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鍛冶の国、草原の国
第19話 仲は、直せます
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(間に合った……かな)
上空で両国の軍がぶつかりそうなのを見た時は背筋が冷たくなったけど、まだ戦ってはいない。
今ならまだ何とかなるかも知れない。
「ひ、り……竜だ! 化け物!」
ヒュヒュッ!
草原の国の兵が悲鳴を上げた途端、風切音が聞こえる。
無数の矢が射られたと気付いたのは肩に矢が刺さる激痛とほぼ同時だった。
殆どの矢は魔竜が翼を使って防いでくれたが、全てとはいかなかったようだ。
「ぐっ……いったぁ……」
矢を引き抜こうとするが、上手くいかない。
いたずらに触ったせいか血が溢れ出す。
「あいつら、ロイを! やらせるな!」
「来るぞ、迎え撃て!」
鍛冶の国の何人もが怒声を上げて向かって来ようとする。草原の国の兵士も一斉に武器を構える。
「来ないで下さい!」
ここで止めないと、もう止まれなくなる。僕は矢を握っていた手を離し、服で血を拭う。
(痛い、血が出てる。こんなの、僕1人で充分だ)
「僕の……僕の歌を聴け!」
「ガァァァァァァォ!」
僕の叫びに併せて魔竜が吠える。両国の人間が共に足を止める。
「~~♪」
[神業・魔歌を使用します]
僕が歌うのは[歌劇・やがて王になる騎士]の劇中歌。鍛冶の国の宴席で歌ったものだ。
同じ歌なのに喉から溢れ出る声が違う。
リチャードさんの気持ちの分が歌に乗る。
肩の痛みが喉を震わせる。
「~~~~♪」
(逃げたい。泣きたい。倒れたい。痛いんだ。肩も心も。こんな事、必要無いはずだ。この場の誰も望んで無いでしょう?)
[神技・具現を使用します]
[□■◆○*を□○*∞*す]
篝火と松明だけを灯りにする平野に
淡い光を放つ2人の子供が現れる。
背の小さい、賢そうな目の子供は鍛冶の国側へ
がっしりした、綺麗な目の子供は草原の国側へ
それぞれ走り出す。
驚きの声を上げて、人の壁が割れて行く。
「~~♪……う……」
歌い終わった途端に倒れそうになる。
背中から、魔竜が鼻先で支えてくれているのが解る。
(まだ終わってない。まだ……)
その時、僕の前に光る子供達が戻ってきた。
それぞれの手で、大切な親友の手を引いて。
「リチャード……」
「エルバン!」
子供達は僕に笑顔を向けた後、夜空に溶けるように消えていく。
「エルバン、すまなかった!」
リチャードさんが膝をつき頭を下げる。
「うちの国にラミレアの内通者がいた。まんまと工作に嵌ってしまった。……いや、根本はそこじゃない。君の気持ちを、僕は勝手に推し量って決めつけた。本当に、すまない」
エルバンさんも膝をつき、リチャードさんの肩に手を置く。
「俺こそ、悪かった。俺だけはお前を疑ってはいけなかった。あんな砦など燃やしてでも……お前と話をしに行くべきだったんだ。大頭領では無く、ただのエルバンとして」
……ああ、良かった。きっともう大丈夫だ。
自己満足だけど、これでようやく満足のいく形でエルバンさんからの依頼を達成出来た気がする。
支えてくれていた魔竜が消える。
視界が傾き、世界が横に見える。
沢山の人に呼ばれた気がするけど……
応えられないまま、視界が暗くなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふぁー……」
兵士は退屈していた。
城内の警備兵は退屈なのだ。
この玉座の間には自分を含めて4人が夜間警備で立っているが、部屋の4隅に居なければならないため、会話さえ出来ない。
そんなとこまで届く声で話してたら、奥で休まれている王に聞こえてしまう。きっと解雇だけではすまないだろう。
「扉の外の連中は4人で固まってるからなぁ……会話できるだけ羨ましいな。たまには代わっ」
ガァァァァァァン!
轟音と共に玉座の間に瓦礫が積もる。
天井の半分近くが落ちて無くなっていた。
警備兵の目には夜空と星、それを背景に浮かぶ真っ黒な竜とそれに乗る人影。
竜は青い炎を口から溢し、唸っている。
人影が年端のいかない少年のような声で語り出す。
「痛イ、悲シイ、苦シイ。卑怯者メ、欲望ノ徒メ。覚エテイロ、僕ハ何時デモ現ワレルゾ」
城から離れた黒いそれらは、城下町を囲む城壁の南側を散々に破壊して去って行った。
「な……なんだったんだ……」
退屈が終わって恐怖が始まるのではやっていられない。
兵士は転職を決意した。
上空で両国の軍がぶつかりそうなのを見た時は背筋が冷たくなったけど、まだ戦ってはいない。
今ならまだ何とかなるかも知れない。
「ひ、り……竜だ! 化け物!」
ヒュヒュッ!
