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鍛冶の国、草原の国

第11話 食事、頂きます

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「すっごいな……山が赤い」

 僕は山裾の街を目指して歩いている。
 魔龍で近付くわけにもいかないので距離をとって降りたのだが、思ったより遠く1日野宿をする事になってしまった。
 ようやく近付いてきた街の奥にある岩山が赤く光っているのを見て感動した。
 遠目に見ても大きな何かが、山から生えるように建っている事まで見える。

「なんだろう、あれ。あっちにも変なものがある。近くで見たり出来るのかな」

 やっと街に着いた僕は山を見に行く前に朝食を食べる事にする。
 昨晩は頂いたお弁当を食べてお腹を満たしたのだが、今日は朝からまだ何も食べていない。

「うーん……どうしようかな」

 街の大通りに面した店舗は鍛冶屋だったり鉱石を売る店だったりが多く、気軽に食事を摂れそうな店は見当たらない。

 仕方ないので適当な路地を曲がると、パン屋を見つけた。
 折角見つけたのでここで朝食を買う事にしよう。

「……いらっしゃい」

 店に入るとあまり元気の無い声をかけられる。
 棚に並んでいるパンは種類も量も極端に少ない。

(……失礼だけど、美味しくて開店早々に売り切れちゃった! という雰囲気では無いかな)

 これは……失礼ながら、自分の育った街では不味くてお客さんが入らないお店の雰囲気だ。

(でも、何も買わずに出るのも気まずいし……お腹も減ってるし、1つ食べてみよう)

「すみません、このパンを下さい」

 さして特徴の無さそうに見えるパンを指差す。
 これなら無難に食べられそうだ。

「あいよ。100だよ」
「はい」

 指定された金額を置く。

「……おい、ラミレア王国の金じゃないか。これ」
「はい?……あ!」

 うっかりしてた。この国のお金に両替するのを忘れてた。

「すみません。両替してからまた来ます」

『ぐうぅぅぅぅぅ』

「「………………」」

 突然主張した僕のお腹に沈黙が流れる。

「はぁ……。仕方ねえなぁ。おい、そこに座っとけ」

 店の端に備えられた机と椅子を指差される。
 僕は言われた通り、椅子に座る。

「ほら、喰えよ」

 店主がパンを2つとミルクの入ったカップを机に置く。

「すみません、頂きます」

 代金は後で両替して払わせて貰おう。
 お皿の上には長くて何かの肉が挟まれたパンと、先程選んだ見た目が普通な丸いパンが載せられていた。
 まず、長いパンを頂く。

「うっ! これ、美味しいですよ!」

 肉に塩と何かのスパイスだけで味付けされたシンプルだけど力強い味の具材が、同じように力強い麦の風味がする硬めのパンの風味と混じり合って、とても美味しく感じられた。

「そーかい。」

 あっという間に食べてしまった。
 ミルクを飲み、次に丸いパンを頂く。

「はー、こっちも美味しいです……」

 ふわふわの丸パンを齧ると甘い麦の風味が口に広がり、中に詰められたミルク味のクリームも美味しい。

 (こんなに美味しいのに……)

 客が居らず、品数も少ない店内を見回す。

「両替は止めとけ。」

 ミルクのお替りを注いでくれながら、店主が言った。

「ラミレア王国の貨幣は今両替を禁止されている。ラミレア方面の国境も閉鎖されてる筈だ。詳しくは知らんが、ラミレアが何かとんでもない事を言ってきたらしくてな。結論が出るまでラミレア関連は全部凍結だそうだ」

 よく解らないけど、大変だ。最悪他の国まで魔龍で飛べば自分は何とかなるが、お店への支払いが出来ない。

「すみません、ラミレアの貨幣しか持っていないので……他国で一旦別の貨幣に両替して」
「いや、いいんだよ」

 遮るように言われる。

「どうせ売れもせずに残っちまうパンだ。腕が悪いのか場所が悪いのか、両方かも知らんが開店してふた月このザマだ。そろそろ店を畳んで別の事やらねーとな」
「そんな……こんなに美味しいのに!」
「ありがとよ。客じゃなくても、美味いと言われりゃ嬉しいもんだな」

 店主が笑う。
 パンのお礼で僕に出来ること……

「僕は……ロイといいます」
「ん? ああ、俺はデューイだ」
「デューイさん、仕込みはされてるんですよね?」
「……まあな。売れねえって解ってても体が勝手によ……」

 それなら……

「お願いします。仕込みされているパン、ありったけを焼いて下さい」

 椅子から立ち上がり、店の入り口へ向かう。

「は?なんでそんな無駄な……」

 大通りには人通りが多かった。

「今日仕込んだ生地は明日使え無いでしょう? 一度だけ、馬鹿な事を言う旅人に騙されて下さい」

 ドアを開けて、大通りへ。

(……さあ、僕の歌を聴け)

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