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4章
乙女心が分からない
しおりを挟む私、エディット!元気が取り柄の16歳よ☆
「他に取り柄がない、みたいな言い方するんじゃないわよ!」
「姉上、1人で何してるの…?」
「キャッ☆」
彼は私の義弟、カロン。
そして…私の好きなヒトなの♡気になるカレと、もっと仲良くなりたい!恋する女のコは、今日も頑張るゾ~!
さて…
「なんでもないわ、ちょっと最近読んだ本の真似してただけ」
「そ、そう?」
よく考えたら、私はこういうキャラじゃなかったわ。こう…オトナなクールビューティー。それが私、エディット・グリースロー!!
「(姉上の百面相…可愛い…)」
私は来月、士官学校への入学を控えている。そうしたら…弟妹とは気軽に会えなくなる。
寂しいけれど、自分で選んだ道。頑張って勉強して鍛えて、堂々とグリースロー夫人の席に座ってやるんだから!
公爵家全員が揃う食事の席で。珍しく公爵様が、私に話し掛ける。
「エディット、入学準備は進んでいるか?」
「はい、滞りなく」
「そうか」
「………」
私を疎ましく思っている公爵様も、ここ最近は上機嫌。そうよね…やっと邪魔者が消えて、待ち望んだ『家族』になれるんだもの。
ふん…私は不死鳥の如く、すぐに舞い戻ってやるわ!!
「そういえば…今年は皇国から、2人留学して来るんだって」
そうなの?カロンの発言に、全員が反応した。公爵様もご存じだったみたいだけど、カロンはアルフィー様から聞いたらしいわ。
留学生は公爵令息と伯爵令息で、公子様はアルフィー様と面識もあるとか。
「それで…今日アルフィー来るじゃない?そのお2人も挨拶に来たいって…」
…なんで?その相手は私、よね?同級生になる訳だし。あ、違うか。私を介して、次期公爵のカロンと親交を深めたいのかしら。
「(…アルフィーの手紙には。留学生の2人は、姉上が皇女殿下であると認識している可能性が高い…と書かれていた。
姉上を…皇国に連れて行く準備なのかな。もしかしたら婚約者候補なのかもしれない…)」
「?」
カロンが、私を見つめてシュンとした?その様子が気になったが、カリアが楽しげに話し掛けてきたので意識が逸れた。
「入学式の後、パーティーがあるのよね?」
「ええ、そう聞いているわ」
「どんなドレスを着るの?わたくしは参加出来ないから、仕立てたら見せてね!」
ドレス…うふふ。私も大人だし?セクシーなドレスに挑戦しようかと思ってるの!あまり露出が多いと品が無いとされるけど、ワンポイントならいいのよ。例えば背中が大きく開いてるとか…
「この間リーナさんと会った時、少し胸元が開いたドレスを着ていたのよね。私も…うふふ。挑戦してみようかしら?」
「……胸元を?お姉様…が?」
「ええ!オトナですもの!」
「………」
カリアの視線が、私の胸に集中している気がする。うふふ、何か言いたいのかしら?
ダイニングが一瞬静寂に包まれた。それを引き裂いたのは…カロン。驚愕の表情でこう言った。
「駄目だよ姉上っ!ああいうドレスは、胸が大きい人が似合うの!姉上には似合わないよ、全然っ!!!」
「「「「……………」」」」
彼の視線も…私の胸を捉えている。そう…
膨らみの少ない、断崖絶壁を。
直後私は…右手を振りかぶっていた。
※
「ここがグリースロー家だ。2人と共に入学するのは、長女のエディット」
「「はい」」
私は客人を連れ、お馴染みの屋敷にやって来た。ちなみに私は入学しない、基本的に王族は通わないんだ。
まだ入学式まで1月あるが、環境に慣れる為早く来たらしい。それは名目で、調査の可能性が高いと推測する。
ところで…出迎えの際にエディットとカロンがいなかったのが気掛かりだ。私1人だったら勝手に上がるけど、今日は他国の貴族がいるのに…?
「お待ちしておりましたわ」
「ありがとう。彼女はカリア、エディットの妹だ」
「カリア・グリースローと申します。この度は遠路はるばるお越しいただき、ありがとうございます」
応接間で相手をしてくれたのはカリア。見事な礼を披露した…見違えたなあ…
「僕はジェレミー・ラプラスです。麗しき姫君にお出迎えいただき、長旅の疲れも飛んでいってしまいました」
以前パーティーで出会った、ジェレミー公子。成長すると…細身の高身長で、中性的な美形になった。黒い髪をサラリと流し、カリアの手を取り指先に口付けをした。私より王子っぽい…
それと、もう1人。
「……は…まっ、ま…マ…と…」
「「ま?」」
「…お初にお目に掛かります。俺はマルセル・セフォードと申します…と言っています」
「「へ?」」
「………」こくこくこく
私とカリア、公子の通訳に呆然。だって彼…さっきまで普通に喋ってたんだが?
マルセル・セフォード。彼の父親はエリオット陛下に忠誠を誓う騎士で、以前のパーティーで私の側にいてくれた人だ。
マルセル殿は青みがかった金髪で、彫りの深い顔立ちの男前だ。逞しい体付きに、公子より更に背が高い。
それが今は…縮こまって顔を真っ赤にし、汗をダラダラ流している…?
「こいつ、女性を前にするといつもこうで。公女様が美しすぎてアガってるだけです、無視してください」
「まあ…お上手ですね」
べしんっ 公子が頭を叩くも、マルセル殿は無言。カリアは満更でもないご様子だ。
「ですが残念です。とても鍛えておいでのようでしたので…後ほど手合わせを願いたかったのですが」
「…?こここ、で…?」
「公女様も剣を嗜んでおいでですか?と言っています」
「はい!わたくしも来年入学する予定なのです。その時は先輩として、ご指導ご鞭撻のほどお願いしますわ」
「そそそそっ…ますます」
「その時を楽しみにしております、と言っています」
「「…………」」
…彼らはエディットの護衛として、留学を決めたのだと思っていたが。現にマルセル殿はすでに、現役騎士に劣らない実力者と聞く。
本当はマルセル殿1人のつもりが、通訳として公子も駆り出されたんじゃ…?
「こほん…カロンとエディットはどこに?」
「「…!」」
話題を変えると、客人はピクリと反応した。やはり、陛下から事情を聞かされているようだ。
が、カリアは気まずそうに顔を逸らした。
「…お兄様は、その…今は…お客様の前に立てる状態じゃ、なくて…」
「?今更私になんの遠慮が?」
こちとら寝小便された仲だぞ…とは言わないでやろう。突然奇病を発症して、常時白目を剥いてブリッジしていてもいいから。
「僕達も気にしません。是非ご挨拶させてください」
「……」こくこく
ほら、2人もこう言ってるし。なのにカリアは、益々難しい顔に。
「…お兄様は。朝から…ずっと泣いていて…」
「「「なんで!?」」」
何したんだ、あの馬鹿!!
「う…うぅ…っ、いりゃ、っしゃい、ましぇ…」
「「お邪魔してます…」」
無理やりカロンの部屋へ突撃すると。顔の穴という穴から液体を垂れ流す馬鹿がいた。
泣きすぎて目元がパンパンな上、左頬が腫れているような?
「ふぎ…っぐす、ぐす…」
「どうしたんですか、お腹でも痛いんですか?」
「深呼吸をして、顔をお拭きください」
ジェレミー公子とマルセル殿は、完全にカロンを子供扱い(1つしか違わないのにな)。ベッドに座らせて、優しく声を掛けている。
で…何があったのか?カロンは役に立たないので、カリアに説明を求める。
「───…という事が、ありまして…」
「「「…………」」」
「ぼ…ぼく、そんな…つもり…じゃっ」
……エディットを大声で貧乳扱いして、思いっきりビンタされて。ゴミを見る目で「最っ低ね」と吐き捨てられ、現在に至る。
「馬鹿だろ」
「本当に馬鹿ですよ」
「馬鹿ですね」
「もっと言ってやってくださいませ」
「わああああんっ!!」
公爵夫妻すらも「今のはカロンが悪い」と、手を上げたエディットに同調したようだ。ハァ…
濡れタオルでカロンの顔面を擦りながら、エディットの様子を聞くと。
「ルイーズに「鉄製のコルセットを用意して」と命じました」
「何故」
鉄のコルセットは健康を害する恐れがある為、現在は使用禁止のはずだが?
「…お姉様が言うには。「ウエストが5cmになれば、否応でも胸が強調されるでしょ」と…」
「瓢箪かな?」
確かにエディットは…胸が小さい。身長に栄養を取られたんじゃないか、と疑うほどに。
カロンをよーくよく慰め、話を聞くと。
「…胸が小さいのに、大きく開いたドレスを着たら。はだけてしまうんじゃ、ないかと。思って…」
「ああ…そういう…」
気持ちは分かるけど、言い方ってものがあるだろうが…
「もうっ、お兄様!!いつまで泣いてるの、身も心も脆弱なんだから!!」
「だってぇ…」
「だってじゃないわよ!!表に出なさい、ビシバシ鍛えてあげるわ!!」
カリアは腰に手を当てて、仁王立ちでカロンを見下ろす。そんなカロンに兄の威厳は欠片も無く、小さくなってプルプル震えている。
「殿下、こちらの方が親友さんですよね?」
「うんそう。エディットの事が大好きな馬鹿」
「嫌われた…今度こそ本当に、嫌われたぁ…!」
もう、ため息しか出ない。
カリアは宥めて下がってもらい、男4人で話し合い。
「お前、ちゃんとエディットと話してこい」
「………なんて?」
「「「…………」」」
貧乳扱いしてごめんなさい!→どう考えても嫌味だ。
僕は小さい胸が好きです!!→そんな告白っぽい事言えたら苦労しない&性癖カミングアウト。
姉上には、もっと違うドレスが似合うと思う!→現状これが最善か…?という訳で。
カリア情報では、エディットは大人なドレス=セクシー系に挑戦したいとのこと。
「カロン。エディットにはどんなドレスが似合うと思う?」
「ええ…詳しくないから、分かんない…」
「…質問を変えよう。お前は、どんなドレスを着て欲しいと思う?」
「……………」
カロンは顎に手を添えて、考え込む素振りを見せた。そして…
「……ふんわりより、シュッとしたやつ?」
「身体の線が出るやつか…どこか露出するとしたら?」
「…………ふともも」
「「「……………」」」
こいつ…脚フェチだったのか…頬を染めるな気持ち悪い。だがまあ、大体分かった!
「ちょっと私はエディットに会って来る!!」
「えっ!?ちょ、アルフィ」
バタンッ!! 情報は鮮度が命!!
「「「………………」」」
「…あの。初めまして…ですよね?」
「はい。遅くなりましたけど、僕は…」
あ。2人を紹介するの忘れて、置いてきてしまった。まあいいか!
そうしてエディットの部屋までやって来た。扉をノック…コンコンと。
「私だ、アルフィー」
「…どうぞ」
声低っ。ゆっくり開けると…
「このまな板女に何かご用で?」
顔怖っ。エディットは優雅に足を組んでベッドに腰掛けているが、その表情が……あっ!!ブチ切れた時のクローディア殿下そっくり!!流石姉妹だ。
「もしやカロンからお聞きになって?身の程知らずの絶壁女の戯言を」
クスクスと悪人面で笑っている。卑屈なんてものじゃないぞ…
この数年で、私とカロンが愛し合っているという悍ましい誤解は解けた。同時に『はよくっつかん会』のメンバーに正式加入、会員No.2に収まった。なので、スパイの仕事を遂行しよう。
「カロンだが。エディットには胸より、脚を見せて欲しいと思っているようだ」
「………」ぴくっ
反応があった事に安堵し、続ける。
「エディットはスレンダー美人だからね。ふんわりとボリュームのあるドレスより、タイトな装いが似合うと言っていた」
「……ふぅ~ん…」ぴくぴく
よし、表情が柔らかくなってきた。
「そ~ぉ?カロン、私の脚が好きなんですね?ふーん。じゃあ、仕方ないですね」
エディットはニヤニヤしながら、足をシュピーンと伸ばしてみせる。やり遂げた…!これでカロンが直接謝罪すれば、もう大丈夫だろう。
「では行きますか!可愛い弟に、ごめんなさいしに」
エディットは反動をつけて、勢いよくベッドから降りて。
るんたった るんたった♪ スキップしながら廊下を進んでいる。そして…
ばたーん!!
「カーロンっ♡さっきはごめんなさ、い……」
「?」
意気揚々と扉を開けたところで、エディットは固まった。なんだ?と思い、私も部屋の中を覗き込むと…
「あ…姉う…わあっ!ごめん、こんな格好で…!」
「「……………」」
顔を腫れ上がらせたカロンがいた…パンツ一丁で。その横には、カロンの物と思われる服を持つ、ジェレミー公子とマルセル殿。
ゴゴゴゴゴ… エディットの背中から、黒いオーラが…!!
「……貴方達。私の弟に……何を…?」
「「ひい…っ!」」
あー…もうこれ。どうしよっか…まいったな☆
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