公爵令嬢に婚約破棄されましたが『歌』とチートスキルで無双して見返してやりたいと思います!

花月風流

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東の国

第29話 背中、嬉しいです

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 コウゾウのお父さん、ムリョウさんの表情の柔らかさに反して僕の背中には汗が流れていた。

 僕は選ばなければならない。
 言い訳になってでも弁明して、見逃して貰えるようにお願いするのか。
 なりふり構わず何らかの歌を最速で歌い、暴れて逃げ出すのか。
 自分の身ひとつを考えれば、逃げ出すだけなら不可能では無いはずだ。
 ……怪我は覚悟しないと逃げることさえ出来なさそうだけど。

 そんな思いが僕の中で浮かんでは消えて、また浮かんで来る。
 でも、ひとつだけずっと真ん中にあるものは変わらない。

「ふむ」

 ムリョウさんは面白そうな顔をする。
 僕はムリョウさんの目から視線を外さない。それだけだ。
 僕を捕まえるよう各国にラミレア王国の連絡が行き渡っているのは知っている。
 鍛冶の国、草原の国で聞いてから覚悟はしていたはずだ。
 僕はやましいことなどしていない。
 事の善悪は当然人によるだろうし、ラミレア王国からすると許せない事だろう。
 子供が癇癪を起こして周りに迷惑をかけた上で家出した。
 そう語る人もいるかも知れない。
 婚約破棄なんて貴族の世界ではそこまで珍しいものではない。自棄になって国を捨てるのは愚か者だ。
 そう語る人もいるかも知れない。

 それでもあれは、僕は自分の為に戦った結果だと言い切ってやる。
 ただ泣いていた弱くてどうしようも無い僕は、あの復讐無しでは立ち直れなかったのだと。
 だから、あの時の決意も込めて目を逸らすわけにはいかないのだ。

「ーーーー!」

 突然コウゾウが間に割って入り、両手を広げる。

「ーーーー、ーーーーー!」

 言葉は解らなくても、コウゾウが僕を庇ってくれているのは解る。
 事情なんて知らないはずなのに、僕を庇う背中は逞しく見える。

「ありがとう、コウゾウ」
「ロイ!」

 僕は君の背中を見て、勇気を貰えた。
 彼の背を引き、位置を入れ替わる。

「ムリョウさん。お望みなら僕を捕らえて下さい。僕は逃げません」

 山で出会った動物より余程恐ろしい相手に近付く。

「いや、すまない。虐めた訳では無いんだ。君の心根を確かめなければならない事情があってな」

 そう言うと、温和そうな表情に見合った空気に変わる。

「……その事情は僕が聞かせて頂いても?」

「構わない。むしろ聞いて欲しい。実は……」

 語られた言葉は、僕には驚きのものだった。
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