32 / 72
東の国
第32話 ラミレア王国
しおりを挟む
朝早くから玉座の間に呼び出された。
何故こんな時間に、とは言えない。
王命は絶対だからだ。
「バイン公爵。鍛冶の国と草原の国から返事が届いたそうじゃ」
「おお! 左様にございますか!」
(全く、遅いでは無いか! 私がどれだけ冷や汗を流したと思っているのだ。こうなったら次はもっと厳しい条件を突き付けてやる)
「おい、読み上げよ」
「はっ!」
返書を開いた文官がなんとも言えない顔をする。
「…………」
「どうした、読み上げよ」
「よ、よろしいので?」
(おい、なんだその顔は。嫌な予感しかしないじゃないか)
王に促され、覚悟を決めたように文官が読み上げる。
「え~、ゴホン……鍛冶の国大頭領よりの書でございます」
ゴクリ
緊張しているのか、自分の喉の音がやけに大きく聞こえる。
『まずは返答が遅れ申し訳ない。この度貴国より申し出のあった貿易の件について、国内で協議した結果こちらでは応え兼ねるという結論に至った。故に今後一切の取引についてはお断りさせて頂きたく思う。異論があるなら正面から来ると良い。我が友に恥じぬよう誇りをもって相対させて頂く』
玉座の間に沈黙が広がる。
「つ、次に草原の国代表よりの書でございます」
『形式じみた挨拶は省かせてもらう。君達がやった事は友好国に対する裏切りだ。それに対しての僕達の応えは断交だ。今後一切の付き合いは無いと思ってくれたまえ。これは書くか迷ったが、釘を刺す意味で伝えておく。君達が探している旅人は僕の、僕達の友人であり恩人だ。彼に手を出すなら、国を焼くだけの覚悟でやることだ。草原の国も、恐らく鍛冶の国も、友のためにできる事は身を惜しまず尽くすだろう』
「い、以上でこざいます」
(ば……馬鹿な!)
王の手に書を渡した文官は逃げるように玉座の間から出て行く。
王は溜息を吐き、書を破り捨てる。
「失敗じゃな、バイン公爵」
「は、はっ……」
嫌な汗が噴き出して止まらない。
こんなはずでは……無かったのだ。
2国間の仲を裂く手は上手くいっていたはずだ。現に返事に窮するほど追い詰められていたではないか!
両国を争わせ、疲弊した所でラミレア王国が兵をだす。完璧な手だったはずだ。
親書の内容からするに……私の計画を邪魔したのはあの子供か……アルバッハ男爵家のロイ!
エメラダの、娘の「元」婚約者めが!
「バイン公爵よ……其方の家は我が王家の血を分けた名門。しかも儂の息子と其方の娘は婚約者だ。それがこの様な小国風情に馬鹿にされる献策をするとはな」
王は破り捨てた親書を踏みつける。
「まあよい。あの者達にはいずれ儂の前で跪かせるとして……聖オフェリア国の方は間違い無いな?」
「はっ……そちらこそ、必ず!」
「うむ。次こそ期待しているぞ。我がラミレア王国が世界を手にする為、力を奮ってくれ」
「ははっ……」
次こそはやり遂げなければならない。
そして、あの小僧だ。私に恥をかかせおって。
奴は必ず捕らえ、私の邪魔をした報いを受けさせてやる。
何故こんな時間に、とは言えない。
王命は絶対だからだ。
「バイン公爵。鍛冶の国と草原の国から返事が届いたそうじゃ」
「おお! 左様にございますか!」
(全く、遅いでは無いか! 私がどれだけ冷や汗を流したと思っているのだ。こうなったら次はもっと厳しい条件を突き付けてやる)
「おい、読み上げよ」
「はっ!」
返書を開いた文官がなんとも言えない顔をする。
「…………」
「どうした、読み上げよ」
「よ、よろしいので?」
(おい、なんだその顔は。嫌な予感しかしないじゃないか)
王に促され、覚悟を決めたように文官が読み上げる。
「え~、ゴホン……鍛冶の国大頭領よりの書でございます」
ゴクリ
緊張しているのか、自分の喉の音がやけに大きく聞こえる。
『まずは返答が遅れ申し訳ない。この度貴国より申し出のあった貿易の件について、国内で協議した結果こちらでは応え兼ねるという結論に至った。故に今後一切の取引についてはお断りさせて頂きたく思う。異論があるなら正面から来ると良い。我が友に恥じぬよう誇りをもって相対させて頂く』
玉座の間に沈黙が広がる。
「つ、次に草原の国代表よりの書でございます」
『形式じみた挨拶は省かせてもらう。君達がやった事は友好国に対する裏切りだ。それに対しての僕達の応えは断交だ。今後一切の付き合いは無いと思ってくれたまえ。これは書くか迷ったが、釘を刺す意味で伝えておく。君達が探している旅人は僕の、僕達の友人であり恩人だ。彼に手を出すなら、国を焼くだけの覚悟でやることだ。草原の国も、恐らく鍛冶の国も、友のためにできる事は身を惜しまず尽くすだろう』
「い、以上でこざいます」
(ば……馬鹿な!)
王の手に書を渡した文官は逃げるように玉座の間から出て行く。
王は溜息を吐き、書を破り捨てる。
「失敗じゃな、バイン公爵」
「は、はっ……」
嫌な汗が噴き出して止まらない。
こんなはずでは……無かったのだ。
2国間の仲を裂く手は上手くいっていたはずだ。現に返事に窮するほど追い詰められていたではないか!
両国を争わせ、疲弊した所でラミレア王国が兵をだす。完璧な手だったはずだ。
親書の内容からするに……私の計画を邪魔したのはあの子供か……アルバッハ男爵家のロイ!
エメラダの、娘の「元」婚約者めが!
「バイン公爵よ……其方の家は我が王家の血を分けた名門。しかも儂の息子と其方の娘は婚約者だ。それがこの様な小国風情に馬鹿にされる献策をするとはな」
王は破り捨てた親書を踏みつける。
「まあよい。あの者達にはいずれ儂の前で跪かせるとして……聖オフェリア国の方は間違い無いな?」
「はっ……そちらこそ、必ず!」
「うむ。次こそ期待しているぞ。我がラミレア王国が世界を手にする為、力を奮ってくれ」
「ははっ……」
次こそはやり遂げなければならない。
そして、あの小僧だ。私に恥をかかせおって。
奴は必ず捕らえ、私の邪魔をした報いを受けさせてやる。
22
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
【完結】天候を操れる程度の能力を持った俺は、国を富ませる事が最優先!~何もかもゼロスタートでも挫けずめげず富ませます!!~
udonlevel2
ファンタジー
幼い頃から心臓の悪かった中村キョウスケは、親から「無駄金使い」とののしられながら病院生活を送っていた。
それでも勉強は好きで本を読んだりニュースを見たりするのも好きな勤勉家でもあった。
唯一の弟とはそれなりに仲が良く、色々な遊びを教えてくれた。
だが、二十歳までしか生きられないだろうと言われていたキョウスケだったが、医療の進歩で三十歳まで生きることができ、家での自宅治療に切り替わったその日――階段から降りようとして両親に突き飛ばされ命を落とす。
――死んだ日は、土砂降りの様な雨だった。
しかし、次に目が覚めた時は褐色の肌に銀の髪をした5歳くらいの少年で。
自分が転生したことを悟り、砂漠の国シュノベザール王国の第一王子だと言う事を知る。
飢えに苦しむ国民、天候に恵まれないシュノベザール王国は常に飢えていた。だが幸いな事に第一王子として生まれたシュライは【天候を操る程度の能力】を持っていた。
その力は凄まじく、シュライは自国を豊かにするために、時に鬼となる事も持さない覚悟で成人と認められる15歳になると、頼れる弟と宰相と共に内政を始める事となる――。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載中です。
無断朗読・無断使用・無断転載禁止。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
トレンダム辺境伯の結婚 妻は俺の妻じゃないようです。
白雪なこ
ファンタジー
両親の怪我により爵位を継ぎ、トレンダム辺境伯となったジークス。辺境地の男は女性に人気がないが、ルマルド侯爵家の次女シルビナは喜んで嫁入りしてくれた。だが、初夜の晩、シルビナは告げる。「生憎と、月のものが来てしまいました」と。環境に慣れ、辺境伯夫人の仕事を覚えるまで、初夜は延期らしい。だが、頑張っているのは別のことだった……。
*外部サイトにも掲載しています。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる