転生聖女は休まらない 〜スローライフがしたいのに弟2人が自重しない件〜

花月風流

文字の大きさ
上 下
69 / 74

第69話 ローサの決断

しおりを挟む
「では、我々はこれで」
「はい、お疲れ様です」

 野盗の襲来があった翌日、王都から来た兵士への引き渡しが行われた。
 兵士の言う所によると国境を越えての不法行為な上、人身売買を繰り返していた集団であり、恐らくは全員極刑だろう、との事だった。
 反省の色は全く見られず……悪態をついたり罵倒の言葉を吐いたりで見張り役をしてくれたバイアンが呆れる程だった。

『魔人は好事家に高く売れる』

 その発言は彼等が連行された後も私の胸に抜けない棘のように刺さったままだった。

「あ~……聖女様、あまり抱え込まない方が良いですよ」

 体力は人の何倍もあるからと夜通しの見張りをしてくれたバイアンが声をかけてくる。

「ん、ごめんね。あと、ありがとう」

 テーブルに腰掛けるバイアンにお茶を渡して小さく溜息を吐く。
 疲れていない筈が無いバイアンに気を遣わせている自分が情け無くなるけど……どうしても飲み込めないのだ。

「しかし、意外でしたね。あの北から来たお嬢ちゃん」
「ああ、ローサ?」
「ええ。過去の事を考えるととても魔人と仲良く出来るとは思え無いとこなんですが」

 バイアンが言うのは立場的には解らなくも無い。
 というのも、野盗の騒動があった後ローサが突然言い出したのだが……

━━━━━━

「ねえ、貴女達。今後のあてはあるの?」

「それは……またどこかへ流れて……」

 ローサの言葉に魔人の母が口籠る。
 今のような騒動は初めてでは無く……ただでさえ危険な母娘の2人旅。それが魔人だと知られれば当然危険は増すばかりで……
 そんな日々に精神も体力も磨り減ってしまい身体を壊したそうだ。

「お姉様、お願いがあります。北からの輸入品を売る店をここに作らせて頂けませんか?」

「ええ、もちろん」

 話の流れからもローサの性格からも何を言いたいのかは直ぐに判った。
 私も同じ様な提案をしようと思っていたのもあり、ローサに快く頷く。

「ありがとうお姉様! ……貴女が嫌じゃ無ければそのお店の経営をお願い出来ないかしら?」

「そんな……私のように経験も無く……まして私は魔人です」

 ローサに手を取られた魔人の母は困ったように私とローサを見る。
 私は安心して貰えるよう、なるべくゆっくりと笑顔で話しかけた。

「良いんじゃ無いでしょうか? 行商の経験はお有りのようですし、商品の助言だけローサに頼れば大丈夫だと思いますよ。それに魔人という事なら……」

 耳を澄ませるまでも無く、外で楽しそうに遊ぶプロイと少女の声が聴こえる。
 私の隣に座るローサも、同じく席に着いているバイアンも笑顔で頷く。

「ああ……ありがとうございます……なんとお礼を言えば良いのか……」

 卓に伏して肩を震わせる女性の肩をローサが優しく撫でている。
 大丈夫だ。ここならきっと大丈夫。私達が必ず人と魔人の共存が可能だと示して行ける。
 私の望む穏やかな日常というものに、それはもう省く事など出来ない要素になったのだから。

━━━━

「私はそんなに意外じゃ無かったよ」

 私の言葉にバイアンが微笑む。

「そうですか。どうやらあのお嬢ちゃんも我が神の影響を受けられたようで」

「そんな事……ローサは元から良い子だもん」

 影響を、と言われて熱くなる頬を隠すため外方を向いて応える。
 バイアンは軽く首を振ると、どの建物を住居兼商店にするかと見て回るローサと魔人の母娘が歩くのを指差す。

「北ではヘルムスが国相手にやらかしてますからね。お嬢ちゃんも最初は魔人に対して好意的じゃ無かった筈ですよ。それが変わったのは我が神の影響でしょう」

「ローサがあの人達の事を考えて決めた事だから。私は応援するだけよ」

 葛藤はあったかも知れないし、迷いが全く無い訳じゃ無いかも知れない。
 それでも迷い無く手を差し伸べる事が出来るローサは……私の自慢の妹分なのだ。

「あっ、その建物だけは駄目ですわ! そこは私とお姉様の愛の巣になる予定ですの!」

 ……ローサ?

「はは……あれも応援なさるんですか?」

 バイアンが苦笑しつつ肩をすくめる。

「……さて、お茶でも飲もうかな。バイアンも飲む?」

「はっ、ありがたく頂戴します」

 ローサの叫びは聞かなかった事にして、私達はお茶を飲む事にしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セイントガールズ・オルタナティブ

早見羽流
ファンタジー
西暦2222年。魔王の操る魔物の侵略を受ける日本には、魔物に対抗する魔導士を育成する『魔導高専』という学校がいくつも存在していた。 魔力に恵まれない家系ながら、突然変異的に優れた魔力を持つ一匹狼の少女、井川佐紀(いかわさき)はその中で唯一の女子校『征華女子魔導高専』に入学する。姉妹(スール)制を導入し、姉妹の関係を重んじる征華女子で、佐紀に目をつけたのは3年生のアンナ=カトリーン・フェルトマイアー、異世界出身で勇者の血を引くという変わった先輩だった。 征華の寮で仲間たちや先輩達と過ごすうちに、佐紀の心に少しづつ変化が現れる。でもそれはアンナも同じで……? 終末感漂う世界で、少女たちが戦いながら成長していく物語。 素敵な表紙イラストは、つむりまい様(Twitter→@my_my_tsumuri)より

恥ずかしい 変身ヒロインになりました、なぜならゼンタイを着ただけのようにしか見えないから!

ジャン・幸田
ファンタジー
ヒーローは、 憧れ かもしれない しかし実際になったのは恥ずかしい格好であった! もしかすると 悪役にしか見えない? 私、越智美佳はゼットダンのメンバーに適性があるという理由で選ばれてしまった。でも、恰好といえばゼンタイ(全身タイツ)を着ているだけにしかみえないわ! 友人の長谷部恵に言わせると「ボディラインが露わだしいやらしいわ! それにゼンタイってボディスーツだけど下着よね。法律違反ではないの?」 そんなこと言われるから誰にも言えないわ! でも、街にいれば出動要請があれば変身しなくてはならないわ! 恥ずかしい!

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

巻き込まれたんだけど、お呼びでない?

ももがぶ
ファンタジー
メタボ気味というには手遅れな、その体型で今日も営業に精を出し歩き回って一日が終わり、公園のベンチに座りコンビニで購入したストロング缶をあおりながら、仕事の愚痴を吐く。 それが日課になっていたが、今日はなにか様子が違う。 公園に入ってきた男二人、女一人の近くの高校の制服を着た男女の三人組。 なにかを言い合いながら、こっちへと近付いてくる。 おいおい、巻き添えなんかごめんだぞと思っていたが、彼らの足元に魔法陣の様な紋様が光りだす。 へ〜綺麗だなとか思っていたら、座っていたベンチまで光に包まれる。 なにかやばいとベンチの上に立つと、いつの間にかさっきの女子高校生も横に立っていた。 彼らが光に包まれると同時にこの場から姿を消す。 「マジか……」 そう思っていたら、自分達の体も光りだす。 「怖い……」 そう言って女子高校生に抱き付かれるが俺だって怖いんだよ。

処理中です...