公爵令嬢に婚約破棄されましたが『歌』とチートスキルで無双して見返してやりたいと思います!

花月風流

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聖オフェリア国

第37話 お姫様と、旅人です

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 僕達は屋敷に戻りお茶を飲みながら話す事になった。

 シャルロット姫がここに来ていた理由は屋敷で必要な物が無いか確認するためだったようだ。
 鍛冶の国と草原の国に対して貿易と交流を求めたのは彼女の考えらしく、大使館として屋敷を用意したのも彼女だと聞かされた。

 後は歌う旅人の話を皆から聞き、僕と関係があると思い張り込んでいたという事情もあるとか。
 ムリョウさんが言っていた僕を保護したいと言い出した人物は、実は彼女だった。
 東の国経由でお会いするはずが、まさかここで直接出会ってしまうとは……。

「えと、それで僕に何か……」

 ニコニコとしているが、いまいち感情と考えが解らない相手に僕は戸惑う。
 恨まれたり憎まれたりする覚えは無いが、好かれる覚えも無いのだ。

「今じゃ無くても良いのですが、もし貴方の気が向いたなら、私のために歌を歌って欲しいのです」

「……別に構いませんけど、そんな事で良いのですか?」

 ラミレア王国から引き渡しを要求されている僕を保護するのに、歌を歌うだけが条件とは思えない。

「ええ。私はこの世で人から生み出される芸術は国ひとつより価値があると思っています。勿論国民の命までかかってくるなら別ですよ? 滅べば終わりの国より、人の心を癒し潤す芸術の方が余程価値がある、という話です」

 目を輝かせて語る彼女は、やはり変わり者だと思う。
 国より芸術とは次期女王が聞かれてはいけない言葉な気がするからだ。
 現に彼女の椅子の後ろに立つ騎士さんは眉間を押さえている。
 それでも、なお国民の命が大切と言い切る彼女には好感が持てるとも思った。

「シャルロット姫は……きっと優しくて素敵な女王になられるんでしょうね」

 僕はそう思う。
 貴族の責任を投げ捨てた僕には、彼女の想いは眩しく見えるから。

「へ……えと、ありがとう?」

 顔を赤くする少女を見て、自分の思っていた事が口から出ていたのに気付かされる。
 失言だ……ただの旅人が王族に対して評価じみた事を言うなんて、国によっては厳しい罰が与えられかねない。

「すみません、思った事をつい口走ってしまいました」

 ギンさんがニヤニヤこちらを見ているが、出来るなら助けて欲しかった。助けてくれそうな様子では無いけれど。

「ごほん。歌の件は確かに承りました。特に希望される場所や時期はお決まりでは無いのですね?」

「はい。貴方が私だけのために歌いと思った時にお願いします」

 僕は頷く。失礼にならないよう歌う曲も考えて、楽器も練習しておきたいな。

「あと、もうひとつお願いが」

「はい、なんでしょうか?」

 無理を言う人では無いと解ったので気軽に聞き返す。

「明日、私の母に会って欲しいのです」

 ……気軽な話では無かったようです。
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