38 / 74
第38話 馬車に揺られ
しおりを挟む
事情を聴く為にローサの乗る馬車へ同乗することになり、シルバと荷馬車は弟達に任せた。
聖獣絡みの話になるので、袋に入ったままのハクを膝の上に乗せる。
「まずはこれをご覧下さい」
ローサは頑丈そうな箱を取り出して私に差し出して来る。
箱を開けるとそこには白い杭のような物が入っていた。
私の中指より少し長いくらいの杭は表面に赤い染料で文字らしい物が書かれている。
(なんだか……どう見ても不吉な道具にしか見えないけど……)
「これが何処から持ち込まれた物なのかは解りません。判っているのはこれが聖獣の意思を奪い、兵器のように用いられる為に使われているという事です」
「えと、具体的には……?」
「はい……この杭を聖獣の身体に打ち込めば自我を奪い杭を使用した者の言いなりにする事が出来ます。1本打ち込むごとに効果が増して行き、4本目の杭を打つ事で完全に支配できるそうです……」
「そんな酷い事……聖獣の自我を奪うだなんて……」
「はい、私の父はその行動を咎めたのですが……国の為の行いを阻害したと逆に弾劾されてしまい、牢へと入れられました。私は父の言葉に従い最後の1本を盗み出して西の国へと向かっていました」
「そっか……そこで運悪く山賊に出会ってしまったという事なのね」
「はい……そして貴女達に助けられました」
なるほど……それなら本来は彼女達だけでも西の国へ向かって貰うべきだったのかも知れない。
追手が来るのは確実だろうから。
でも聖獣を助けるという目的は私達と同じで、地理や情勢に詳しいローサの手助けは私達にとって重要だとも思う。
なにより、彼女の意思が固い。
『ハクはこの杭について何か解る?』
『……見たくないのである……早く箱に入れて蓋を閉じて欲しいのである』
『ハク?』
『頼むのである。……どうしてこんな物を……』
ハクが何やら辛そうなので慌てて箱に戻して蓋をする。
何となく、怒りなのか悲しみなのか判らない感情を感じた気がした。
その後も話を続けて判った事は……ヴォラスの代表エンデさんを陥れたのは共和国議会の1人で名前はデズン。以前から穏健派のエンデさんと対立してという事。
聖女信仰……初めて聞いたがそういう宗教があるらしく、そこが杭を持ち込んで来たのでは無いかと疑っている事。
既に3本の杭を打たれた聖獣は殆どデズンの言いなりになっている状態であり、このままでは聖獣を使い他国への侵攻を始めるのも時間の問題だと言う事。
危惧していた事、知らなかった事などが一度に流れ込み、軽く頭痛がしてしまう。
(ただの平民で農作業だけをしていたいアイリスには荷が重すぎる話だけど……)
かつて北の聖獣と契約して共に旅をしたアリスとしては、やはり放って置けない状況だった。
「今ならまだ、間に合うかも知れないんだよね……」
殆ど独り言のつもりだった言葉にローサが頷く。
「はい。なので力を貸して下さい、お願いします」
「ええ、行きましょう。エンデさんと聖獣を救いに」
ローサが微笑んだ時、不意に馬車が揺れた。
揺れが激しくなり、馬車が全力で速度を上げた事を感じる。
「バース!? どうしたのですか!」
「議会からの刺客と思われます。すれ違った者達が引き返して来ました」
苦い声色から良くない状況が伝わってきた。
聖獣絡みの話になるので、袋に入ったままのハクを膝の上に乗せる。
「まずはこれをご覧下さい」
ローサは頑丈そうな箱を取り出して私に差し出して来る。
箱を開けるとそこには白い杭のような物が入っていた。
私の中指より少し長いくらいの杭は表面に赤い染料で文字らしい物が書かれている。
(なんだか……どう見ても不吉な道具にしか見えないけど……)
「これが何処から持ち込まれた物なのかは解りません。判っているのはこれが聖獣の意思を奪い、兵器のように用いられる為に使われているという事です」
「えと、具体的には……?」
「はい……この杭を聖獣の身体に打ち込めば自我を奪い杭を使用した者の言いなりにする事が出来ます。1本打ち込むごとに効果が増して行き、4本目の杭を打つ事で完全に支配できるそうです……」
「そんな酷い事……聖獣の自我を奪うだなんて……」
「はい、私の父はその行動を咎めたのですが……国の為の行いを阻害したと逆に弾劾されてしまい、牢へと入れられました。私は父の言葉に従い最後の1本を盗み出して西の国へと向かっていました」
「そっか……そこで運悪く山賊に出会ってしまったという事なのね」
「はい……そして貴女達に助けられました」
なるほど……それなら本来は彼女達だけでも西の国へ向かって貰うべきだったのかも知れない。
追手が来るのは確実だろうから。
でも聖獣を助けるという目的は私達と同じで、地理や情勢に詳しいローサの手助けは私達にとって重要だとも思う。
なにより、彼女の意思が固い。
『ハクはこの杭について何か解る?』
『……見たくないのである……早く箱に入れて蓋を閉じて欲しいのである』
『ハク?』
『頼むのである。……どうしてこんな物を……』
ハクが何やら辛そうなので慌てて箱に戻して蓋をする。
何となく、怒りなのか悲しみなのか判らない感情を感じた気がした。
その後も話を続けて判った事は……ヴォラスの代表エンデさんを陥れたのは共和国議会の1人で名前はデズン。以前から穏健派のエンデさんと対立してという事。
聖女信仰……初めて聞いたがそういう宗教があるらしく、そこが杭を持ち込んで来たのでは無いかと疑っている事。
既に3本の杭を打たれた聖獣は殆どデズンの言いなりになっている状態であり、このままでは聖獣を使い他国への侵攻を始めるのも時間の問題だと言う事。
危惧していた事、知らなかった事などが一度に流れ込み、軽く頭痛がしてしまう。
(ただの平民で農作業だけをしていたいアイリスには荷が重すぎる話だけど……)
かつて北の聖獣と契約して共に旅をしたアリスとしては、やはり放って置けない状況だった。
「今ならまだ、間に合うかも知れないんだよね……」
殆ど独り言のつもりだった言葉にローサが頷く。
「はい。なので力を貸して下さい、お願いします」
「ええ、行きましょう。エンデさんと聖獣を救いに」
ローサが微笑んだ時、不意に馬車が揺れた。
揺れが激しくなり、馬車が全力で速度を上げた事を感じる。
「バース!? どうしたのですか!」
「議会からの刺客と思われます。すれ違った者達が引き返して来ました」
苦い声色から良くない状況が伝わってきた。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます
長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました
★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★
★現在三巻まで絶賛発売中!★
「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」
苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。
トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが――
俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ?
※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります
まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。
そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。
選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。
あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。
鈴木のハーレム生活が始まる!
転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!
カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地!
恋に仕事に事件に忙しい!
カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる