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第69話 ローサの決断
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「では、我々はこれで」
「はい、お疲れ様です」
野盗の襲来があった翌日、王都から来た兵士への引き渡しが行われた。
兵士の言う所によると国境を越えての不法行為な上、人身売買を繰り返していた集団であり、恐らくは全員極刑だろう、との事だった。
反省の色は全く見られず……悪態をついたり罵倒の言葉を吐いたりで見張り役をしてくれたバイアンが呆れる程だった。
『魔人は好事家に高く売れる』
その発言は彼等が連行された後も私の胸に抜けない棘のように刺さったままだった。
「あ~……聖女様、あまり抱え込まない方が良いですよ」
体力は人の何倍もあるからと夜通しの見張りをしてくれたバイアンが声をかけてくる。
「ん、ごめんね。あと、ありがとう」
テーブルに腰掛けるバイアンにお茶を渡して小さく溜息を吐く。
疲れていない筈が無いバイアンに気を遣わせている自分が情け無くなるけど……どうしても飲み込めないのだ。
「しかし、意外でしたね。あの北から来たお嬢ちゃん」
「ああ、ローサ?」
「ええ。過去の事を考えるととても魔人と仲良く出来るとは思え無いとこなんですが」
バイアンが言うのは立場的には解らなくも無い。
というのも、野盗の騒動があった後ローサが突然言い出したのだが……
━━━━━━
「ねえ、貴女達。今後のあてはあるの?」
「それは……またどこかへ流れて……」
ローサの言葉に魔人の母が口籠る。
今のような騒動は初めてでは無く……ただでさえ危険な母娘の2人旅。それが魔人だと知られれば当然危険は増すばかりで……
そんな日々に精神も体力も磨り減ってしまい身体を壊したそうだ。
「お姉様、お願いがあります。北からの輸入品を売る店をここに作らせて頂けませんか?」
「ええ、もちろん」
話の流れからもローサの性格からも何を言いたいのかは直ぐに判った。
私も同じ様な提案をしようと思っていたのもあり、ローサに快く頷く。
「ありがとうお姉様! ……貴女が嫌じゃ無ければそのお店の経営をお願い出来ないかしら?」
「そんな……私のように経験も無く……まして私は魔人です」
ローサに手を取られた魔人の母は困ったように私とローサを見る。
私は安心して貰えるよう、なるべくゆっくりと笑顔で話しかけた。
「良いんじゃ無いでしょうか? 行商の経験はお有りのようですし、商品の助言だけローサに頼れば大丈夫だと思いますよ。それに魔人という事なら……」
耳を澄ませるまでも無く、外で楽しそうに遊ぶプロイと少女の声が聴こえる。
私の隣に座るローサも、同じく席に着いているバイアンも笑顔で頷く。
「ああ……ありがとうございます……なんとお礼を言えば良いのか……」
卓に伏して肩を震わせる女性の肩をローサが優しく撫でている。
大丈夫だ。ここならきっと大丈夫。私達が必ず人と魔人の共存が可能だと示して行ける。
私の望む穏やかな日常というものに、それはもう省く事など出来ない要素になったのだから。
━━━━
「私はそんなに意外じゃ無かったよ」
私の言葉にバイアンが微笑む。
「そうですか。どうやらあのお嬢ちゃんも我が神の影響を受けられたようで」
「そんな事……ローサは元から良い子だもん」
影響を、と言われて熱くなる頬を隠すため外方を向いて応える。
バイアンは軽く首を振ると、どの建物を住居兼商店にするかと見て回るローサと魔人の母娘が歩くのを指差す。
「北ではヘルムスが国相手にやらかしてますからね。お嬢ちゃんも最初は魔人に対して好意的じゃ無かった筈ですよ。それが変わったのは我が神の影響でしょう」
「ローサがあの人達の事を考えて決めた事だから。私は応援するだけよ」
葛藤はあったかも知れないし、迷いが全く無い訳じゃ無いかも知れない。
それでも迷い無く手を差し伸べる事が出来るローサは……私の自慢の妹分なのだ。
「あっ、その建物だけは駄目ですわ! そこは私とお姉様の愛の巣になる予定ですの!」
……ローサ?
