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第52話 契約の力
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唇の端を吊り上げたマリアンヌが服の小物入れから指輪を取り出した。
それを指に嵌めて私を指差す。
「死になさい、平民っ!」
目の前が歪むような感覚を覚えた私達が後方へ飛び退くと、先程まで立って居た場所に火柱が上がった。
「魔道具であるな。大方城の宝物庫より盗み出したのであろう……」
鬱陶しそうに前脚を振りながらハクが言った。
指輪で発動する魔法は……確かに私達にとって苦笑したくなる物だった。
「アイリスさん、ここは私が……」
エーゲルさんが駆け寄ってくれたが、潜入するための演技とはいえ暴行を受けて本調子では無い彼に任せるのは心苦しい……そして何より……
「ごめんなさい……譲れません。私に任せて下さい」
怒っているのだ、これでも。
「ハク、よろしくね……」
「……今生初であるな。本物を見せてやるのである」
私の差し出した左手にハクの額がつけられる。
ハクの体が発光し、私をも包み込んでから消えた。
そこにはハクの姿は無く、私の左手中指に銀の指輪が嵌まっている。
「なんのつもりですの? 聖獣はどこへ……」
怪訝そうな顔をするマリアンヌに向け、今度は私が指を指す。
「貴女には見えない。聖獣と心を通わせない貴女には」
マリアンヌの足元から銀の蔓が生え、彼女の足を拘束する。
「な、なんですのこれは……一体……」
「過去の聖女は勇者とともに旅をしたのよ? そんな聖女が何の力も無く生き延びていたとでも思ったの?」
指を伸ばしていた手を開き、勢い良く空へ向ける。
それだけで足を拘束していた蔓がマリアンヌの全身を縛り上げる。
「離し……離しなさい! この、平民風情が! 高貴な、聖女な、勝利するべき私を!」
「残念だけど……貴女は勝てないよ。聖女でも無いわ。聖獣を大切にしない、人の心が解らない貴女は何も掴めない」
蔓が這うように伸びて彼女の指輪を包む。
私が手を握ると軽い音を立ててマリアンヌの指輪が砕けた。
「そのまま、大人しくしていて下さい。貴女を裁くのは陛下です」
「勝ったと……思わない事ね……」
私を睨んだままマリアンヌが立ち尽くしていた。
「アイリスさんにこんな力があったとは!」
一部始終を見ていたエーゲルさんが笑顔で私の手を取った。
興奮覚めやらぬ、といった感じではあるけども……まだもう一人残っているのは忘れないで欲しいかも知れない。
「プロイ、姉さん、下がっていて下さい」
ニュクスがフード姿の人物と向かい合う。
この光景は北の町でも見た……
「あの時は勝てなかった。だが、今度は僕の力で勝」
「はいはい、少々お待ち下さい」
場に似つかわしく無い明るい声が響き、動けずに居る兵を掻き分けて近寄って来る人物。
「ここは私、ヘルムスにお任せ下さい」
聖女教のヘルムスだった。
「我が神よ、ご安心下さい。城前は完全に静かになりましたので」
「うん、も、平気。だいじょぶ、ね。アイリス、安心?」
ヘルムスの肩からいつもの調子に戻ったブーちゃんが飛び移って来る。
「2人とも……無事で良かった。ありがとね」
「はぁあぁぁあ! その微笑み、まさに天よりの光の如く……私はこのまま昇天してしまうやも知れませんっ!」
ヘルムスはいつも通りだった。
「ん、あ。ハク、ずるい、よ? アイリス、一緒」
ブーちゃんも私の左手にしがみ付き、額をぶつけて来る。
ハクの時と同じように光に包まれて、私の薬指にも指輪が現れる。
「ブーちゃんまで……」
(これ、結構疲れるんだけどっ)
聖獣が指輪化してくれれば私も戦いに参加出来る。
聖獣だけで力を奮うより大きな力を使う事も出来るけど……実はとても疲れるのだ。
こう、何かがずっと溢れて行くように感じる。
「はぁふぅ。さて、我が神を煩わせたままではおれません……」
恍惚の表情だったヘルムスが普段の顔に戻り、フード姿の人物に向き直る。
「貴女がここに居る以上、私の同僚が来ている筈なのですが」
笑顔で問いかけるヘルムスに対してフード姿の人物が頷く。
そしてマリアンヌの方を指差す。
パキン
「裏切り者が、同僚とは笑わせてくれる」
