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第67話 母娘と
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頭を抱えていた手を下ろして軽く溜息を吐く。
早く言って欲しかった、と思う反面で知ってしまった事に対しての困惑もあるし葛藤もある。
(何も知らなかったフリをして……という訳にもいかないよね……)
幸せそうにしていて無事にここを通過して行商を続ける、というのなら流れのままでも良かった。
でも今の状況を見て放っておく事も出来ない。
「……損な性格ですなぁ。まあ、我々なんぞを庇護して下さるのだから解りきったことなんですが」
決意して歩き始めた私の横でバイアンが呟く。
その顔はなんだかプロイのように無邪気だったので反論したくなったのを飲み込んでしまった。
(別に、好きで騒動とか面倒ごとに巻き込まれてる訳じゃ無いんだけどね。……性格については前世から含めて治りそうも無いけどさ)
歩きながら少し考える。親と子、どちらと話すべきなのか。
(子の方はプロイと打ち解けてるみたいだし話し易そうだけど……いや、やっぱり親の方と話さないとかな。子供に声をかけてお母さんの方に警戒されると話がし難くなるし)
これでも意外と色々考えているのだ。
「俺はどうしますか?」
「ん……ついて来てくれた方が助かるかな。魔人同士だって知って貰えれば話しやすくなるかも知れないし」
普段は人に警戒されない様に魔人ではなく人間らしい姿をしているバイアン。
もし彼女が人間を警戒していた場合はバイアンが魔人だと伝える事で少しは警戒も薄れるかも知れないのだ。
「あの……あ、そのままで」
声をかけると、少しだけ顔色の良くなった女性が身体を起こそうとする。
慌てて止めると申し訳なさそうに眉を顰める。
(ん~……どう見ても悪い人じゃ無いし……魔人っぽくも無いよね)
頬は窶れているが、元は絶対に綺麗な人だと思う。そして、目が穏やかでとても優しそうだ。
「お休みの所ごめんなさい。少しだけお話がしたくて」
「いえ、この様な格好で申し訳ございません。……私で良ければ何でもお聞きください」
あまり長話をして負担をかけたくないし、良い人に見えた自分の目を信じて本題から入る事にする。
「貴女は魔人ですね?」
私の言葉を聞いた瞬間、女性の身体がビクリと動く。私と合わせていた目を閉じて……少し悩む様に息を吐いた後に目を開いた。
その目はバイアンやヘルムスと同じ魔人の目になっていた。
「仰る通りです……私を……殺されますか? それでも構いません、ただ娘だけは」
「おいおい、落ち着きな」
辛そうに喘ぎながらも言葉を発する女性を制して、バイアンも魔人の姿に変わる。
「え、あ、えっ?」
「この方はただの纏め役じゃ無い。聖女アイリス様だ。……俺ともう一人、魔人を庇護して下さってる」
「そ……んな。人間が魔人を……それに聖女様……?」
驚いたように私を見上げて来る。
しかし、普通は立場が逆だと思う。
(魔人に驚かれる人間になった私……自分でもビックリだなぁ)
「このバイアンの言う通り、少なくとも今は魔人とも仲良く出来ると信じています。そしてこれからもずっとそうであれば良いと願ってもいます」
「それでは、娘は……」
「大丈夫です、安心して下さい。危険視したり何かするつもりだったら弟と遊ばせたりしません」
プロイと女の子はまだ全力で追いかけっこをしている。
魔人と勇者の生まれ変わり……2人とも呆れるほどの体力だ。
「私が聞きたかったのは、何故貴女はそこまで弱っているのか。何故ここに来たのか、です。無理をしなくて良いので、辛くならないよう話して下さい」
横たわる彼女の手を取ると、安心したように深い息を吐いた。
「はい、それは……」
「待った、聖女様……何か北の方が騒がしいぜ」
「え?」
魔人のバイアンは私より気配に敏感で耳も良い。
そんな彼が異常を察知したのなら間違いは……
「お姉様ぁ~!」
「え、ローサ?」
ローサの声が聞こえ、遠くから土煙が上がるのが見える。
「北の嬢ちゃん……ありゃ追われてますね」
「っ! 行かなきゃ」
何があったかは判らないけど追われているとなれば穏やかじゃない話だった。
私とバイアンは並んで土煙の方へ駆け出す。
「ああっ! お姉様ごめんなさい、また山賊に追われてしまいましたの!」
馬上のローサにそのまま駆け抜けるように手で合図して追手に備える。
少しだけ間を置いて視界に入って来たのは野盗の風貌をした男達が11人。
「ちっ、小娘がちょこまか逃げやがるから変な村まで来ちまったじゃねぇか。こうなりゃここも……おい、てめぇら」
髭面の男が馬上から剣で指してくる。
「痛え目に遭いたくなけりゃこの村の金目のもん全部持ってこい。あと女もだ! ……よく見りゃお前、相当な上玉じゃねぇか」
男の言葉に下卑た野次と口笛が続く。
しかし、次の瞬間に……
ゴッ!
馬だけを残して男が遥か後方へと飛んで行った。囃し立てていた周りの男達が静かになる。
「おいおいおい、お前ら……我が神に対してその態度は無いだろう? 俺は温厚なつもりだが、神に対しての無礼だけは見逃してやれんぞ。控え目に言って……全員死ね」
「こ、こいつまさか魔じ」
ガン!
「口を開いていた男がまた馬だけを残して飛んで行った」
「なんだよバイちゃん。悪い奴相手なら俺も混ぜてよ」
二人目の男を飛ばしたのはいつの間にか駆け付けて来たプロイで、嬉しそうに拳を打ち合わせている。
「勿論ですプロイ坊ちゃん」
(悪い奴相手に必要は無いんだけど……)
猛獣より恐ろしい二人の前で驚いてる野党達に対し、ほんの僅かに同情したくなるのは……私が馬鹿なのかなぁ……?
