上 下
24 / 32
第1章

遭遇

しおりを挟む


数日滞在する予定なんだが…その間、私に接触してくる貴族が複数いた。
中には…。


「初めまして、レインブルー嬢。私はクロード・チェインと申します」

「……お初にお目に掛かります、チェイン侯爵閣下」

アガット様を、死に追いやった…黒幕。よくもまあ、堂々と私の前に立てるものだ。
様々な感情に蓋をして、私は微笑みを張り付け挨拶する。


彼の用事は、要約すれば。オースティン様と婚約してはどうか?というもの。
ふん…強力な魔法使いな上に、ドラゴンを従える私。オースティン様を王位に着けるのに、これ以上ない逸材だろうね。でも…。


「私は…すでに婚約者がおりますの。オースティン様もとても素敵なお方ですが、私には荷が勝っているかと存じます」

「左様ですか…」

なんとかお帰りいただいたが、諦めてないだろうな。はあ…めんどっ。




そして本日…王都近郊の貴族令嬢を集めて、クリスティーナ様がお茶会を開いた。
令嬢は基本的に、10歳前後でお茶会という社交場を通じて、令嬢の仲間入りを果たす。
ふむ…私をお茶会デビューさせる為に、急遽組んでくれたようだ。嬉しいような面倒なような。

私はクリスティーナ様含む、高位貴族貴族の多いテーブルに座らされた。

「皆様初めまして。私はセレスト・レインブルーと申します」

「ほほ…初めまして、レインブルー令嬢」

爵位も名乗らない…平民が何故この場に?という視線を感じる。髪が短めなのも目立つかな…最近伸ばしてんだけどね。
一応元伯爵令嬢ですし、マナーは問題ないと思う。でもま…こんなモンよね。いきなりお茶ぶっ掛けられないだけマシと考えよう。

おほほ、うふふ…とたおやかに微笑み。楽しむ振りをしていたら…。



「あら、ティアニー令嬢ですわ」

「え……?」

誰かが、何気なく放った一言に。私の心臓は鷲掴みにされ、呼吸の仕方も忘れてしまったよう。
ティアニー…令嬢。それは…まさか…?


「確か伯爵様、奥方と娘さんを同時に失くして…使用人親子を妻子として迎えたとか」

「ですが令嬢の顔立ち、髪の色…どう見ても伯爵様の血縁ですわ。ですから最初から、隠し子だと噂されていますのよ」

「まあ…よく王女様のお茶会に顔を出せましたわね」



ドクン…ドクッ…全身が脈打っている。
手が震える…けど。意を決して、会場の入り口に目を向けると……。




「えへへっ、はじめまして!わたしルージュ・ティアニーって言います。よろしくですっ!」

令嬢とは思えない…適当な挨拶に。
ドレスをたくし上げ、ドタドタ会場を走る…目を惹く美しい赤髪の少女…ルージュ…!!

私達王族がいるテーブルとは別の、下位貴族が集まるテーブルに突撃してる…。
ゲームでは…あの貴族らしからぬ天真爛漫さが、男達にウケていたんだが。実際見るとキッッッツイなあ…。

ルージュは向こうで挨拶を終えたのか、今度はこっちに突っ込んできた…!?


「こんにちは、ルージュでーっす!わあ、みなさん素敵なドレス!」

「「「…………………」」」

誰もが言葉を失い、顔を見合わせている。ここは…どうするべき?

「…あら?わっ、もしかして王女様!?」

「……わたくしの事ですの?」

私含め、令嬢の顔色が真っ白になった。まさか…ここまで礼儀知らずとは…!!
ルージュは馴れ馴れしくクリスティーナ様に近寄り、ぎこちなくドレスの裾をつまんだ。


「では!わたしは、ティアニー伯爵家の…」

「いえ結構よ」

ズバッと言い放つ王女様。かあーっこいいー!!ルージュはきょとんとした後、首をこてんと傾げた。
なんつーか…一々男ウケ狙ってる仕草だな。無意識なんだろうけど…。

「そうですか…?あ!あなたの帽子、可愛いですね!」

きょえぇ~、そうきたかぁ~~~。
って私か~~~い。これは帽子じゃなくて、ヘッドドレスって言うんじゃ~い。
私は平民なので、腐っても伯爵令嬢を無視はできねえよ…。


「…ありがとうございます。あなたのドレスもよくお似合いですわ」

あの伯爵、私にはそんな上等なドレス着させてくれなかったものね…。

「うふふ、嬉しい!パパが用意してくれたんです!
わたしはルージュ・ティアニー。あなたは?」

「…………私はセレスト・レインブルーと申します」

「え…セレスト、様…?」


迂闊だった…これなら家名と一緒に、名前も変えるべきだった。
周囲でも「そういえば…失踪した令嬢の名前って…」とか聞こえる。


でも、この名前はお母様が付けてくれたから。そこだけは…失くしたくなかった。


「わあ、偶然!私、お姉ちゃんがいたはずなんですけど…あなたと同じセレストっていうんです」

「…存じてますわ。本当に偶然ですね」

お願いだから、これ以上踏み込まないで…!
あなたを憎んでしまうから。何よ、お姉ちゃんがって…!!


私の居場所を奪ったのは、あなたなのに!!!



