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東の国

第32話 ラミレア王国

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 朝早くから玉座の間に呼び出された。
 何故こんな時間に、とは言えない。
 王命は絶対だからだ。

「バイン公爵。鍛冶の国と草原の国から返事が届いたそうじゃ」

「おお! 左様にございますか!」

 (全く、遅いでは無いか! 私がどれだけ冷や汗を流したと思っているのだ。こうなったら次はもっと厳しい条件を突き付けてやる)

「おい、読み上げよ」

「はっ!」

 返書を開いた文官がなんとも言えない顔をする。

「…………」

「どうした、読み上げよ」

「よ、よろしいので?」

 (おい、なんだその顔は。嫌な予感しかしないじゃないか)

 王に促され、覚悟を決めたように文官が読み上げる。

「え~、ゴホン……鍛冶の国大頭領よりの書でございます」

 ゴクリ

 緊張しているのか、自分の喉の音がやけに大きく聞こえる。

『まずは返答が遅れ申し訳ない。この度貴国より申し出のあった貿易の件について、国内で協議した結果こちらでは応え兼ねるという結論に至った。故に今後一切の取引についてはお断りさせて頂きたく思う。異論があるなら正面から来ると良い。我が友に恥じぬよう誇りをもって相対させて頂く』

 玉座の間に沈黙が広がる。

「つ、次に草原の国代表よりの書でございます」

『形式じみた挨拶は省かせてもらう。君達がやった事は友好国に対する裏切りだ。それに対しての僕達の応えは断交だ。今後一切の付き合いは無いと思ってくれたまえ。これは書くか迷ったが、釘を刺す意味で伝えておく。君達が探している旅人は僕の、僕達の友人であり恩人だ。彼に手を出すなら、国を焼くだけの覚悟でやることだ。草原の国も、恐らく鍛冶の国も、友のためにできる事は身を惜しまず尽くすだろう』

「い、以上でこざいます」

 (ば……馬鹿な!)

 王の手に書を渡した文官は逃げるように玉座の間から出て行く。

 王は溜息を吐き、書を破り捨てる。

「失敗じゃな、バイン公爵」

「は、はっ……」

 嫌な汗が噴き出して止まらない。
 こんなはずでは……無かったのだ。
 2国間の仲を裂く手は上手くいっていたはずだ。現に返事に窮するほど追い詰められていたではないか!
 両国を争わせ、疲弊した所でラミレア王国が兵をだす。完璧な手だったはずだ。
 親書の内容からするに……私の計画を邪魔したのはあの子供か……アルバッハ男爵家のロイ!
 エメラダの、娘の「元」婚約者めが!

「バイン公爵よ……其方の家は我が王家の血を分けた名門。しかも儂の息子と其方の娘は婚約者だ。それがこの様な小国風情に馬鹿にされる献策をするとはな」

 王は破り捨てた親書を踏みつける。

「まあよい。あの者達にはいずれ儂の前で跪かせるとして……聖オフェリア国の方は間違い無いな?」

「はっ……そちらこそ、必ず!」

「うむ。次こそ期待しているぞ。我がラミレア王国が世界を手にする為、力を奮ってくれ」

「ははっ……」

 次こそはやり遂げなければならない。
 そして、あの小僧だ。私に恥をかかせおって。
 奴は必ず捕らえ、私の邪魔をした報いを受けさせてやる。
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