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第1章
真夜中の死闘
しおりを挟む本格的に冬になり、新年を迎える。
まあ私達は3人でまったり過ごした。
エルムは流石に忙しいようで、あまり会えなかったな。
アガット様は、あれから1回だけ来た。その時…。
「君が優秀な魔法使いだと、もう一部では広まっているんだ。
だから…いずれ魔法学校へ通う事になる」
「それは…拒否権は…?」
「ある、けど…。
桁外れの魔力を持つが故に、ブロウラン公子の婚約者になった。
そう世間が認識している以上…逃げるのはお勧めしない」
だよね~!!
入学は15歳からだけど、遅れてもいいらしい。
なので…エルムと一緒に行く事にした。第2王子殿下は同い年だけど、先輩になる訳だ。
学校は3年間。翌年には…ルージュも入学するはず。
否が応でも、顔を合わせる機会があるのか。
ふん…どうでもいいけど。
アガット様は私の髪にキスをして、また来るねと言って帰った。
「おいセレスト。殿下、お前に距離が近くないか?」
「そうですか?」
「そうだよ!俺の婚約者なのに…!」
それと、私達は正式に婚約した。
将来彼と夫婦か…なんだか実感湧かないなあ。
そんなこんなで日々は過ぎ。今日は…!
「行くぞ!!霊峰シャンテリオンへ!!!」
「「おーーー!!」」
シオウとシャディを連れて、樹氷見学ツアーにしゅっぱーつ!!!
そこはシオウも言っていたが、この国の最北端。
魔物はいないって聞いたけど…準備は万全でね。
魔物ってのは、余程の事が無ければ縄張りから出ない。
最悪戦っても魔法で勝つ自信はあるけど…シャディを守らないとね。
「寒いから、きちんと暖かくしてな」
はーい。冒険のプロ、シオウの言葉に従います。
コートに帽子、マフラー、手袋、ブーツ…完璧!
食料も沢山ボックスに入れる。シャディにも、これはいくらでも荷物が入る魔法と説明した。
3人の移動なので、買っておいた小舟に乗ります。
空気が冷たいけど、そこは魔法でガード。そうしないと上空だから私ら凍るわ。
「霊峰か~。神様が祀られてるの?」
「確か…ドラゴンがいる、と噂されているのでは?」
そうなの?ココアを飲みながら雑談していたら、思いがけない単語が出て来た。
ドラゴン。
運命乙女のラスボスであり、この世界の何よりも尊いと言われている存在。
それは世界中で何体か確認されてる。
「ドラゴンって…基本人間に危害を加えないんだよね?」
以前本でそう読んだ。私とシャディはシオウに視線を向ける。
「そうそう。あまりに強すぎて…世界の理を崩してしまうって話。
まあ人間がわざわざドラゴンに喧嘩を売る場合は別」
そんなアホいないけどなー、とシオウは笑った。
あれ…じゃあ。もしもドラゴンが人間の町で暴れたりしたらどうなるの?
「無いと思うけど…その時は。
世界…いや神に存在を消されて、新しいドラゴンが生まれるって。神話だけど」
…ゲームの世界では。ドラゴンは消されてまでも、ルージュを殺したかったの?
あの子…一体何したんだ…?
「おっと。目的の町が近いぜ」
え、もう?今回の旅は余裕を持って、3日掛けて到着する予定。
まず初日の町へ。じゃあ…宿に行くか!
おお…!この辺は海鮮が特産品で、夕飯には美味しそうなお魚が並ぶ。
「いただきまーす!!」
ぷちぷちのイクラ!お刺身、カニ!!
どれも美味しい…生き返るぅ~…!
3人で楽しく食事は進み、もうお腹いっぱい!
温泉に入り、シャディと同じ部屋で寝る。
ああ…幸せ。これぞ旅の醍醐味…!!
翌日、朝食を軽く済ませて。少し町を散策し、再び空の旅。
進むにつれて際立つ、雪景色が綺麗。ブロウラン領も雪は降るが、やっぱこの辺は豪雪地帯なのかなあ。
ちょっと地上に降りて、雪遊びをしてみたり。
シャディと2人で、逃げ回るシオウに雪玉を投げる…楽しい!!
「はー、疲れた!」
「俺のセリフだわ…」
あはは、ごめんって!遊びすぎて汗をかいたので、マフラー類を取って身体を冷ます。
今日泊まるのは田舎の村で、少し趣がある建物。
手続きを済ませて、ギシギシと床を踏み鳴らして歩いていたら…。
「あ?あんたら…そんな軽装で来たの?バカなの?」
「こら、兄さん!」
ん?突然ディスられ、振り向くと。
白い髪の男の子と、黒い髪の女の子。どちらもストレートの長髪で、顔がそっくり…双子?
ツートンカラーだ…とか失礼な事を考えてしまう。
「えーと…私達?」
「他にいないだろ。そんな軽装で…雪舐めてんのか?」
あ゛?ピキッときたが…ふう深呼吸。
この子はきっと、純粋に心配してくれてるだけ…!
