転生聖女は休まらない 〜スローライフがしたいのに弟2人が自重しない件〜

花月風流

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第49話 欲まみれの聖女

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 兵を割って現れたのは聖女マリアンヌだ。
 横にはまるで彼女に従うようにフリューゲル男爵の姿もあった。
 彼女はちらりとハクを見た後、不機嫌そうに私を指差した。

「薄汚い平民が……。どのような悪どい方法で聖獣を従えたのかは知りませんが、己の行いを悔いて聖獣を解放なさい」

 (えええ……貴女と一緒にしないで欲しいんですけど……)

 私はあまりに厚顔な彼女の言葉に驚いて声が出なかった。
 鏡があれば見せてやりたい程だ。

「しかもこの感覚……まさか聖獣がもう1体いるとは……」

 ここで私の心に火がついた。
 相手がブーちゃんを傷付けた事を忘れてはならないのだ。

「貴女が酷い目に遭わせた子だよ。貴女こそちゃんと悔いて、反省してあの子に謝って!」

 マリアンヌが僅かに俯き表情が判らなくなる。

 (あれ、もしかして本当に反省してたり……)

 そんな私の考えを嘲笑うかのように……再び顔を上げたマリアンヌの口元が醜悪に歪む。

「皆さんお聴きなさい! この平民は邪悪な方法を使い聖獣を隷属させているのです。聖女として契約しようとした私を邪魔し、西の聖獣を奪い取りました!」

「吾輩は奪い取られたつもりは無いのであるが……」

 ハクが呆れた顔で溜息を吐く。

「それだけでは飽き足らず! 今度は北のヴォラスまで行き聖獣を奪い取って来る始末。これでは北の国と戦争にもなりかねません!」

 マリアンヌの言葉を聞き兵士たちが騒つく。
 お互いの顔を見合わせ、横目で睨んで来る。

「皆、よく聞けい! この罪深き平民から聖獣を解放し聖女様に契約して頂くのだ! そうすれば我々デュシスこそが世界を統べる事さえ可能だろう!」

 フリューゲル男爵がたるんだ頬肉を震わせて兵達へ叫ぶ。
 彼の私兵達から歓声が上がり、何処か人ごとのように聞いていた他の兵まで目の色が変わって来る。

 カキッ

 私の前に薄桃色の花が咲き、いつの間にか射られていた矢を弾く。

 ドズン!

 そして大きな音ともに地面が軽く揺れる。

 音のした背後を振り返ると、小屋大になったブーちゃんが城壁を飛び降りて来たのだと判った。
 が……様子が……

 綺麗でつぶらな瞳は閉じられ、大蛇に変わった尾が鋭い目で辺りを睥睨している。

「亀の方が頭に血が昇りすぎて気絶しちゃったから私がお相手致しますわ。アイリスには指一本触れさせませんの」

 (お~……前世ぶりに見たなぁ……)

 ブーちゃんは感情が振れ過ぎると気絶する。
 そしてもう1つの人格……聖獣格? である蛇のブーちゃんが現れるのだ。

「ああ! あなたが北の聖獣なのですね! 会いたかった……さあ、私とけいや」

「お断りですわ。貴女の僕(しもべ)にされる位なら自決した方がマシ、ですわね。……そこの猫もどき、貴方は何をしているのですか」

 マリアンヌの言葉を遮った蛇ブーちゃんは馬鹿にするように舌を揺らしながらハクを見る。

「猫もど……! 相変わらず口の悪いやつであるな」

「頭の悪い猫もどきよりマシ、ですわ。貴方も聖獣の端くれなら契約者の体だけで無く尊厳まで守って見せたらどうですの? あんなどこの愚物だか知れない相手に好き勝手言わせて……」

「解った、解ったのである。説教は後にして……偉そうに出てきた以上はしっかり手を貸すのである」

 尻尾で払うような仕草をしてハクが溜息を吐く。
 そして……そんな2人のやり取りを黙って見ていたマリアンヌの肩が震えている。

「そう……そうですか! この私を拒否するなんて、やはりこの平民に隷属させられているのですね」

 もはや憎しみそのものな炎を目に宿し、聖女が私を睨む。

「槍兵、槍かまえーい!」

 手を挙げて叫ぶフリューゲル男爵の号令に兵達が武器を構える。

「平民と王を殺して……私の物にして差し上げます……聖獣も、国も!」

「私は死なないし、レオ陛下も殺させない。貴女なんかにこれ以上好き勝手させない!」

「とつげーき!」

 フリューゲル男爵の手が振り下ろされ、戦闘が始まった。
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