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第73話 一歩、一歩
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ザク……ザク……
渓谷に溜まった砂と土を踏み鳴らすように歩く。
先導する魔人達が時折り振り返りながら様子を伺って来ている。
「まだ油断は禁物です」
私の隣を歩くニュクスが囁いて来る。
確かに、まだ打ち解けた雰囲気とはとても言えず、むしろ隙を見せれば襲いかかって来るように思える。
「ん……でも、本当に驚いたよ。まさかニュクスが来るなんて」
「それは……放っておけませんから……」
ワシャワシャ
頬を染めて目を逸らすニュクスに、思わずその頭を撫でてしまう。
本当に、家族想いの良い子なのだ。
姉としては危険な場所に来て欲しくなかった気持ちもあるが、助けて貰った上に実際にニュクスは強い。
照れたような顔を見ていると忘れそうになる……魔王の生まれ変わりという事実。
魔人と深く関わって行こうとしている私は、弟にとって良い環境と悪い環境……どちらをもたらそうとしているのか?
良い方向であって欲しいし、そうする為の努力はしたいと思って……
「っ、姉さん!」
「え?」
ニュクスが咄嗟に私を庇うように前に立つ。
先導していた魔人が空に手の平を向けて魔法を放つと火球が高く上がり、音を立てて爆発四散する。
「集落に対しての帰還の合図だ。これをしないと俺達も攻撃されるようになっている」
彼等が語ってくれた所によると『人質にされて集落に案内させられる』等という非常事態では敢えて合図をせずに……敵ごと倒される規則らしい。
これまでに何度かそういう事があり、数名が命を落としているとも聞いた。
(そこまでしてこの場所に……)
「すみません姉さん。気が逸り過ぎました」
「ううん、ありがとうニュクス。でも無茶はしないでね?」
姉を守って弟が怪我をした、では父母に合わせる顔が無くなってしまうし……何より傷付くニュクスを見たくない。
「集落に着いた訳だが……」
先導してくれていた魔人が手を挙げると、申し訳無いが建物と呼ぶには粗末過ぎる住居の影から次々と魔人が現れる。
「確認する。我々に対しての害意は……」
「無い。我が神に誓おう」
「バイアン、それって誓われた私に害意があったら何の意味も無いと思うんだけど……」
何となく発した言葉にバイアンの目が大きく見開かれそのまま膝をつく。
「確かに! 約束と神の意思……俺に選べと言うのか……?、俺が約束を破ったら幾らでも罵ってくれ。踏み付けてくれても良い」
選べとは言ってない。
その状況になったら罵っても手遅れだし。
踏み付ける発言では少し嬉しそうな顔をしているので罰になりそうも無い。
「えと、取り敢えず武器になりそうな物は預けるし監視のために誰かが背後に立つとか、貴方達が安心できるように何か対策をして貰えると嬉しいかな?」
バイアンについては可哀想だけど一旦放置という決断をした。
その様子と私の発言で毒気を抜かれたような顔をした魔人達は安心したように息を吐く。
「疑ってばかりで済まない。我々も長き迫害と幾度もの仲間の犠牲により簡単に信用出来ない程度の経験を積んで来ているのだ」
「ん、よく知らないのにって言われるかも知れないけど……理解したいと思ってはいるから。貴方達の思うままにしてね」
頷いた魔人達の中で、魔神としては珍しい老人のような見た目の人が進み出て頭を下げる。
「貴方は聖女様ですな? 昔一度だけ見た聖女様とよく似た雰囲気をお持ちだ」
「はい。私はアイリス……仰る通り聖女として振る舞わせて頂いています」
老人は2度ほど頷くと、シワの深い手を差し伸べて笑顔を見せてくれる。
「私はこの集団の纏め役をしているホーラと申します。何分生きるのに必死な状況が長かったので……無礼な態度があった事は何卒お許し願いたい」
頷く私に微笑んだホーラさんはそのまま視線を横へと滑らせる。
「失礼ですが、先ほど感じられた強大な魔力は貴方様で間違いありませんかな?」
険しい顔のまま頷くニュクスを見てホーラさんの目に薄らと涙がこみ上げる。
「ああ……やはりそうですか。我が主よ、よくぞお戻りに」
その瞬間、私は私の呼吸が止まるのを感じた。
渓谷に溜まった砂と土を踏み鳴らすように歩く。
先導する魔人達が時折り振り返りながら様子を伺って来ている。
「まだ油断は禁物です」
私の隣を歩くニュクスが囁いて来る。
確かに、まだ打ち解けた雰囲気とはとても言えず、むしろ隙を見せれば襲いかかって来るように思える。
「ん……でも、本当に驚いたよ。まさかニュクスが来るなんて」
「それは……放っておけませんから……」
ワシャワシャ
頬を染めて目を逸らすニュクスに、思わずその頭を撫でてしまう。
本当に、家族想いの良い子なのだ。
姉としては危険な場所に来て欲しくなかった気持ちもあるが、助けて貰った上に実際にニュクスは強い。
照れたような顔を見ていると忘れそうになる……魔王の生まれ変わりという事実。
魔人と深く関わって行こうとしている私は、弟にとって良い環境と悪い環境……どちらをもたらそうとしているのか?
