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鍛冶の国、草原の国
第14話 僕、悩みます
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歌の依頼を受けた後、宿へ向かう前にデューイさんのパン屋を訪れた。
彼は照れ臭そうに完売の札を指差して笑った。
「どんな魔法を使ったんだよ。お客が来すぎて焼いても焼いても追い付かなかったぞ」
「僕は歌を歌って人を集めただけです。デューイさんのパンが焼ける匂いで皆が買いに走ったんです。味は最高なんですから、きっと明日から忙しいですよ」
僕とデューイさんは握手を交わして別れた。
僕のおやつにと1つだけ残しておいてくれたパンをギンさんと半分に分け、食べながら色々と聞くことが出来た。
「明日の議題になるのは2点、ラミレア王国に対する返答と食糧問題だね」
「……ラミレアですか」
祖国の名が出てきただけで胸が痛くなる。僕は平和な国であると信じていたが、知らなかった事があるらしい。
「そう。実は結構前から食糧を盾に圧力をかけられていたんだ。ほら、この国は見ての通り岩と石だらけの国だからね……農業も牧畜も向いているとは言えない。だからラミレア王国から食糧を買っていた」
(たしかに魔龍から降りて街まで歩いた間に耕作が出来そうな土地は無かったな)
「けど少し前から無茶な要求をしてくるようになったんだ。うちから輸出している鉱石、宝石、色んな加工品を安く売るようにって。大頭領も食糧事情を考えて仕方無く譲っていたが、あいつら今度は元の半値での取引を要求してきたんだ。そんなの……出来る訳ないだろ?」
「半値って!それは……酷いですね……」
(交易に携わった事が無い僕でも解る。そんな馬鹿な話が通る訳がない)
「この国は大陸の南西端だ。交易するなら北のラミレア王国か東の草原の国しか無い。元々は草原の国と交易をしていて、ラミレア王国とは深い付き合いじゃ無かった。5年前に草原の国と断交するまでは、ね」
「断交って、何かあったんですか?」
「解らない。たったの1日で国の境に兵を配備されて1週間もしない内に砦が出来てた。こちらから何度も使者を送って事情を聞いたけど、答えは一度だけ。近付いたら攻撃する、だってさ。以前は2つで1つの国って言われるくらい仲の良い関係だったのにな」
「なんとか話が出来ないんですか?」
「出来てたらこうはなってないよ。大頭領も決断を迫られてるだろう。ラミレア王国の属国みたいに生き延びるのか……草原の国と戦争してでも土地と食糧を確保するのか」
「戦争って、そんな!」
「俺だって嫌だ。断交するまでは向こうに友達だって居たんだ。でも、属国になるのはもっと嫌だ。……この国は職人の国だ。誇りを失ったらやっていけるもんか」
「…………」
「ああ、ごめんな。旅人のロイに悩みを押し付けたい訳じゃ無かったんだ。ただ、明日はそんな日だからさ、頼むよ。俺達が後悔しないで済むよう、お前の歌で場の空気を良くしてくれ」
「解りました……精一杯努力します」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「努力……か……」
僕はお湯に浸かりながら悩んでいた。
デューイさんの照れ臭そうな顔が浮かび
大頭領の澄んだ目が浮かび
ギンさんの悩む顔が浮かぶ
旅人の僕には関係無い、と言うには人に出会い過ぎた。
ただ依頼を受けた分歌えば良いとは……水面に映る自分の顔でさえ言っていない。
「僕はどうしたいのか。どうなって欲しいのか」
この思いは寝台に入っても中々眠らせてくれなかった。
彼は照れ臭そうに完売の札を指差して笑った。
「どんな魔法を使ったんだよ。お客が来すぎて焼いても焼いても追い付かなかったぞ」
「僕は歌を歌って人を集めただけです。デューイさんのパンが焼ける匂いで皆が買いに走ったんです。味は最高なんですから、きっと明日から忙しいですよ」
僕とデューイさんは握手を交わして別れた。
僕のおやつにと1つだけ残しておいてくれたパンをギンさんと半分に分け、食べながら色々と聞くことが出来た。
「明日の議題になるのは2点、ラミレア王国に対する返答と食糧問題だね」
「……ラミレアですか」
祖国の名が出てきただけで胸が痛くなる。僕は平和な国であると信じていたが、知らなかった事があるらしい。
「そう。実は結構前から食糧を盾に圧力をかけられていたんだ。ほら、この国は見ての通り岩と石だらけの国だからね……農業も牧畜も向いているとは言えない。だからラミレア王国から食糧を買っていた」
(たしかに魔龍から降りて街まで歩いた間に耕作が出来そうな土地は無かったな)
「けど少し前から無茶な要求をしてくるようになったんだ。うちから輸出している鉱石、宝石、色んな加工品を安く売るようにって。大頭領も食糧事情を考えて仕方無く譲っていたが、あいつら今度は元の半値での取引を要求してきたんだ。そんなの……出来る訳ないだろ?」
「半値って!それは……酷いですね……」
(交易に携わった事が無い僕でも解る。そんな馬鹿な話が通る訳がない)
「この国は大陸の南西端だ。交易するなら北のラミレア王国か東の草原の国しか無い。元々は草原の国と交易をしていて、ラミレア王国とは深い付き合いじゃ無かった。5年前に草原の国と断交するまでは、ね」
「断交って、何かあったんですか?」
「解らない。たったの1日で国の境に兵を配備されて1週間もしない内に砦が出来てた。こちらから何度も使者を送って事情を聞いたけど、答えは一度だけ。近付いたら攻撃する、だってさ。以前は2つで1つの国って言われるくらい仲の良い関係だったのにな」
「なんとか話が出来ないんですか?」
「出来てたらこうはなってないよ。大頭領も決断を迫られてるだろう。ラミレア王国の属国みたいに生き延びるのか……草原の国と戦争してでも土地と食糧を確保するのか」
「戦争って、そんな!」
「俺だって嫌だ。断交するまでは向こうに友達だって居たんだ。でも、属国になるのはもっと嫌だ。……この国は職人の国だ。誇りを失ったらやっていけるもんか」
「…………」
「ああ、ごめんな。旅人のロイに悩みを押し付けたい訳じゃ無かったんだ。ただ、明日はそんな日だからさ、頼むよ。俺達が後悔しないで済むよう、お前の歌で場の空気を良くしてくれ」
「解りました……精一杯努力します」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「努力……か……」
僕はお湯に浸かりながら悩んでいた。
デューイさんの照れ臭そうな顔が浮かび
大頭領の澄んだ目が浮かび
ギンさんの悩む顔が浮かぶ
旅人の僕には関係無い、と言うには人に出会い過ぎた。
ただ依頼を受けた分歌えば良いとは……水面に映る自分の顔でさえ言っていない。
「僕はどうしたいのか。どうなって欲しいのか」
この思いは寝台に入っても中々眠らせてくれなかった。
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