転生聖女は休まらない 〜スローライフがしたいのに弟2人が自重しない件〜

花月風流

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第2話 平穏って何だろうね?

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 私が前世の事を思い出したのは1才になった頃だった。
 初めて歩いた拍子に転んで頭を打ったらしく、慌てる母の腕の中だった。

 それから平凡な……だけど温かい暮らしが続いた。前世の私には親が居なかったから、幸せを噛みしめるような日々だった。

 さて、見た目は赤子や幼児でも中身は前世の18年をしっかり引き継いでいるので言葉や文字を理解出来る。

 そんな私が2才までに知った事は

『私の名前はアイリス』
『私が生きていた時代から恐らく200年ほど経っている』
『魔王が倒された事でモンスターは殆ど居なくなっている』
『魔王がいなくなったから各地の王侯貴族が領地の取り合いをしている』
『魔法が失われた技術という扱いになっている』
『両親の仲が良いので近々私に弟か妹ができる』

 という感じかな? あまり多くは無いなぁ。

 自分で外を出歩けないので、どうしても家に有る数少ない本と両親や近所の人の会話から得た情報になってしまう。

「ふぅ……もっと色々知っていかないとなぁ」

 両親の見ていない所で溜息を吐く。

 もう世界に振り回されるのは嫌だから、私は私の平穏のために努力しなくてはならないのだ……!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 (おお、双子だぁ……!)

 私が3才になった日、双子の弟が生まれた。
 黒髪の弟がニュクスと名付けられ、金髪の弟がプロイと名付けられる。

 (可愛いなぁ……)

 父に抱えられそっと指を伸ばすと、ニュクスはやんわりと……プロイは……いたたたた!
 赤ん坊なのに……馬鹿力で握られる。

 (ふふ……良いよ、良いね! 姉としてきちんと教育してあげよう)

 私が笑顔を見せると2人の弟は大声で泣き出すのだった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「姉ちゃん、腹減ったぁ!」

「ん、芋を蒸しておいたから食べて良いよ」

「プロイ、手を洗ってからじゃないとお腹を壊すよ……?」

 泥だらけになって帰ってきたプロイにニュクスが桶と手拭いを持ってくる。
 いつも底抜けで元気なプロイ、大人しくて基本優しいニュクス。

 (大きく……なったなぁ)

 時が経ち、私は15才に。
 双子の弟は12才になっていた。
 両親は3年前に流行病にかかって他界してしまった……。
 思えば、あれが転生してから初めて私が泣いた日だった。
 中身はそれなりに大人のつもりだったけど、そんなの関係無く……涙が止まらなかった。

「ええー、また蒸かし芋かぁ。姉ちゃんも可愛いおやつの1つでも作れないと嫁の貰い手つかないよ?」

「プロイ……取り消せ。姉さんは至高にして最上。いくら君でも姉さんへの冒涜は許せない」

 ニュクスの黒い瞳が月のような金色へと変わる。

「……2人とも、喧嘩しないの」

「へっ……冒涜したつもりは無いけどな! 許せなかったらどうするんだ?」

 プロイは嬉しそうに拳を打ち合わせる。

「……表に出ろ」
「そう来なくちゃ!」

 2人が扉を開けて外へ出て行く。

「ちょ……やるなら畑じゃ無い所でやってよ!」

 後ろ姿に声をかける。
 
 (全く……仲が良いのか悪いのか……)

 暫くすると棚の食器が揺れる程の振動が家を襲う。

「はぁ……もう!」

 私は外に出て震源地へと向かう。
 そこは広範囲に土が抉れていて、私の背丈分ほどの穴になっていた。
 そんな大穴の底で泥だらけの2人が倒れている。

「また……引き分けか……。ニュクス、魔法って狡くない?」
「腕力と体力だけでここまで暴れるプロイの方がおかしい。あと、これに懲りたら姉さんへの冒涜は控えるんだな……」

「2人とも、ちゃんと穴を埋めなさいよ? じゃないと……怒るからね?」

 即座に立ち上がり、飛び散った土を一生懸命にかき集める2人。

 両親が他界した日、泣きに泣いて眠った日。
 私は夢の中で再び土下座する神に出会った。
 
「あの……ちょっとした手違いがあっての……」
「ねえ、もっとマシな神様っていないのかしら?」

 私の弟達は、記憶を無くした勇者と魔王の生まれ変わりだった。

 私は私の平穏を守る為……やっぱり努力をしなければいけないのだ。

 
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