公爵令嬢に婚約破棄されましたが『歌』とチートスキルで無双して見返してやりたいと思います!

花月風流

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鍛冶の国、草原の国

第20話 目を、覚まします

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 うっすらと光を感じて目蓋を開ける。気を失う前の事を思い出し、ゆっくりと身体を起こして周りを見回してみる。
 僕が目を覚ましたのはよく解らない場所だった。
 大きめの小屋、というのは間違い無いのだが、建て方というか材料というか、滅茶苦茶なのだ。

 柱だけでも木の柱と金属の柱。
 壁も磨かれた石材と焼きっぱなしの煉瓦。
 屋根は……木で組んだ梁に革を張ったものだろうか?
 取り敢えず統一感が無い。これは王都に居た「自称芸術家」の人が喜びそうな形だ。
 でも、一見バラバラな中にどことなく温かみを感じる建物だった。

 肩に手をあててみると、痛みは殆ど感じられない。布を巻かれているし、何か薬草のような匂いがするので治療をしてくれたのだと判る。

「どこだろう、ここ」

 寝台から足を下ろしてみると、少しだけ脚が震えるものの立てるし歩けるようだった。
 入り口を開けて外に出てみると、僕が倒れた所から少し川に寄った場所のようだった。

「場所も疑問だけど……何か良い匂いもする……」

 考えても解らないし、良い匂いのする川の方へ向かってみると、焚き火の前で口喧嘩する大人を発見する。

「だから! 塩かけすぎだって! 折角の肉が塩味になっちゃうじゃないか!」
「火の前で仕事をしていれば汗をかく。汗をかいたら塩をとらねばならないのは当たり前だろう?」
「じゃあ何で香辛料までかけすぎるんだよ? 職人のくせにやる事が雑すぎるだろ!」
「喰えばわかる、ほら」
「…………まあ、こういう野性味のあるのも悪くはないけどさ」

「エルバンさん、リチャードさん、何をされてるんですか?」

「目を覚ましたか、ロイ。眠り続けて心配したぞ。あの程度の出血で寝込むとは、そんな細い身体をしているからだ。ほら、ここに座って肉を喰え」

「君の基準で語るなよ……おはようロイ、元気になって良かった。肩は痛まないかい?」

「えと、はい。肩は大丈夫みたいです」

 答えて座ると肉の刺さった串を差し出されたので、食べることにする。寝起きで肉を食べるのはどうかと思ったが、とても美味しい。

「美味しいですね!」

「うちの国でとれた最上級の肉だからね」
「うちの国で焼いた最上級の炭で焼いたからな」

「あの~……」

 言い合う2人を見て心配になる。僕の記憶では仲直りしてたはずなんですけど……
 僕の顔を見て2人とも吹き出す。

「冗談だ」「だよ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 僕が気絶した後、治療の為に鍛治の国へ運ばれたそうだ。矢傷自体はそこまで酷く無かったけど、僕が傷口を広げて出血を多くしたから気絶したらしい。治療自体は簡単なものだったようだ。

「それでね……」

 鍛治の国に草原の国の人達が居座って大変だったそうだ。僕に矢を射た人達を筆頭に、兵士として参加してた人達は僕が目を醒さないうちには帰れない、と。
 鍛治の国の人達も同じ事を主張して、街は大変な状況だったらしい。

「僕は言ったんだ。これじゃゆっくり休めないだろ! って。そしたら、両国の人間が材料を持ち合って、たった1日であれを作ったんだよ」

 そう言って、リチャードさんは小屋を指差した。

「馬鹿だよね、熱意のかけ方が凄い方向にズレてるよ」
「仕事を休まないという条件の上で、何人も交代でな」

 そうだったのか……あのツギハギみたいな小屋は……。
 僕は不意に涙が出そうになる。

「いい歌だった」
「うん、本当に」

 笑顔で僕を見つめる2人の顔のせいで
 とうとう涙腺が決壊するのだった。
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