転生聖女は休まらない 〜スローライフがしたいのに弟2人が自重しない件〜

花月風流

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第53話 急展開

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 大男はマリアンヌの拘束を解くと私達を見回してから溜息を吐いた。

「お前等……情け無いとは思わんのか! か弱い女に対して多勢が武器を持ち取り囲むとは」

「え?」

「え? じゃない。お前もだ女。どうやって聖獣を操っているのか知らんが、聖女に対して聖獣をけしかけるなど余りに非道では無いか!」

 いきなり怒られて呆気にとられてしまう。

 (え? なにこれ……私が悪いんだっけ……?)

「特に貴様だヘルムス。聖女様を支えるべき我等が聖女様に歯向かうとは、情けなさ過ぎて言葉も出んぞ」

「いえいえ、随分と長く喋ってますけど」

 指差されたヘルムスが肩をすくめている。
 私の気が逸れた途端にハクとブーちゃんも元の姿に戻ってしまった。

「何だか……凄いのが出て来たのであるな」
「ん、変な、人、ね?」

 半目になったハクと眠そうなブーちゃんを見た大男が嬉しそうにしている。

「おお! 聖獣さま方、私は聖女教の司教でバイアンと申します。どの様な方法で隷属させられているのかは判りませんが私がお救いしますので……うむ!?」

 ガッ!

「姉ちゃんの事を好き勝手に言うの止めてくれるかなぁ? そもそも先に悪い事をしたのってそっちじゃないか」

 私の目では捉えられない速さで殴りかかったプロイの拳がバイアンに受け止められる。

「い……痛っ! こら子供、いきなり殴りかかったら危ないだ……ぬわっ!」

 プロイは受け止められた手を……ただ押し込んだ。それだけでバイアンの身体は地面に押し倒されて土へめり込んで行く。

「姉ちゃんに謝らないならどこまででも沈めて……」
「プロイ、ま……」

 プロイを制止しようとした私の肩をニュクスが押さえる。

「姉さん、あれもまともに動かれると面倒な敵だと思われます。ここはプロイに任せて他を気にかけるべきかと」

 とはいえ、あのままプロイが全力を出したら本当に潰れて……

「ふぉー! 子供、凄い力だな! 久々に良いゾ! どうだ、もっと来ても一向に構わんぞ! むしろ来い!」

 あ、うん。放っておこう。
 微妙に嫌そうな顔になりつつあるプロイに任せてフード姿の人物と対峙するヘルムスに視線を移す。

「さて、どうしますか? 司教はあの有様ですし、聖女を騙る彼女は旗向きも悪い。それでもまだ戦いますか?」

「……」

 ロープ姿の人物は小さく首を振ると、手をフードに隠れた顔の方へ動かして……

「ピィー」

 指笛を吹いた。

「な……」

 何をするつもりなのか、なんて聞く間も無く一瞬だった。
 視界が薄暗くなったのは影に覆われたからだ、というのも後に気付いたくらいで……

 フード姿の人物とマリアンヌの姿が消えていた。

「え、どこに」
「上です!」

 叫んだニュクスが空に向けて氷の魔法を放つ。
 そこに見えたのは、フード姿の人物とマリアンヌを両足に掴んで飛ぶドラゴンの姿だった。
 ドラゴンの身体に当たった氷の魔法は一瞬で溶けてしまった。

「へ? ドラゴン……モンスター?」
「そんな馬鹿な。だってモンスターなんてもう居ないだろ……? ドラゴンなんて絵でしか見たことないぜ……」

 兵士達は目に見える光景を信じられず誰に対してでも無いような言葉を呟いている。
 仕方ないと思う。正直、私も理解が追いついていなかった。

「どうやら……今日はここまでのようですわね。薄汚い平民っ、私から聖獣を奪った平民っ、私が手にするべき栄光を邪魔立てした平民っ! いずれ必ず後悔させてやりますわ!」

 どんどん空高く上がって行くドラゴンに掴まれたまま、恨み言を続けるマリアンヌ。
 フード姿の人物は小さく手を振っていて……

 ドラゴンが羽ばたくと、あっという間にその姿は小さくなって行った。

 後に残されたのは……呆気にとられた私達と、困惑の極みである兵士達。
 拘束された反乱貴族と……

「ふぬぁ! 良いぞ、そう! そこだ! おふ!」
「姉ちゃん、もうヤダこいつ! ニュクス代わってよぉ!」

 変態と半泣きの弟だった。
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