転生聖女は休まらない 〜スローライフがしたいのに弟2人が自重しない件〜

花月風流

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第17話 パン

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 夜明けと共に目を覚ました私はいつものように顔を洗い、いつもと違い外で薪を燃やす。
 何しろ今日は人数が多いから、家の中では朝食も作れない。
 私と一緒に起き出して来たハクは、家の屋根に飛び乗りまた丸くなり料理の準備を興味なさげに見守っている。

 大鍋に張った水が温まる前に根菜と乾燥肉を入れて、後ほど入れる葉物の野菜を刻んでおく。

「さて……スープはこれで何とかなるけど、どうしようかな。サラダとスープだけじゃ足りないと思うんだけど……流石にこの人数分の主食は用意できないよね」

 家の周りに点々と張られている天幕を見て何だか笑えて来てしまう。

 (孤児院のご飯を作ってた頃はいつもこんな感じだったっけ……)

 つい前世の思い出に浸りそうになるが、今は目の前の朝食問題!
 簡単なのは挽いた麦で団子を作る方法かな。

「おはようお嬢さん。今日も良い天気だね」

 いきなり声をかけられて驚いた。

「おはようございますエーゲルさん」

 振り返った私の目に大きな袋を2つも背負った騎士の姿が映った。

「どうしたんですか、それ?」

 笑顔のエーゲルさんは私に袋を1つ手渡してくる。

 (大きさの割には軽い?)

 袋の端を結んでいた紐を解くと中には大量のパンが入っていた。

「これ……」

「朝食に必要かな、って」

 これはとても嬉しい。悩んでいた主食問題が解決された。

 (……あれ?)

 街からここまでかかる時間を考えると、おかしいような……。

「このパンって……」

「焼いたのは私だから味は保証できないかなぁ」

 やっぱり。朝食の時間にここに居る為には街を夜中に出なければ間に合わない筈だ。
 朝が早い仕事とは言え、当然真夜中にパンを焼いてるパン屋は居ない。

「エーゲルさんが焼いたんですか……」

「うん。陛下との謁見が終わった後、街のパン屋にお願いしてね……真夜中に調理場を貸して貰ったんだ」

「騎士で、貴族なのに?」

「名ばかり騎士だよ。お陰でパンや簡単な料理なら何とか作れるよ」

「真夜中に寝る間も惜しんで?」

「合間に仮眠を取ってるから大丈夫だよ。流石に生地を寝かす時間は無かったから、生地は買わせてもらったしね。だから、不味かったら私の焼き方が下手だったということさ」

「こんなに沢山、大変だったでしょうに……」

「君に彼等を押し付けるように帰ってしまったからね。私なりの誠意は見せないと」

 なんというか、この人を相手に気を張っていた自分が馬鹿みたいに思える。

「ありがとうございます」

 素直にお礼が言える。
 貴族の施しでも無く、押しつけられる宝物でも無く、ただただ人の為に焼いたパン。
 心のこもったそれが……嬉しくて。

「っ……! あ……いや、うん。どういたしまして」

「おはようございます聖女様!」

「ひゃ」

 背後から声をかけられ飛び上がる。

 (どうして皆……背後から声をかけたがるの!)
 
「おはようございます、えっと……」

「へへ。『鷹の目』団長のホークです」

「そうそう、ホークさん。ごめんなさい、まだ名前を覚えきれなくて……。あと私は聖女じゃ……」

 (無い、と言い切ると嘘になっちゃうんだけど……うーん……)

「いや、本物の聖女様じゃなくても良いんです。迷惑かけた俺達なんかを庇ってくれたアイリス様は俺達にとって聖女様に等しいんでさぁ」

「ははは! 随分と懐かれてしまったね?」

「あはは……悪魔扱いよりは良いのかなぁ」

 次々と皆が起き出し、家からはニュクスも出て来た。

「さあ、朝食にしましょう」

 1日の始まりは朝食から!
 大事な話の前にしっかり食べて前向きに話し合いたい。
 皆が幸せになれるように。
 
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