そこにはマリアンヌを拘束していた金属の蔓を折りながら、怒りに燃える目をしたローブを着た大男の姿があった。
それを指に嵌めて私を指差す。
「死になさい、平民っ!」
目の前が歪むような感覚を覚えた私達が後方へ飛び退くと、先程まで立って居た場所に火柱が上がった。
「魔道具であるな。大方城の宝物庫より盗み出したのであろう……」
鬱陶しそうに前脚を振りながらハクが言った。
指輪で発動する魔法は……確かに私達にとって苦笑したくなる物だった。
「アイリスさん、ここは私が……」
エーゲルさんが駆け寄ってくれたが、潜入するための演技とはいえ暴行を受けて本調子では無い彼に任せるのは心苦しい……そして何より……
「ごめんなさい……譲れません。私に任せて下さい」
怒っているのだ、これでも。
「ハク、よろしくね……」
「……今生初であるな。本物を見せてやるのである」
私の差し出した左手にハクの額がつけられる。
ハクの体が発光し、私をも包み込んでから消えた。
そこにはハクの姿は無く、私の左手中指に銀の指輪が嵌まっている。
「なんのつもりですの? 聖獣はどこへ……」
怪訝そうな顔をするマリアンヌに向け、今度は私が指を指す。
「貴女には見えない。聖獣と心を通わせない貴女には」
マリアンヌの足元から銀の蔓が生え、彼女の足を拘束する。
「な、なんですのこれは……一体……」
「過去の聖女は勇者とともに旅をしたのよ? そんな聖女が何の力も無く生き延びていたとでも思ったの?」
指を伸ばしていた手を開き、勢い良く空へ向ける。
それだけで足を拘束していた蔓がマリアンヌの全身を縛り上げる。
「離し……離しなさい! この、平民風情が! 高貴な、聖女な、勝利するべき私を!」
「残念だけど……貴女は勝てないよ。聖女でも無いわ。聖獣を大切にしない、人の心が解らない貴女は何も掴めない」
蔓が這うように伸びて彼女の指輪を包む。
私が手を握ると軽い音を立ててマリアンヌの指輪が砕けた。
「そのまま、大人しくしていて下さい。貴女を裁くのは陛下です」
「勝ったと……思わない事ね……」
私を睨んだままマリアンヌが立ち尽くしていた。
「アイリスさんにこんな力があったとは!」
一部始終を見ていたエーゲルさんが笑顔で私の手を取った。
興奮覚めやらぬ、といった感じではあるけども……まだもう一人残っているのは忘れないで欲しいかも知れない。
「プロイ、姉さん、下がっていて下さい」
ニュクスがフード姿の人物と向かい合う。
この光景は北の町でも見た……
「あの時は勝てなかった。だが、今度は僕の力で勝」
「はいはい、少々お待ち下さい」
場に似つかわしく無い明るい声が響き、動けずに居る兵を掻き分けて近寄って来る人物。
「ここは私、ヘルムスにお任せ下さい」
聖女教のヘルムスだった。
「我が神よ、ご安心下さい。城前は完全に静かになりましたので」
「うん、も、平気。だいじょぶ、ね。アイリス、安心?」
ヘルムスの肩からいつもの調子に戻ったブーちゃんが飛び移って来る。
「2人とも……無事で良かった。ありがとね」
「はぁあぁぁあ! その微笑み、まさに天よりの光の如く……私はこのまま昇天してしまうやも知れませんっ!」
ヘルムスはいつも通りだった。
「ん、あ。ハク、ずるい、よ? アイリス、一緒」
ブーちゃんも私の左手にしがみ付き、額をぶつけて来る。
ハクの時と同じように光に包まれて、私の薬指にも指輪が現れる。
「ブーちゃんまで……」
(これ、結構疲れるんだけどっ)
聖獣が指輪化してくれれば私も戦いに参加出来る。
聖獣だけで力を奮うより大きな力を使う事も出来るけど……実はとても疲れるのだ。
こう、何かがずっと溢れて行くように感じる。
「はぁふぅ。さて、我が神を煩わせたままではおれません……」
恍惚の表情だったヘルムスが普段の顔に戻り、フード姿の人物に向き直る。
「貴女がここに居る以上、私の同僚が来ている筈なのですが」
笑顔で問いかけるヘルムスに対してフード姿の人物が頷く。
そしてマリアンヌの方を指差す。
パキン
「裏切り者が、同僚とは笑わせてくれる」
そこにはマリアンヌを拘束していた金属の蔓を折りながら、怒りに燃える目をしたローブを着た大男の姿があった。
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