公爵令嬢に婚約破棄されましたが『歌』とチートスキルで無双して見返してやりたいと思います!

花月風流

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鍛冶の国、草原の国

第21話 命、大事です

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「あーあ、エルバンのせいで泣いちゃった」
「…………そうなのか」

 本気で落ち込んだ顔をするエルバンさんに吹き出しそうになる。おかげで涙は止まった。

「嬉しいです。皆が僕のためにあんな物を作ってくれるなんて」

「ロイが俺達を再び繋いでくれた。だからだ」
「まあ、両国の新しい絆の象徴かな?」

 言われた程の事をできていたなら、本当に嬉しい。僕は、歌う事しかしていないのだから。

「流石に怪我人をすぐ動かせないから、運び込んだのは今朝なんだけどね」
「ああ。昨日少し目を覚ましたのは覚えているか? 水とパン粥を食べてすぐまた眠ったが」

 全く覚えてない。

「それで、大丈夫そうだし折角作ったんだからって、皆で君を放り込んだんだ」

「なるほど。そうだったんですね」

「うちとあっちの医者は両方とも、もう2~3日すれば動き回っても大丈夫って言ってたけど、どうする? どちらかの街に戻って養生するかい?」

 リチャードさんに尋ねられるが、それなら答えは決まっている。

「良ければ、このままここを使わせて下さい」

 今の僕にとってこれほど元気になれる場所はきっと他の何処にも無いだろうから。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 それから3日、エルバンさんもリチャードさんもお医者さんと一緒に毎日来てくれた。
 デューイさんも毎朝開店前にパンを持って来てくれたし、ギンさんも親友を連れて訪れてくれた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 3日目の夜、エルバンさんとリチャードさんが訪れた時に僕は切り出した。

「僕はラミレア王国から来たんです」

 自分の決意を話すために、まず伝えておかなければならない。

「国を捨てるつもりで出てきましたけど、この国に来て知った事は僕には納得出来ない事だった。人の絆を踏みにじるやり方が許せない……だから、一度戻って出来る限りの事を」

「やめておけ」
「やめといた方が良いね」

 2人に言葉を遮られる。

「君が倒れた翌日、ラミレア王国から手配書が回ってきた」
「内容は、ラミレア王国アルバッハ男爵家の元嫡男ロイ・アルバッハを発見次第捕縛して移送しろというものだ」
「ご丁寧に『生死は問わない』って言葉付きだよ」

 手配書が出ているとは……しかも死んでも……捕まえろと……

「書かれている罪状は王子の婚約発表を台無しにした事、竜を使役し王城を破壊したこと……これに俺達の国に仕掛けていた工作が失敗した件にもロイが関わってると伝われば」
「うん。行ったら絶対に生きて出られない。だから、行くべきじゃない」

「でも、それでも……」

(僕は話さなければならない。デュランはこの事を知っているのか……確かめなければ……)

「……それなら俺達も行くか」
「そうだね。恩人をただ見捨てるなんて冗談じゃない。きっと、皆ついて来るだろうね。国の代表としては止めなきゃいけないけど、個人としては率先して参加したいね」

「それは! ダメですよ、そんなの!」

 折角争わずに済んだのに、僕が原因で新たな争いが起きるのでは意味が無い。

「俺達の事を思ってくれるのなら、今は耐えてくれ」
「僕たちが救われたのは命と心だからね。身勝手に聞こえるだろうけど、命懸けで報いないと僕達の誇りが保てないよ」

「……僕はどうしたら良いのでしょうか」

「本当はずっとこの国に居て欲しかったんだけどね。それこそ国をあげて君を守れるし」

「……俺もそう思っていたが、ロイの想いも解る」

 3人の間に沈黙が落ちる。

「……ロイ君、君は旅を続けなよ」

「え?」

「あの国と真正面から話をするためには、僕とエルバンの後盾だけじゃ心許ない。少なくとも今は準備が足りない」

「ああ、そうだな。ロイが旅を続ける中で協力してくれる者を増やせれば良し、そうでなくても時間さえ貰えれば俺達も力を増す事が出来る。ロイが動く時には必ず手を貸す。それが話合いでも殴り合いでもな」

「エルバンさん、リチャードさん……ありがとうございます」

 僕だけでは何も出来ない。それでも、無事を願ってくれて力を貸してくれる人達が居る。それは本当にありがたい事だった。

「本当にありがとうございます。僕は、僕に出来る事を……旅を続けて、歌い続けます」

「ああ、それが良い。いつ出る?」

「はい、明日の朝にでも」

「うわ、決断が早いなぁ。じゃ、エルバン。僕達も急がないとね」
「ああ、そうだな」

 言うなり2人は立ち上がり、入口のドアへと向かう。

「明日の朝は皆で見送りするからね、勝手に出発しちゃダメだよ」
「旅先で使う分の薬も持ってくるからな。今日は早めに寝て養生すると良い」

「はい!」

僕が頷くと、2人は帰って行った。
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