転生聖女は休まらない 〜スローライフがしたいのに弟2人が自重しない件〜

花月風流

文字の大きさ
上 下
55 / 74

第55話 踏まれ続ける

しおりを挟む
 近づけば、その山の全貌が見えてきた。
 あの鱗、ドラゴンだろうなー。
 鳥みたいに丸まって、体に首を埋めるようにして眠っているのではないかと思う。
 眠っているうちにその守っているとかいう、白い像をいただきたいところだけど……。
 周りは特に何もない。だだっ広い草地でお眠りになっている感じだ。
 ってことは……。
 身振りでスケボーを貸してと言われ、スコットに貸すと、少し上にあがって上から様子を見ている。
 降りてきた。

 小声でアダムに報告。

「白い何かをお腹に敷くようにして眠ってる」

 マジか。
 その時腕輪が点滅して、2時間たったことを知らせた。
 移動に2時間かからないぐらいの位置ってことだ。帰りの時間を入れると次の点滅までに白い像をなんとか手に入れないと。

「どうする?」

「奴を起こすしかないだろうな」

「ね、待って。あれを浮かせて下の像を取ればいいんじゃない?」

 メランが言った。

「どうやって浮かせるんだよ?」

 眉を寄せたヒックに、メランは事も無げに答える。

「それこそ風魔法使える人たちで」

 わたしたちは顔を見合わせる。
 もしそれができればドラゴンを起こさないで済む。
 じゃあ風魔法を使える人でと集まり、早速魔法をかけようとしたところにアダムが待ったをかけた。
 もしそれで起こしてしまった場合の対策を練ろうと。

 そっか!
 起こしてしまった場合、人がわらわらいて、なんだこの小さいのは?と、首を傾げるだけってのは希望的観測すぎるよね。しかも守っている白い像をいただくのだから敵認定されそうだ。
 白い像とドラゴンを引き離すことが要だ。

 ということで、起こしたら、オトリ部隊がうるさく&攻撃してドラゴンを引き連れて遠くへ行く。
 その間に他の人たちが白い像をなんとかして……脱兎。
 さて、そこでどうやって上に出るんだ? という話になった。
 わたしたちは上にあがることを考えず、下に降りてしまった。
 わたしはうっかり上に上がらなくちゃいけないことを忘れていたんだけど、アダムも考えが至らなかったなんて、そんなことある?
 思わず横を見ると。

「僕は自力で上がれる」と言った。

 え。
 すると後何人かは、自力でいけると言った。
 マジか。
 3メートル飛び上がれるとか、おかしいでしょ。
 無駄に高い運動能力、少しはわたしに寄越しやがれ。

 その人たちは自力で上がってもらうとして。

「……ドラゴンを風魔法で浮かせられるなら、みんなのこともひとりずつ浮かせられるんじゃん?」

 それもそうか。

「あ、シュタイン、お前、靴の下敷き持ってない?」

「あ、数足分なら」

 アスレチックで遊んだ時に貸し出したヤツは収納ポケットに入っている。
 わたしたちは作戦を立てる。
 風魔法を使える子がドラゴンを浮かせる。
 浮かすことができたら、その間に下にある白い像を他の人たちがどうにかする。
 もしドラゴンを起こしてしまって、攻撃されそうになったら。
 オトリ部隊が連れて穴と反対方向へドラゴンを連れていく。
 その間に白い像をいただく。
 さて、それが持ち上げられないくらい大きかった場合だけど、どうする?と。

 ところで、このドラゴンは森に生息する物なのか先生が作り上げた物なのかと誰かが言った。
 今、それ考える必要がある?とこれまた声がした。

「でも、本当にいるドラゴンなのだとしたら、守っているぐらいだから大切な物なのに、それを全部持っていくのは可哀想」

 とダリアが言った。
 その優しい呟きに、みんな自分勝手な心根を反省した。

「そうだね、ドラゴンに悪いから、一部だけちょっともらおうか」

 レニータがまとめる。
 みんなそれに異論はなかった。
 ただ一部を取り壊す方法があるかも、見てみないとわからないところではある。
 でもまぁ、状態を見るまでは対策は立てられないので、なんとか一部を切り取ることにする。
 もし一部を取ることができたら、そのまま穴まで戻って上にいく。それを見届けたらオトリ部隊もドラゴンの隙をつき、上に逃げる。