早く言って欲しかった、と思う反面で知ってしまった事に対しての困惑もあるし葛藤もある。
(何も知らなかったフリをして……という訳にもいかないよね……)
幸せそうにしていて無事にここを通過して行商を続ける、というのなら流れのままでも良かった。
でも今の状況を見て放っておく事も出来ない。
「……損な性格ですなぁ。まあ、我々なんぞを庇護して下さるのだから解りきったことなんですが」
決意して歩き始めた私の横でバイアンが呟く。
その顔はなんだかプロイのように無邪気だったので反論したくなったのを飲み込んでしまった。
(別に、好きで騒動とか面倒ごとに巻き込まれてる訳じゃ無いんだけどね。……性格については前世から含めて治りそうも無いけどさ)
歩きながら少し考える。親と子、どちらと話すべきなのか。
(子の方はプロイと打ち解けてるみたいだし話し易そうだけど……いや、やっぱり親の方と話さないとかな。子供に声をかけてお母さんの方に警戒されると話がし難くなるし)
これでも意外と色々考えているのだ。
「俺はどうしますか?」
「ん……ついて来てくれた方が助かるかな。魔人同士だって知って貰えれば話しやすくなるかも知れないし」
普段は人に警戒されない様に魔人ではなく人間らしい姿をしているバイアン。
もし彼女が人間を警戒していた場合はバイアンが魔人だと伝える事で少しは警戒も薄れるかも知れないのだ。
「あの……あ、そのままで」
声をかけると、少しだけ顔色の良くなった女性が身体を起こそうとする。
慌てて止めると申し訳なさそうに眉を顰める。
(ん~……どう見ても悪い人じゃ無いし……魔人っぽくも無いよね)
頬は窶れているが、元は絶対に綺麗な人だと思う。そして、目が穏やかでとても優しそうだ。
「お休みの所ごめんなさい。少しだけお話がしたくて」
「いえ、この様な格好で申し訳ございません。……私で良ければ何でもお聞きください」
あまり長話をして負担をかけたくないし、良い人に見えた自分の目を信じて本題から入る事にする。
「貴女は魔人ですね?」
私の言葉を聞いた瞬間、女性の身体がビクリと動く。私と合わせていた目を閉じて……少し悩む様に息を吐いた後に目を開いた。
その目はバイアンやヘルムスと同じ魔人の目になっていた。
「仰る通りです……私を……殺されますか? それでも構いません、ただ娘だけは」
「おいおい、落ち着きな」
辛そうに喘ぎながらも言葉を発する女性を制して、バイアンも魔人の姿に変わる。
「え、あ、えっ?」
「この方はただの纏め役じゃ無い。聖女アイリス様だ。……俺ともう一人、魔人を庇護して下さってる」
「そ……んな。人間が魔人を……それに聖女様……?」
驚いたように私を見上げて来る。
しかし、普通は立場が逆だと思う。
(魔人に驚かれる人間になった私……自分でもビックリだなぁ)
「このバイアンの言う通り、少なくとも今は魔人とも仲良く出来ると信じています。そしてこれからもずっとそうであれば良いと願ってもいます」
「それでは、娘は……」
「大丈夫です、安心して下さい。危険視したり何かするつもりだったら弟と遊ばせたりしません」
プロイと女の子はまだ全力で追いかけっこをしている。
魔人と勇者の生まれ変わり……2人とも呆れるほどの体力だ。
「私が聞きたかったのは、何故貴女はそこまで弱っているのか。何故ここに来たのか、です。無理をしなくて良いので、辛くならないよう話して下さい」
横たわる彼女の手を取ると、安心したように深い息を吐いた。
「はい、それは……」
「待った、聖女様……何か北の方が騒がしいぜ」
「え?」
魔人のバイアンは私より気配に敏感で耳も良い。
そんな彼が異常を察知したのなら間違いは……
「お姉様ぁ~!」
「え、ローサ?」
ローサの声が聞こえ、遠くから土煙が上がるのが見える。
「北の嬢ちゃん……ありゃ追われてますね」
「っ! 行かなきゃ」
何があったかは判らないけど追われているとなれば穏やかじゃない話だった。
私とバイアンは並んで土煙の方へ駆け出す。
「ああっ! お姉様ごめんなさい、また山賊に追われてしまいましたの!」
馬上のローサにそのまま駆け抜けるように手で合図して追手に備える。
少しだけ間を置いて視界に入って来たのは野盗の風貌をした男達が11人。
「ちっ、小娘がちょこまか逃げやがるから変な村まで来ちまったじゃねぇか。こうなりゃここも……おい、てめぇら」
髭面の男が馬上から剣で指してくる。
「痛え目に遭いたくなけりゃこの村の金目のもん全部持ってこい。あと女もだ! ……よく見りゃお前、相当な上玉じゃねぇか」
男の言葉に下卑た野次と口笛が続く。
しかし、次の瞬間に……
ゴッ!
馬だけを残して男が遥か後方へと飛んで行った。囃し立てていた周りの男達が静かになる。
「おいおいおい、お前ら……我が神に対してその態度は無いだろう? 俺は温厚なつもりだが、神に対しての無礼だけは見逃してやれんぞ。控え目に言って……全員死ね」
「こ、こいつまさか魔じ」
ガン!
「口を開いていた男がまた馬だけを残して飛んで行った」
「なんだよバイちゃん。悪い奴相手なら俺も混ぜてよ」
二人目の男を飛ばしたのはいつの間にか駆け付けて来たプロイで、嬉しそうに拳を打ち合わせている。
「勿論ですプロイ坊ちゃん」
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