「アドバイスありがとう。でも大丈夫、防寒対策はばっちりだから」
「別に心配じゃねえし。この辺で死なれたら、村の評判が下がるだけだし」
ピキキ…
「兄さんってば!もう…!
すみませんお客様、どうぞごゆっくり!」
「押すなよ姉さん」
女の子はぺこりと頭を下げて、男の子の背を押して消える。
いや…兄なの姉なのどっち?
「なんだアイツら?」
「もう、失礼な子ですね!お嬢様が寛大でよかったです!」
「ここ貴族が泊まるような宿でもねえしな…」
この宿の子かなあ…?まあこういう一期一会も旅ならでは!と強引に締め括る。
荷物を置いて、ドラム缶みたいなお風呂で汗を流し。
時間になり1階の食堂に集合。
料理を運んできた女将さんに、さっきの双子について聞いてみた。
「あ~…すみませんお嬢さん、またオブシディアンが変な事言ったでしょう」
「オブシディアン?って…男の子の方?」
「はい。女の子はパール、双子なんですけど…10年以上前にね、村の入り口に捨てられていたんですよ」
え…。食事の手も止めて聞き入ってしまう。
「当時生まれたての赤ん坊でね。どうしようかと困ったもんです。
それで…子供のいない、あたしら夫婦が引き取った訳です。
でも2人共、自分が捨て子だって気付いてて…そりゃあたしと旦那にゃ似ても似つかない、可愛い子達ですからねえ」
がっはっはっ!と女将さんは朗らかに笑う。
でも確かに…彼女は田舎の逞しい肝っ玉母さん!って感じで。
チラッと見えた大将は、無口で強面のおっちゃんだ。
対して双子は…サラサラの髪に長いまつ毛。
線が細く、オブシディアンくんも美少女に見間違えそうな程綺麗な子だった。
「それでもあたしにゃ大事な子供ですし。村人もみーんな、あの子達が大事なんですよ。
ただオブシディアンが、思った事を全部口にする悪ガキで…ごめんなさいねえ、お客さんの前には出さんようにしてたんですが」
「ううん、大丈夫。それで…どっちが兄で姉なの?」
「あ~、それね!最初は互いを名前で呼んでたんですが…。
ある日どっちが上か!って喧嘩になって。でも当然、誰も先に生まれた方なんてわかりゃせん。
話し合いの結果…どっちも弟で妹になったんですよ~!」
なんだそれ!なんでも近所の子供が…「弟の方がワガママ聞いてもらえてトクだぞ」と入れ知恵したらしい。
はは…まあ、そういう形もあるか。
これ以上は仕事の邪魔になっちゃう、女将さんにはよーくお礼を言って戻ってもらった。
「捨て子…かあ。なんか他人事には思えないな」
「…だな」
「お嬢様…」
……はっ!しみじみしていたら、2人が暗い顔を…!
いかん、折角の旅行だ!ささ、テンション上げていきましょう!
家庭料理って感じのご飯を終えて、少しおしゃべりをして。
布団に入り蝋燭を消し、夢の世界へ………ぐう。
「…………?」
ふと、夜中に目が覚めた。
胸騒ぎというか、何かに圧し潰されそうな…不安?
「…セレスト様、起きてるか?」
「シオウ…?」
部屋の扉が小さくノックされた。
シャディは寝ている…起こさないよう静かに移動、コートを羽織って廊下に出た。
「なんか、嫌な予感がするんだけど…」
「俺もだ」
部屋の鍵を閉めて、建物の外に出る。
今日は満月…お陰で少し明るいな。
シオウは愛用の剣を抜いた…そうだ!
「シオウ、これあげる」
「?なんだ、手に馴染む…?」
それは…傭兵シオウの専用武器、『風魔の剣』だ!
戦闘時には風を纏い、一振りで敵を八つ裂きにする。
炎なんかと組み合わせれば、かなりの威力を発揮するはずだ。
「ほーん…ありがたくいただくぜ」
ヒュンヒュンッと振ってみせる、大丈夫そうね。
でだ。なんで今武器を渡したかというと…。
ドドドド…
遠くで、何かが揺れている。
地震…じゃあないな。段々と近付いて来る、これは…!
「セレスト様!村を守ってくれ!!」
「了解!」
村全体を包む結界を発動!
私もボックスから身の丈程ある杖を取り出した。これを媒介する方が、魔法が安定するんだよね。
更にシオウに、ポーションを3個程渡す。念の為エリクサーも1つ。
村から30メートル離れた場所で、私とシオウは構える。
見えた、山から降りてくるあれは…巨大な狼の群れ!?白銀の毛並みに、赤い目が狂気を孕んでいる。
ざっと見ても20はいる、勝てるか…!?
「ルナ・ロウ!!狼の魔物で、月がデカい程力が増す!!」
「じゃあ…満月の今日って最悪じゃん!?」
シオウはすでに臨戦態勢。私だって…!
震える手に喝を入れ、強く杖を握る。
考えてみれば…これが魔法使いとして、初めての実戦だ。
ふう…深呼吸だ。私達は…村人の命を背負っている。負けてたまるか…!
