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聖オフェリア国
第38話 新しい、歌です
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シャルロット姫が準備の為に城に戻った後、僕は頭を抱えていた。
ギンさんが言うには女王は『氷の魔女』と呼ばれるほど冷静で冷徹。国のためを第一に考え、自他共に犠牲を厭わない人なのだそうだ。
話を聞く限りの印象では僕の保護なんてとても認めるような人とは思えない。
もしかしてシャルロット姫の独断なのではないかとも思える。
会うのは怖いけど、会わないわけにはいかない。
悩むうちに時間が過ぎ、城へと向かう時間になってしまった。
(あれこれ悩んでも会ったことも無い人の事なんて解る筈が無い。今までに出会った人達と同じように、まずは話してみないと)
半ば自分に言い聞かせるように決意する。
「それじゃ、行ってきます」
「うん。無事に帰って来るんだよ?」
「や……やめて下さいよ、何か怖くなるじゃないですか……」
「だってロイ君、普通にしてても何かしらに巻き込まれそうだから心配で」
「知ってますか? そういうのは言葉にしちゃダメなんですよ、現実になるんですから!」
そうして僕は城へと向かった。
街へ来た時と同じように、洗練された風景に感心している内に、到着する。
城そのものが芸術的な作品の様に美しく、綺麗なものばかり見続けた僕は溜息が漏れる。
「私はロイと申します。シャルロット様とのお約束により参りました」
綺麗な城門を守っている無骨な衛兵さんに訪問した理由を伝えると入城の許可を出された。
城に入ると直ぐに城内の案内役としてシャルロット姫の護衛をしていた女性騎士が待っていてくれた。
戦いなんて出来るわけでもない僕でも解る程度に隙の無い彼女の後ろをついて行く。
自分の中にある男子としての部分が『今ここで不意打ちしたらどうなるのだろう?』等とどうでも良い事を考えた所で騎士が振り返る。
(まさか……悪戯半分で考えた事がバレたとか)
「すまない。道を間違えた……本当は方向感覚が悪くて、案内なんて適任じゃないんだ……」
バレたわけでも隙が無い訳でも無かった。
少し道を戻り進み直した道の先に謁見の間があるようだった。
ドア前を警備する衛兵からの敬礼に頷きを返し、騎士がドアに手をかける。
ドアが開いた先、開けた視界には遠くに座る女王らしき人と、それよりこちら寄りな位置に立つエリス姫とシャルロット姫の姿が見える。
「よくいらっしゃいました。どうぞこちらへ」
シャルロット姫の声に促され歩を進める。
かなり近づいた位置で停止して片膝をつく。
「よい。旅人は家臣では無く、国民でも無い。私は己に従う者以外に膝を折らせる趣味は無い。本心が見えなくなる固い言葉も不要だ」
僕は思わず顔を上げてしまう。
「名前はロイと言ったな。君は大層歌が上手いとシャルロットから聞いている。良ければ君がどの様な旅をしてきたのか、君自身を詩に歌ってくれないかな?」
イメージしていたのとは全く違う、威厳はあるが柔和な笑顔で言われる。
見た目は全然似ていないのに、母を思い出させる人だった。
「……僕は……自分を歌った事はありません」
いつも誰かが作った歌を歌い、仮初の物語を現してきただけだ。
「では初めての経験かな? 尚更聴きたくなる」
何を歌えば良いのかも判らないのに、どうしたら良いのか。謁見の間に居る全員の視線が集まって来るのが解る。痛いほどに……いや、実際に頭痛がする?