 もし白い像を一部にすることができなかったら、丸ごと。
 上に運べればいいし、ドラゴンがそれを許さなかったら、総力あげてドラゴンを倒すしかない。
 ペアも離れてはいけないけれど、この草地の中なら離れたとまでは言われないだろうと、アダムはオトリ部隊で、わたしは風魔法の部隊だ。
 オトリ部隊の自力では上がれない子に、トランポリンの靴の下敷きを渡した。
 さ、作戦開始だ。

 近づくと、閉じているまぶたがわたしが丸くなったぐらいの大きさだから、やはり大きい。風魔法を使ってみんなでドラゴンを浮かそうと試みる。
 わたしたちは声を立てないようにして、身振りで息を合わせ、浮かす。
 う、尻尾が浮かない。水平に持ち上がるように調整をかける。
 先生が見ているわけではないので、ちょっとぐらいオーバーして魔法を使ってもわからないだろう。
 ドラゴンが浮き上がる。1メートルぐらい上がった。
 他の子たちがおっかなびっくり白い像に手をかけた。
 大人の人ほどの大きさのものだった。

 何人もでえっちらほっちら動かす。丸ごと運ぶのは大変そうだ。

「何の像なんだろう?」

「……これって、骨?」

 白い像に触れたドムが、怯えた声を出した。
 そう言われてみると、ものすごく大きなものの骨の一部という感じだ。骨だった場合、人間ではあり得ない。もっと大きな魔物……。
 密かに鑑定すると〝風のドラゴンの骨〟とでた。
 え。ドラゴンが守っている白い像は同じ風のドラゴンの骨。
 なんかそれは胸を突かれる思いがした。

「犬が骨隠してる、あれとは違った感じだよね?」

「うん、大きいってドラゴンの骨だったりして」

「え? そういえばこいつ一人でいるんだよな、こんな魔の森に」

 グラッとドラゴンが揺れた。
 誰かの魔法が弱くなったみたいだ。

「とりあえず、これもっとこっちに出そう」

 7人がかりで白いものを動かし、元の場所にドラゴンを下ろした。
 近くにドラゴンがいるのは精神衛生上大変よろしくないが、このまま白い物を丸ごと運びつづけるのは重たすぎるみたいだ。
 比較的真っ直ぐな太い骨に突起のように水平に伸びているいくつかの細目の骨。こちらを折っていただいて行こうということになった。
 細い方でも、短剣を当てたぐらいじゃなかなか折れない。
 わたしは肩を叩かれた。

「ん、何?」

 次に短剣を当てる時に、風で援護するか。

「ん、だから何、ダリア?」

 振り返るとダリアは涙目だった。

「どしたの?」

 びっくりして聞くと、ダリアは人差し指で横をさす。
 指の先にはドラゴンが首を丸まった体の中に置くようにしていて、何も変わりはない。

 いや、変わりなく、ない。子供が丸まった大きさはありそうなまぶたはなく、代わりに縦の瞳孔の目がこちらを見ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

巻き込まれたんだけど、お呼びでない?

ももがぶ
ファンタジー
メタボ気味というには手遅れな、その体型で今日も営業に精を出し歩き回って一日が終わり、公園のベンチに座りコンビニで購入したストロング缶をあおりながら、仕事の愚痴を吐く。 それが日課になっていたが、今日はなにか様子が違う。 公園に入ってきた男二人、女一人の近くの高校の制服を着た男女の三人組。 なにかを言い合いながら、こっちへと近付いてくる。 おいおい、巻き添えなんかごめんだぞと思っていたが、彼らの足元に魔法陣の様な紋様が光りだす。 へ〜綺麗だなとか思っていたら、座っていたベンチまで光に包まれる。 なにかやばいとベンチの上に立つと、いつの間にかさっきの女子高校生も横に立っていた。 彼らが光に包まれると同時にこの場から姿を消す。 「マジか……」 そう思っていたら、自分達の体も光りだす。 「怖い……」 そう言って女子高校生に抱き付かれるが俺だって怖いんだよ。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

処理中です...