17 / 74
第17話 パン
しおりを挟む
夜明けと共に目を覚ました私はいつものように顔を洗い、いつもと違い外で薪を燃やす。
何しろ今日は人数が多いから、家の中では朝食も作れない。
私と一緒に起き出して来たハクは、家の屋根に飛び乗りまた丸くなり料理の準備を興味なさげに見守っている。
大鍋に張った水が温まる前に根菜と乾燥肉を入れて、後ほど入れる葉物の野菜を刻んでおく。
「さて……スープはこれで何とかなるけど、どうしようかな。サラダとスープだけじゃ足りないと思うんだけど……流石にこの人数分の主食は用意できないよね」
家の周りに点々と張られている天幕を見て何だか笑えて来てしまう。
(孤児院のご飯を作ってた頃はいつもこんな感じだったっけ……)
つい前世の思い出に浸りそうになるが、今は目の前の朝食問題!
簡単なのは挽いた麦で団子を作る方法かな。
「おはようお嬢さん。今日も良い天気だね」
いきなり声をかけられて驚いた。
「おはようございますエーゲルさん」
振り返った私の目に大きな袋を2つも背負った騎士の姿が映った。
「どうしたんですか、それ?」
笑顔のエーゲルさんは私に袋を1つ手渡してくる。
(大きさの割には軽い?)
袋の端を結んでいた紐を解くと中には大量のパンが入っていた。
「これ……」
「朝食に必要かな、って」
これはとても嬉しい。悩んでいた主食問題が解決された。
(……あれ?)
街からここまでかかる時間を考えると、おかしいような……。
「このパンって……」
「焼いたのは私だから味は保証できないかなぁ」
やっぱり。朝食の時間にここに居る為には街を夜中に出なければ間に合わない筈だ。
朝が早い仕事とは言え、当然真夜中にパンを焼いてるパン屋は居ない。
「エーゲルさんが焼いたんですか……」
「うん。陛下との謁見が終わった後、街のパン屋にお願いしてね……真夜中に調理場を貸して貰ったんだ」
「騎士で、貴族なのに?」
「名ばかり騎士だよ。お陰でパンや簡単な料理なら何とか作れるよ」
「真夜中に寝る間も惜しんで?」
「合間に仮眠を取ってるから大丈夫だよ。流石に生地を寝かす時間は無かったから、生地は買わせてもらったしね。だから、不味かったら私の焼き方が下手だったということさ」
「こんなに沢山、大変だったでしょうに……」
「君に彼等を押し付けるように帰ってしまったからね。私なりの誠意は見せないと」
なんというか、この人を相手に気を張っていた自分が馬鹿みたいに思える。
「ありがとうございます」
素直にお礼が言える。
貴族の施しでも無く、押しつけられる宝物でも無く、ただただ人の為に焼いたパン。
心のこもったそれが……嬉しくて。
「っ……! あ……いや、うん。どういたしまして」
「おはようございます聖女様!」
「ひゃ」
背後から声をかけられ飛び上がる。
(どうして皆……背後から声をかけたがるの!)
「おはようございます、えっと……」
「へへ。『鷹の目』団長のホークです」
「そうそう、ホークさん。ごめんなさい、まだ名前を覚えきれなくて……。あと私は聖女じゃ……」
(無い、と言い切ると嘘になっちゃうんだけど……うーん……)
「いや、本物の聖女様じゃなくても良いんです。迷惑かけた俺達なんかを庇ってくれたアイリス様は俺達にとって聖女様に等しいんでさぁ」
「ははは! 随分と懐かれてしまったね?」
「あはは……悪魔扱いよりは良いのかなぁ」
次々と皆が起き出し、家からはニュクスも出て来た。
「さあ、朝食にしましょう」
1日の始まりは朝食から!
大事な話の前にしっかり食べて前向きに話し合いたい。
皆が幸せになれるように。
何しろ今日は人数が多いから、家の中では朝食も作れない。
私と一緒に起き出して来たハクは、家の屋根に飛び乗りまた丸くなり料理の準備を興味なさげに見守っている。
大鍋に張った水が温まる前に根菜と乾燥肉を入れて、後ほど入れる葉物の野菜を刻んでおく。
「さて……スープはこれで何とかなるけど、どうしようかな。サラダとスープだけじゃ足りないと思うんだけど……流石にこの人数分の主食は用意できないよね」
家の周りに点々と張られている天幕を見て何だか笑えて来てしまう。
(孤児院のご飯を作ってた頃はいつもこんな感じだったっけ……)
つい前世の思い出に浸りそうになるが、今は目の前の朝食問題!