「母上、たかが旅人1人などさっさと捕えてラミレアにくれてやれば良いのです! 強国の不興を買ってまで保護する必要などありません!」
エリス姫が今にも飛びかかって来そうな顔で訴える。
「……エリス、そうして要望に応え続けた先に何があるの? あなたの言う『たかが旅人1人』を迎え入れるのに、他人の顔色を窺うような国のどこに価値があると言うの?」
姉妹の睨み合いになり、女王が溜息をつく。
[歌いなさい、自分の物語を。手伝いはするから]
いつも感情の無い音で頭に響く声が、温かく聴こえてくる。いつもと違う感覚が身体に満ちてくる。
[神業・魔歌を使用します]
[神技・具現を使用します]
[熟練度は共に上限です]
僕は背中の楽器入れを開けて、楽器を取り出す。楽器加工に苦戦するエルバンさん、図面に対して眉間を押さえながら修正するリチャードさんの姿が視える。
(こんなに苦労して作ってくれたんだな)
今なら、今までと違う歌が歌えそうな気がする。そして
……聴いて欲しい。僕の歌を。
ギンさんが言うには女王は『氷の魔女』と呼ばれるほど冷静で冷徹。国のためを第一に考え、自他共に犠牲を厭わない人なのだそうだ。
話を聞く限りの印象では僕の保護なんてとても認めるような人とは思えない。
もしかしてシャルロット姫の独断なのではないかとも思える。
会うのは怖いけど、会わないわけにはいかない。
悩むうちに時間が過ぎ、城へと向かう時間になってしまった。
(あれこれ悩んでも会ったことも無い人の事なんて解る筈が無い。今までに出会った人達と同じように、まずは話してみないと)
半ば自分に言い聞かせるように決意する。
「それじゃ、行ってきます」
「うん。無事に帰って来るんだよ?」
「や……やめて下さいよ、何か怖くなるじゃないですか……」
「だってロイ君、普通にしてても何かしらに巻き込まれそうだから心配で」
「知ってますか? そういうのは言葉にしちゃダメなんですよ、現実になるんですから!」
そうして僕は城へと向かった。
街へ来た時と同じように、洗練された風景に感心している内に、到着する。
城そのものが芸術的な作品の様に美しく、綺麗なものばかり見続けた僕は溜息が漏れる。
「私はロイと申します。シャルロット様とのお約束により参りました」
綺麗な城門を守っている無骨な衛兵さんに訪問した理由を伝えると入城の許可を出された。
城に入ると直ぐに城内の案内役としてシャルロット姫の護衛をしていた女性騎士が待っていてくれた。
戦いなんて出来るわけでもない僕でも解る程度に隙の無い彼女の後ろをついて行く。
自分の中にある男子としての部分が『今ここで不意打ちしたらどうなるのだろう?』等とどうでも良い事を考えた所で騎士が振り返る。
(まさか……悪戯半分で考えた事がバレたとか)
「すまない。道を間違えた……本当は方向感覚が悪くて、案内なんて適任じゃないんだ……」
バレたわけでも隙が無い訳でも無かった。
少し道を戻り進み直した道の先に謁見の間があるようだった。
ドア前を警備する衛兵からの敬礼に頷きを返し、騎士がドアに手をかける。
ドアが開いた先、開けた視界には遠くに座る女王らしき人と、それよりこちら寄りな位置に立つエリス姫とシャルロット姫の姿が見える。
「よくいらっしゃいました。どうぞこちらへ」
シャルロット姫の声に促され歩を進める。
かなり近づいた位置で停止して片膝をつく。
「よい。旅人は家臣では無く、国民でも無い。私は己に従う者以外に膝を折らせる趣味は無い。本心が見えなくなる固い言葉も不要だ」
僕は思わず顔を上げてしまう。
「名前はロイと言ったな。君は大層歌が上手いとシャルロットから聞いている。良ければ君がどの様な旅をしてきたのか、君自身を詩に歌ってくれないかな?」
イメージしていたのとは全く違う、威厳はあるが柔和な笑顔で言われる。
見た目は全然似ていないのに、母を思い出させる人だった。
「……僕は……自分を歌った事はありません」
いつも誰かが作った歌を歌い、仮初の物語を現してきただけだ。
「では初めての経験かな? 尚更聴きたくなる」
何を歌えば良いのかも判らないのに、どうしたら良いのか。謁見の間に居る全員の視線が集まって来るのが解る。痛いほどに……いや、実際に頭痛がする?
「母上、たかが旅人1人などさっさと捕えてラミレアにくれてやれば良いのです! 強国の不興を買ってまで保護する必要などありません!」
エリス姫が今にも飛びかかって来そうな顔で訴える。
「……エリス、そうして要望に応え続けた先に何があるの? あなたの言う『たかが旅人1人』を迎え入れるのに、他人の顔色を窺うような国のどこに価値があると言うの?」
姉妹の睨み合いになり、女王が溜息をつく。
[歌いなさい、自分の物語を。手伝いはするから]
いつも感情の無い音で頭に響く声が、温かく聴こえてくる。いつもと違う感覚が身体に満ちてくる。
[神業・魔歌を使用します]
[神技・具現を使用します]
[熟練度は共に上限です]
僕は背中の楽器入れを開けて、楽器を取り出す。楽器加工に苦戦するエルバンさん、図面に対して眉間を押さえながら修正するリチャードさんの姿が視える。
(こんなに苦労して作ってくれたんだな)
今なら、今までと違う歌が歌えそうな気がする。そして
……聴いて欲しい。僕の歌を。
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