慚愧のリフレイン

雨野

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3章

エディット勘違い伝説始動

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 遡る事数時間前。私がカロンの部屋を出た後。

「(カロン、どうしたのかしら。突然冷たい態度になって、私を追い出した…)」

 何か…嫌われるような事をしてしまったのだろうか。もしそうなら、理由を知りたい。


 だって私、エディットは。カロンの事が…好きなんだもの!!弟としてじゃなくて、男の子として。

 最初は多分あの日。高熱にうなされ、このまま死んじゃうのかな…と1人弱気になっていた時。
 カロンは私のピンチに現れ、大人に怒ってくれた。お医者様を呼んで…ずっと側にいてくれた。それ以降どんどん惹かれていったわ。


 いつだったか、彼は甘い物が苦手だと知った。それで会ったばかりの頃…シュークリームを一緒に食べたじゃない?けど思い返せばカロンは、無表情で淡々と頬張っていたような。

「(……もしかして。1個しかないと…私が遠慮して食べないと思って?)」

 実際、そういう状況だったら食べなかっただろう。私はこの家の子じゃないんだから…申し訳なくて手が出せない。
 カロンは5歳だったのに。そんな…気遣いを…?とときめいた。

 彼は私の事をとても大切にしてくれて。私が悲しんでる時、苦しい時…心が沈んでいると必ず隣にいてくれた。何か慰めの言葉をくれるんじゃなくて、ただ手を繋いでくれた。
 それが…どれだけ嬉しかったか。あなたは知りもしないでしょうね…

 初めて完成させた刺繍のハンカチは、とても歪な出来だったけれど。
 恐る恐るカロンに贈ったら…目を大きく開いた後、「ありがとう、嬉しい!」と胸に抱いて喜んでくれた。私も、嬉しかった…
 ただそのハンカチ。カロンが使っているところを1度も見ていないわ?2作目はお父さんにあげたら、普段使いしてくれているのにい…


 とまあ…彼への想いは膨れるばかりだけど。
 カロンは未来の公爵様、立場が違いすぎる。いつか離れ離れになるその瞬間まで。姉としてでいい、一緒にいたかった…

 なんて、諦めないわよ!!これでも立場は公爵令嬢…将来夫人になる資格はある!!私達は血の繋がらない姉弟なんだし!!!
 だからこそ努力をし続けている。カロンのご両親も納得するしかない、完璧な令嬢目指して!




 …だから!嫌われていたら、すごく辛いわ。
 なんて廊下で考えていたら、カロンの部屋の扉が開いた!?まずい、隠れ

「やめてよ」
「「え?」」

 何…今の切ない声は。思わず王太子殿下とハモってしまったけれど、気付かれずに済んだみたい。
 うすーく開いた扉…の横に張り付き。ちらっと覗き見、会話を盗み聞き。


 その結果…



「………………」


 私はふらふらと、覚束ない足取りで廊下を進む。何度も壁や柱にぶつかって。
 自室に入り、鍵を閉めて。ベッドに…顔面からダイブ。

「………………」

 ぐるぐる ぐるぐる ぐるぐる…
 頭の中を、2人の会話がループする。




『やだよ…やめて、エディットを好きにならないで。僕、勝ち目ないじゃない』
『………………』
『ぼ……僕は。僕は…!
 初めて会った時から…ずっと(アルフィー様の事が)好きだった!!』


 と。言って…いた…
 そして殿下も、優しくカロンを抱き締めて。涙を流し…カロンの耳元で何か囁いていた(声が小さくて聞こえなかった)。
 そうして熱い抱擁を交わし、めでたしめでたし…?

 じわ… 目頭が熱くなる、溢れる涙が止まらない…!
 カロンも私に、少しは好意を抱いてくれていると思ってた。自惚れ…だったのかな。

「……お相手は王太子殿下。そっか…カロンは男性が好きだったのね…」

 そういう恋もある、って小説で読んだわ。カリアに借りた聖騎士のお話で。
 なら最初から、私なんて眼中になかったのね。優しかったのは、腐っても姉だから…

 手の甲で乱暴に涙を拭う。私は…カロンと王太子殿下を応援しよう。きっと困難の多い恋だろうから、私だけでも…!




 が!!!勘違いの可能性も捨てきれない、まず情報収集!!
 カロンの部屋の前まで戻り、扉に張り付く。ボソボソ話し声がする…まだいるわね。

『……1つ…お願いが…』

 意外と会話内容が聞こえる。もしかして、扉の近くにいる?

『私の…呼び……し…』
『え…?』

 え!?なんだって!?くっ、もっと大きな声で話して!