良い方向であって欲しいし、そうする為の努力はしたいと思って……
「っ、姉さん!」
「え?」
ニュクスが咄嗟に私を庇うように前に立つ。
先導していた魔人が空に手の平を向けて魔法を放つと火球が高く上がり、音を立てて爆発四散する。
「集落に対しての帰還の合図だ。これをしないと俺達も攻撃されるようになっている」
彼等が語ってくれた所によると『人質にされて集落に案内させられる』等という非常事態では敢えて合図をせずに……敵ごと倒される規則らしい。
これまでに何度かそういう事があり、数名が命を落としているとも聞いた。
(そこまでしてこの場所に……)
「すみません姉さん。気が逸り過ぎました」
「ううん、ありがとうニュクス。でも無茶はしないでね?」
姉を守って弟が怪我をした、では父母に合わせる顔が無くなってしまうし……何より傷付くニュクスを見たくない。
「集落に着いた訳だが……」
先導してくれていた魔人が手を挙げると、申し訳無いが建物と呼ぶには粗末過ぎる住居の影から次々と魔人が現れる。
「確認する。我々に対しての害意は……」
「無い。我が神に誓おう」
「バイアン、それって誓われた私に害意があったら何の意味も無いと思うんだけど……」
何となく発した言葉にバイアンの目が大きく見開かれそのまま膝をつく。
「確かに! 約束と神の意思……俺に選べと言うのか……?、俺が約束を破ったら幾らでも罵ってくれ。踏み付けてくれても良い」
選べとは言ってない。
その状況になったら罵っても手遅れだし。
踏み付ける発言では少し嬉しそうな顔をしているので罰になりそうも無い。
「えと、取り敢えず武器になりそうな物は預けるし監視のために誰かが背後に立つとか、貴方達が安心できるように何か対策をして貰えると嬉しいかな?」
バイアンについては可哀想だけど一旦放置という決断をした。
その様子と私の発言で毒気を抜かれたような顔をした魔人達は安心したように息を吐く。
「疑ってばかりで済まない。我々も長き迫害と幾度もの仲間の犠牲により簡単に信用出来ない程度の経験を積んで来ているのだ」
「ん、よく知らないのにって言われるかも知れないけど……理解したいと思ってはいるから。貴方達の思うままにしてね」
頷いた魔人達の中で、魔神としては珍しい老人のような見た目の人が進み出て頭を下げる。
「貴方は聖女様ですな? 昔一度だけ見た聖女様とよく似た雰囲気をお持ちだ」
「はい。私はアイリス……仰る通り聖女として振る舞わせて頂いています」
老人は2度ほど頷くと、シワの深い手を差し伸べて笑顔を見せてくれる。
「私はこの集団の纏め役をしているホーラと申します。何分生きるのに必死な状況が長かったので……無礼な態度があった事は何卒お許し願いたい」
頷く私に微笑んだホーラさんはそのまま視線を横へと滑らせる。
「失礼ですが、先ほど感じられた強大な魔力は貴方様で間違いありませんかな?」
険しい顔のまま頷くニュクスを見てホーラさんの目に薄らと涙がこみ上げる。
「ああ……やはりそうですか。我が主よ、よくぞお戻りに」
その瞬間、私は私の呼吸が止まるのを感じた。
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