転生聖女は休まらない 〜スローライフがしたいのに弟2人が自重しない件〜

花月風流

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第54話 で、結局何なの?

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 反乱に参加した貴族達は現場に居た者も隠れて支援していた者も残さず捕縛されていた。
 エーゲルさんはワザと捕まることで内部の情報を引き出したり、人質扱いされる事で戦争の進みを遅くしたりと……そういうお役目だったと聞かされた。

 聞けば納得してしまう内容だったけど、自分を交渉材料として直接衝突を遅らせるというのはまともな方法では無いと思う。

「私が暴れて反乱を抑えても、それはただの鎮圧にしかならないんだよ。扇動に至った理由……今回はマリアンヌと取り巻きだね。これを何とかしないとまた繰り返すから」

 受けた暴行など無かったかのように笑顔で語る彼もまた同じ人類とは思えない存在だった。
 そしてまた増えてしまった人外のような存在が一人……

「うーむ。生まれて初めて人間の城に入ったが、立派なものだな。見学したいから出しては貰えないか?」

「ん、だめ、よ。アイリス、良いよ、言うまで、大人しく、ね?」

 聖女教司教バイアン、彼は今手枷で拘束された上でブーちゃんの花結界に閉じ込めてある。
 お城の牢獄より頑丈だし、レオ陛下が直接話を聞きたいという事でヘルムスと共に謁見する事になった。

「早く終わらせて家に帰りたい……」

 望む平穏から引き離されてはや数日。
 北への旅立ちは自分の意思だったけど、こんな戦争中みたいな故郷へ帰って来ることになるとは思って無かった。
 今はただ土の上に倒れ込んで癒されたい。

 聖女の印で力を使っている内は何故か気持ちも昂ぶるけど……基本的には争い事も面倒事も嫌いな性分なので、どうしても自分じゃなきゃダメな事以外には正直関わりたく無いのが本音なのだ。

「お待たせしたね。エーゲル、アイリスちゃん、ありがとう。お疲れ様!」

 以前も通された『表向きでは無い話用』の部屋の扉が開きレオ陛下が入って来た。
 所々見える肌には包帯が巻かれ……顔色もあまり良くは無い。

「レオさ……陛下、お身体の方は大丈夫ですか?」

「ん? ああ、これね。大丈夫さ、擦り傷みたいなものだよ」

 そう言って笑うレオ陛下だけど……一時は危険な状態だったと聞いた。
 というのも、私が北へと旅立って早々に城内で事件が起きたのだ。

━━━━

『国王の暗殺未遂』

 それは……誉められる事では無いけどとても鮮やかな手並だったらしく……

『陛下が就寝されている寝室に対して魔法を一撃。大爆発でね……一時は御命が危ない所だった。城の宝物庫からありったけの霊薬と治癒の魔道具を引っ張り出してなんとかなった、という結果だよ。壊れるまで使った魔道具、空になった霊薬、陛下が常人より頑丈な方だった事……一つでも欠けていたら……」

 説明してくれたエーゲルさんは私を安心させようと笑顔で居てくれたけど、隠し切れない程の怒りが溢れていた。

 ドラゴンの存在が確認できた事で、空から近付いて魔法を放ったという事が解ったので今後は空に対する備えもして行くと聞かされた。

━━━━

「まあ、こんな怪我なんかよりも……少なく済んだとは言え我が臣民に被害が出た事の方が腹に据えかねている訳なんだよねぇ」

 言葉も態度もいつも通りフワフワした感じのレオ陛下だけど、目は笑っていなかった。
 寝床から起き上がってきたままのような姿に似合わない物……腰に下げた剣を指先で叩いている。

「で、結局なんなの? 君達の目的は」

「ふむ。それはだな……」
「あー! っと、待って下さいバイアン。その前に一つお願いがございまして」

 口を開こうとしたバイアンを遮ってヘルムスがレオ陛下に対して指を立てる。

「……何だろう?」

 あくまで笑顔のままのレオ陛下だけど、先程まで指で叩いていた剣の柄を握っている。
 私でさえ気付いたのだから、きっとこの場の全員が気付いていると思う。

「その、話せる事は私ヘルムスもこのバイアンもお話ししますが……保証を頂きたく……」

 レオ陛下は返事をせずに目で続きを促す。

「命はお助け頂けないものかと。ええ、貴方のお怒りはごもっともなのですが、私はまだ生きて我が神にお仕えしたいのですよ」

 そう言うなり私の背後に回って隠れるような仕草をする。

 (ヘルムスの方が遥かに背が高いし隠れられて無いからね? あと可愛くも……無い……いや、そんな潤んだ目で見られても……)

「お嬢さんは……また変なのに懐かれたねぇ。そういう星の生まれなのかな」

 それは嫌だ。身に覚えがあり過ぎて。

「なので我が神に誓って下されば何でもお話ししましょう」

 ヘルムスに背中を押し出されて陛下の前に立たされる。

「……はぁ。狡いね君。アイリスちゃんに誓っちゃったら斬れないじゃないか」

 陛下は溜息を吐いて剣から手を離した。

「まあ、そっちの彼はアイリスさんに協力していたので敵では無いと思いますよ」
「解った。我らが聖女に誓おう。君を斬りはしないよ」

 エーゲルさんの後押しも有り陛下が頷いた。

「ありがたきご配慮です。ああ、こっちのデカいのは斬って下さっても一向に構いませんので」
「なぬ!? 酷い言い草では無いか! だがそれが良い」

 ヘルムスにあっさり捨てられて喜ぶバイアン。

「一応、信頼関係が大切かと思いますので……我が神よ、私も結界で拘束して頂けますか?」

 私が頷くと、ブーちゃんの結界がヘルムスも囲む。

「あはぁ! 聖女様のお力で拘束されるなど……これも幸せですねぇ!」
「解るかヘルムス! 良いぞ良いぞ!」

 うん、もう本当に帰りたい。

「では、バイアンも良いですね?」
「うむ。素に戻るのは何年ぶりかな」

 バフッ!

 目を合わせた二人から黒い霧が溢れ出して結界の中が見えなくなる。
 暫く待ち、霧がはれた所に立っていたのは……

「銀の髪、白い肌、黒い目の中に赤い瞳……驚いたな」

 目を見開いたレオ陛下が呟く。
 私とエーゲルさんは声ひとつ出せなかった。

「はい、我々は所謂魔族です」

 そこには魔王の死と共に絶滅したはずの魔族の姿があった。
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