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聖オフェリア国
第35話 拾われて、探されます
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大使館に入ると、バタバタと忙しそうに走る人達が見える。
先程聞いていた通り、蓋をされたままの木箱や紐で結ばれたままの布などが置かれており荷物の開封や配置に忙しいようだ。
僕はギンさんに手招きされるまま後をついて行く。
「おーい、皆。またロイ君を拾ってきたぞー」
またって……まあ確かに鍛治の国で歌った時にギンさんに見つけられて大頭領に引き合わされて……そんな出会いだったから間違いじゃないかな?
「なんだって!」
「おお、本当だ! 少年、元気だったか?」
「ロイに会ったって聞いたら大頭領が羨ましがるかもな」
「うちの代表も悔しがるだろうなぁ。自分が行けば良かった! って騒ぐのが予想出来るようだ」
皆、笑顔で声をかけてくれる。
別れてからそれほど時間は経っていないのに、皆に会えたのが本当に嬉しい。
「なあ、アレ出してくれないか? もしロイに会えたら、って持たされてたやつ」
「ああ、ギンさんの部屋の小さい木箱に入ってますよ。蓋に印がついてるからすぐ判ります」
「ん、そうか。ありがとう。じゃ、ロイ君ついて来て」
ギンさんに促されるまま階段を上り奥まった部屋に入る。
華美ではないが、重厚な色合いと堅実そうな造りの一目で良い物と判る調度品が置かれた部屋だ。
「俺の仕事部屋だよ。調度品や家具なんかは草原の国が用意した技術の結晶だな」
「凄いですね。実家にもこんな良い品はほとんどありませんでした」
僕の言葉に微笑むと、ギンさんは印の付いた木箱を開ける。
「あったあった。これも鍛冶と草原両国の技術と気持ちの結晶だな。ほら、君にだ」
ギンさんが差し出してきたのは服のようだった。
「これを、僕に?」
「うん。話す前に着替えてみると良いよ。身体に合わなかったら直すからさ」
服を受け取り着替えさせて貰った。
痛んでしまった旅の服を脱ぎ、受け取った服を着る。袖を通しただけで伝わってくる頑丈で丁寧な作り。雨風を凌ぐ機能性と人前に出ても恥ずかしくない気品のある型。黒い布と光沢のある革素材で作られており、胸元には金糸で鍛治の国の紋様と草原の国の紋様が描かれていた。
「似合うじゃないか。サイズは大きめになっているけど、君はまだ大きくなるだろうから丁度良いさ」
「……こんなに凄い物を受け取れません」
単純に品質だけで言っても、貴族や王族がいくらお金を積んでもここまでの品を手に入れるのは相当に苦労するだろう。
それ以上に、ここまで気持ちの篭った物を受け取って良いものなのかと考えてしまう。
「迷惑で無ければ着ていて欲しい。それは俺達の覚悟と祈りがこめられているんだから」
ふと、先程までと違い真剣な顔で言われる。
「ロイ君、君が思っているよりラミレアの力は強いんだ。その服は君に何かあれば2国の怒りを買うという牽制にもなる。この聖オフェリア国ひとつとっても反ラミレア派と親ラミレア派がいる。ここへ来た理由はさっき聞いたけど、誰も彼もを信用しちゃダメだよ。一応追われている身の君に言うのはどうかと思うが、いつでも人目につく所を移動して、その上で不用意に人の誘いに乗らないことだよ。そういう意味でも人目に留まりやすいその服は是非着ていて貰いたいんだ」
僕は胸元の刺繍に手を当てる。
こんなに思って貰える程の事は出来ていない。
いつだって勢いと自己満足で動いているだけだと自分で呆れるほどだ。
そんな自分でも、良いのなら。
「……似合いますか?」
「勿論だよ。まあ、まだまだ渋さが足りないけどね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
食事を済ませた後、ギンさんに色々な話を聞いた。
僕が旅立った直後、聖オフェリア国から交易をしてお互いの国の結びつきを強くしたいと申し出があったこと。
この国へはたったの3日で来たそうで、方法は驚かせたいので今は秘密だと言われた。
そしてこの国の事へ話が移ろうとした所でドアが叩かれる。
「ギンさん、大変です。表に衛兵が」
「……衛兵、ね。解ったよ。俺が応対するから」
その声に応えドアを開けて歩くギンさんの後ろについて行く。流れのまま外に出ると、武装した兵隊が門の前に集まっている。
集団の中心辺りに1人だけ馬に乗った少女の姿が見える。
(可愛らしいけど気が強そうな子だな)
などと呑気なことを考えていると、その少女が口を開いた。
「私は女王の第2子エリス。ラミレア王国から捕縛の要請があった『元貴族のロイ』という男がここに入ったという情報がある。事実であれば早々に引き渡して貰いたい。事実で無いなら申し訳無いが館の中を改めさせて欲しい」
探し物は……僕でした。
先程聞いていた通り、蓋をされたままの木箱や紐で結ばれたままの布などが置かれており荷物の開封や配置に忙しいようだ。
僕はギンさんに手招きされるまま後をついて行く。
「おーい、皆。またロイ君を拾ってきたぞー」
またって……まあ確かに鍛治の国で歌った時にギンさんに見つけられて大頭領に引き合わされて……そんな出会いだったから間違いじゃないかな?
