転生聖女は休まらない 〜スローライフがしたいのに弟2人が自重しない件〜

花月風流

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第63話 約束

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「これが我々の見た全てです。何者かの力により口で語る事は許されずこの様な形になりました」

 努めて冷静な声を装いながらヘルムスが語った。
 バイアンはそんなヘルムスの背で顔を拭いていた。

「こんな事があったのか……これでは何も伝わらない訳だ」

 レオ陛下が大きな溜息を吐いて椅子に腰を下ろした。
 彼の視線を受けて、立ち尽くしていた皆が椅子に座る。
 私もそれに倣ってなんとか座った。
 流石に自分の死を見るのは中々に……衝撃的だった。

「マリアは……マリアンヌそっくりだったね? ほら、態度も性格も」

 レオ陛下がポツリと漏らした一言に、エーゲルさんが苦笑いする。

「いや、流石にマリアンヌの方が幾分かまともな気もしますが……いや、やっぱり大差無いですかね」

 男性2人が顔を見合わせて苦笑している所に、ヘルムスが真剣な顔をする。

「変わりないでしょう。恐らく、彼女の中身はマリアでしょうから。我が神に対する言動からも確信致しました」

 私もそう思う。アリスだった私がこうしてここに居るのだから、彼女がそうでは無いと言い切れないし……何より今世では身に覚えのない恨みをぶつけられている気がするし……いや、前世のも殆ど逆恨みではあるのだけれど。

「俺達は勇者と魔王様の遺体……聖女様のもな。全てを手厚く葬り、聖女様の復活を待った。あの外道達の遺体は打ち棄てたが」

 バイアンの言葉にヘルムスも頷いた。

「それからの長い年月は逃亡と潜伏の連続でした。魔人はあの時に大半を殺されてしまいましたし、魔王の治められていた土地はどんどん人間によって占領されて行き……所謂魔物と呼ばれた者達も駆逐されて行きました」

 世界から魔法が殆ど失われた理由も、魔物達が居なくなった理由もこれで理解する事が出来た。
 人間の欲によって、魔法使いも魔人も魔物もその数を減らして行ったのだと。

「なるほどなぁ、おっさん達大変だったんだなぁ」

 ずっと口を開いて無かったプロイが『おっさん』と呼んだバイアンの肩を叩いた。
 ニュクスの方は複雑そうな表情で何かを考え込んでいた。

「私達は待ち続けました。そして200年が経とうかというある日……神を名乗る声を聞いたのです」

「『聖女の目覚めは近い。我が教える秘術を用いて聖女の骨を加工しろ。そして聖女が同じ様に命を落とさぬよう、お前達が聖女教を作り我の導きで世の中に広めて行くのだ』ってな。そして後日聖女はマリアンヌだと告げられたわけだ」

 魔人達の説明を聞いて考える。
 恐らくその神というのが……あの少年神なのだろう。

 (あの神はマリアを使って何かをしようとした。それを老神が私を利用して邪魔した? そして今度はマリアの生まれ変わりであるマリアンヌを使って何かしようとしていて……また邪魔する形になった私を前世の恨みを含めて殺そうとした……という事だろうか)

 み……わが……み

「我が神よ、大丈夫ですか?」

「あ、うん。ごめんなさい。少し考え事をしていて」

 私の言葉にヘルムスが安心したように微笑む。
 その後、少し迷ったような顔をしてから私の目を真っ直ぐに見詰める。
 私の前に跪き、あの幼い魔人と同じ目で私を見上げてくる。

「我が神にお尋ねしたい事があります。……貴女は……アリス様……なのですか?」

 私の鼓動がひとつ、大きく鳴った。
 呼吸を忘れそうになる沈黙と、それぞれの感情が込められた視線が私に集中する。
 何と応えれば良いのか?

 『はいそうです』と言った所で簡単に信じられるような話では無いし、気でも触れたと思われるかも知れない。

 『いいえちがいます』と言ったなら、私の平穏は守られるのだろうか? それはあり得ない。あの少年神は私を敵として認識していた。

 それに何より……

 こんな縋るような視線を……あの怯えた幼い魔人と変わらない目を向けて来る相手に……嘘なんてつけるものか。

「ごめん……ね。遅くなって、待たせて。覚えて居られなくて……泣かせて」

 私がヘルムスの頭を撫でると、見上げていたヘルムスの瞳から涙が溢れる。

「寂しかったです、辛かったです」
「うん」
「魔王様も逝かれてしまい、拠り所になるのは出会って間も無い貴女がくれた約束だけで」
「……うん」
「私もバイアンも、迷ったり悩んだりしながら生きて来て……聖女様の為と思ったのに騙されて間違った道を歩んでいたりして……」
「…………うん」
「ごめんなさい……」
「謝る事なんて、無いよ。私の方こそ、ごめんね。本当に、ごめん」

 ヘルムスも、少し遅れて同じように跪いたバイアンもまとめてその頭を抱きしめる。

「お待たせ。約束のお菓子、ちゃんと作ってあげるからね。……美味しいか自信は無いけど、頑張るから」

「大丈夫でしょ。姉ちゃんのお菓子は」
「ああ。姉さんの作るものは世界で一番美味だからな」

 弟達の言葉に、魔人達の頭を抱きしめ涙を流していた私も苦笑してしまう。

 出来るなら、陛下とエーゲルさんも招いて皆でお茶会をしよう。

 これまでの事、これからの事。

 皆で、ちゃんと話していこう。
 
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