「シオウ、下がって!デカいのをぶち込むぞ!!」
シオウは素早く私の背後に退避、行くぞ!!
「『地獄の業火』!!」
杖をカツン!と地面に突くと、ルナ・ロウ達の足下から灼熱の炎が噴き出した。
だが倒すには至らない…!これが月の効果!?
「充分だ!!」
シオウが飛び出し、剣を振るう。動きの鈍った狼を、1体ずつ確実に仕留める…私だって!
さっきみたいな大魔法は連発できない。それでも、戦えない訳じゃない!!
「くらえ…!『光の矢』!」
今度は杖を掲げると、先端の宝石部分が輝き…そこから光の矢が連射される。
ガガガガッ!!と突き刺さる!でもいくつか外れた、要練習だな!
「こいつらは素早い!!距離を取って戦え、いざとなったら結界の中から魔法を使え!!」
「分かった!」
「よし…行くぞオラアアァッ!!」
シオウも懐に入られないよう、ギリギリ躱しながら戦っている…すごい。
これが経験の差か…私だって、いつか!
「なんだ…コリャ…!?」
!?後ろから声が…誰!?
「誰だか知らないけど、村から出ちゃ駄目!!」
結界ってのは基本的に中から出るのは容易なんだ。
私のすぐ後ろって事は、完全に外側だ!
「…っ!おっとお!」
狼が数体走って来て、私に飛び掛かろうとした。
させるか、バリアで防ぐ!
「って、オブシディアンくん!?」
誰かと思いきや君か!!
逃げて!と言っても動かない。足が震えてる…まずい、狼の迫力に当てられている!
「くそ…!」
「うおっ!?」
村に連れて行くのは無理だ。彼を引き寄せ、半径3メートルの結界を展開した。
ぎゅっと抱き締めて、もう1度『エイビス・フレイム』で狼を一掃する。シオウには当たらないよう注意しながらね。
弱っていた狼は、今度こそ絶命した。プスプスと音を立て、その場にズシン…と倒れる。それでも5体か…。
シオウは無事だろうか…って不味い、足を負傷している!
「君!!絶対ここから動かないで、いいね!?」
「え。あ…」
ホウキに乗り、上からシオウに近付く。
「『風の渦』!!」
彼の周辺にいる狼を一旦吹っ飛ばす、その隙にシオウはポーションを飲んだ。
「助かった!そのまま上空から援護してくれ!」
「任せろ!」
復活したシオウは軽やかに剣を振るい、次々狼を斬り伏せる。
私もオブシディアンくんを気にしながらも、援護に専念した。
マナポーションを飲んで、また魔法を使って。
シオウも怪我をしてはポーションを飲み、咆哮しながら剣を振るう…。
始まってから何時間経ったのか…東の空が明るくなってきた。
「はあ…あー…久しぶりに、死ぬかと思った…」
「はは…シオウ、返り血で酷い姿だよ?」
「男前度が上がったろ?」
地面に剣を突き刺し、シオウは地面に倒れて力無く笑った。
軽口を叩く元気はありそうね…よかった。
私も…隣に座り込む。はあ…疲れた。身体もだけど、精神が。
周囲には狼の死体が散乱してる…村人にどう説明しようかコレ。
「…あっ!オブシディアンくん忘れてた!」
「は?あいついんの?」
いるんだよ!フラフラと飛んで行くと…あれ?結界の中にいない。
隙を見て村に戻ったか…?ならいいんだけど。
「しっかし…ルナ・ロウはなんで村を襲った…?
魔物は住処を追われるか、こっちから刺激しなきゃ外には出ないはず。
あるいは、子供を連れ去られたとか?……まさか」
どこかな、あの子は。
あ、いた。村から出て来た…ってモフモフした物を両手で抱えている…?
「オブシディアンくん!それ、何?」
「うわっ!……昨日、山で拾った。飼おうと思って…」
「キュッ」
は…?それ、どこからどう見ても。
ルナ・ロウの…赤ちゃん。まさか…今回の暴走は。
グルアアアァッ!!!
「キュウッ!」
え…私が立つ真横に重なっている、狼の死体に混じって、まだ生きている個体が…。
赤ちゃん狼は嬉しそうに声を上げて、オブシディアンくんの腕から飛んだ。
ああ…お母さんなのかもしれない。
お母さん狼は、真っ直ぐに。我が子をさらった人間に狙いを定める。
「逃げろセレスト様!!!」
遠くから、シオウが走って来るけれど。
間に合わない。魔法も追いつかない。疲れ切った状態では、避ける事もできない。
「え」
それじゃあもう、こうするしかないじゃん。
私は最後の力を振り絞り…オブシディアンくんを突き飛ばした。
「あ──」
瞬間、狼の鋭利な牙が…私の肩と腹に食い込んだ。
痛みを感じるより先に、意識が刈り取られる。
最後に見えたのは…狼の首を斬り落とすシオウと。
私に腕を伸ばす、狼狽した表情のオブシディアンくん。
…?その顔、見覚えが。あ…この子も、攻略対象…じゃん……
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