35 / 72
聖オフェリア国
第35話 拾われて、探されます
しおりを挟む
大使館に入ると、バタバタと忙しそうに走る人達が見える。
先程聞いていた通り、蓋をされたままの木箱や紐で結ばれたままの布などが置かれており荷物の開封や配置に忙しいようだ。
僕はギンさんに手招きされるまま後をついて行く。
「おーい、皆。またロイ君を拾ってきたぞー」
またって……まあ確かに鍛治の国で歌った時にギンさんに見つけられて大頭領に引き合わされて……そんな出会いだったから間違いじゃないかな?
「なんだって!」
「おお、本当だ! 少年、元気だったか?」
「ロイに会ったって聞いたら大頭領が羨ましがるかもな」
「うちの代表も悔しがるだろうなぁ。自分が行けば良かった! って騒ぐのが予想出来るようだ」
皆、笑顔で声をかけてくれる。
別れてからそれほど時間は経っていないのに、皆に会えたのが本当に嬉しい。
「なあ、アレ出してくれないか? もしロイに会えたら、って持たされてたやつ」
「ああ、ギンさんの部屋の小さい木箱に入ってますよ。蓋に印がついてるからすぐ判ります」
「ん、そうか。ありがとう。じゃ、ロイ君ついて来て」
ギンさんに促されるまま階段を上り奥まった部屋に入る。
華美ではないが、重厚な色合いと堅実そうな造りの一目で良い物と判る調度品が置かれた部屋だ。
「俺の仕事部屋だよ。調度品や家具なんかは草原の国が用意した技術の結晶だな」
「凄いですね。実家にもこんな良い品はほとんどありませんでした」
僕の言葉に微笑むと、ギンさんは印の付いた木箱を開ける。
「あったあった。これも鍛冶と草原両国の技術と気持ちの結晶だな。ほら、君にだ」
ギンさんが差し出してきたのは服のようだった。
「これを、僕に?」
「うん。話す前に着替えてみると良いよ。身体に合わなかったら直すからさ」
服を受け取り着替えさせて貰った。
痛んでしまった旅の服を脱ぎ、受け取った服を着る。袖を通しただけで伝わってくる頑丈で丁寧な作り。雨風を凌ぐ機能性と人前に出ても恥ずかしくない気品のある型。黒い布と光沢のある革素材で作られており、胸元には金糸で鍛治の国の紋様と草原の国の紋様が描かれていた。
「似合うじゃないか。サイズは大きめになっているけど、君はまだ大きくなるだろうから丁度良いさ」
「……こんなに凄い物を受け取れません」
単純に品質だけで言っても、貴族や王族がいくらお金を積んでもここまでの品を手に入れるのは相当に苦労するだろう。
それ以上に、ここまで気持ちの篭った物を受け取って良いものなのかと考えてしまう。
「迷惑で無ければ着ていて欲しい。それは俺達の覚悟と祈りがこめられているんだから」
ふと、先程までと違い真剣な顔で言われる。
「ロイ君、君が思っているよりラミレアの力は強いんだ。その服は君に何かあれば2国の怒りを買うという牽制にもなる。この聖オフェリア国ひとつとっても反ラミレア派と親ラミレア派がいる。ここへ来た理由はさっき聞いたけど、誰も彼もを信用しちゃダメだよ。一応追われている身の君に言うのはどうかと思うが、いつでも人目につく所を移動して、その上で不用意に人の誘いに乗らないことだよ。そういう意味でも人目に留まりやすいその服は是非着ていて貰いたいんだ」
僕は胸元の刺繍に手を当てる。
こんなに思って貰える程の事は出来ていない。
いつだって勢いと自己満足で動いているだけだと自分で呆れるほどだ。
そんな自分でも、良いのなら。
「……似合いますか?」
「勿論だよ。まあ、まだまだ渋さが足りないけどね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
食事を済ませた後、ギンさんに色々な話を聞いた。
僕が旅立った直後、聖オフェリア国から交易をしてお互いの国の結びつきを強くしたいと申し出があったこと。
この国へはたったの3日で来たそうで、方法は驚かせたいので今は秘密だと言われた。
そしてこの国の事へ話が移ろうとした所でドアが叩かれる。
「ギンさん、大変です。表に衛兵が」
「……衛兵、ね。解ったよ。俺が応対するから」
その声に応えドアを開けて歩くギンさんの後ろについて行く。流れのまま外に出ると、武装した兵隊が門の前に集まっている。
集団の中心辺りに1人だけ馬に乗った少女の姿が見える。
(可愛らしいけど気が強そうな子だな)
などと呑気なことを考えていると、その少女が口を開いた。
「私は女王の第2子エリス。ラミレア王国から捕縛の要請があった『元貴族のロイ』という男がここに入ったという情報がある。事実であれば早々に引き渡して貰いたい。事実で無いなら申し訳無いが館の中を改めさせて欲しい」
探し物は……僕でした。
先程聞いていた通り、蓋をされたままの木箱や紐で結ばれたままの布などが置かれており荷物の開封や配置に忙しいようだ。
僕はギンさんに手招きされるまま後をついて行く。
「おーい、皆。またロイ君を拾ってきたぞー」
またって……まあ確かに鍛治の国で歌った時にギンさんに見つけられて大頭領に引き合わされて……そんな出会いだったから間違いじゃないかな?
「なんだって!」
「おお、本当だ! 少年、元気だったか?」
「ロイに会ったって聞いたら大頭領が羨ましがるかもな」
「うちの代表も悔しがるだろうなぁ。自分が行けば良かった! って騒ぐのが予想出来るようだ」
皆、笑顔で声をかけてくれる。
別れてからそれほど時間は経っていないのに、皆に会えたのが本当に嬉しい。
「なあ、アレ出してくれないか? もしロイに会えたら、って持たされてたやつ」
「ああ、ギンさんの部屋の小さい木箱に入ってますよ。蓋に印がついてるからすぐ判ります」
「ん、そうか。ありがとう。じゃ、ロイ君ついて来て」
ギンさんに促されるまま階段を上り奥まった部屋に入る。
華美ではないが、重厚な色合いと堅実そうな造りの一目で良い物と判る調度品が置かれた部屋だ。
「俺の仕事部屋だよ。調度品や家具なんかは草原の国が用意した技術の結晶だな」
「凄いですね。実家にもこんな良い品はほとんどありませんでした」
僕の言葉に微笑むと、ギンさんは印の付いた木箱を開ける。
「あったあった。これも鍛冶と草原両国の技術と気持ちの結晶だな。ほら、君にだ」
ギンさんが差し出してきたのは服のようだった。
「これを、僕に?」
「うん。話す前に着替えてみると良いよ。身体に合わなかったら直すからさ」
服を受け取り着替えさせて貰った。
痛んでしまった旅の服を脱ぎ、受け取った服を着る。袖を通しただけで伝わってくる頑丈で丁寧な作り。雨風を凌ぐ機能性と人前に出ても恥ずかしくない気品のある型。黒い布と光沢のある革素材で作られており、胸元には金糸で鍛治の国の紋様と草原の国の紋様が描かれていた。
「似合うじゃないか。サイズは大きめになっているけど、君はまだ大きくなるだろうから丁度良いさ」
「……こんなに凄い物を受け取れません」
単純に品質だけで言っても、貴族や王族がいくらお金を積んでもここまでの品を手に入れるのは相当に苦労するだろう。
それ以上に、ここまで気持ちの篭った物を受け取って良いものなのかと考えてしまう。
「迷惑で無ければ着ていて欲しい。それは俺達の覚悟と祈りがこめられているんだから」
ふと、先程までと違い真剣な顔で言われる。
「ロイ君、君が思っているよりラミレアの力は強いんだ。その服は君に何かあれば2国の怒りを買うという牽制にもなる。この聖オフェリア国ひとつとっても反ラミレア派と親ラミレア派がいる。ここへ来た理由はさっき聞いたけど、誰も彼もを信用しちゃダメだよ。一応追われている身の君に言うのはどうかと思うが、いつでも人目につく所を移動して、その上で不用意に人の誘いに乗らないことだよ。そういう意味でも人目に留まりやすいその服は是非着ていて貰いたいんだ」
僕は胸元の刺繍に手を当てる。
こんなに思って貰える程の事は出来ていない。
いつだって勢いと自己満足で動いているだけだと自分で呆れるほどだ。
そんな自分でも、良いのなら。
「……似合いますか?」
「勿論だよ。まあ、まだまだ渋さが足りないけどね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
食事を済ませた後、ギンさんに色々な話を聞いた。
僕が旅立った直後、聖オフェリア国から交易をしてお互いの国の結びつきを強くしたいと申し出があったこと。
この国へはたったの3日で来たそうで、方法は驚かせたいので今は秘密だと言われた。
そしてこの国の事へ話が移ろうとした所でドアが叩かれる。
「ギンさん、大変です。表に衛兵が」
「……衛兵、ね。解ったよ。俺が応対するから」
その声に応えドアを開けて歩くギンさんの後ろについて行く。流れのまま外に出ると、武装した兵隊が門の前に集まっている。
集団の中心辺りに1人だけ馬に乗った少女の姿が見える。
(可愛らしいけど気が強そうな子だな)
などと呑気なことを考えていると、その少女が口を開いた。
「私は女王の第2子エリス。ラミレア王国から捕縛の要請があった『元貴族のロイ』という男がここに入ったという情報がある。事実であれば早々に引き渡して貰いたい。事実で無いなら申し訳無いが館の中を改めさせて欲しい」
探し物は……僕でした。
21
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王女殿下の華麗なる「ざまぁ」
ばぅ
恋愛
――セドリック・ハウフォードは、2つの悩みを抱えていた。
1つは目の前の魔法道具をどう解読するか。
2つ目の問題は、結婚相手をどうするか――
そんな彼の前に謎めいた令嬢が現れ、誰もが手こずる古代の魔術式を容易く解いてみせた。感謝の気持ちで追いかけると、そこには恋人に札束を投げつけられる令嬢の姿があった。
「拾えよ、手切れ金だ」
「お前みたいな平民と、俺が婚約するわけないだろ?」
侮辱する冷酷な言葉に、令嬢は毅然として立ち向かう。その健気な姿に心を打たれたセドリックは、突然ながらも決意を固め、
「驚かれるかもしれませんが……俺と婚約していただけませんか?」
と申し込むのだった。
※1日2回(12時頃・19時頃)自動更新 ※最終話まで予約投稿済、ちゃんと完結します! ※溺愛、伏線、ざまぁあります!スカッとしたい方はぜひ!
神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました
青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。
それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】召喚されて聖力がないと追い出された私のスキルは家具職人でした。
井上 佳
ファンタジー
結城依子は、この度異世界のとある国に召喚されました。
呼ばれた先で鑑定を受けると、聖女として呼ばれたのに聖力がありませんでした。
そうと知ったその国の王子は、依子を城から追い出します。
異世界で街に放り出された依子は、優しい人たちと出会い、そこで生活することになります。
パン屋で働き、家具職人スキルを使って恩返し計画!
異世界でも頑張って前向きに過ごす依子だったが、ひょんなことから実は聖力があるのではないかということになり……。
※他サイトにも掲載中。
※基本は異世界ファンタジーです。
※恋愛要素もガッツリ入ります。
※シリアスとは無縁です。
※第二章構想中!
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる