公爵令嬢に婚約破棄されましたが『歌』とチートスキルで無双して見返してやりたいと思います!

花月風流

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鍛冶の国、草原の国

第22話 東へ、向かいます

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 朝起きて身支度を整えていると続々と人が集まってきた。
 皆、今後の旅の応援や停戦についてのお礼などを代わる代わる伝えてくれる。
 僕はひとつひとつ言葉を返し、再開を誓う。
 必ずまた会いに来る。皆の前で、歌うために。

「ロイ、遅くなってすまない」

 外に出るとエルバンさんが到着した所だった。

「目が……灼けるぅ……待てよエルバン……」

 フラフラしながらリチャードさんも到着した。

「……一晩眠らなかった程度でだらしないぞ、リチャード。もう少し体を鍛えたらどうだ」
「普通はこうなるんだよ。君が頑丈すぎるんだ」

 言い合いながら、僕に革張りの箱と布袋を手渡してくる。

「これは何ですか?」

「袋の方には薬などを入れておいた。箱の方は俺とリチャードからの餞別だ。受け取ってくれ」

箱の側面に留め金があったので、外して開けてみる。

「これは……楽器ですか!?」

 美しい木材を基礎にしてとても細い金属の糸が張られている。
 少し形が違うが、幼い頃に広場で歌っている吟遊詩人を見た時、似た物を使っていたのを覚えている。

「うん。なかなかエルバンが納得しないから、作っては解体して作っては解体して、結局こんなにギリギリになっちゃったけど」
「……職人は妥協しないものだ」
「まあ、おかげで良い物になったと思うよ。旅先でこの楽器を見るたび、皆の顔やあの小屋を思い出してくれれば嬉しいね」

「……ありがとうございます。大切に……使わせて頂きます」

「ああ。もし糸が切れた時は、その楽器入れの中の予備を張り直してくれ」
「僕達は音楽に詳しくは無いから、調整はロイ君任せだ。横の突起を回してくれれば音が変わるようになってるから、使い易いようにいじってね」

「解りました」

 皆の顔を見る。寂しそうな顔の人、笑顔を見せる人、心配そうな顔の人、皆が僕を見てくれている。

「皆さん、ありがとうございました。また、必ず来ます。楽器も練習して、もっと色んな歌を覚えて、皆の前で歌いに来ます」

 皆が頷いてくれた。

「~~♪」

[神技・具現を使用します]

 魔竜が現れ伏せてくれる。
 楽器の箱を背中に背負い、付属されている革紐と留め具で身体に固定する。
 魔竜の背に乗り、飛ばそうとすると袋がひとつ投げられる。落とさないよう慌てて受け取ると、微かに良い匂いを感じる。

「この匂い、デューイさん?」

「新作だ、後で食ってくれ。感想は次に会った時に聞かせてくれ……」

 デューイさんは背中を見せたまま手を振る。
 微かに震える背中を見て、込み上げてくるものを堪える。また会えるんだから、涙で別れたく無い。

「……頂きます! それじゃ、行きます。皆、また会う日まで元気でいて下さい!」

「「また会おう!」」
「「絶対また来いよ!」」

 魔竜はゆっくり上昇した後、皆の頭上を一周して、東へと進路を取る。

 さあ、行こう。3度目の旅立ちだ。

 1度目は国を離れるため
 2度目はさすらいに目標を求めて
 3度目は……自分の願いのために

 魔竜の背に乗り、東を目指そう。
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