草原の国の兵が悲鳴を上げた途端、風切音が聞こえる。
無数の矢が射られたと気付いたのは肩に矢が刺さる激痛とほぼ同時だった。
殆どの矢は魔竜が翼を使って防いでくれたが、全てとはいかなかったようだ。
「ぐっ……いったぁ……」
矢を引き抜こうとするが、上手くいかない。
いたずらに触ったせいか血が溢れ出す。
「あいつら、ロイを! やらせるな!」
「来るぞ、迎え撃て!」
鍛冶の国の何人もが怒声を上げて向かって来ようとする。草原の国の兵士も一斉に武器を構える。
「来ないで下さい!」
ここで止めないと、もう止まれなくなる。僕は矢を握っていた手を離し、服で血を拭う。
(痛い、血が出てる。こんなの、僕1人で充分だ)
「僕の……僕の歌を聴け!」
「ガァァァァァァォ!」
僕の叫びに併せて魔竜が吠える。両国の人間が共に足を止める。
「~~♪」
[神業・魔歌を使用します]
僕が歌うのは[歌劇・やがて王になる騎士]の劇中歌。鍛冶の国の宴席で歌ったものだ。
同じ歌なのに喉から溢れ出る声が違う。
リチャードさんの気持ちの分が歌に乗る。
肩の痛みが喉を震わせる。
「~~~~♪」
(逃げたい。泣きたい。倒れたい。痛いんだ。肩も心も。こんな事、必要無いはずだ。この場の誰も望んで無いでしょう?)
[神技・具現を使用します]
[□■◆○*を□○*∞*す]
篝火と松明だけを灯りにする平野に
淡い光を放つ2人の子供が現れる。
背の小さい、賢そうな目の子供は鍛冶の国側へ
がっしりした、綺麗な目の子供は草原の国側へ
それぞれ走り出す。
驚きの声を上げて、人の壁が割れて行く。
「~~♪……う……」
歌い終わった途端に倒れそうになる。
背中から、魔竜が鼻先で支えてくれているのが解る。
(まだ終わってない。まだ……)
その時、僕の前に光る子供達が戻ってきた。
それぞれの手で、大切な親友の手を引いて。
「リチャード……」
「エルバン!」
子供達は僕に笑顔を向けた後、夜空に溶けるように消えていく。
「エルバン、すまなかった!」
リチャードさんが膝をつき頭を下げる。
「うちの国にラミレアの内通者がいた。まんまと工作に嵌ってしまった。……いや、根本はそこじゃない。君の気持ちを、僕は勝手に推し量って決めつけた。本当に、すまない」
エルバンさんも膝をつき、リチャードさんの肩に手を置く。
「俺こそ、悪かった。俺だけはお前を疑ってはいけなかった。あんな砦など燃やしてでも……お前と話をしに行くべきだったんだ。大頭領では無く、ただのエルバンとして」
……ああ、良かった。きっともう大丈夫だ。
自己満足だけど、これでようやく満足のいく形でエルバンさんからの依頼を達成出来た気がする。
支えてくれていた魔竜が消える。
視界が傾き、世界が横に見える。
沢山の人に呼ばれた気がするけど……
応えられないまま、視界が暗くなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふぁー……」
兵士は退屈していた。
城内の警備兵は退屈なのだ。
この玉座の間には自分を含めて4人が夜間警備で立っているが、部屋の4隅に居なければならないため、会話さえ出来ない。
そんなとこまで届く声で話してたら、奥で休まれている王に聞こえてしまう。きっと解雇だけではすまないだろう。
「扉の外の連中は4人で固まってるからなぁ……会話できるだけ羨ましいな。たまには代わっ」
ガァァァァァァン!
轟音と共に玉座の間に瓦礫が積もる。
天井の半分近くが落ちて無くなっていた。
警備兵の目には夜空と星、それを背景に浮かぶ真っ黒な竜とそれに乗る人影。
竜は青い炎を口から溢し、唸っている。
人影が年端のいかない少年のような声で語り出す。
「痛イ、悲シイ、苦シイ。卑怯者メ、欲望ノ徒メ。覚エテイロ、僕ハ何時デモ現ワレルゾ」
城から離れた黒いそれらは、城下町を囲む城壁の南側を散々に破壊して去って行った。
「な……なんだったんだ……」
退屈が終わって恐怖が始まるのではやっていられない。
兵士は転職を決意した。
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