19 / 74
第19話 猫、母、王
しおりを挟む
街に向かう馬上ではハクがはしゃいでいた。
彼はシルバの鬣(たてがみ)にしがみついたり私の頭に飛び乗ったりしつつ周囲を眺めている。
『アイリスよ、たった二百年で随分と景色が変わるものであるな!』
『そうだね。でもあっちの山とか変わってないよ。あの山を越えた時は大変だったよね。ドラゴンに出会っちゃって』
『うむ。吾輩の尻尾を焦がした奴だな……おお、なんだなんだ! 大量の人間が来たのである』
『本当だ。多分、北の国との交易品を運んでるんじゃないかな? 人も荷物も凄い量だけど……』
『軽く100人ほどの団体であるな! 商人も昔とは規模が違うのであろうか』
シルバの鬣にしがみ付き尻尾を立てて耳をピコピコ動かす聖獣を見ていると笑ってしまう。
『ん? どうしたのであるか?』
『楽しそうだなって思って。ハクと仲良しのスーザンも居たらもっと楽しいかな?』
『うっ……あの性悪鳥はずっと眠ってるべきなのである! ニャ』
南の聖獣スーザンと西の聖獣ハクはいつも喧嘩していたけど……とても仲が良かった。
他の聖獣達も目覚めているのだろうか。
「お嬢さん、少し良いかな」
「わっ!」
ハクと頭の中で会話したり昔の事を思い出したりでエーゲルさんがいつの間にか並走しているのに全く気が付いていなかった。
「すみません、少しボーッとしてました」
「私こそ急に声をかけて申し訳ないね。街に着いてからの事を話しておきたくて……」
エーゲルさんに言われた内容は微妙に気乗りがしないものだった……。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「おお、素晴らしいね……正直見違えたよ」
「はあ……そうですか?」
私は髪を編まれてドレスを着せられていた。
ご丁寧に化粧まで施されている。
(王様に会うのにいつもの身なりでは……という理由は判るけど……)
鏡を見せられるとゲンナリしてしまう。
自分で見ても内面との乖離が酷いのだ。
「本当に、エーゲルと違って服の着せ甲斐がある子です。やはり女の子は良いですね。もっと早く言ってくれれば私の物では無く新しい物を用意しましたのに」
私を飾ってくれたエーゲルさんのお母さんが嬉しそうに髪を微調整してくれる。
ドレスは彼女からの借り物で、大きさも殆ど合うのは良かった。
(胸だけは寄せて上げた上に詰め物してやっと着れたけど……ね……ふふ……)
私の密かな敗北感を他所に温かい目で見つめるエーゲルさんのお母さんを見ていると、少し胸が痛くなる。
(お母さんもよく私の髪を編んでくれたな……)
「……表情の忙しい子ね。ほら、陛下にお会いするのだから笑顔でね」
「わぷ……ひゃい」
色々顔に出てしまっていたのか、エーゲルさんのお母さんに鼻を摘まれる。
「では、行こうか。陛下は気さくな方だから楽に構えていれば良いよ」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「騎士エーゲル様、賓客アイリス様が参られました」
扉の向こうから応じる声があり、扉が開かれる。
私達は普通使われるという謁見用の広間では無く重要な話し合いをするための別室だという部屋へ通された。
「や、エーゲル。アイリスさん初めまして。2人とも座ってよ」
「はいはい。なんですそれ、美味しそうなお菓子ですね?」
「南の王国から取り寄せた菓子だよ。見た目は真っ黒だし手は汚れるけど中々美味いんだ。ほら」
王様がエーゲルさんの口へお菓子を放り込む。
「んん、甘い。しかしほんのりと香る苦みが良いですね。うちでも作れば女性に人気が出そうです」
モグモグ食べる騎士とそれを嬉しそうに見ていた王様がこちらを見る。
「座ったら?」
「良かったら食べてみてよ、これ」
「あ、はい……」
(……何か私の知っている王様と違うんですけど?)
こうして私の困惑と甘い香りに包まれて王様との謁見が始まった。
彼はシルバの鬣(たてがみ)にしがみついたり私の頭に飛び乗ったりしつつ周囲を眺めている。
『アイリスよ、たった二百年で随分と景色が変わるものであるな!』
『そうだね。でもあっちの山とか変わってないよ。あの山を越えた時は大変だったよね。ドラゴンに出会っちゃって』
『うむ。吾輩の尻尾を焦がした奴だな……おお、なんだなんだ! 大量の人間が来たのである』
『本当だ。多分、北の国との交易品を運んでるんじゃないかな? 人も荷物も凄い量だけど……』
『軽く100人ほどの団体であるな! 商人も昔とは規模が違うのであろうか』
シルバの鬣にしがみ付き尻尾を立てて耳をピコピコ動かす聖獣を見ていると笑ってしまう。
『ん? どうしたのであるか?』
『楽しそうだなって思って。ハクと仲良しのスーザンも居たらもっと楽しいかな?』
『うっ……あの性悪鳥はずっと眠ってるべきなのである! ニャ』
南の聖獣スーザンと西の聖獣ハクはいつも喧嘩していたけど……とても仲が良かった。
他の聖獣達も目覚めているのだろうか。
「お嬢さん、少し良いかな」
「わっ!」
ハクと頭の中で会話したり昔の事を思い出したりでエーゲルさんがいつの間にか並走しているのに全く気が付いていなかった。
「すみません、少しボーッとしてました」
「私こそ急に声をかけて申し訳ないね。街に着いてからの事を話しておきたくて……」
エーゲルさんに言われた内容は微妙に気乗りがしないものだった……。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「おお、素晴らしいね……正直見違えたよ」
「はあ……そうですか?」
私は髪を編まれてドレスを着せられていた。
ご丁寧に化粧まで施されている。
(王様に会うのにいつもの身なりでは……という理由は判るけど……)
鏡を見せられるとゲンナリしてしまう。
自分で見ても内面との乖離が酷いのだ。
「本当に、エーゲルと違って服の着せ甲斐がある子です。やはり女の子は良いですね。もっと早く言ってくれれば私の物では無く新しい物を用意しましたのに」
私を飾ってくれたエーゲルさんのお母さんが嬉しそうに髪を微調整してくれる。
ドレスは彼女からの借り物で、大きさも殆ど合うのは良かった。
(胸だけは寄せて上げた上に詰め物してやっと着れたけど……ね……ふふ……)
私の密かな敗北感を他所に温かい目で見つめるエーゲルさんのお母さんを見ていると、少し胸が痛くなる。
(お母さんもよく私の髪を編んでくれたな……)
「……表情の忙しい子ね。ほら、陛下にお会いするのだから笑顔でね」
「わぷ……ひゃい」
色々顔に出てしまっていたのか、エーゲルさんのお母さんに鼻を摘まれる。
「では、行こうか。陛下は気さくな方だから楽に構えていれば良いよ」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「騎士エーゲル様、賓客アイリス様が参られました」
扉の向こうから応じる声があり、扉が開かれる。
私達は普通使われるという謁見用の広間では無く重要な話し合いをするための別室だという部屋へ通された。
「や、エーゲル。アイリスさん初めまして。2人とも座ってよ」
「はいはい。なんですそれ、美味しそうなお菓子ですね?」
「南の王国から取り寄せた菓子だよ。見た目は真っ黒だし手は汚れるけど中々美味いんだ。ほら」
王様がエーゲルさんの口へお菓子を放り込む。
「んん、甘い。しかしほんのりと香る苦みが良いですね。うちでも作れば女性に人気が出そうです」
モグモグ食べる騎士とそれを嬉しそうに見ていた王様がこちらを見る。
「座ったら?」
「良かったら食べてみてよ、これ」
「あ、はい……」
(……何か私の知っている王様と違うんですけど?)
こうして私の困惑と甘い香りに包まれて王様との謁見が始まった。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“
瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
だが、死亡する原因には不可解な点が…
数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、
神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

巻き込まれたんだけど、お呼びでない?
ももがぶ
ファンタジー
メタボ気味というには手遅れな、その体型で今日も営業に精を出し歩き回って一日が終わり、公園のベンチに座りコンビニで購入したストロング缶をあおりながら、仕事の愚痴を吐く。
それが日課になっていたが、今日はなにか様子が違う。
公園に入ってきた男二人、女一人の近くの高校の制服を着た男女の三人組。
なにかを言い合いながら、こっちへと近付いてくる。
おいおい、巻き添えなんかごめんだぞと思っていたが、彼らの足元に魔法陣の様な紋様が光りだす。
へ〜綺麗だなとか思っていたら、座っていたベンチまで光に包まれる。
なにかやばいとベンチの上に立つと、いつの間にかさっきの女子高校生も横に立っていた。
彼らが光に包まれると同時にこの場から姿を消す。
「マジか……」
そう思っていたら、自分達の体も光りだす。
「怖い……」
そう言って女子高校生に抱き付かれるが俺だって怖いんだよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる