以外に膝を折らせる趣味は無い。本心が見えなくなる固い言葉も不要だ」
僕は思わず顔を上げてしまう。
「名前はロイと言ったな。君は大層歌が上手いとシャルロットから聞いている。良ければ君がどの様な旅をしてきたのか、君自身を詩に歌ってくれないかな?」
イメージしていたのとは全く違う、威厳はあるが柔和な笑顔で言われる。
見た目は全然似ていないのに、母を思い出させる人だった。
「……僕は……自分を歌った事はありません」
いつも誰かが作った歌を歌い、仮初の物語を現してきただけだ。
「では初めての経験かな? 尚更聴きたくなる」
何を歌えば良いのかも判らないのに、どうしたら良いのか。謁見の間に居る全員の視線が集まって来るのが解る。痛いほどに……いや、実際に頭痛がする?
「母上、たかが旅人1人などさっさと捕えてラミレアにくれてやれば良いのです! 強国の不興を買ってまで保護する必要などありません!」
エリス姫が今にも飛びかかって来そうな顔で訴える。
「……エリス、そうして要望に応え続けた先に何があるの? あなたの言う『たかが旅人1人』を迎え入れるのに、他人の顔色を窺うような国のどこに価値があると言うの?」
姉妹の睨み合いになり、女王が溜息をつく。
[歌いなさい、自分の物語を。手伝いはするから]
いつも感情の無い音で頭に響く声が、温かく聴こえてくる。いつもと違う感覚が身体に満ちてくる。
[神業・魔歌を使用します]
[神技・具現を使用します]
[熟練度は共に上限です]
僕は背中の楽器入れを開けて、楽器を取り出す。楽器加工に苦戦するエルバンさん、図面に対して眉間を押さえながら修正するリチャードさんの姿が視える。
(こんなに苦労して作ってくれたんだな)
今なら、今までと違う歌が歌えそうな気がする。そして
……聴いて欲しい。僕の歌を。
ギンさんが言うには女王は『氷の魔女』と呼ばれるほど冷静で冷徹。国のためを第一に考え、自他共に犠牲を厭わない人なのだそうだ。
話を聞く限りの印象では僕の保護なんてとても認めるような人とは思えない。
もしかしてシャルロット姫の独断なのではないかとも思える。
会うのは怖いけど、会わないわけにはいかない。
悩むうちに時間が過ぎ、城へと向かう時間になってしまった。
(あれこれ悩んでも会ったことも無い人の事なんて解る筈が無い。今までに出会った人達と同じように、まずは話してみないと)
半ば自分に言い聞かせるように決意する。
「それじゃ、行ってきます」
「うん。無事に帰って来るんだよ?」
「や……やめて下さいよ、何か怖くなるじゃないですか……」
「だってロイ君、普通にしてても何かしらに巻き込まれそうだから心配で」
「知ってますか? そういうのは言葉にしちゃダメなんですよ、現実になるんですから!」
そうして僕は城へと向かった。
街へ来た時と同じように、洗練された風景に感心している内に、到着する。
城そのものが芸術的な作品の様に美しく、綺麗なものばかり見続けた僕は溜息が漏れる。
「私はロイと申します。シャルロット様とのお約束により参りました」
綺麗な城門を守っている無骨な衛兵さんに訪問した理由を伝えると入城の許可を出された。
城に入ると直ぐに城内の案内役としてシャルロット姫の護衛をしていた女性騎士が待っていてくれた。
戦いなんて出来るわけでもない僕でも解る程度に隙の無い彼女の後ろをついて行く。
自分の中にある男子としての部分が『今ここで不意打ちしたらどうなるのだろう?』等とどうでも良い事を考えた所で騎士が振り返る。
(まさか……悪戯半分で考えた事がバレたとか)
「すまない。道を間違えた……本当は方向感覚が悪くて、案内なんて適任じゃないんだ……」
バレたわけでも隙が無い訳でも無かった。
少し道を戻り進み直した道の先に謁見の間があるようだった。
ドア前を警備する衛兵からの敬礼に頷きを返し、騎士がドアに手をかける。
ドアが開いた先、開けた視界には遠くに座る女王らしき人と、それよりこちら寄りな位置に立つエリス姫とシャルロット姫の姿が見える。
「よくいらっしゃいました。どうぞこちらへ」
シャルロット姫の声に促され歩を進める。
かなり近づいた位置で停止して片膝をつく。
「よい。旅人は家臣では無く、国民でも無い。私は己に従う者以外に膝を折らせる趣味は無い。本心が見えなくなる固い言葉も不要だ」
僕は思わず顔を上げてしまう。
「名前はロイと言ったな。君は大層歌が上手いとシャルロットから聞いている。良ければ君がどの様な旅をしてきたのか、君自身を詩に歌ってくれないかな?」
イメージしていたのとは全く違う、威厳はあるが柔和な笑顔で言われる。
見た目は全然似ていないのに、母を思い出させる人だった。
「……僕は……自分を歌った事はありません」
いつも誰かが作った歌を歌い、仮初の物語を現してきただけだ。
「では初めての経験かな? 尚更聴きたくなる」
何を歌えば良いのかも判らないのに、どうしたら良いのか。謁見の間に居る全員の視線が集まって来るのが解る。痛いほどに……いや、実際に頭痛がする?
