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第48話 デュシス王城前
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私は城壁の上にブーちゃんを殘して城を囲む兵達に向かう。
ハクは私など荷物にもならないのか軽やかに城壁を蹴って駆け下りる。
「アイリス、我々だけ先行したのは迂闊だったやも知れんのである」
「ん……でも、荷馬車じゃ間に合って無かったかも知れない。今ここで間に合ったんだから……なんとかしないと」
全員で進むべきだったのかも知れない。
でも街から逃げ出した人に聞いた話があまりに状況の悪さを示していて堪らずハクとブーちゃんを連れて先に進んでしまった。
「まあ、護るべき場所が落とされた後では何にも出来ないのは間違い無いのである。しかし、あの男が負けるとは……」
「そうね……早く助けないと!」
私の視線の先には大きな板に拘束されたエーゲルさんの姿が見える。
彼の強さは自分の目で見たこともあり、そんな彼が負けた相手がここに居るという事実が私を緊張させる。
「っ! 伏せるのである」
声を聞いた瞬間、その背中の毛に埋もれるように身体を密着させる。
ハクが左右に跳躍し、その度に風切音が聴こえる。
矢を射られているのだろうと思うが顏を上げて確認する訳にもいかず、ハクの回避に身を任せる。
「全く……簡単に扇動される愚か者どもめ」
しがみ付く背中を含めて、ハクの毛が騒めくのを感じる。
「ハク、手加減してね」
「……なるべく努力するのである」
耳を鳴らしていた風が収まり、ハクが止まる。
顏を少し上げた私の目に振り上げられたハクの腕が見える。
ブン!
振られた腕の先……並び立ってハクを迎撃しようとしていた兵士達の足元に亀裂が入る。
さらにその亀裂から、葉や刺を持つ植物のような金属製の花が生えて来る。
見た目は美しいが触れれば身を裂く恐ろしい花だ。
「な……さ、下がれ! この花、刃のように切れるぞ!」
「ゴアアアア!」
ハクの咆哮も合わさり兵達が恐怖し距離を取る。
兵達が退がる事で出来た隙間に向かいハクの背から降り立つ。
「皆さん、落ち着いて下さい。同じ国の人間同士で争って何の意味があるのですか? 会話も無くお互いへの理解も無いまま……争う事に何の意味があるのですか?」
なるべくゆっくりと……皆に届くように声を出す。
「お、お前は何者だ! あのような化け物をけしかけてくるとは……」
「まさか魔王の再来じゃ無いだろうな?」
「おい、囲んで一斉にかかるぞ」
私に攻撃をしかけようとする兵達と、それを牽制するハクとの間に緊張が走る。
「どいたどいたぁ!」
「ぬ?」
「え?」
兵士達と向き合っていた私の側面……左手側から声が聴こえて、振り返る間も無く声の主が目の前に現れる。
「荷馬車遅いからさ、シルバごと抱えて走って来た!」
そこに居たのは……荷馬車の上にシルバとニュクス、聖女教の司祭と荷袋を乗せて担いで来たプロイだった。
「プロイ……重く無いの? ……じゃなくて、無茶しないの」
運ばれる側になり自尊心が傷付いたのか項垂れるシルバと、揺れに弱ったのか顔色の悪い2人が可哀想に見える。
「姉さ……うぷ……僕が来たからには……うぅ」
「聖女教しきょうっぷ……サリュ……聖女様の元に馳せ……あ、ダメだ……」
「……取り敢えず2人とも休んでてね」
弱々しく頷く2人からプロイに視線を戻す。
正直、プロイが来てくれたのは心強い。
「……あらあら。騒がしいと思って前に出て来て見れば……お久し振りですわね、平民」
この声は……
「聖女、マリアンヌ!」
「様、をお付けなさい。平民」
混乱の黒幕が私の前に現れた。
ハクは私など荷物にもならないのか軽やかに城壁を蹴って駆け下りる。
「アイリス、我々だけ先行したのは迂闊だったやも知れんのである」
「ん……でも、荷馬車じゃ間に合って無かったかも知れない。今ここで間に合ったんだから……なんとかしないと」
全員で進むべきだったのかも知れない。
でも街から逃げ出した人に聞いた話があまりに状況の悪さを示していて堪らずハクとブーちゃんを連れて先に進んでしまった。
「まあ、護るべき場所が落とされた後では何にも出来ないのは間違い無いのである。しかし、あの男が負けるとは……」
「そうね……早く助けないと!」
私の視線の先には大きな板に拘束されたエーゲルさんの姿が見える。
彼の強さは自分の目で見たこともあり、そんな彼が負けた相手がここに居るという事実が私を緊張させる。
「っ! 伏せるのである」
声を聞いた瞬間、その背中の毛に埋もれるように身体を密着させる。
ハクが左右に跳躍し、その度に風切音が聴こえる。
矢を射られているのだろうと思うが顏を上げて確認する訳にもいかず、ハクの回避に身を任せる。
「全く……簡単に扇動される愚か者どもめ」
しがみ付く背中を含めて、ハクの毛が騒めくのを感じる。
「ハク、手加減してね」
「……なるべく努力するのである」
耳を鳴らしていた風が収まり、ハクが止まる。
顏を少し上げた私の目に振り上げられたハクの腕が見える。
ブン!
振られた腕の先……並び立ってハクを迎撃しようとしていた兵士達の足元に亀裂が入る。
さらにその亀裂から、葉や刺を持つ植物のような金属製の花が生えて来る。
見た目は美しいが触れれば身を裂く恐ろしい花だ。
「な……さ、下がれ! この花、刃のように切れるぞ!」
「ゴアアアア!」
ハクの咆哮も合わさり兵達が恐怖し距離を取る。
兵達が退がる事で出来た隙間に向かいハクの背から降り立つ。
「皆さん、落ち着いて下さい。同じ国の人間同士で争って何の意味があるのですか? 会話も無くお互いへの理解も無いまま……争う事に何の意味があるのですか?」
なるべくゆっくりと……皆に届くように声を出す。
「お、お前は何者だ! あのような化け物をけしかけてくるとは……」
「まさか魔王の再来じゃ無いだろうな?」
「おい、囲んで一斉にかかるぞ」
私に攻撃をしかけようとする兵達と、それを牽制するハクとの間に緊張が走る。
「どいたどいたぁ!」
「ぬ?」
「え?」
兵士達と向き合っていた私の側面……左手側から声が聴こえて、振り返る間も無く声の主が目の前に現れる。
「荷馬車遅いからさ、シルバごと抱えて走って来た!」
そこに居たのは……荷馬車の上にシルバとニュクス、聖女教の司祭と荷袋を乗せて担いで来たプロイだった。
「プロイ……重く無いの? ……じゃなくて、無茶しないの」
運ばれる側になり自尊心が傷付いたのか項垂れるシルバと、揺れに弱ったのか顔色の悪い2人が可哀想に見える。
「姉さ……うぷ……僕が来たからには……うぅ」
「聖女教しきょうっぷ……サリュ……聖女様の元に馳せ……あ、ダメだ……」
「……取り敢えず2人とも休んでてね」
弱々しく頷く2人からプロイに視線を戻す。
正直、プロイが来てくれたのは心強い。
「……あらあら。騒がしいと思って前に出て来て見れば……お久し振りですわね、平民」
この声は……
「聖女、マリアンヌ!」
「様、をお付けなさい。平民」
混乱の黒幕が私の前に現れた。
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