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第74話 魔王と魔人
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敬愛の込められた目でニュクスを見つめるホーラさんを、私はどうしたら良いのだろうか?
その言葉を遮れば良いのか?
『魔王の生まれ変わりかも知れないけど、それは伝えないで欲しい』
そう、彼を止めて喉まで出かけた物を彼に吐き出すなら……私『だけ』は楽になるのかも知れない。
(解ってなきゃ……気付いていなきゃいけなかったんだ……魔人なら気付くかも知れないって……)
手を伸ばそうとした私の肩に手が置かれるのを感じる。
振り返ると手を置いたのはバイアンだと判った。
そのまま軽く肩を引かれ、その場を離れるように促される。
ニュクスの側を離れたく無い気持ちと、消化できない迷いとに揺れている私は少し離れた所で脚を止める。
「私は……どうしたら……」
「ああと……怒らないで欲しいんですが」
大きな体を縮ませるようにしながら、バイアンが口を開く。
「ニュクス様は知ってますよ。自分が魔王の生まれ変わりだと」
「……え?」
どうして。私は隠して来た。
魔王の生まれ変わりだなんて知って欲しく無かったから……?
魔王が憎い訳じゃ無い。少しの間だけしか話せなかったけど、その少しだけで理解し合えた内容は決して不快なものじゃ無かったのだから。
ただ、ニュクスには苦労して欲しく無かった。
普通の人間として、普通の弟として……
「ただ普通の弟として、生きて欲しかった」
思わず漏らしてしまった言葉にバイアンが更に小さくなり、苦しそうな顔で続ける。
「そのお気持ち、解らなくも無いんです。でも、それは神の……アイリス様の我儘です」
その言葉に、思わず血が沸騰したように感じた。
「何が……何が解るのよ! ニュクスは私の弟なの! 可愛い……大切な、たった2人しかいない私の家族なの!」
「……すみません。俺にはもう家族はいないし、そもそも物心ついた時にはそんな物居なかったんで確かに解るなんて言えません」
「……ごめん」
酷い事を言ってしまった。それでも、それは私の本心で、本音だった。
姉として、ニュクスに幸せになって欲しいのだ。
「それでも言わせて貰えば……ニュクス様はご自身を疑っておられました。自分は実は魔人だったりしないか、と。幼い頃に拾われたりしたのでは無いかとまで」
「そんな! どうして……」
「いや……そりゃあ普通は気になると思いますが? 自分が人間離れした魔力と魔法の才能を持ち……明らかに同世代より高い知性を持ってりゃ……」
「でもニュクスは普通の人間です……私の弟です」
振り返った私の目に入るニュクスの背中は……何故か私が思っていなかったほど大きく見える。
「ニュクス様もそう仰ってましたよ。ヘルムスもニュクス様は普通の人間だと答えてましたから。俺の目が間違っていなければ、とても嬉しそうにされてました」
背中にかけられた言葉で、私の迷いは無くなった。
駆け出して、ニュクスを背中から抱きしめる。
「ね、姉さん?」
「ニュクスは!」
振り向こうとするニュクスを抱き締めて、顔を見られないようにする。
泣いてる所はあまり見せたく無いから。
「この子は私の大切な弟です。貴方達にとっても大切な存在なのは判ります。でも、魔王の代わりにはさせられません。私が、させません!」
呆気にとられたように目を見開いていたホーラさんが、ニュクスに向けていたのと同じ視線を私にも向けてくる。
「解っております、聖女様。この方はあなた様の弟君で、大切な家族なのでしょう。私達も魔王様を掲げて復讐等と愚かな真似はしません。ただ、平和に生きる道を示す手助けをして欲しいとお願いしていたのです」
「はい。僕は何か出来る程に立派な人間では無いので、姉さんと相談したいと……姉さん?」
「うっ……ううっ……良かった……」
私はとても身勝手で小さい人間なのかも知れない。いや、きっとそうなのだろう。
それでも、大切な弟を失わずに済む安堵で涙が止まらないのだった。
その言葉を遮れば良いのか?