「はは……あれも応援なさるんですか?」
バイアンが苦笑しつつ肩をすくめる。
「……さて、お茶でも飲もうかな。バイアンも飲む?」
「はっ、ありがたく頂戴します」
ローサの叫びは聞かなかった事にして、私達はお茶を飲む事にしたのだった。
「はい、お疲れ様です」
野盗の襲来があった翌日、王都から来た兵士への引き渡しが行われた。
兵士の言う所によると国境を越えての不法行為な上、人身売買を繰り返していた集団であり、恐らくは全員極刑だろう、との事だった。
反省の色は全く見られず……悪態をついたり罵倒の言葉を吐いたりで見張り役をしてくれたバイアンが呆れる程だった。
『魔人は好事家に高く売れる』
その発言は彼等が連行された後も私の胸に抜けない棘のように刺さったままだった。
「あ~……聖女様、あまり抱え込まない方が良いですよ」
体力は人の何倍もあるからと夜通しの見張りをしてくれたバイアンが声をかけてくる。
「ん、ごめんね。あと、ありがとう」
テーブルに腰掛けるバイアンにお茶を渡して小さく溜息を吐く。
疲れていない筈が無いバイアンに気を遣わせている自分が情け無くなるけど……どうしても飲み込めないのだ。
「しかし、意外でしたね。あの北から来たお嬢ちゃん」
「ああ、ローサ?」
「ええ。過去の事を考えるととても魔人と仲良く出来るとは思え無いとこなんですが」
バイアンが言うのは立場的には解らなくも無い。
というのも、野盗の騒動があった後ローサが突然言い出したのだが……
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「ねえ、貴女達。今後のあてはあるの?」
「それは……またどこかへ流れて……」
ローサの言葉に魔人の母が口籠る。
今のような騒動は初めてでは無く……ただでさえ危険な母娘の2人旅。それが魔人だと知られれば当然危険は増すばかりで……
そんな日々に精神も体力も磨り減ってしまい身体を壊したそうだ。
「お姉様、お願いがあります。北からの輸入品を売る店をここに作らせて頂けませんか?」
「ええ、もちろん」
話の流れからもローサの性格からも何を言いたいのかは直ぐに判った。
私も同じ様な提案をしようと思っていたのもあり、ローサに快く頷く。
「ありがとうお姉様! ……貴女が嫌じゃ無ければそのお店の経営をお願い出来ないかしら?」
「そんな……私のように経験も無く……まして私は魔人です」
ローサに手を取られた魔人の母は困ったように私とローサを見る。
私は安心して貰えるよう、なるべくゆっくりと笑顔で話しかけた。
「良いんじゃ無いでしょうか? 行商の経験はお有りのようですし、商品の助言だけローサに頼れば大丈夫だと思いますよ。それに魔人という事なら……」
耳を澄ませるまでも無く、外で楽しそうに遊ぶプロイと少女の声が聴こえる。
私の隣に座るローサも、同じく席に着いているバイアンも笑顔で頷く。
「ああ……ありがとうございます……なんとお礼を言えば良いのか……」
卓に伏して肩を震わせる女性の肩をローサが優しく撫でている。
大丈夫だ。ここならきっと大丈夫。私達が必ず人と魔人の共存が可能だと示して行ける。
私の望む穏やかな日常というものに、それはもう省く事など出来ない要素になったのだから。
━━━━
「私はそんなに意外じゃ無かったよ」
私の言葉にバイアンが微笑む。
「そうですか。どうやらあのお嬢ちゃんも我が神の影響を受けられたようで」
「そんな事……ローサは元から良い子だもん」
影響を、と言われて熱くなる頬を隠すため外方を向いて応える。
バイアンは軽く首を振ると、どの建物を住居兼商店にするかと見て回るローサと魔人の母娘が歩くのを指差す。
「北ではヘルムスが国相手にやらかしてますからね。お嬢ちゃんも最初は魔人に対して好意的じゃ無かった筈ですよ。それが変わったのは我が神の影響でしょう」
「ローサがあの人達の事を考えて決めた事だから。私は応援するだけよ」
葛藤はあったかも知れないし、迷いが全く無い訳じゃ無いかも知れない。
それでも迷い無く手を差し伸べる事が出来るローサは……私の自慢の妹分なのだ。
「あっ、その建物だけは駄目ですわ! そこは私とお姉様の愛の巣になる予定ですの!」
……ローサ?
「はは……あれも応援なさるんですか?」
バイアンが苦笑しつつ肩をすくめる。
「……さて、お茶でも飲もうかな。バイアンも飲む?」
「はっ、ありがたく頂戴します」
ローサの叫びは聞かなかった事にして、私達はお茶を飲む事にしたのだった。
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