「ねえ!よかったら、あなたの事をお姉ちゃ──」

「おいお前!!俺の婚約者に何をしている!!」

「え」

何…?頭に血が上って…拳を強く握っていたら。
その手をぐいっと引っ張られ、誰かに強く抱き締められた。

「エルム…」

なんで、ここに?あなたは招待されてないんじゃ…。
いきなりの公子の登場に、令嬢達がきゃあっ!と弾んだ声を上げた。
だがすぐに「婚約者」という言葉に反応し、どよめきが広がった。

「どうしたんだお前、こんな真っ青になって!ほら行くぞ!!」

「んっ!?」

「「………………」」

エルムは…私を所謂お姫様抱っこしようとしたが。
持ち上げられず…そっと手を繋いだ。


「………ちげーし。たまたま調子悪かっただけだし。本気出したらセレスト2~3人くらい余裕だし…」

「……………ぶふぉっ!!!」

な、何その言い訳!!うんうん仕方ないね、身長変わんないし、私の方がお姉さんだし!!

「笑うんじゃねえよっ!!」

「あははっ!!……ありがとう」

「!!!…………おう…」

さっきまでの暗い気持ちは吹っ飛び、エルムの優しさに心が温かくなる。
クリスティーナ様に、体調不良なので失礼すると挨拶をして。私とエルムは会場を後にした。





「エルム…どうしてあの場所に?」

「…………なんとなく」

広い廊下を、手を繋いで歩く。エルムは何も答えてくれない…耳まで赤く染めて、照れてるくせにい。
ん?肩をちょんっと突つかれた。シャルル卿?

「お嬢さんの事が心配すぎて、ずっと遠くから見てたんですよ~」

「余計な事言うなっ!!」

「ひえーーーっ♪」

エルムは逃げるシャルル卿を追いかけ、どこかへ消えてしまった。
私が1人笑っていたら…シオウが手を繋いできた?

「…俺だって、ずっとセレスト様を心配してたよ?会場には、警備の騎士しか入れなかったけどさ…」

「……うん。ありがとう、シオウ」

彼は微笑み、すぐ手を離した。


ああ…今の私には、こんなにも優しい人達がいてくれる。
もう大丈夫。今度こそ、本当に。


「シオウ、私ね…家族が欲しいの」

「え?あ……うん」

「いつか…私を真っ直ぐに愛してくれる人と恋をしたい」

「……………そっか。それって、さ。エルム様じゃ…ないの?」

「ん…どうかな。まだ分かんないや」

このままいけば、彼と結婚するけども。まあ…大人になれば分かるかな?


「…………………」


背中にシオウの視線を感じるけど…互いに無言で歩き始めた。





翌日はカルジェナイト様を連れて、王宮の夜会に参加する。もちろん、ドラゴンのお披露目さ。
支度を終えて、部屋でエルムを待つ。

「なあセレスト様、昨日は茶会に…ティアニー令嬢もいたんだろう?だったら…」

「うん。十中八九、今夜は伯爵も来ているだろうね。
でも大丈夫。だって…私はレインブルーだもの」

私は真っ直ぐにシオウの目を見て宣言した。逃げるなんて嫌。それに…万が一私が『セレスト・ティアニー』だと知られても。私に恥じる要素は無いし?

だけど、シオウも顔を知られてるんだよね。そこはどうすっか…。

「俺は平気。正式にブロウランに雇われてるからね、公爵家に喧嘩売るほどアホじゃないっしょ」

「だと思うんだけど…」

「安心するがいい。何を恐れているのかは知らぬが…其方の憂いは、儂が全て焼き払おう」

「「(安心できねえ~…)」」

これは…カルジェナイト様から伯爵を守る必要があるか?


もしやっこさんに遭遇したらの話し合いをしていたら、誰か訪ねてきたとメイドさんが言う。

「や、セレスト。とても綺麗だね」

「アガット様?」

どうして…立ち上がろうとしたが手で制されてしまった。

「いやね、ちょっと…よかったらこれ、使って欲しいなって…」

どれ?アガット様は私がいるソファーに近寄り、膝を突いてスッと見事な細工の箱を差し出した。
受け取り、促されるままに開けてみると…

「わ…綺麗…」

そこには、見るからに高級品なネックレスが。いくつもの宝石が散りばめられ、眺めるだけで心が奪われてしまう…。うっとり。


「……はっ!いえ、いただけませんっ!」

こんなお高い物!と正気に戻って慌てて蓋をするが。アガット様は…表情は変わらないが、しょんぼりしてない…?

「そっか…そうだよね…僕なんかに…宝石貰っても嬉しくないよね…」

「そうじゃなくて!?」

「ぐすっ…いやいいんだよ気を使わなくて。ぐすんぐすん、きっと「何が目的だ…!?」とか思ってるんだよね」

「いや、違…!」

どっからどう見ても泣き真似だが、なんか良心がチクチク痛む…!


「分かりました、ありがたく頂戴します!!!」

「やった♪じゃあはい、後ろ向いて」

……んもう!!渋々背中を向けると、彼の細い指が首に触れた。
チャリ…と重みを感じ、鏡を見ると…。


「素敵…」

ベタだけど、これが私…!?ってなるな。ちょっと大人っぽすぎると思ったけど、意外と似合ってる…。

「ありがとうございま…!」

「っ!!」

うわ、びっくりした!!満面の笑みで後ろを向いたら、目の前にアガット様の顔面があったわ!
彼も細い目を開き、驚いている様子。

「あ、はは…うん、よく似合ってる。じゃあ、後でね」

返事をする間もなく、彼は部屋を出て行った。そんな、妖怪に遭遇したみたいにならんでも。



「……はあ、まずいなぁ。年下の…しかも婚約者がいる女の子に…」






それから数分後。エルムとシャルル卿がやって来た。

「セレスト……」

「ん?」

お~い?エルムは硬直してしまった。目の前で手を振っても無反応。じわじわ頬を染め…突然はっ!とした。

「ごほん…い、行くぞ」

「はい…」

なんだかぎこちないけど、そっと腕を重ねて会場に向かう。
反対側にはカルジェナイト様が歩き…なんて頼もしい。


さて、行きますか!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

処理中です...