簡単なのは挽いた麦で団子を作る方法かな。
「おはようお嬢さん。今日も良い天気だね」
いきなり声をかけられて驚いた。
「おはようございますエーゲルさん」
振り返った私の目に大きな袋を2つも背負った騎士の姿が映った。
「どうしたんですか、それ?」
笑顔のエーゲルさんは私に袋を1つ手渡してくる。
(大きさの割には軽い?)
袋の端を結んでいた紐を解くと中には大量のパンが入っていた。
「これ……」
「朝食に必要かな、って」
これはとても嬉しい。悩んでいた主食問題が解決された。
(……あれ?)
街からここまでかかる時間を考えると、おかしいような……。
「このパンって……」
「焼いたのは私だから味は保証できないかなぁ」
やっぱり。朝食の時間にここに居る為には街を夜中に出なければ間に合わない筈だ。
朝が早い仕事とは言え、当然真夜中にパンを焼いてるパン屋は居ない。
「エーゲルさんが焼いたんですか……」
「うん。陛下との謁見が終わった後、街のパン屋にお願いしてね……真夜中に調理場を貸して貰ったんだ」
「騎士で、貴族なのに?」
「名ばかり騎士だよ。お陰でパンや簡単な料理なら何とか作れるよ」
「真夜中に寝る間も惜しんで?」
「合間に仮眠を取ってるから大丈夫だよ。流石に生地を寝かす時間は無かったから、生地は買わせてもらったしね。だから、不味かったら私の焼き方が下手だったということさ」
「こんなに沢山、大変だったでしょうに……」
「君に彼等を押し付けるように帰ってしまったからね。私なりの誠意は見せないと」
なんというか、この人を相手に気を張っていた自分が馬鹿みたいに思える。
「ありがとうございます」
素直にお礼が言える。
貴族の施しでも無く、押しつけられる宝物でも無く、ただただ人の為に焼いたパン。
心のこもったそれが……嬉しくて。
「っ……! あ……いや、うん。どういたしまして」
「おはようございます聖女様!」
「ひゃ」
背後から声をかけられ飛び上がる。
(どうして皆……背後から声をかけたがるの!)
「おはようございます、えっと……」
「へへ。『鷹の目』団長のホークです」
「そうそう、ホークさん。ごめんなさい、まだ名前を覚えきれなくて……。あと私は聖女じゃ……」
(無い、と言い切ると嘘になっちゃうんだけど……うーん……)
「いや、本物の聖女様じゃなくても良いんです。迷惑かけた俺達なんかを庇ってくれたアイリス様は俺達にとって聖女様に等しいんでさぁ」
「ははは! 随分と懐かれてしまったね?」
「あはは……悪魔扱いよりは良いのかなぁ」
次々と皆が起き出し、家からはニュクスも出て来た。
「さあ、朝食にしましょう」
1日の始まりは朝食から!
大事な話の前にしっかり食べて前向きに話し合いたい。
皆が幸せになれるように。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“
瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
だが、死亡する原因には不可解な点が…
数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、
神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

巻き込まれたんだけど、お呼びでない?
ももがぶ
ファンタジー
メタボ気味というには手遅れな、その体型で今日も営業に精を出し歩き回って一日が終わり、公園のベンチに座りコンビニで購入したストロング缶をあおりながら、仕事の愚痴を吐く。
それが日課になっていたが、今日はなにか様子が違う。
公園に入ってきた男二人、女一人の近くの高校の制服を着た男女の三人組。
なにかを言い合いながら、こっちへと近付いてくる。
おいおい、巻き添えなんかごめんだぞと思っていたが、彼らの足元に魔法陣の様な紋様が光りだす。
へ〜綺麗だなとか思っていたら、座っていたベンチまで光に包まれる。
なにかやばいとベンチの上に立つと、いつの間にかさっきの女子高校生も横に立っていた。
彼らが光に包まれると同時にこの場から姿を消す。
「マジか……」
そう思っていたら、自分達の体も光りだす。
「怖い……」
そう言って女子高校生に抱き付かれるが俺だって怖いんだよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる