慚愧のリフレイン

雨野

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4章

エディットの恋心

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 まず王宮へ向かう。私は入学までの数日、ここでお世話になるので。
 王宮は生活区域だけでなく行政区なども入っている為広大で、門もいくつかある。その中の高位貴族専用の門からお邪魔します。その前にお父さんは「じゃ、また入学式にな」と離脱したわ。



「エディットちゃーん、お久しぶりですっ!」
「リーナさん!」

 きゃー!2年前から王宮でメイドをしているリーナさん、ハグでご挨拶!彼女は数少ない上級メイド、滞在中私のお世話をしてくれるんですって。
 客間で一息、ちょっとお話に付き合ってもらいましょう。ここ数ヶ月会っていないので、近況報告も兼ねて盛り上がる。


「そういえばリーナさんは、どうして王宮でメイドを?」
「ん?んふふ、婚活でーす♡」
「へっ!?」

 予想外の答えに、持っていたクッキーを落としてしまった。テーブルの上だからセーフ!ポリポリ咀嚼しながら続きを待つ。

「前に言ったと思いますけど、私って子爵家の次女なんです。伯爵家以上だったら、それなりにいい縁談もあると思いますけど…子爵令嬢じゃ嫡男狙いも難しくて。
 それなら最初から、素敵な騎士様ゲットだぜ!と思いまして。よっぽどの美男子でもなければ、高位の貴族令嬢は騎士様は眼中にないんですよ」
「へえ…」
「で、王宮のメイドって結構騎士様狙い多いんですよ?逆も然り」
「ふぅん…?」

 リーナさんは未だ運命の騎士様には出会えていない、と笑った。
 そっか…。私は子供の頃からカロンが好きで、彼のお嫁さんになるのが目標だった。だから…大人になってから相手を探すというのは、どうにもピンとこないわ。


 ……カロンは私の事…どう考えてるのかしら…絶対両想いなのに!!!


「はぁ…。ところでリーナさんの好きなタイプは?」
「そうですねえ。私、恋愛は追われるより追いたい派でして」
「……じゃあ、グイグイ来る人は苦手?」
「はい。端的に言えば肉食系より、草食系が好みです!」
「……………」

 ウインクしながら親指を立ててみせるリーナさん。一瞬草食動物を狩るハンターに見えたわ。
 それより騎士って…その。自信家が多いから(※エディット調べ)、恋愛も積極的な人が多い印象なのよねー…

「…あっ。「自分は恋愛に時間を割くつもりはありません」な堅物男性がいいとか?」
「いいえ?私に関心の無い人には、私も興味ありません。あと駆け引きしてくる男性はお断りです」

 両手を胸の前でクロスし、バツを作るリーナさん。
 ………めんd、複雑なのね。

「うーん…つまり…
 リーナさんに想いを寄せつつも、アピール出来ない消極的な騎士…?それでいて余計な策略を巡らせない…いるのかしら…?」ブツブツ…
「……(エディットちゃん、気付いてませんね?今自分が似たような状況にある事に。
 エディットちゃん大好きだけど、アタックしてこないカロン様と。そんなカロン様を捕まえたいエディットちゃん。まさに私の理想でーす♡見ていて飽きませんね~♡)」

 ん?なんでリーナさん、ニヤニヤしてるのかしら!?

「ちなみに私の好きなタイプは…」
「あ、いいです。もう嫌ってほど分かってますから!」
「なんでー!?」

 私はどれだけ語っても足りないっていうのに!!



 その後…ひとしきりおしゃべりも済んだ頃。

「今夜、殿下がお夕飯を一緒にと言っていましたよ」
「分かったわ。ジェレミー様とマルセル様もかしら?」
「多分そうですね。滞在中はお2人も一緒ですし」

 彼らは今、騎士団に顔を出していると聞く。マルセル様は現役騎士にも劣らぬ実力の持ち主、私も相手してもらったけど、全然歯が立たなかったわ。
 せっかくだし私も行こうかしら。時間もあるし…と動きやすい服に着替えて移動開始。



 キィン ざわざわ… ガキンッ!

 やってるやってる、鍛錬の音が近くなってきたわ。

「皆さん、ご機嫌よう。混ぜてくださるかしら?」
「あっ、公女様!」
「こんにちは、こちらへどうぞ」

 私の挨拶に、近くにいた人達がすぐ反応した。王宮に来る度カリアと共に訪れていたので、結構顔見知りもいるのよね。

 数人が集まり言葉を交わす。あ、ジェレミー様とマルセル様もいた……ん?

「……!」

 彼らの傍らにいる男性が、私の姿を確認するや否や背を向けて去った…?腰に差していた剣からして騎士だけど、王室騎士団の制服ではなかったわ。
 無性に気になり、いつもアルフィー様の護衛を務めている騎士に訊ねる。

「フィリップ卿。今マルセル様とお話ししていたのはどなた?」
「え?ああ、彼のお父上ですよ」
「そうなんですか!?」

 ならご挨拶しないと、きっと保護者として同行していたのね。それもそうか、令息2人が護衛やお世話係も無しに外国なんて来ないか!


 ダッシュで近付くと、マルセル様は一瞬にして硬直した。もう慣れたわ。

「ご機嫌よう!マルセル様、お父様がいらしていたの?」
「!!ごっ、ごぅ…ちちち、っす…」
「ご機嫌よう。父でしたら少々席を外しています…だそうです」
「…そうでしたか。ご挨拶したいのですが、いつお戻りに?」
「………えと…」
「すみませんエディット様。僕らにも分からないんです」
「そうですか…」

 ジェレミー様も困ったように笑っている。むーん…
 もしかしたらお父様も、マルセル様のように女性が苦手だったりして?息子と同い年の女性相手に「どどどどうも、ちち、です」とか言っちゃうのが恥ずかしいのかも。

 なら仕方ないわ。次に見つけたら、サッと挨拶してサッと逃げよう。


「「ほっ…」」
「?(お2人共、なーんで胸を撫で下ろしているんでしょうね?)」




 その日は結局顔を合わせず、ディナーのお時間。国王陛下や王妃殿下も一緒なので、流石の私もやや緊張。
 けれど初めてでもないし、和気藹々とした雰囲気で楽しめたわ。そして最後にデザートを食べながら…

「エディットは知っていると思うけど、来月には私の誕生日がある。そのパーティーで…モナを皆に紹介するつもりだ」
「まあ…!では正式に、モナちゃんを婚約者として公表するのですね?」
「ああ」

 アルフィー様は頬を染めてはにかみ、とても愛おしそうにモナちゃんの名前を呼ぶ。ふふ…なんだか私も嬉しいわ。
 私にはお馴染みの名前だけど、よく分かっていない客人に説明する。


「モナ・ファーニヴァル男爵令嬢。アルフィー様の婚約者で、私のお友達でもあるんです」
「あ…8歳の時に出会ったという令嬢ですね?」
「あら、ジェレミー様ご存知でしたの?」
「いえ、僕達もそれ以上は何も。教えていただけますか?」
「喜んで。よろしいですか?アルフィー様」
「もちろんだ」

 もう食事は終わっているので、陛下と殿下と別れて移動した。4人でアルフィー様の談話室に集まり、リーナさんが給仕をしてくれる。
 一息ついたところで、私の知ってるモナちゃんエピソードを語ったわ。出会いから全部…ね。ジェレミー様とマルセル様は、興味深そうに耳を傾ける。




 アルフィー様は約束通り、出会いの1年後にファーニヴァルを訪れた。その時は王子として正式に訪問し(お忍びではあったけど)、私達も招かれた。再会のモナちゃんは…

『アルフィーおにいちゃーん!!!』
『ぐええっ!!』

 弾丸タックルをかまし、アルフィー様を吹っ飛ばしてたわ。男爵夫妻は「あらあら」と微笑み、レオ様だけ顔面蒼白になっていた…

『何してあそぶ何してあそぶ何してあそぶ!!?』
『そうだなあ…』

 キラキラした目でアルフィー様の周りを走り、ヤンチャな子犬のようでとても可愛かったわ。

 そんなモナちゃんとの交流は、カリアにも影響を与えた。
 カリアは公爵家の末っ子で、愛されて育ったお嬢様。ちょっと我が強くて困る場面もあったのだけど…
 モナちゃんの前だと、「わたくしはお姉さん!」という面が強くなって、背伸びしてみせる事が多かったの。それを切っ掛けに他者の意見に耳を傾けるようになったり、いつしか心優しい女性へと成長したわ。

 という話をしたら、アルフィー様が神妙な顔をした?

「(……過去のカリアは。とんでもないわがまま姫だったからなぁ…)」
「「「「?」」」」

 ふ… と笑って遠い目でお茶を一口。何が彼をそうさせるのかしら?
 それからも話は弾む。


「モナちゃんと再会した後、毎日アルフィー様にお手紙を送ってくれたんですよね?」
「そう、本当に毎日届いてね。だから切手を1年分送ったら…1日2通届くようになった」
「あはは、可愛いらしいエピソードですね」
「だろう?本当に…私にはもったいない、愛らしい女性だ。気分が沈んだ時に読み返しては、当時を思い出して胸が温かくなるんだ」

 いやあ、当時は私もアルフィー様をライバル視していたけど。モナちゃんの登場で、全くの杞憂だったと思い知ったわ。だって彼らは誰も入り込めない程、愛し合っているのがよく分かるもの。

「そう…私とカロンのように、ね。なんちゃって!おほほほっ!!」ばしばしばしっ!
「いたいいたい!!」

 あらやだ、アルフィー様の背中をシバいちゃった。王子様に不敬だけど、友人同士のじゃれあいって事でどうかよろしく。


「全く…(エディットと…こんな風にふざけ合える日が来るなんて…。あ、まずい。目頭が…!)
 あ、そ、そうだ!ジェレミー、マルセル。2人もパーティーに招待したいのだが、来てくれるか?」
「もちろん、光栄です」
「喜んで」
「そこで2人に頼みがあるんだ」
「「?」」

 何かしら?お2人は顔を見合わせるも、アルフィー様は満面の笑みだ。

「会場では私より目立つよう、気合い入れて支度するように!!」
「「なんでですか!?」」
「「???」」

 今度は私とリーナさんが顔を見合わせる。アルフィー様、一体何を…?

「!まさか、先日採寸したのは…!?」
「そう、現在鋭意作成中だ。ジェレミーはその中性的な容姿を生かし、シックで華やかな服を。マルセルは鍛えられた肉体を武器に、シンプルながら部分的な装飾を凝った服をな!!」
「だからなんでですか!?殿下が主役なんですよ、貴方より目立っちゃ駄目でしょう!?」
「そうです!俺達には畏れ多い…」
「令嬢が群がってくるぞ?」
「…………………」
「揺らぐなマルセル!!!」

 ジェレミー様が、固まるマルセル様の頭をべしんと叩く。アルフィー様が目立ちたくない理由は…?

「モナの兄である、レオも着飾らせる予定だ。彼は誰がどう見ても男前だからな、衣装は言わずもがな、アクセサリーもメイクも王道でいく」
「レオ様も…?ではカロンもですか?」
「いや、カロンは地味でいい」
「は???」
「キレるな!!」

 カロンが名前の挙がったお3方に劣るとでも?
 私はアルフィー様の胸ぐらを掴み持ち上げた。何か言い訳はありまして?

「これには訳があってだな…!」
「ですから、その訳を訊ねているのです」
「だから、ごにょごにょ…」

 アルフィー様が私に耳打ちをする。
 ふんふん。ふん…?ふー…ん…


「……──という計画だ」
「……………………」
「エディット様…?」
「……ジェレミー様、マルセル様」
「「は、はい」」
「当日は、会場中の視線を集めるように!!!」
「「なんでー!?」」
「(こりゃー給仕も楽しみになってきましたねえ)」

 おほほほ、秘密でーす。貴方達は知らないほうがよさそうなので!


 戸惑う2人は放置して、アルフィー様は言葉を続ける。

「エディットのパートナーはまだ決まっていないね?」
「はい…」

 本当はカロンにお願いしたいけど。
 王太子殿下の誕生日パーティーなのだから、当然グリースロー公爵夫妻も参加する。そういう場においては、カロンはカリアをエスコートするの。波風立てない為にも、ね。
 だから私は1人で入場するんだけど。今回は折角だし、ジェレミー様にお願いしようかしら?マルセル様は無理そうなので除外。

 という話をすると、アルフィー様は待ったをかける。

「それなら…レオをパートナーにしてくれないか?」
「レオ様、ですか?」
「ああ。彼と入場して、最初のダンスを踊って。少々交流をしてくれたら、後はカロンと抜け出そうが自由にしてくれて構わない」

 ………あっ。

「ファーニヴァル家とグリースロー家に、親交があるとアピールするのですね?」
「理解が早くて助かるよ。公爵とは話がついているから、心配いらない」


 ファーニヴァルは歴史も古く、過去には王室と深い仲だったというのは有名な話。
 けれど男爵家というだけで、モナちゃんに無礼を働く人もいるだろう。それを阻止する為に…グリースローが後ろ盾になる。
 いずれ王妃となる女性の家だもの、公爵様も快く受け入れたでしょう。実際私含め、子供達はすでに仲良しですし。



 ではそのように…と話も纏まったところで。夜も遅いので解散する事になった。
 男性陣は少々飲むと言うので、私はお先に失礼します。挨拶をして、リーナさんと共に部屋に戻り。

 入浴等済ませて布団に潜り。目を閉じたら浮かぶのは…カロンの顔。




「………カロン。今度会ったら…その、時は…」



 貴方の事が好きですって、言葉にして言うから。どうか…返事を聞かせてね。

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