『私はカロンと……でありたい』
「(カロンと…なに!?恋人でありたい…とか!!?)」

 ぐ ぐ ぐ…!
 もっと、もっと…!顔を扉にめり込ませて、どうにか声を拾…!!


『一緒に未来を生きよう、アルフィー!』
『ああ、カロン!』

 へ。今、なんと…

「一緒に、未来を生きよう…ですって…!?」


 思わず声を出すと。2枚ある扉のうち、私がめり込んでないほうがゆっくり開き。
 中からキョトンとしたカロンが顔を出した。次いで殿下もヒョコッと…


「「「……………」」」


 沈黙が。一気に頭が冷えるとこの状況…私は不審者そのものだわね。


「姉上…どうかし」
「おほほほほほ、お散歩の途中なの。おほほ、ではご機嫌よう、おほほほほ」シュンッ!
「(不自然すぎる…エディットってこんな面白い女性だったのか…)」

 ほっほほほほ。逃走成功!!


 自室に戻り、大きく息を吐く。
 …これはもう確定では?さっきのは追い討ちでしかなかった。



「お呼びですか?お嬢様」

 一縷の望みをかけて、ルイーズに助けを求めた。

「あの、あのね。これからするのは私の話じゃなくて…友達から聞いたんだけど」
「(本当は自分の話の常套句だわ…)はい」
「と…友達が。えーと…ある人に、ね?「一緒に未来を生きよう」って…言われたんですって」
「まあ…(まさか、カロン様!?まあまあまあ、ついに告白なさったのね!!)」
「それって…どういう意味だと思う!?」
「(遠回しすぎて伝わらなかったのね!?もう坊っちゃんたら、ストレートに言わないと!)う~ん…」

 ただの友達には、そんな事言わないわよね!?大人な彼女の意見を聞きたい!!
 ルイーズは目を伏せた後…カッ!と開いた。


「それはもう、愛の告白です!!」
「あい…っ!」
「はい!!」

 ルイーズは頬を染め、自信満々に断言する。そ…なんだ。やっぱり…

「あり…がと。も……お仕事に、戻っ、て…」
「へ?は、はい…失礼します(あら?もしかして私…何かやってしまったかしら?)」


 頭が、ぐわんぐわんと、首が座らない。あば、あばばば。カロ…あばばばば。




 夕飯時。何故か王太子殿下もいらっしゃった。聞けば突然お泊まり、ですって!?

「お姉様、明日ししょーは何時に来るの?」
「確か、朝から来ると言っていたわ」

 私は公爵家に混じって食事をいただくけれど、夫妻とは必要の無い会話はしない。こうやってカリアやカロンとお話しするわ。

「ししょーって?」
「姉上とカリアが慕っている傭兵だよ。…その事も後で話すね」ボソッ
「(計画に関しているのか…)分かった」

 向かいに座るカロンと殿下、どうして小声で会話するのかしら!?お父さんの話題くらい、堂々としたらどう!?
 公爵夫妻も、私がヴィクトルさんを父のように思っているのは知っている。その上で放置されているけど、他所ではやるなと言われているわ。


「公爵。今日は無理を言ってすまない」
「いえいえ、歓迎致します。殿下のお部屋も用意させましたので…」
「あ、私はカロンの部屋に泊めてもらうから、護衛の部屋だけ用意してもらえないか?」
「畏まりました。……宴会をなさるおつもりなら、残念ながら…」
「「しないっ!!」」
「はははっ、これは失礼」
「おほほ…」
「えー?なんのお話!?」


 オホホ… あはは… 私以外が談笑している。私は、それどころじゃなかった。


「(カロンの部屋に…お泊まり!?つまり同じベッドで、身を寄せ合って……!?)」

『アルフィー…もうちょっとこっちに来て。せっかくのお泊まりなんだから…』
『全く…仕方のないヤツだな☆』

「(うらやま、けしからんわ!!!)」

 スプーンを持つ手が震える。いけない、食事マナーが悪いと叱責されてしまう。優雅に、淑やかにしないと…!





「…………………」


 食後…1人で物置部屋にやって来た。カロンは…殿下とお部屋に戻った…
 ソファーに膝を抱えて座る…いつもならカロンがいるのに。今日から彼の隣には…殿下がいらっしゃるのかしら。


 カロンはこの部屋にいる間、いつも何かを懐かしんでいた。そして、私の瞳を見る事が多かった。

「彼は私を通じて…の影を見ていた。そのくらい、嫌でも分かるわ…」

 好きな人の変化くらい見抜けないと、恋なんてしてられないもの。

「その誰かは、王太子殿下のことだったのかな。カロンはずっと片想いしてたけど…今日ついに、実ったのかしら」

 ………うん。私、お邪魔虫だわ。


「………カロン……」


 彼を想うなら私は。私は……

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