「なんだって!」
「おお、本当だ! 少年、元気だったか?」
「ロイに会ったって聞いたら大頭領が羨ましがるかもな」
「うちの代表も悔しがるだろうなぁ。自分が行けば良かった! って騒ぐのが予想出来るようだ」
皆、笑顔で声をかけてくれる。
別れてからそれほど時間は経っていないのに、皆に会えたのが本当に嬉しい。
「なあ、アレ出してくれないか? もしロイに会えたら、って持たされてたやつ」
「ああ、ギンさんの部屋の小さい木箱に入ってますよ。蓋に印がついてるからすぐ判ります」
「ん、そうか。ありがとう。じゃ、ロイ君ついて来て」
ギンさんに促されるまま階段を上り奥まった部屋に入る。
華美ではないが、重厚な色合いと堅実そうな造りの一目で良い物と判る調度品が置かれた部屋だ。
「俺の仕事部屋だよ。調度品や家具なんかは草原の国が用意した技術の結晶だな」
「凄いですね。実家にもこんな良い品はほとんどありませんでした」
僕の言葉に微笑むと、ギンさんは印の付いた木箱を開ける。
「あったあった。これも鍛冶と草原両国の技術と気持ちの結晶だな。ほら、君にだ」
ギンさんが差し出してきたのは服のようだった。
「これを、僕に?」
「うん。話す前に着替えてみると良いよ。身体に合わなかったら直すからさ」
服を受け取り着替えさせて貰った。
痛んでしまった旅の服を脱ぎ、受け取った服を着る。袖を通しただけで伝わってくる頑丈で丁寧な作り。雨風を凌ぐ機能性と人前に出ても恥ずかしくない気品のある型。黒い布と光沢のある革素材で作られており、胸元には金糸で鍛治の国の紋様と草原の国の紋様が描かれていた。
「似合うじゃないか。サイズは大きめになっているけど、君はまだ大きくなるだろうから丁度良いさ」
「……こんなに凄い物を受け取れません」
単純に品質だけで言っても、貴族や王族がいくらお金を積んでもここまでの品を手に入れるのは相当に苦労するだろう。
それ以上に、ここまで気持ちの篭った物を受け取って良いものなのかと考えてしまう。
「迷惑で無ければ着ていて欲しい。それは俺達の覚悟と祈りがこめられているんだから」
ふと、先程までと違い真剣な顔で言われる。
「ロイ君、君が思っているよりラミレアの力は強いんだ。その服は君に何かあれば2国の怒りを買うという牽制にもなる。この聖オフェリア国ひとつとっても反ラミレア派と親ラミレア派がいる。ここへ来た理由はさっき聞いたけど、誰も彼もを信用しちゃダメだよ。一応追われている身の君に言うのはどうかと思うが、いつでも人目につく所を移動して、その上で不用意に人の誘いに乗らないことだよ。そういう意味でも人目に留まりやすいその服は是非着ていて貰いたいんだ」
僕は胸元の刺繍に手を当てる。
こんなに思って貰える程の事は出来ていない。
いつだって勢いと自己満足で動いているだけだと自分で呆れるほどだ。
そんな自分でも、良いのなら。
「……似合いますか?」
「勿論だよ。まあ、まだまだ渋さが足りないけどね」
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食事を済ませた後、ギンさんに色々な話を聞いた。
僕が旅立った直後、聖オフェリア国から交易をしてお互いの国の結びつきを強くしたいと申し出があったこと。
この国へはたったの3日で来たそうで、方法は驚かせたいので今は秘密だと言われた。
そしてこの国の事へ話が移ろうとした所でドアが叩かれる。
「ギンさん、大変です。表に衛兵が」
「……衛兵、ね。解ったよ。俺が応対するから」
その声に応えドアを開けて歩くギンさんの後ろについて行く。流れのまま外に出ると、武装した兵隊が門の前に集まっている。
集団の中心辺りに1人だけ馬に乗った少女の姿が見える。
(可愛らしいけど気が強そうな子だな)
などと呑気なことを考えていると、その少女が口を開いた。
「私は女王の第2子エリス。ラミレア王国から捕縛の要請があった『元貴族のロイ』という男がここに入ったという情報がある。事実であれば早々に引き渡して貰いたい。事実で無いなら申し訳無いが館の中を改めさせて欲しい」
探し物は……僕でした。
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