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第38話 馬車に揺られ

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 事情を聴く為にローサの乗る馬車へ同乗することになり、シルバと荷馬車は弟達に任せた。
 聖獣絡みの話になるので、袋に入ったままのハクを膝の上に乗せる。

「まずはこれをご覧下さい」

 ローサは頑丈そうな箱を取り出して私に差し出して来る。
 箱を開けるとそこには白い杭のような物が入っていた。
 私の中指より少し長いくらいの杭は表面に赤い染料で文字らしい物が書かれている。

 (なんだか……どう見ても不吉な道具にしか見えないけど……)

「これが何処から持ち込まれた物なのかは解りません。判っているのはこれが聖獣の意思を奪い、兵器のように用いられる為に使われているという事です」

「えと、具体的には……?」

「はい……この杭を聖獣の身体に打ち込めば自我を奪い杭を使用した者の言いなりにする事が出来ます。1本打ち込むごとに効果が増して行き、4本目の杭を打つ事で完全に支配できるそうです……」

「そんな酷い事……聖獣の自我を奪うだなんて……」

「はい、私の父はその行動を咎めたのですが……国の為の行いを阻害したと逆に弾劾されてしまい、牢へと入れられました。私は父の言葉に従い最後の1本を盗み出して西の国へと向かっていました」

「そっか……そこで運悪く山賊に出会ってしまったという事なのね」

「はい……そして貴女達に助けられました」

 なるほど……それなら本来は彼女達だけでも西の国へ向かって貰うべきだったのかも知れない。
 追手が来るのは確実だろうから。

 でも聖獣を助けるという目的は私達と同じで、地理や情勢に詳しいローサの手助けは私達にとって重要だとも思う。
 なにより、彼女の意思が固い。

『ハクはこの杭について何か解る?』

『……見たくないのである……早く箱に入れて蓋を閉じて欲しいのである』

『ハク?』

『頼むのである。……どうしてこんな物を……』

 ハクが何やら辛そうなので慌てて箱に戻して蓋をする。
 何となく、怒りなのか悲しみなのか判らない感情を感じた気がした。

 その後も話を続けて判った事は……ヴォラスの代表エンデさんを陥れたのは共和国議会の1人で名前はデズン。以前から穏健派のエンデさんと対立してという事。

 聖女信仰……初めて聞いたがそういう宗教があるらしく、そこが杭を持ち込んで来たのでは無いかと疑っている事。

 既に3本の杭を打たれた聖獣は殆どデズンの言いなりになっている状態であり、このままでは聖獣を使い他国への侵攻を始めるのも時間の問題だと言う事。

 危惧していた事、知らなかった事などが一度に流れ込み、軽く頭痛がしてしまう。

 (ただの平民で農作業だけをしていたいアイリスには荷が重すぎる話だけど……)

 かつて北の聖獣と契約して共に旅をしたアリスとしては、やはり放って置けない状況だった。

「今ならまだ、間に合うかも知れないんだよね……」

 殆ど独り言のつもりだった言葉にローサが頷く。

「はい。なので力を貸して下さい、お願いします」

「ええ、行きましょう。エンデさんと聖獣を救いに」

 ローサが微笑んだ時、不意に馬車が揺れた。
 揺れが激しくなり、馬車が全力で速度を上げた事を感じる。

「バース!? どうしたのですか!」

「議会からの刺客と思われます。すれ違った者達が引き返して来ました」

 苦い声色から良くない状況が伝わってきた。
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