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乾いた村
第10話 胸が、高鳴ります
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[神技・具現を使用します]
皆が寝静まった真夜中……僕は寝床として貸して頂いた空き家を出て、小声で歌って魔竜を呼ぶ。
「ごめんね、あの山まで頼みたいんだ」
紐を首に掛けて背に乗ると、魔竜は「ヤレヤレ」と言いたそうに鼻を鳴らして羽ばたいた。
山の湖には水が溜まり、川へ向かっても水が流れ出していた。
「水源も生き返っていると良いんだけど。こればかりは本当の神様か女神様にお願いしないと」
僕は祈るように指を組む
歌の力は永遠に続く訳じゃない。
それに……ずっと雨を降らせ続けられたとしても、それはそれで山を崩してしまう。
自然は自然の力に任せるしか無いのだ。
「さて、戻ろうか」
魔竜の背に乗ると、あっという間に上昇する。
空高く昇った魔竜の背で、僕は南の方角を見る。
山に来る時も気になったけど、遠くの空が赤く見えるのだ。
(なんだろう……気になるなぁ)
魔竜が速度を上げて村へと飛ぶ。
あっという間に村へと到着し、魔竜の背から降りる。
「ありがとう。助かったよ」
額を撫でると、魔竜は小さく喉を鳴らして消えた。
「……今のは竜ですか?」
暗がりから声が聞こえて思わず身構える。
近付いて来たのは村長さんだった。
「えーと、今のは……」
何か誤魔化した方が良いだろうか?
「いえ、良いのです。詮索などしません。村の者も同じ気持ちでしょう。」
村長さんは深々と頭を下げる。
「本当にありがとうございました。ロイさんのお陰で次の実りまで命を繋ぐ事ができます」
色々と聞きたいだろうに……気を遣ってくれたんだな。
僕も誠実でありたい。誤魔化すのはやめよう。
「こちらこそありがとうございます。僕の歌が少しでも役に立ったなら、良かったです」
顔を上げた村長はひとつ肯くと顔を拭った。
「明日からはどうなされますか?」
「旅を続けて、どこかでまた歌いたいと思います」
ここで気になった事を聞いてみることにする。
「そういえば、ここよりずっと南の空が赤く見えたのですが……」
「ああ、それは鉱山の国ですな。良質な金属を採掘できる国で、それを他国に売ることで栄えています。さらに、その金属を使って火や水で動く様々なものを作っているそうです」
「へえ! 何か凄く面白そうですね!」
僕の胸の中で「男の子」の部分がはしゃいでいる。
火や水で勝手に動く何か。
とても見てみたい!
「ええ、私も一度行った事がありますが……いや、ロイさんが行かれた時の楽しみを邪魔しないよう、秘密にしておきましょう」
「楽しそうだなぁ」
僕は明日からの目的地を鉱山の国にすることを決めたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌朝、村長さん、リラちゃんをはじめ村人が総出で見送りに来てくれた。
村長の娘さんは道中の食事にとお弁当まで作ってくれた。
「すみません、皆さんお忙しいのに見送りまで」
「何を言われますか。忙しくなったのもロイさんのお陰です。」
「ええ、旅のご無事を祈ってます」
皆が口々に声をかけてくれる中、リラちゃんだけは俯いていた。
僕は胸が痛くなる。別れはどんな形でも寂しい。
長引かせるのも……辛くなるだけかな。
僕は皆と距離をとるため歩く。
「~~♪」
[神技・具現を使用します]
魔竜を呼び出すと村人から歓声が上がる。
首元に紐を渡し背に乗ると、魔竜はゆっくりと上昇を始める。
脚が地を離れ……屋根の高さを越え……
「お兄ちゃん! ありがとう! また、また来てね!」
リラちゃんが駆けながら叫ぶのが見える。
「うん、必ず。また来るよ!」
僕は再び歌う。[豊饒の実りと豊穣の恵み]を。
「~~♪」
[神業・魔歌を使用します]
[神技・具現を使用します]
村から見て川の対岸、枯れ果てた草だらけだった土地にどんどん緑が芽吹き、色鮮やかな花畑が生まれる。
「わあ!」
リラちゃんの嬉しそうな声が聞こえる。
「皆さん、お元気で! またお会いする日まで!」
魔竜は「もういいかな?」という視線を向けた後、南へ向かって飛び出した。
僕と皆は、お互いが見えなくなるまで手を振り続けたのだった。
皆が寝静まった真夜中……僕は寝床として貸して頂いた空き家を出て、小声で歌って魔竜を呼ぶ。
「ごめんね、あの山まで頼みたいんだ」
紐を首に掛けて背に乗ると、魔竜は「ヤレヤレ」と言いたそうに鼻を鳴らして羽ばたいた。
山の湖には水が溜まり、川へ向かっても水が流れ出していた。
「水源も生き返っていると良いんだけど。こればかりは本当の神様か女神様にお願いしないと」
僕は祈るように指を組む
歌の力は永遠に続く訳じゃない。
それに……ずっと雨を降らせ続けられたとしても、それはそれで山を崩してしまう。
自然は自然の力に任せるしか無いのだ。
「さて、戻ろうか」
魔竜の背に乗ると、あっという間に上昇する。
空高く昇った魔竜の背で、僕は南の方角を見る。
山に来る時も気になったけど、遠くの空が赤く見えるのだ。
(なんだろう……気になるなぁ)
魔竜が速度を上げて村へと飛ぶ。
あっという間に村へと到着し、魔竜の背から降りる。
「ありがとう。助かったよ」
額を撫でると、魔竜は小さく喉を鳴らして消えた。
「……今のは竜ですか?」
暗がりから声が聞こえて思わず身構える。
近付いて来たのは村長さんだった。
「えーと、今のは……」
何か誤魔化した方が良いだろうか?
「いえ、良いのです。詮索などしません。村の者も同じ気持ちでしょう。」
村長さんは深々と頭を下げる。
「本当にありがとうございました。ロイさんのお陰で次の実りまで命を繋ぐ事ができます」
色々と聞きたいだろうに……気を遣ってくれたんだな。
僕も誠実でありたい。誤魔化すのはやめよう。
「こちらこそありがとうございます。僕の歌が少しでも役に立ったなら、良かったです」
顔を上げた村長はひとつ肯くと顔を拭った。
「明日からはどうなされますか?」
「旅を続けて、どこかでまた歌いたいと思います」
ここで気になった事を聞いてみることにする。
「そういえば、ここよりずっと南の空が赤く見えたのですが……」
「ああ、それは鉱山の国ですな。良質な金属を採掘できる国で、それを他国に売ることで栄えています。さらに、その金属を使って火や水で動く様々なものを作っているそうです」
「へえ! 何か凄く面白そうですね!」
僕の胸の中で「男の子」の部分がはしゃいでいる。
火や水で勝手に動く何か。
とても見てみたい!
「ええ、私も一度行った事がありますが……いや、ロイさんが行かれた時の楽しみを邪魔しないよう、秘密にしておきましょう」
「楽しそうだなぁ」
僕は明日からの目的地を鉱山の国にすることを決めたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌朝、村長さん、リラちゃんをはじめ村人が総出で見送りに来てくれた。
村長の娘さんは道中の食事にとお弁当まで作ってくれた。
「すみません、皆さんお忙しいのに見送りまで」
「何を言われますか。忙しくなったのもロイさんのお陰です。」
「ええ、旅のご無事を祈ってます」
皆が口々に声をかけてくれる中、リラちゃんだけは俯いていた。
僕は胸が痛くなる。別れはどんな形でも寂しい。
長引かせるのも……辛くなるだけかな。
僕は皆と距離をとるため歩く。
「~~♪」
[神技・具現を使用します]
魔竜を呼び出すと村人から歓声が上がる。
首元に紐を渡し背に乗ると、魔竜はゆっくりと上昇を始める。
脚が地を離れ……屋根の高さを越え……
「お兄ちゃん! ありがとう! また、また来てね!」
リラちゃんが駆けながら叫ぶのが見える。
「うん、必ず。また来るよ!」
僕は再び歌う。[豊饒の実りと豊穣の恵み]を。
「~~♪」
[神業・魔歌を使用します]
[神技・具現を使用します]
村から見て川の対岸、枯れ果てた草だらけだった土地にどんどん緑が芽吹き、色鮮やかな花畑が生まれる。
「わあ!」
リラちゃんの嬉しそうな声が聞こえる。
「皆さん、お元気で! またお会いする日まで!」
魔竜は「もういいかな?」という視線を向けた後、南へ向かって飛び出した。
僕と皆は、お互いが見えなくなるまで手を振り続けたのだった。
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