『魔王の生まれ変わりかも知れないけど、それは伝えないで欲しい』
そう、彼を止めて喉まで出かけた物を彼に吐き出すなら……私『だけ』は楽になるのかも知れない。
(解ってなきゃ……気付いていなきゃいけなかったんだ……魔人なら気付くかも知れないって……)
手を伸ばそうとした私の肩に手が置かれるのを感じる。
振り返ると手を置いたのはバイアンだと判った。
そのまま軽く肩を引かれ、その場を離れるように促される。
ニュクスの側を離れたく無い気持ちと、消化できない迷いとに揺れている私は少し離れた所で脚を止める。
「私は……どうしたら……」
「ああと……怒らないで欲しいんですが」
大きな体を縮ませるようにしながら、バイアンが口を開く。
「ニュクス様は知ってますよ。自分が魔王の生まれ変わりだと」
「……え?」
どうして。私は隠して来た。
魔王の生まれ変わりだなんて知って欲しく無かったから……?
魔王が憎い訳じゃ無い。少しの間だけしか話せなかったけど、その少しだけで理解し合えた内容は決して不快なものじゃ無かったのだから。
ただ、ニュクスには苦労して欲しく無かった。
普通の人間として、普通の弟として……
「ただ普通の弟として、生きて欲しかった」
思わず漏らしてしまった言葉にバイアンが更に小さくなり、苦しそうな顔で続ける。
「そのお気持ち、解らなくも無いんです。でも、それは神の……アイリス様の我儘です」
その言葉に、思わず血が沸騰したように感じた。
「何が……何が解るのよ! ニュクスは私の弟なの! 可愛い……大切な、たった2人しかいない私の家族なの!」
「……すみません。俺にはもう家族はいないし、そもそも物心ついた時にはそんな物居なかったんで確かに解るなんて言えません」
「……ごめん」
酷い事を言ってしまった。それでも、それは私の本心で、本音だった。
姉として、ニュクスに幸せになって欲しいのだ。
「それでも言わせて貰えば……ニュクス様はご自身を疑っておられました。自分は実は魔人だったりしないか、と。幼い頃に拾われたりしたのでは無いかとまで」
「そんな! どうして……」
「いや……そりゃあ普通は気になると思いますが? 自分が人間離れした魔力と魔法の才能を持ち……明らかに同世代より高い知性を持ってりゃ……」
「でもニュクスは普通の人間です……私の弟です」
振り返った私の目に入るニュクスの背中は……何故か私が思っていなかったほど大きく見える。
「ニュクス様もそう仰ってましたよ。ヘルムスもニュクス様は普通の人間だと答えてましたから。俺の目が間違っていなければ、とても嬉しそうにされてました」
背中にかけられた言葉で、私の迷いは無くなった。
駆け出して、ニュクスを背中から抱きしめる。
「ね、姉さん?」
「ニュクスは!」
振り向こうとするニュクスを抱き締めて、顔を見られないようにする。
泣いてる所はあまり見せたく無いから。
「この子は私の大切な弟です。貴方達にとっても大切な存在なのは判ります。でも、魔王の代わりにはさせられません。私が、させません!」
呆気にとられたように目を見開いていたホーラさんが、ニュクスに向けていたのと同じ視線を私にも向けてくる。
「解っております、聖女様。この方はあなた様の弟君で、大切な家族なのでしょう。私達も魔王様を掲げて復讐等と愚かな真似はしません。ただ、平和に生きる道を示す手助けをして欲しいとお願いしていたのです」
「はい。僕は何か出来る程に立派な人間では無いので、姉さんと相談したいと……姉さん?」
「うっ……ううっ……良かった……」
私はとても身勝手で小さい人間なのかも知れない。いや、きっとそうなのだろう。
それでも、大切な弟を失わずに済む安堵で涙が止まらないのだった。
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