「母上、たかが旅人1人などさっさと捕えてラミレアにくれてやれば良いのです! 強国の不興を買ってまで保護する必要などありません!」
エリス姫が今にも飛びかかって来そうな顔で訴える。
「……エリス、そうして要望に応え続けた先に何があるの? あなたの言う『たかが旅人1人』を迎え入れるのに、他人の顔色を窺うような国のどこに価値があると言うの?」
姉妹の睨み合いになり、女王が溜息をつく。
[歌いなさい、自分の物語を。手伝いはするから]
いつも感情の無い音で頭に響く声が、温かく聴こえてくる。いつもと違う感覚が身体に満ちてくる。
[神業・魔歌を使用します]
[神技・具現を使用します]
[熟練度は共に上限です]
僕は背中の楽器入れを開けて、楽器を取り出す。楽器加工に苦戦するエルバンさん、図面に対して眉間を押さえながら修正するリチャードさんの姿が視える。
(こんなに苦労して作ってくれたんだな)
今なら、今までと違う歌が歌えそうな気がする。そして
……聴いて欲しい。僕の歌を。
21
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
人と豚のハルマゲドン
みらいつりびと
ファンタジー
人と豚とキャベツの世界で人と豚の最終戦争が勃発する。遠未来思索実験小説。
遥かなる過去に神が創造した生き物たちは次々と絶滅への道を歩んだ。そしてついに、地上に残された生き物はヒト、ブタ、キャベツの三種のみ、という時代が到来した……。
旅人ロンドンとわがままかわいいキャベツ姫は大発生した野豚の大群に立ち向かう。
転生令嬢は庶民の味に飢えている
柚木原みやこ(みやこ)
ファンタジー
ある日、自分が異世界に転生した元日本人だと気付いた公爵令嬢のクリステア・エリスフィード。転生…?公爵令嬢…?魔法のある世界…?ラノベか!?!?混乱しつつも現実を受け入れた私。けれど…これには不満です!どこか物足りないゴッテゴテのフルコース!甘いだけのスイーツ!!
もう飽き飽きですわ!!庶民の味、プリーズ!
ファンタジーな異世界に転生した、前世は元OLの公爵令嬢が、周りを巻き込んで庶民の味を楽しむお話。
まったりのんびり、行き当たりばったり更新の予定です。ゆるりとお付き合いいただければ幸いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
アヤノ ~捨てられた歌姫は骨を拾われる、のか?~
momomo
ファンタジー
成人の儀式である『託宣の儀』で前世を思いだした、新幹線事故によって死亡した者達。
孤児のロウは自身が転生者である事を黙ったまま、同じ転生者や他の者達とパーティーを組み、その世界で生きて行く。
捨てられた歌姫は骨を拾われる、のか?
題名が女性向け小説っぽくなってしまいましたが、男性向け(?)です。
どこにでも良くある、転生者の冒険物語。
『歌唱』『スティール』等のスキルで、5人のパーティーがドタバタと生きていく。
影の題名は『ミミ劇場?』です。
基本、お気楽系です。俺強ええーまではいきません。ハーレムもありません。
全50話ほどで、短文の閑話数話を挟む予定です。
閑話以外は、一話8000文字から9000文字程です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる